解説 · 2026年8月時点
DEME(デメ、DEME Group NV)は、ベルギーの浚渫・海洋土木会社である。海底を掘って航路や泊地を深くする浚渫と、掘った土砂による埋め立てを出発点に、洋上風力発電の据え付け、汚染土壌の浄化、港湾やエネルギー事業への出資までを手がける。ベルギーのヤン・デ・ナル、オランダのボスカリスとファン・オールトと並び、この業界の世界大手「ビッグ4」の一角を占める。4社のうち唯一の上場企業で、半期ごとに決算を開示するため、業界全体の景況を読むうえでの物差しとしても使われる。
大カスピ海地域については、8か国での施工実績を同社の公表資料で確認することはできなかった。黒海側で公表されている工事はロシア沿岸のソチとタマンである。カスピ海・コーカサス・中央アジアの港湾案件は、同じビッグ4のうちヤン・デ・ナル(ジョージアのアナクリア深水港)、ボスカリス(カザフスタン沖の人工島、ジョージアのポチ港)、ファン・オールト(アゼルバイジャンのアラト新港、カザフスタンのプロルヴァ航路)が受け持ってきた。
| 正式名 | DEME Group NV |
|---|---|
| 創業 | 1876年(ベルギー) |
| 本社 | ベルギー・ベーフェレン=クライベケ=ズウェインドレヒト(Scheldedijk 30) |
| 上場 | ユーロネクスト・ブリュッセル(銘柄名 DEME、ISIN BE0974413453)。2022年6月30日に取引開始 |
| 主要株主 | アッケルマンス・アンド・ファン・ハーレン62.12%、VINCIコンストラクション12.11%、浮動株25.43%(2025年12月31日時点) |
| 事業 | 洋上エネルギー、浚渫・インフラ、環境、コンセッションの4部門 |
| 売上高 | 41億5,500万ユーロ(2025年通期) |
| EBITDA | 9億3,100万ユーロ(2025年通期、売上高比22.4%) |
| 純利益 | 3億4,600万ユーロ(2025年通期) |
| 受注残 | 76億ユーロ(2025年末)、71億ユーロ(2026年6月末) |
| 従業員 | 約6,000人(2025年時点) |
| 船隊 | 100隻超(2025年時点) |
沿革と資本構成
同社は起源を1876年に置く。ニコラース・ファン・ハーレンとヘンドリック・ウィレム・アッケルマンスの2人が浚渫と海洋土木の事業を興したのが始まりで、2026年に創業150年を迎えた。1894年には当時標準だったバケット式浚渫船に代えて、現在のトレーリングサクションホッパー浚渫船の前身にあたる新型船を投入している。ベルギー国内の事業会社としては、いまもドレッジング・インターナショナル(Dredging International NV)とバッヘルウェルケン・デクルート・エン・ゾーン(Baggerwerken Decloedt en Zoon NV)の名が残る。
株式の持ち方は2022年に大きく変わった。それまでDEMEはブリュッセルの建設会社CFEの100%子会社だったが、2022年6月29日にCFEが保有株を新設のDEME Group NVへ移す部分会社分割を行い、翌6月30日にユーロネクスト・ブリュッセルへ直接上場した。上場後も投資会社アッケルマンス・アンド・ファン・ハーレン(AvH)とVINCIコンストラクションが大株主として残り、2025年12月31日時点でAvHが62.12%、VINCIコンストラクションが12.11%、浮動株が25.43%を占める。CFEもAvHを主要株主とする会社であり、上場後は同一グループ内の姉妹会社という位置づけになった。
4つの事業部門
事業は洋上エネルギー、浚渫・インフラ、環境、コンセッションの4部門に分かれる。2025年の売上構成は洋上エネルギーが49%、浚渫・インフラが45%、環境が6%だった。かつての本業である浚渫が、いまでは洋上エネルギーとほぼ同じ規模になっている点が、この業界の構造変化を映している。
浚渫・インフラ部門は、航路や泊地を新たに掘る資本浚渫、堆積した土砂を取り除く維持浚渫、埋め立て、海岸防護、港湾やトンネルの建設を扱う。洋上エネルギー部門は、洋上風力発電所の基礎据え付け、タービンの輸送・設置、海底ケーブルの敷設、海底への捨石設置などを担う。環境部門は土壌浄化とブラウンフィールドの再開発、汚染底泥の処理を行う。コンセッションは自ら出資して事業に参加する部門で、洋上風力、港湾インフラ、グリーン水素のほか、深海鉱物の採取技術を開発するグローバル・シー・ミネラル・リソーシズ(GSR、持分84.22%)を抱える。
