GUIDE · 経済・金融2026年8月時点

キルギスの銀行部門とは

キルギスの銀行部門について、規模と集中の構造、上位5行の所有形態の違い、最低資本規制と新規参入、健全性の指標、米国の制裁との関係を、キルギス国立銀行の公表資料にもとづいて整理する。

キルギスの銀行部門は、中央銀行であるキルギス国立銀行の免許を受けた商業銀行で構成される。2026年8月14日時点の同行の一覧には26行が載り、支店の合計は307である。部門全体の規模は域内では小さく、総資産は2025年12月31日時点で1兆2,112億ソムだが、伸びは速い。2025年の資産の増加率は48.5%、貸出の増加率は48.8%で、いずれも1年で5割近く増えた。

この部門を読むときの要点は二つある。ひとつは集中である。上位3行だけで総資産の51%を占め、上位10行で91.2%に達する。もうひとつは、その上位行の性格が国有・同族・外資に割れていることで、金利や政策が変わったときに各行が受ける影響は一様ではない。国有銀行が政府プログラムの窓口として資産を伸ばす経路と、民間行が個人客の決済と少額の与信を大量に集める経路は、収益の構造も規制への感応度も違う。

域外から関心が向くのは、この部門がロシア向けの決済経路として見られてきたためでもある。米財務省は2025年1月15日、キルギスのケレメト銀行を制裁対象に指定し、その理由として、制裁下のロシアの銀行に代わって越境送金を扱う枠組みが2024年夏以降に進められていたと説明した。指定は2026年8月27日版の特別指定国民(SDN)リストでも解かれていない。

監督当局キルギス国立銀行。根拠は2022年8月11日の憲法的法律第92号「キルギス共和国国立銀行について」と、同日の法律第93号「銀行および銀行活動について」
銀行の数26行(2026年8月14日時点、国立銀行の一覧)。支店は合計307
部門の総資産1兆2,112億ソム(2025年12月31日、国立銀行。前年比48.5%増)
貸出残高5,070億ソム(2025年12月31日、前年比48.8%増)。総資産に占める割合は41.9%
預金個人と非金融企業の預金が6,269億ソム(2025年12月31日、前年比37.1%増)。負債に占める割合は76.8%
負債合計9,906億ソム(2025年12月31日、前年比44.7%増)
純利益330億ソム(2025年通期、前年比6.2%増)
収益性ROA 3.3%、ROE 22.0%(2025年通期)
自己資本の充足率26.5%(2025年末。規制の下限は12.0%)
流動性比率82.7%(2025年末。2024年末は73.1%。規制の下限は45%)
分類貸出の比率10.5%(2025年末。2024年末は10.8%)
貸出のドル化率18.3%(2025年末。前年から1.8ポイント低下)
外国資本の参加12行(2025年末時点、国立銀行)
集中度上位3行で総資産の51%、上位5行で67.7%、上位10行で91.2%(2026年6月30日時点、23行の集計)
政策金利12.00%(2026年8月25日時点)。オーバーナイト貸出14.00%、オーバーナイト預金10.00%
預金保護1人あたりの補償上限は100万ソム。参加は銀行と小額金融会社の24機関、基金の残高は104億1,074万5,180ソム(預金保護庁の公表値)
イスラム金融イスラム窓口の免許を持つ銀行が5行、全体がイスラム銀行である銀行が1行(2026年8月14日時点)
参考の為替1ドル=87.45ソム(2026年8月29日、国立銀行の公定レート)

規模と集中

国立銀行が2026年7月に公表した金融部門安定性報告書によれば、2025年12月31日時点の銀行部門の総資産は1兆2,112億ソムで、前年から48.5%増えた。貸出は5,070億ソムで48.8%増、個人と非金融企業の預金は6,269億ソムで37.1%増である。銀行と非銀行金融機関を合わせた金融部門の資産は1兆2,857億ソムで、国内総生産(GDP)の65.1%にあたる。この金融部門の資産の94%は銀行が占めており、キルギスの金融は事実上、銀行の金融である。

