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ガスプロム・キルギスタン

キルギス国内での天然ガスの輸送、配給、販売。ガス輸送網と地下貯蔵施設の改修・拡張

Gazprom Kyrgyzstan LLC
公式サイト ↗

解説 · 2026年8月時点

ガスプロム・キルギスタン(Gazprom Kyrgyzstan)は、ロシアのガスプロムが全額出資するキルギスの天然ガス会社である。国内のガス輸送幹線、配給網、地下貯蔵施設を所有し、家庭と企業へのガス供給を一手に担う。2014年にキルギス政府が国営のキルギスガス(ОАО «Кыргызгаз»)の資産をガスプロムへ譲り渡したことで生まれた会社で、一国のガス供給網が丸ごと外国企業の完全子会社に移った珍しい事例である。

キルギスは天然ガスをほとんど産出しない。供給はウズベキスタンとカザフスタンを経由する幹線パイプラインに依存し、その運用と料金設定を握るのがこの会社である。エネルギー安全保障とロシアとの関係を論じるときに欠かせない存在でありながら、日本語で経緯を追える資料はほとんどない。

正式名Gazprom Kyrgyzstan LLC(ОсОО «Газпром Кыргызстан»)
設立2014年7月11日、キルギスガスプロム(ОсОО «КыргызгазПром»)の所有者変更に伴う再登録と改称により発足
本社キルギス・ビシケク、A.トコンバエフ通り23/2
納税者番号01607201310160
出資ロシアのPJSCガスプロムが100%
事業キルギス国内での天然ガスの輸送、配給、販売。ガス輸送網と地下貯蔵施設の改修・拡張
支店ビシケクガス、チュイガス、オシガス、ジャララバートガスの4営業支店と、施工部門「スペツガスモンタジュ」
顧客45万件(2026年6月時点)
ガス料金家庭向け1立方メートルあたり25.6418ソム。法人向けは税抜き27.6653ソムに付加価値税12%と売上税4%が加わる(2026年8月時点)
投資額2014年以降の累計で340億ソム(2026年6月時点、同社発表)
ガス化率全国で35%(2020年時点、同社発表)

ソ連期からキルギスガスまで

キルギスのガス事業は1959年、フルンゼ(現ビシケク)に独立したガス企業「フルンゼガス」が設立されたことに始まる。1963年にはチュイ州初のガス管区がカント市に置かれ、1970年に承認された新しい首都総合計画とともに首都のガス化と南部バトケン州への天然ガス供給が始まった。1971年、チュイ州のガス管区は液化・天然ガス事務所「カントガス」に再編された。

独立後の1994年、産業貿易省の命令により共和国生産合同「キルギスガス」の一部としてチュイ・タラス・ガス経営管理局が設けられ、「カントガス」「カラバルタガス」の各基地がその傘下に入った。1997年には大統領令で国営株式会社「キルギスガスムナイザト」が設立され、1998年9月23日、その資産の一部を基礎に株主総会の決定で開放型株式会社「キルギスガス」が発足した。

ガスプロムへの譲渡(2003〜2014年)

2003年5月16日、ガスプロムとキルギス政府がガス分野の25年間の長期協力協定に署名した。2008年10月9日には、キルギスガスの民営化を軸とする協力の発展に関する覚書が両者の間で交わされた。

決定的だったのは2013年である。7月26日、モスクワでキルギスのアルティクバエフ・エネルギー産業相とロシアのノヴァク・エネルギー相が、キルギス領内での天然ガスの輸送・配給・販売の協力に関する政府間協定に署名した。同年9月24日にキルギス政府決定第521号が批准法案を承認し、12月11日にジョゴルク・ケネシュ(議会)が批准、12月23日にアタムバエフ大統領が批准法第223号に署名した。ロシア側では2013年12月26日の政府決定第1270号で法案が承認され、2014年1月29日に連邦院が可決、2月3日にプーチン大統領が連邦法第2-FZ号に署名した。2014年2月17日、ロシア外務省の国内手続完了の通知をもって協定が発効した。

