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グレンコア

スイスに本拠を置く資源商社兼鉱山会社。カザフスタンでは亜鉛・鉛・金を産するカズジンクの過半を保有する。

Glencore plc
公式サイト ↗

解説 · 2026年9月時点

グレンコア(Glencore plc)は、スイスのバールに本社を置く資源企業である。日本語では「資源商社」と紹介されることが多いが、実態は商社と鉱山会社の両方であり、どちらか一方の像では説明できない。2025年通期の売上高は2,475億ドルで、これは日本の総合商社の最大手を上回る規模にあたる。他方で世界有数の銅・亜鉛・コバルト・石炭の生産者でもあり、利益の4分の3は自社の鉱山から出ている。

中央アジアとの接点は、カザフスタンの非鉄金属大手カズジンクである。グレンコアは同社の69.7%を保有し、東カザフスタン州のウスチカメノゴルスクとリッデルにある製錬所群、アクモラ州の金鉱山、ウルタウ州のジャイレム鉱山を傘下に置く。カズジンクはカザフスタン国内で銀行向けに供給される金地金の8割を生産し、ブフタルマ水力発電所も持つ。カザフスタン国内では国営企業でも財閥系でもない、外資が過半を握る数少ない大型産業資産である。

同社はまた、2022年から2024年にかけて米英ブラジル、スイス、オランダの当局と一連の贈賄・相場操縦事件を決着させた企業でもある。資源取引という業態が持つ法務リスクの実例として、開示された金額と経緯は公表資料で追える。

正式名Glencore plc
登記地ジャージー島セントヘリア、キャッスル通り13。居住地はスイスで、本社はバールに置く
創業1974年。当初は鉄・非鉄の金属と鉱物、原油・石油製品の販売を手がける取引会社だった
上場ロンドン証券取引所とヨハネスブルク証券取引所
事業60を超える商品の生産・加工・リサイクル・調達・販売。自社鉱山などの「産業部門」と、第三者の生産物を含めて売買・輸送する「マーケティング部門」の二本立て
売上高2,475億3,500万ドル(2025年通期、前年比7%増)
調整後EBITDA135億1,100万ドル(2025年通期、6%減)。うち産業部門99億4,800万ドル、マーケティング部門35億6,300万ドル
マーケティング部門の調整後EBIT29億2,100万ドル(2025年通期、8%減)。同部門の売上高は2,195億5,600万ドルで、EBITDAマージンは1.6%
純利益3億6,300万ドル(2025年通期、親会社株主帰属)。特別項目控除前では23億ドル
財務状態総資産1,421億9,900万ドル、資本合計336億600万ドル、純有利子負債111億7,100万ドル(2025年12月末)
従業員請負を含めて14万人超。30か国超で操業
カザフスタンの事業カズジンク(持分69.7%)、ジャイレム鉱山選鉱コンビナート(同69.7%)、アルティンタウ・コクシェタウ(同69.7%)
カズジンク部門の業績売上高51億700万ドル、調整後EBITDA16億4,200万ドル(採掘マージン32%)、調整後EBIT9億7,600万ドル、設備投資5億2,200万ドル(2025年通期)
カズジンクの生産量自社鉱山由来で亜鉛21万2,500トン、鉛3万5,900トン、銅1万6,800トン、金54万3,000オンス(2025年)
株主還元2026年の分配は1株あたり17セント(総額約20億ドル)を6月と9月の2回に分けて支払う予定

取引と鉱山操業を兼ねるという業態

グレンコアの決算は「マーケティング」と「産業」の二部門に分かれる。マーケティングは、自社の生産物に加えて第三者の生産物を買い付け、船・鉄道・倉庫を組み合わせて必要とされる場所へ運び、売る事業である。産業は、鉱山・製錬所・炭鉱を自ら操業して金属や石炭を作る事業である。

両者は利益の出方がまったく違う。2025年通期のマーケティング部門は売上高2,195億5,600万ドルに対して調整後EBITDAが35億6,300万ドル、マージンは1.6%だった。商品を右から左へ動かす事業なので、売上高は巨額になる一方、1トンあたりに乗せられる利幅は薄い。対する産業部門は、金属事業のEBITDA採掘マージンが30%、製鋼用石炭で36%、一般炭で19%である。売上高で見るとマーケティングが圧倒的だが、EBITDAでは産業部門が99億4,800万ドルと全体の4分の3を占める。