半期ベースの集計では、2026年6月30日時点の23行の総資産は1兆4,900億ソムに達した。2026年8月29日の公定レート(1ドル=87.45ソム)で換算すると約170億ドルである。このうち上位3行が7,589億ソム(51%)、上位5行が1兆740億ソム(67.7%)、上位10行が1兆3,600億ソム(91.2%)を占め、残る13行の合計は9%に満たない。

上位5行は、エルディク銀行2,950億ソム、Aバンク2,711億ソム、Mバンク1,928億ソム、バカイ銀行1,383億ソム、キルギス投資信用銀行(KICB)1,102億ソムである。この順位表を作成した経済専門紙エコノミストによれば、1年間の増加額でもエルディク銀行が1,460億ソムで首位、Aバンクが905億ソム、ケレメト銀行が840億ソム、Mバンクが637億ソム、バカイ銀行が393億ソムと続いた。

銀行の数え方は資料によって違う。国立銀行の一覧は免許を持つ銀行をすべて載せるため2026年8月14日時点で26行だが、そのうち5行は2025年12月以降に免許を得たばかりで支店が0である。国立銀行の年次報告が「2025年中に活動していた」とするのは22行、半期の順位表が集計対象としたのは23行である。数字を比べるときは、どの時点の、どの範囲の銀行を数えたものかを確かめる必要がある。

上位5行 — 性格が割れている

キルギスの上位行は、所有形態が三つに分かれる。第一に国有である。エルディク銀行はキルギス共和国内閣が発行済株式の100%を保有し、内閣付属の国有財産管理国家庁が国を代表して株式を持つ。2025年には国が641億ソムの増資を引き受け、授権資本が763億ソムへ、総資産が1年で2.7倍になった。Aバンクは2026年2月までアイル銀行を名乗っていた銀行で、農業分野への融資と政府プログラムの実施を担ってきた。2018年11月に当時の首相が「国有株式の効率的な管理」を理由に授権資本を10億ソム増やす指示に署名しているように、国の出資先として扱われてきた銀行である。2026年時点の持ち分の比率は、同行が公表する資料では確認できていない。

第二に同族経営がある。バカイ銀行は、発行済株式の5%以上を持つ株主5名がいずれも自然人で、うちイブラギモフ姓の4名を合わせると65.9%になる(2026年6月30日時点、同行の情報開示報告)。取締役会長と頭取もこの一族が務めており、株主構成と経営体制がほぼ一致している。

第三に外国資本がある。オプティマ銀行は発行済株式の97.14%をカザフスタンのアラタウ・シティ・バンク(旧ジュサン・バンク)が保有する子会社で、1992年の設立以来、カザフスタンのATFバンク、イタリアのユニクレジット、再びカザフスタン資本と親会社が入れ替わり、そのたびに商号が変わってきた。KICBは、アガ・カーン経済開発基金(AKFED)が72%、パキスタンのハビブ銀行が18%、キルギス政府が10%を持つ(2025年4月時点の同行の記載)。開発金融の主体を筆頭株主とする商業銀行という、この地域では珍しい構造である。

Mバンクは上位3行のうち唯一の国内民間資本で、発行済株式の97.9699%を元首相のオムルベク・ババノフ氏が保有する(2026年3月31日時点、同行の情報開示報告)。決済アプリを軸に、電子商取引、旅行予約、投資などを一つのアプリに束ねる展開をとる。

この違いは記事の読み方に直結する。国有行の資産の伸びは政府の出資や公的資金の預け入れを反映することがあり、市場での競争力の指標としてそのまま読むことはできない。外資系行の資本と評判は親会社の本国の状況に連動する。同族経営の行は意思決定が速い一方、株主・取締役会・執行部が重なる統治上の論点を抱える。