2014年4月14日、ビシケクでキルギスガスとガスプロムが売買契約を結び、キルギスガスは子会社キルギスガスプロムの授権資本の100%をガスプロムに引き渡した。同年7月11日、所有者の変更に伴ってキルギスガスプロムの国家再登録が行われ、社名がガスプロム・キルギスタンに改められた。この時点でガスプロムはキルギスのガス輸送インフラの所有権を取得した。

事業と設備

主たる事業はキルギス国内市場向けの天然ガスの供給と販売であり、優先分野として輸送・配給・販売と、既存のガスパイプライン網および地下ガス貯蔵施設(ПХГ)の改修・拡張を挙げている。営業支店はビシケクガス、チュイガス、オシガス、ジャララバートガスの4つで、このほかに施工部門である建設据付管理局「スペツガスモンタジュ」がある。

国内へのガスは「ブハラ・ガス産地—タシケント—ビシケク—アルマトイ」(BGR-TBA)幹線を通って入る。同社は2017年にこの幹線の第I期・第II期の建設と稼働、ソクルクのガス分岐管とガス分配ステーション(ГРС)の改修、BGR-TBA幹線の計量所「チュイ」の改修、レーニンスコエ村の自動車用ガス充填圧縮ステーション(АГНКС)の改修を実績として挙げている。2021年にはカント市に全自動のガス分配ステーションが建設・稼働した。

配給網の拡張も続いている。2017年にはビシケクの16住宅団地とチュイ州・オシ州の集落で総延長400キロを超える配給網が建設され、2万世帯超のガス化条件が整った。2018年にはビシケクとチュイ州の7地区で274キロ、2020年には6地区で161キロを超える配給網が敷かれ、2020年時点の全国ガス化率は35%まで上がった。2021年にはビシケクのチョンアルク、アルティンオルド、ルヒイムラス、コクジャルの各団地がガス化された。

現状の規模

同社が2026年6月に発表したところでは、2014年以降にガス輸送システムの近代化と整備へ投じた資金は340億ソムに達し、ガス化計画で54の集落が接続され、30万人が天然ガスを使えるようになった。顧客数は45万件に増えている。直近1年ではセラミックタイル工場や廃棄物処理施設といった大口の産業需要家も接続された。

料金は同社のサイトで公表されている。2026年8月時点の水準は、個人向けが1立方メートルあたり25.6418ソム、法人向けが税抜き27.6653ソムで、法人にはこれに付加価値税12%と売上税4%が加わる。ビシケク市とチュイ州の住民・法人・個人事業主に対しては、エルディク銀行とAバンクを通じて上限15万ソム、期間12か月または24か月、無担保、年利3%でガス接続とガス機器購入の費用を貸し出す政府の支援制度が2026年5月から用意されている。

社会事業にも力を入れており、「ガスプロムは子どもたちへ」の名で全国に9つのスポーツ複合施設を建設したほか、2019年にはビシケクに960人規模の「ガスプロム・キルギスタン学校」を開いた。キルギス・ロシア・スラブ大学とは2025〜2027年の協力覚書とロードマップを結び、専攻分野の学生22人に月1万ソムの奨学金を出している。

読むときの注意

同社は有限責任会社であり、キルギス証券取引所に上場していない。売上高や利益といった財務情報は公表されておらず、規模を測れるのは顧客数、投資額、パイプラインの延長といった事業指標に限られる。ここに挙げた数字はいずれも同社またはガスプロムの発表に基づくもので、独立した検証はできない。

また、キルギス国内のガス供給を一社が握る構造は、料金や投資計画をめぐる判断が事実上ロシアの親会社の経営判断に連なることを意味する。エネルギー分野の報道でこの会社の名前が出たときは、それが商業上の判断なのか二国間関係の反映なのかを分けて読む必要がある。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。