解説 · 2026年9月時点
ICTSI(International Container Terminal Services, Inc.)は、フィリピンのマニラに本社を置くコンテナターミナルの運営会社である。船会社の系列にも国営港湾会社の系列にも属さない独立系の事業者としては世界有数の規模で、2025年通期の連結取扱量は1,450万TEU、6大陸19か国で34のターミナル事業を持つ。日本ではほとんど知られていないが、新興国の港でコンテナ荷役を担う会社としては、マースク系のAPMターミナルズ、シンガポールのPSA、香港のハチソン・ポーツ、ドバイのDPワールドと並ぶ位置にある。
大カスピ海地域では、ジョージアの黒海岸にあるバトゥミ港でコンテナ・フェリー・一般貨物の各ターミナルを運営している。運営主体はバトゥミ国際コンテナターミナル(BICT、Batumi International Container Terminal LLC)で、ICTSIの完全子会社である。ポチ港をAPMターミナルズが、バトゥミ港をICTSIが握るという構図は、中央アジアから来た貨物が欧州へ抜ける黒海側の出口を、独立系と船社系の二大勢力が分け合っていることを意味する。
同社の数字を読むときは、単位と連結範囲に注意がいる。取扱量はTEU(20フィートコンテナ換算の個数)で公表され、対象は同社が支配して連結する事業に限られる。持分法適用の合弁(コロンビアのアグアドゥルセなど)の取扱量は入らない。一方、後述するAPMターミナルズは「ムーブ」(クレーンが1回動かした本数)で公表するため、両社の数字を単純に並べても比較にならない。
| 正式名 | International Container Terminal Services, Inc.(ICTSI) |
|---|---|
| 設立 | 1987年。マニラ国際コンテナターミナル(MICT)の民営化に伴って設立された |
| 本社 | フィリピン・マニラ |
| 事業 | コンテナターミナルの開発・管理・運営。保管、バンニング・デバンニング、検量、冷凍コンテナ向け役務などの付帯業務 |
| 事業の数 | 19か国で34のターミナル事業(開発中の案件を含む。2026年8月3日時点) |
| 取扱量 | 1,450万1,189TEU(2025年通期、連結、前年比11.0%増)。811万5,758TEU(2026年上期、16%増) |
| 売上高 | 32億3,470万ドル(2025年通期、18.1%増)。19億2,000万ドル(2026年上期、27%増) |
| EBITDA | 21億4,429万ドル(2025年通期、20.5%増) |
| 純利益 | 10億4,814万ドル(2025年通期、親会社株主帰属、23.3%増) |
| 総資産 | 90億7,710万ドル(2025年末)。自己資本24億8,119万ドル |
| 設備投資 | 6億5,044万ドル(2025年、資産計上した借入費用を除く)。2026年の計画は7億4,000万ドル |
| 上場 | フィリピン証券取引所(ティッカーICT) |
| 会長兼社長 | エンリケ・K・ラソン・ジュニア |
| 地域区分 | アジア太平洋、南北アメリカ、欧州・中東・アフリカ(EMEA)の3つ |
| 大カスピ海地域の拠点 | ジョージアのバトゥミ国際コンテナターミナル(BICT)。2007年9月のリース契約で、期限は2055年6月30日 |
沿革
1987年、マニラ港のマニラ国際コンテナターミナル(MICT)の民営化に合わせて設立された。老朽化していたMICTの改修と運営で得た経験を土台に、1990年代後半から国外へ出て、アジア、欧州・中東・アフリカ、南北アメリカで買収と新規のコンセッション獲得を重ねてきた。同社は自らの成長を「MICTで培った運営能力を、条件の似た港へ移植してきた歴史」と説明している。
創業者のエンリケ・K・ラソン・ジュニアは、2026年時点も会長兼社長を務める。同社の株式はフィリピン証券取引所に上場しているが、MICTのコンセッション契約はフィリピン港湾庁(PPA)との間で「ラソン・グループがICTSIの支配を維持すること」を条件としており、支配権の所在が契約上の要件になっている点が特徴的である。この支配を担保しているのが、ラソン氏が支配するアチリオン・ホールディングス(Achillion Holdings)に発行された議決権付きの優先株B(7億株)である。優先株Bは配当が付かず、普通株にも転換されず、フィリピン国民にしか発行されない。
2025年は同社にとって過去最高の年になった。会長報告によれば、時価総額が1兆ペソを超え、フィリピン証券取引所に上場する企業として最も価値の高い会社になった。
