解説 · 2026年8月時点
アラル海救済国際基金(IFAS)は、アラル海の縮小とそれに伴う環境・社会経済危機に中央アジア5か国が共同で取り組むための枠組みである。1990年6月23日にアルマトイで出された中央アジア諸国指導者の共同声明が出発点となり、1993年3月26日、クズルオルダで5か国の首脳が「アラル海とアラル地域の問題解決、環境回復およびアラル地域の社会経済発展に関する共同行動協定」を採択し、IFAS規程に署名して発足した。初代総裁はカザフスタンのナザルバエフ大統領である。
IFASは資金を出す基金であると同時に、中央アジア5か国が水資源と環境について交渉する政治的な場でもある。国境をまたぐアムダリヤ川とシルダリヤ川の水をどう配分するかという、この地域で最も対立を生みやすい問題を扱う唯一の常設の枠組みであり、越境水資源に関する二国間・多国間の合意はこの場を通じて積み上げられてきた。
| 正式名 | International Fund for Saving the Aral Sea(IFAS。ロシア語略称МФСА) |
|---|---|
| 設立 | 1993年3月26日(クズルオルダで協定と規程に調印) |
| 設立国 | カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5か国 |
| 最高機関 | 設立国首脳評議会(IFASサミット) |
| 下部組織 | 執行委員会、理事会、監査委員会、国家間水利調整委員会(ICWC)、国家間持続可能開発委員会(ICSD) |
| 執行委員会の所在 | カザフスタン・アスタナ(2026年8月時点) |
| 現議長国 | カザフスタン。IFAS総裁はカシムジョマルト・トカエフ大統領 |
| 行動計画 | アラル海流域プログラム第4次(ASBP-4、2020〜2030年) |
アラル海流域という問題
アラル海流域は、アムダリヤ川とシルダリヤ川という2本の大河の流域からなる。両河川の年平均流量の合計は116立方キロメートルで、内訳はアムダリヤ川が79.4立方キロメートル、シルダリヤ川が36.6立方キロメートルである。ソ連期に綿花栽培のための灌漑が大規模に拡大した結果、この水の大半が海に達する前に取水されるようになり、アラル海は急速に縮小した。国際社会はこれを20世紀最大級の環境災害の一つとみなしている。
問題の難しさは、水を使う側と水を出す側が国境で分かれていることにある。上流のキルギスとタジキスタンは水力発電のために冬に放流したいのに対し、下流のウズベキスタン、トルクメニスタン、カザフスタンは灌漑のために夏の水を必要とする。ソ連期には中央の計画で調整されていたこの配分が、独立後は5つの主権国家の交渉事項になった。IFASはその交渉を制度化するために作られた。
IFASの枠組みで採択された主要な文書には、ヌクス宣言(1995年)、アシガバート宣言(1999年)、ドゥシャンベ宣言(2002年)などがあり、いずれも公式サイトで原文が公開されている。
組織
最高機関は設立国首脳評議会である。加盟国が持ち回りで務める議長国の任期中に1回、首脳会議(IFASサミット)が開かれ、水資源、環境保護、アラル海流域の社会経済状況をめぐる主要な決定が下される。発足以来11回の首脳会議が開かれている。
1997年2月に首脳が承認した管理構想により、IFASは監査委員会、理事会、執行委員会、国家間持続可能開発委員会(ICSD)、国家間水利調整委員会(ICWC)で構成されることになった。執行委員会(EC IFAS)が日常業務を担い、議長国の移動に合わせて所在地も移る。2026年8月時点ではアスタナに置かれ、カザフスタンのトカエフ大統領がIFAS総裁を務めている。
IFASの任務は、アラル海の救済と環境改善を目的とする国家間の環境・科学技術プログラムへの資金供与、基礎研究と応用研究への出資、国家間の環境監視システムとデータバンクの構築・維持、大気・水・土地資源と動植物の保護に向けた資金動員、越境内水の管理に関する科学技術事業への融資である。
アラル海流域プログラム(ASBP)
IFASの具体的な行動計画は「アラル海流域諸国支援行動計画(ASBP)」と呼ばれ、これまでに4次にわたって策定されてきた。第4次(ASBP-4)は2018年1月30日のIFAS理事会決定に基づき、執行委員会が国家間水利調整委員会・国家間持続可能開発委員会および各国専門家、国際パートナーとともに作成したもので、実施期間は2020年から2030年である。
ASBP-4は、水資源の統合的な利用と保護、環境の改善、アラル海流域の社会経済開発、そしてIFASの制度的・法的な仕組みの改善を目標に掲げる。投資案件を含む多数の事業を束ねる地域プログラムであり、中央アジアの水・環境・食料・エネルギーの安全保障に資することを狙う。
国際機関との連携
IFASの執行委員会は、世界銀行、ドイツ国際協力公社(GIZ)、中央アジア地域環境センター(CAREC)、ユーラシア開発銀行、独立国家共同体(CIS)執行委員会などと覚書を結び、資金と技術の受け皿になっている。
代表的な事業が、2016年8月に世界銀行の支援で始まった「アラル海流域気候適応・緩和プログラム(CAMP4ASB)」である。世界銀行が3,800万ドルを配分し、うち1,500万ドルがIFAS執行委員会の実施する地域活動に充てられた。地域調整はCARECが担い、気候変動に関する分析基盤の整備、農業生産と土地管理への投資促進、気候データへのアクセス改善を目的としている。緑の気候基金(GCF)もこの案件に950万ドルを拠出した。
近年は「中央アジア地域水利用効率改善事業(CAWEC)」の準備が進んでいる。フランス開発庁(AFD)も200万ユーロの贈与でIFASを支援しており、カザフスタンとウズベキスタンのアラル海流域の試験的な小流域で、農業用水の実需要を地図化して把握する作業を行っている。
読むときの注意
IFASは常設の事務局と行動計画を持つ一方、5か国の合意がなければ動かない枠組みでもある。上流のキルギス・タジキスタンと下流のカザフスタン・トルクメニスタン・ウズベキスタンでは水の利害が正面から対立するため、首脳会議で採択された宣言と、実際に実施された事業との間には距離がある。
また、IFASの名の下で実施される事業の資金は、多くが世界銀行、GCF、AFD、GIZといった外部の機関から出ている。IFAS自身が独自に大きな資金を持つ機関ではない点に注意が要る。
参考資料
- Executive Committee of the International Fund for Saving the Aral Sea(公式サイト) ↗
- The history of the creation and formation of IFAS(EC IFAS) ↗
- Mission of IFAS(EC IFAS) ↗
- ASBP-4(アラル海流域プログラム第4次、EC IFAS) ↗
- CAMP4ASB(EC IFAS) ↗
- IFAS Summits(EC IFAS) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。