資本規制と新規参入

国立銀行は商業銀行の最低授権資本を段階的に引き上げている。2025年12月29日の理事会決定により、既存の銀行は2026年7月1日の10億ソムから毎年5億ソムずつ上げて2030年7月1日に30億ソム、新設の銀行ははじめから30億ソム以上、システム上重要と判定された銀行は2027年7月1日から80億ソムが求められる。日程と経過措置の詳細は「キルギスの銀行の最低授権資本規制」の項で扱う。

要求水準が上がる局面にもかかわらず、免許を得る銀行はむしろ増えている。国立銀行の免許登録簿によれば、ベレケト銀行が2025年12月3日(免許第054号)、アルマ・フィナンス銀行が2026年1月14日(第055号)、アスマン銀行が2026年2月4日(第056号)、クルム銀行とムラス銀行が2026年5月13日(第057号・第058号)に登録された。いずれも2026年8月14日時点で支店を持たない。

このうちクルム銀行は、内閣が2025年1月3日に発表した決定により、授権資本10億ソムの100%国有の株式会社として設立されたものである。同行は中央清算機関、国家預託機関、証券のコード付与機関に指定され、銀行業務、決済と清算、証券の保管と記帳の権限を与えられている。通常の商業銀行というより金融市場の基盤を担う機関として作られた点で、他の新設行とは性格が異なる。

健全性の指標

国立銀行が示す健全性の指標は、2025年末時点でおおむね規制の下限を大きく上回っている。自己資本の充足率(K2.1)は26.5%で、規制の下限12.0%の2.2倍にあたり、前年から4.6ポイント上がった。流動性比率(K3)は82.7%で、下限の45%に対して余裕がある。前年末の73.1%から上がったのは、流動資産の伸びが流動負債の伸びを上回ったためである。

資産の質を示す分類貸出(要注意以下)の比率は10.5%で、2024年末の10.8%からわずかに改善した。ただし水準そのものは低くない。貸出が1年で48.8%増えるような局面では、貸倒引当金の計上が利益を圧迫することがあり、実際にMバンクは2026年上半期に引当金の計上を20億9,855万ソムへ膨らませ、受取利息の伸びにもかかわらず純利益が前年同期をわずかに下回った。

収益性の指標は高いが、下がっている。2025年通期のROAは3.3%、ROEは22.0%で、純利益は330億ソムと前年から6.2%増えた。国立銀行は、資産と資本の伸びが利益の伸びを上回ったことが比率の低下の理由だと説明している。

貸出のドル化率は2025年末で18.3%と、前年から1.8ポイント下がった。参考までに、同時期のジョージアでは貸出のドル化比率が41.6%、預金が43.8%(2026年6月時点)であり、キルギスの貸出のドル化はこれよりかなり低い。ただし外貨建ての負債の比率は貸出のそれより高く、通貨の不一致は残っている。

2025年末の貸出残高5,070億ソムを、個人と非金融企業の預金6,269億ソムで割ると約81%になる。預金で貸出をまかなえている水準だが、資産の側では現金と中央銀行への預け金、有価証券の比率が高く、貸出が総資産に占める割合は41.9%にとどまる。金融仲介の余地が大きいという評価と、資金の使い道が限られているという評価の両方が成り立つ数字である。

預金の保護は預金保護庁が担う。1人あたりの補償上限は100万ソムで、参加しているのは銀行と小額金融会社の24機関、基金の残高は104億1,074万5,180ソムである。国内では2026年8月に、参加機関の拠出金を引き上げる案が議論されている。