2025年には、洋上風力の据え付けを手がけるノルウェーのハヴフラム(Havfram)を約9億ユーロで買収した。これにより次世代の自己昇降式据え付け船2隻(ノース・ウィンド、ノース・エネルギー)を取得し、両船は2026年上期に稼働を始めた。
船隊
船を自前で持ち、動かせることが、この業界に新規参入が起きにくい理由である。DEMEは2025年時点で100隻を超える船隊を保有し、90か国以上での施工経験を持つ。代表格は世界最大級のカッターサクション浚渫船スパルタクス、洋上据え付け船オリオン、海底に捨石を精密に落とすフォールパイプ船イエローストーンなどで、台湾のグリーン・ジェイドのように現地企業との合弁で保有する船もある。
2026年7月には大型のトレーリングサクションホッパー浚渫船を新たに発注しており、洋上風力に軸足を移しつつも浚渫船隊の更新を続けている。
業績
2026年2月26日に公表された2025年通期決算は、売上高41億5,500万ユーロ(前年41億100万ユーロ)、EBITDA 9億3,100万ユーロ(同7億6,400万ユーロ、22%増)、純利益3億4,600万ユーロ(同2億8,800万ユーロ、20%増)だった。EBITDAの売上高比率は前年の18.6%から22.4%へ改善している。受注残は2025年末で76億ユーロと、前年末の82億ユーロからは減った。1株当たり4.5ユーロの配当が提案された。
2026年8月26日公表の上期決算は、売上高22億ユーロ(前年同期比2%増)、EBITDA 4億6,600万ユーロ(売上高比21.6%)、純利益2億1,500万ユーロ(同20%増)で、6月末の受注残は71億ユーロだった。会社側は2026年通期の売上高が2025年をやや上回り、EBITDA率は2025年並みで推移するとの見通しを示している。
大カスピ海地域との関係
同社の2023年・2024年・2025年の年次報告書と、公式サイトに掲載された368件の発表(2026年8月時点)を通しても、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、アルメニアでの施工に関する記述は見当たらない。連結対象会社の一覧にも、これらの国に置かれた法人はない。
黒海で公表されている工事は、いずれもロシア沿岸のものである。2014年ソチ冬季五輪の会場となるイメレチンスカヤ低地の造成に250万立方メートルの砂を供給した事業と、タマン港で石油ターミナルの進入航路・回頭泊地・岸壁前面を水深16メートル前後まで掘り下げた事業(浚渫量273万立方メートル)が公式サイトの事例集に載っている。
大カスピ海地域の港湾整備を読むうえでDEMEが意味を持つのは、同社がこの分野で公開されている数字を持つ数少ない企業だからである。浚渫の受注残がどう動き、船隊がどこで稼働しているかは、上場企業として半期ごとに開示される。アナクリア、アクタウ、アラトといった域内案件の工事費や工期が妥当かを判断するとき、この開示は数少ない比較材料になる。
参考資料
- DEME Group(公式サイト) ↗
- DEME Annual Report 2025(PDF) ↗
- Full-year results 2025: record performance marks 150 years of delivery — DEME(2026年2月26日) ↗
- Half-year results 2026 — DEME(2026年8月26日) ↗
- Sochi Olympic City sand supply — DEME ↗
- Capital dredging for the construction of the Taman oil terminal approach channel and Taman LPG base, Russia — DEME ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。