日本の総合商社と比べると、投資して配当を受け取る持分法の比重が小さく、実物の商品を自ら動かす比重が大きい。2025年に売買した数量は、銅(金属・精鉱の含有量ベース)380万トン、亜鉛230万トン、アルミナ・アルミ1,140万トン、鉄鉱石9,540万トン、フェロアロイ1,210万トン、原油7億7,200万バレル、石油・ガス製品7億5,100万バレルにのぼる。

この二重構造は資金の性格も変える。同社の純有利子負債111億7,100万ドルとは別に「純調達額」394億500万ドルという指標があり、その差は換金性の高い在庫(RMI)である。取引在庫は事実上の現金に近いという考え方で、資源商社の財務を読むときの基本になる。

創業から現在まで

創業は1974年で、当初は鉄・非鉄の金属と鉱物、原油・石油製品を売買する取引会社だった。1990年代に鉱山・製錬資産の取得を進め、2011年にロンドン証券取引所へ上場、2013年に鉱山会社エクストラータと合併して現在の形になった。

直近の大きな動きは穀物事業の切り離しである。傘下のヴィテラを米ブンゲと統合する取引が2025年7月2日に完了し、グレンコアはブンゲ株式を受け取った。同社はこの株式を「余剰資本」と位置づけており、2026年2月13日時点の時価は40億ドルだった。2025年の決算では、ヴィテラの持分法利益が前年の1億6,500万ドルからゼロになっている。

株式はロンドンとヨハネスブルクの両取引所で取引される。会社そのものはジャージー島で設立され、スイスに居住地を置く。分配金は原則として米ドルで支払われ、ジャージー登録の株主はポンド、ヨハネスブルク登録の株主は南アフリカ・ランドで受け取ることができる。

カザフスタンのカズジンク

カズジンクは1997年に設立された。東カザフスタン州の非鉄金属企業を統合したもので、会社自身は「主たる投資家はグレンコア・インターナショナル」と説明している。操業は東カザフスタン州、アクモラ州、ウルタウ州にまたがり、拠点は6つの町にある。請負を含めた従業員は約2万9,000人である。

生産設備は、ウスチカメノゴルスク冶金コンビナート(亜鉛・鉛・銅の各工場)、リッデル冶金コンビナート、東カザフスタン鉱山選鉱コンビナート(リッデルとアルタイ)、ジャイレム鉱山選鉱コンビナート、そしてブフタルマ水力発電コンビナートからなる。鉱石の採掘から精錬金属の製造までを一つの生産チェーンに収めている。

同社が作る金と銀はロンドン地金市場協会(LBMA)のグッド・デリバリー銘柄に登録されており、カザフスタン国内で銀行向けに供給される金地金の8割を同社が生産している。東カザフスタン州の予算に占める同社の納税割合は4割にのぼると会社は説明している。

持分の経緯は次のとおりである。グレンコアは50.7%を保有していたが、2011年4月14日にヴェルニー・キャピタルから最大48.73%を追加取得することで条件付きの合意に達した。2012年10月11日に18.91%分の取得が完了し、対価は新株1億7,674万2,520株と現金4億ドルだった。この結果、持分は69.6%程度となり、決算資料には69.7%と記載されている。

2025年のカズジンクと、数字の読み方

カズジンク部門の2025年通期は売上高51億700万ドル、調整後EBITDA16億4,200万ドル、調整後EBIT9億7,600万ドルだった。前年(売上高41億9,900万ドル、EBITDA11億8,500万ドル)から大きく伸びており、グレンコアは増加分およそ5億ドルの主因を金価格の44%上昇に求めている。

生産量には2系統あり、混同しやすい。「自社鉱山由来」は自社の鉱山から出た金属で、2025年は亜鉛21万2,500トン、鉛3万5,900トン、銅1万6,800トン、金54万3,000オンス、銀341万6,000オンスである。もう一方の「第三者原料を含む製錬所生産」は、外部から買った精鉱も処理した製錬所の総産出量で、亜鉛地金25万1,800トン、鉛地金7万6,700トン、銅地金5万4,400トン、金94万7,000オンス、銀987万8,000オンスとなる。金でいえば前者と後者で1.7倍の差があり、どちらを引用しているかで「カザフスタンの金生産量」の印象は大きく変わる。