事業の入れ替えも続いている。2025年8月にインドネシアのバタム島でバトゥ・アンパル・コンテナターミナル(BACT)を30年契約で取得し(出資比率75%)、9月に運営を開始した。同年10月にはフィリピンのスービック湾のコンセッションを2058年まで25年延長した。2026年1月には南アフリカのダーバン港第2バースの運営をダーバン・ゲートウェイ・ターミナル(DGT)として引き継ぎ、同年3月31日には中国・山東省の煙台国際コンテナターミナル(YICT)を売却して連結から外している。
事業モデル
同社が自ら掲げる方針は、「原産地と仕向地をつなぐゲートウェイ型のターミナル」に集中することである。積み替え専用の巨大ハブではなく、その国の輸出入貨物が実際に出入りする港を選び、運営の改善余地が大きく、人口動態が後押しし、競争環境が有利な立地で事業を取る、という組み立てになっている。
この選び方の結果として、ポートフォリオは新興国に偏る。2026年8月時点の34事業の内訳は、フィリピン10(内陸コンテナターミナル、はしけターミナル、スービックの複合運営を含む)、ブラジル5(鉄道内陸ターミナルと保税施設2件を含む)、パプアニューギニアとインドネシアが各2、そのほかエクアドル、ポーランド、ジョージア、マダガスカル、クロアチア、ホンジュラス、メキシコ、イラク、アルゼンチン、コンゴ民主共和国、コロンビア、オーストラリア、カメルーン、ナイジェリア、南アフリカが各1である。
船会社の系列ではないため、特定の海運同盟の貨物に縛られない代わりに、寄港を確保するには荷役の速さと信頼性で選ばれ続ける必要がある。同社が生産性の指標を前面に出すのはこのためである。
バトゥミ国際コンテナターミナル(ジョージア)
2007年9月、ICTSIグループの1社(同社の財務諸表ではIGCと略記される)がバトゥミ・ポート・ホールディングス(BPHL)からコンセッションを取得した。BPHLは、国有のバトゥミ海港(Batumi Sea Port Ltd、BSP)の株式を管理する権利を持っていた会社である。ICTSI側はこの取得の対価としてBPHLに3,100万ドルを支払い、運営会社としてBICTを設立した。
BICTがBSPと結んだ賃借・運営契約は48年で、対象はバトゥミ港内の13.6ヘクタール、内訳は第4・第5バース(コンテナターミナル)と第6バース(フェリーおよびばら積み一般貨物)である。契約は2055年6月30日に満了する。賃料は段階的に上がる設計で、2011年11月2日以降は年80万ドルとされている。契約に署名したのは2007年9月20日で、賃料の起算日は同年11月2日である。
この契約の相手方は、締結後まもなく変わった。2008年2月、BPHLはカザフスタンの国営石油輸送会社カズトランスオイルのグループに買収され、バトゥミ海港はカズトランスオイルの支配下に入った。同社はバトゥミ港の石油ターミナルも押さえているため、コンテナ・フェリーの運営者であるICTSIは、貸主が競合的な利害を持つ相手に変わるという状況に置かれた。2013年6月にBSPが契約違反を主張する通知を送り、BICTは同年7月にロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)へ仲裁を申し立てた。同年7月10日にはジョージアの裁判所から、仲裁の結論が出るまでBSPが契約を解除できないとする暫定的差止命令を得ている。その後、2013年10月と2014年12月に、双方が仲裁手続を進めないという停止合意(スタンドスティル)が結ばれた。
税務でも争いがあった。BICTは2015年、くず鉄の輸出に関連する役務の手数料に付加価値税(VAT)を課すとした歳入庁の決定の取り消しを求めてトビリシ市裁判所に提訴した。第一審は歳入庁の主張を認めたが、控訴審のトビリシ控訴裁判所は2018年5月16日、BICTの主張を部分的に認め、加算税の大部分を取り消した。
施設は、コンテナヤードが3.6ヘクタール(全面開発時は13.6ヘクタール)、625平方メートルの保税倉庫、ターミナル内に置かれたワンストップの通関区画からなる。第6バースは延長183メートル、水深8メートルで、2隻分の係船位置を持つ。荷役機械は100トン級のモバイルハーバークレーン2基、ポータルクレーン2基、リーチスタッカー8台、トラクター12台、シャシー14台、サイドリフター3台、フォークリフト17台、リーファー用電源192口である(2026年9月時点の同社の公表)。
2025年の動きとして、同社の年次報告は、ヤード機材への投資で船の滞留時間が短くなったこと、3月に月間の取扱量が過去最高になったこと、アジアと欧州を結ぶ中間回廊(カスピ海横断輸送ルート)を支える近海コンテナ航路が新たに入ったこと、ウクルフェリーが運航するブルガリア〜ジョージア間のフェリー航路が加わったことを挙げている。バトゥミ港の位置づけについて同社は、天然の水深と地理的な中心性により、コーカサスと中央アジアへ向かうコンテナ・一般貨物の玄関になっていると説明している。トルコ国境までは約20キロである。