米国の制裁との関係

2025年1月15日、米財務省外国資産管理局(OFAC)は、大統領令14024(2023年の大統領令14114による改正を含む)にもとづいてケレメト銀行を制裁対象に指定した。財務省の説明によれば、遅くとも2024年夏以降、同行の関係者はロシア政府関係者および米国の制裁対象であるロシアのプロムスビャジバンク(PSB)と連携し、同行がPSBに代わって国境をまたぐ送金を扱う仕組みを実行しようとしていた。財務省はまた、2024年にキルギス財務省が同行の支配株式をロシア政府に近い実業家と強く結びついた企業へ売却したと記し、この買収がロシアの輸入代金の支払いと輸出代金の受け取りのための制裁回避の拠点をつくる意図であったとしている。

2026年8月27日版のSDNリストでも、同行は「RUSSIA-EO14024」の枠で掲載されている。掲載情報には、ロシンバンク時代から使われているSWIFTコードと、二次制裁のリスクが大統領令14024第11条の対象であることが記されている。同じリストにキルギスの住所を持つ掲載先は26件あるが、商業銀行は同行だけである。

ただし銀行以外では、キルギス登記の事業者が複数指定されている。2024年12月に設立された暗号資産の取引所グリネックス(GRINEX、ビシケク市登記、ガランテクス・ヨーロッパと関連づけて掲載)と、同じく2024年12月設立のオールド・ベクター(OLD VECTOR LLC、ビシケク市登記、A7と関連づけて掲載)が、サイバー関連の枠で掲載されている。国としての位置づけを読むときは、指定が銀行に集中しているのか、決済や暗号資産の事業者に及んでいるのかを分けて見る必要がある。

制裁の対象になった銀行がどうなるかは、ケレメト銀行の数字にそのまま表れている。同行の資産は2026年6月末までの1年間で627.1%増え、額にして840億ソム積み上がった。伸び率でも増加額でもキルギスの銀行のなかで突出している。国立銀行はこの点について説明を公表していない。米ドル建ての決済とコルレス関係に事実上の制約がかかる立場で資産が7倍になったという事実は、キルギスの銀行部門を読むうえでの論点として残る。

なおキルギス国立銀行自身は、2025年の金融部門安定性報告書で、世界の地政学的な状況と貿易相手国に対する制裁の制限が続くなかでも、銀行部門にとっての一定のリスクは残るがその水準は金融部門全体の安定を脅かすものではない、という評価を示している。

イスラム金融の位置

キルギスは、通常の商業銀行が別免許を得てシャリーアに適合する取引を扱う「イスラム窓口」の制度を持つ。2026年8月14日時点で窓口の免許を持つのはMバンク、オプティマ銀行、エルディク銀行、バカイ銀行、Aバンクの5行で、これに全体がイスラム銀行であるエコイスラミック銀行を加えた6行がこの分野で営業している。上位5行のうち4行が窓口を持つことになる。

規模はまだ小さい。国立銀行の市場概観によれば、イスラム原則による資金供与の残高は2019年末の2,360万ドルから2023年末の6,770万ドルへ増えたが、同時期の銀行部門全体の貸出(2023年末で28億9,370万ドル)に比べれば数%の水準である。制度の中身は「イスラム窓口(исламское окно)」の項で扱う。

資料の所在と読み方

一次資料はキルギス国立銀行のロシア語版に集まる。商業銀行の一覧と免許登録簿(支店数、頭取、貴金属・電子マネー・イスラム窓口の許可を含む)は同行のサイトで毎月更新され、部門全体の指標は半期ごとの金融部門安定性報告書に載る。政策金利と公定為替レートは日次で公開され、XMLでも取得できる。英語版は更新が遅れるため、日付の確認はロシア語版で行う必要がある。

個々の銀行の数字は各行の開示に頼ることになる。国立銀行の情報開示規則にもとづく四半期報告と、監査済みの年次財務諸表を自社サイトで公開する銀行が多いが、月次の書類を走査画像で提供する銀行が少なくなく、機械的に読み取れない。KICBのように自動化されたアクセスを遮断している銀行もある。銀行間の比較には、各行の公表資料を集計した民間の順位表を使うことになるが、その場合も集計の対象と基準日を確かめる必要がある。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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