解説 · 2026年8月時点
ASCEグループ(ASCE Group OJSC)は、アルメニア最大の鉄鋼メーカーである。コタイク地方チャレンツァヴァンにある電気炉製鋼所で、国内で集めたスクラップを原料に鋼片を鋳造し、建設用の異形鉄筋と、鉱山で使う粉砕用鋼球(グラインディングボール)を製造する。アルメニアで鉄筋を一貫生産できる唯一の企業であり、実物部門の企業としては早い時期にアルメニア証券取引所へ上場した。
内陸で国境の一部が閉ざされたアルメニアにとって、建設資材を輸入に頼るか国内で作るかは輸送費に直結する。同社の存在は、建設需要と鉱業需要の双方に国内で応える供給源という位置づけになる。2025年通期の売上高は225億7,833万ドラム(連結)で、その約86%が建設会社向けの鉄筋である。
| 正式名 | ASCE Group OJSC(ԱՍԿԵ ԳՐՈՒՊ ԲԲԸ) |
|---|---|
| 設立 | 1998年9月4日(国営企業アフトゾウル/ハイゾウルCJSCの民営化により公開株式会社として発足) |
| 本拠 | アルメニア・コタイク地方チャレンツァヴァン市エレヴァニャン通り2 |
| 事業 | 電気炉による製鋼、鋼片(ビレット)の連続鋳造、異形鉄筋と粉砕用鋼球の製造 |
| 売上高 | 225億7,833万ドラム(2025年通期、連結) |
| 純利益 | 16億3,854万ドラム(2025年通期、連結) |
| 総資産 | 668億1,684万ドラム(2025年12月末、連結) |
| 自己資本 | 326億4,088万ドラム(2025年12月末、連結) |
| 生産能力 | 鋳造は年約30万トン、鉄筋は年17万5,000トン(2025年8月、大統領府発表) |
| 所有 | モラコ・ホールディング(キプロス)49.35%、ミハイル・ハルティウニャン16.53%、ティグラン・ハルティウニャン16.53%、ヴァハン・ハルティウニャン16.30%(2025年12月末)。最終的な支配者はミハイル・ハルティウニャン |
| 上場 | アルメニア証券取引所(AMX)に社債を上場。株式も同取引所に上場 |
沿革
前身はソ連期のチャレンツァヴァンにあった自動車部品向け鋳造工場アフトゾウル(後のハイゾウルCJSC)で、1998年9月4日にその民営化により公開株式会社ASCEグループが設立された。同社の説明では、輸入に依存していた建設用鉄筋を国産で賄うため、2007年に鉄筋用の鋼片生産を始めた。
2011年、世界的な金融危機が落ち着くのに合わせてジーメンスVAI(オーストリア)と設備更新の契約を結び、以後も段階的に能力を増やしてきた。2013年には鉄筋の生産を本格化させている。2022年以降の投資額は約200億ドラムで、その相当部分が政府の投資支援制度を利用したものだと2025年8月に大統領府が伝えている。
格付けについては、2023年にS&Pグローバル・レーティングから初めて格付けを取得し、2025年5月28日に「B-」(見通しネガティブ)が据え置かれたが、2026年4月10日に発行体の要請で取り下げられた。
設備と製品
製鋼は40トンの電気アーク炉と取鍋精錬炉、連続鋳造設備で構成される。鋳造する鋼片は150×150ミリ角・長さ6メートルが標準で、120×120ミリ角、130×130ミリ角も製造できる。圧延はイタリア製の熱間圧延ラインで、ガス加熱の鋼片再加熱炉と水冷装置を備え、直径10ミリから32ミリまでのQST(焼入れ・自己焼戻し)鉄筋を生産する。規格はGOST R52544:2006のA500Cなどに適合する。
粉砕用鋼球は斜め圧延機で直径40ミリから125ミリまでを製造する。単一シフトで年約2万トンの生産が計画されている。品質管理では、26チャンネルの発光分光分析装置2台、1000キロニュートンの引張試験機、金属組織観察の顕微鏡などを備える。
2025年通期の売上構成は、鉄筋193億9,151万ドラム、鋼球27億2,910万ドラム、鋼片2億3,343万ドラム、暖房用ラジエーター2億3,429万ドラムで、販売先はすべてアルメニア国内である。顧客区分では建設会社向けが193億5,490万ドラム、鉱山会社向けが27億1,988万ドラムを占める。前年の2024年通期は売上高224億8,608万ドラムで、鉱山会社向けが14億1,181万ドラムだったから、鋼球の販売が1年で倍近くに伸びたことになる。
財務と資金調達
2025年通期の連結業績は、売上高225億7,833万ドラム(前年224億8,608万ドラム)、売上総利益48億1,775万ドラム、営業利益40億6,924万ドラム、税引前利益18億1,744万ドラム、当期純利益16億3,854万ドラム(前年21億6,806万ドラム)である。営業段階では利益を出しているが、金融費用が33億414万ドラムと重く、純利益を圧迫する構造にある。1株当たり利益は26ドラム(前年34ドラム)。2024年、2025年とも配当は実施していない。
2025年12月末の総資産は668億1,684万ドラム、自己資本は326億4,088万ドラムである。発行済株式は6,292万3,840株(額面170ドラム)で、そのうち98.7%が銀行借入の担保に差し入れられている。従業員給付の総額は2025年に31億5,940万ドラム(2024年は27億1,150万ドラム)だった。
資金調達では社債の比重が大きい。2021年6月にドラム建て150億ドラムとドル建て1,500万ドルの社債を発行し、2024年にその大半を期限前償還したうえで、同年9月16日に再びドラム建て150億ドラム・ドル建て1,500万ドルを発行した。2025年12月末の社債残高は228億695万ドラムで、内訳は満期2031年6月11日のドラム建て(利率12%)とドル建て(同7%)、満期2034年9月16日のドラム建て(同12%)とドル建て(同8%)である。ドラム建て社債の約18%、ドル建て社債の約14%を株主および株主の関係会社が保有している。
連結子会社はASCEトレードLLC(100%出資)で、同社の主な業務はASCEグループが発行した債券の売買である。
今後の計画
2025年8月に大統領が同社を訪れた際には、太陽光発電所の開発とアルミニウム電池の製造という新しい事業計画が議題になったと発表されている。冶金分野に対する政府の政策も併せて話し合われた。
同社の売上はほぼ全量がアルメニア国内向けで、しかも建設業の需要に大きく依存している。国内の建設投資が減れば売上が直ちに影響を受ける構造であり、鉱山向けの鋼球や新規事業は、その集中を薄める試みにあたる。2025年の連結財務諸表では、売上の相当部分が上位6社の顧客に集中していることも開示されている。
参考資料
- ASCE Group OJSC Consolidated Financial Statements 2025(公式サイト掲載、2026年4月30日承認) ↗
- ASCE(公式サイト) ↗
- President Vahagn Khachaturyan visited the “ASCE GROUP” Steel Casting Enterprise(アルメニア大統領府、2025年8月20日) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。