業績
2025年通期の連結取扱量は1,450万1,189TEUで前年比11.0%増、港湾事業の売上高は32億3,470万ドルで18.1%増、EBITDAは21億4,429万ドルで20.5%増、親会社株主に帰属する純利益は10億4,814万ドルで23.3%増だった。希薄化後1株当たり利益は0.510ドルで25.2%増である。地域別の取扱量はアジア太平洋772万9,812TEU(8.8%増)、南北アメリカ415万8,288TEU(18.9%増)、EMEA261万3,089TEU(6.1%増)で、EMEAはグループ全体の18%を占める。EMEAの港湾売上高は5億9,055万ドル(13.3%増)だった。
2026年上期は取扱量811万5,758TEU(16%増)、売上高19億2,000万ドル(27%増)、EBITDA12億3,000万ドル(24%増)、親会社株主に帰属する純利益5億8,998万ドル(22%増)である。煙台の売却に伴う一時的な費用を除いた「経常」ベースの純利益は6億469万ドルで25%増だった。ただしこの伸びの大半は新規のダーバンとバタムの寄与であり、新規・終了の事業を除くと取扱量の伸びは1%にとどまる。売上高は同じ条件で18%増だった。中東の地政学的な情勢を受けてイラクのバスラ・ゲートウェイ・ターミナルの荷動きが落ち、EMEA全体の取扱量は減っている。
2025年末の手元現金は11億1,000万ドルで、同社は取引銀行および債券・資本市場から約54億ドルまで追加の資金調達余力があるとしている。
競合との関係
独立系という立場は、船社系の運営者と正面から競合することを意味する。象徴的だったのが南アフリカのダーバンである。同社の2025年年次報告によれば、南アフリカ高等裁判所は2025年10月、国営トランスネットがダーバン・コンテナターミナル第2バースの25年契約をICTSIに与えたことを争ったAPMターミナルズの訴えを退けた。裁判所はトランスネットの手続が公正かつ透明であったと認め、ICTSIの財務的な健全性は適切に検証されたと判断したうえで、APM側の法的な異議が民営化の手続を不当に遅らせたと述べたとされる。トランスネットとICTSIは同月に25年の提携契約に署名し、ICTSIが49%を保有して運営の支配権を持つ形で、2026年1月1日に運営を引き継いだ。
ジョージアでも両社は同じ黒海岸で向かい合っている。ポチ港をAPMターミナルズが、バトゥミ港をICTSIが運営し、そこへ国家事業として大水深のアナクリア港が加わろうとしている。どの港が中間回廊の貨物をどれだけ取り込むかは、それぞれの荷役能力と背後の鉄道・道路の整備状況に左右される。
数字を読むときに
第一に、単位である。ICTSIはTEUで、APMターミナルズは「ムーブ」で取扱量を公表する。TEUは20フィート換算の個数、ムーブはクレーンの動作回数であり、40フィートコンテナ1本は2TEUだが1ムーブになる。両社の数字は換算せずに比べられない。
第二に、連結範囲である。同社の「連結取扱量」は支配して連結する事業のものだけで、持分法適用の合弁は含まれない。新規取得と売却が毎年あるため、成長率を見るときは同社が併記する「新規・終了事業を除いたベース」を確認する必要がある。2026年上期はこの差が16%と1%という大きな開きになった。
第三に、地域区分である。同社のEMEAには欧州、中東、アフリカが一括して入り、ジョージアのバトゥミもここに含まれる。EMEAの数字が動いたときに、それがイラクの荷動きなのかジョージアの荷動きなのかは、地域の合計値からは分からない。
参考資料
- ICTSI Annual Report 2025(公式・PDF) ↗
- ICTSI 1H2026 Recurring Net Income up 25% to US$604.69M(公式、2026年8月3日) ↗
- SEC Form 17-Q(2026年第2四半期報告、公式・PDF) ↗
- Outstanding Shares and Major Stockholders(公式、2026年6月30日時点) ↗
- At a Glance(公式) ↗
- Batumi International Container Terminal LLC(公式のターミナル紹介) ↗
- Batumi International Container Terminal LLC(BICT公式サイト) ↗
- EQUIPMENT(BICT公式、荷役機械の一覧) ↗
- ICTSI Annual Report 2014(公式・PDF。バトゥミのコンセッションと仲裁の注記) ↗
- ICTSI Integrated Report 2018(公式・PDF。バトゥミの賃料と税務訴訟の注記) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。