2025年の減産には具体的な理由が示されている。亜鉛が7%減ったのは、ジャイレムで採り尽くしたザパドヌイ採掘場から新しいダリネザパドヌイ採掘場へ移る過程で品位と回収率が落ちたためである。銅の減少はマレエフスキー鉱山の品位低下、金の10%減はワシリコフスコエ露天掘りが深くなったことによる。

なお2025年のグレンコアの設備投資には、カズジンクの水力発電設備の契約更新にともなうリース資産計上2億4,900万ドルが含まれる。これは現金の支出ではないので、設備投資の前年比を見るときは差し引いて考える必要がある。

カザフスタンの他企業との関係

グレンコアは、ERG(ユーラシア・リソーシズ・グループ)の資金調達にも関与している。2024年6月、ERGはコンゴ民主共和国のメタルコルが産出する銅の供給契約を裏づけとして、中国銀行ロンドン支店とグレンコア・インターナショナルから1億5,000万ドルの輸出前金融を受けた。この案件は2025年4月に借り換えられ、枠は2億1,500万ドルへ拡大している。

フェロクロムの市場では両社は競合関係にある。グレンコアは南アフリカでグレンコア・メラフェ・クロム・ベンチャーの79.5%を持つが、2025年5月と6月にボシュック製錬所とワンダーコップ製錬所の操業を停止した。フェロクロム市況の弱さと電力コストの高さで採算が取れなくなったためで、持分按分のフェロクロム生産量は前年比63%減の43万6,000トンに落ち込んだ。同じ市場で、ERG傘下のカズフロームは高炭素フェロクロムの主要供給者であり続けている。

法令順守をめぐる決着

2022年5月24日、グレンコアは米国・英国・ブラジルの当局と、贈賄および相場操縦をめぐる調査の一括決着に達したと発表した。米国では司法省と商品先物取引委員会に対し、贈賄で7億70万6,965ドル、相場操縦で4億8,563万8,885ドルの制裁金を支払う。このうち最大1億6,593万959ドルは英国など他国の手続きに充当され、米国への正味の支払額は約10億2,041万4,891ドルとされた。ブラジル連邦検察との決着は3,959万8,367ドルである。米司法省との司法取引には、3年間の独立コンプライアンス・モニターの選任が含まれた。

英国では2022年11月3日、グレンコア・エナジーUKがサザーク刑事法院で2億8,096万5,092.95ポンドの制裁金と費用の支払いを命じられた。同社は2010年贈収賄法に基づく贈賄5件と贈賄防止義務違反2件を認めている。

2024年8月5日には、スイス連邦検察庁がグレンコア・インターナショナルに対する捜査を略式命令で終結させた。2011年にコンゴ民主共和国の公務員に対して取引先が行った贈賄を防ぐ組織的措置を欠いたとして、罰金200万スイスフランと1億5,000万ドルの利益返還請求が科された。検察庁は、グレンコアの従業員がこの贈賄を知っていたとは認定せず、同社が金銭的利益を得たとも認定していない。オランダの並行捜査は、スイスの決着を受けて打ち切られた。グレンコアは認定内容を認めない立場だが、事案の解決を優先して上訴しないことに同意した。

紛らわしい社名

カザフスタンの非鉄金属企業には名前の似た会社が複数あり、日本語の資料ではしばしば混同される。グレンコア傘下のカズジンク(Kazzinc、亜鉛・鉛・金・銀)、ウラジーミル・キム氏らが保有するカザフムィス(Kazakhmys、銅)、そしてドバイ登記のカズ・ミネラルズ(KAZ Minerals、銅)は、いずれも別会社である。

また、地名の「ジャイレム」には二つの事業がある。カズジンクのジャイレム鉱山選鉱コンビナート(多金属)と、ERG傘下のマンガン事業である。どちらの発表かを確かめないと、同じ地名で違う会社の数字を足してしまうことになる。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。