解説 · 2026年8月時点
キルギス鉄道(キルギス・テミル・ジョル)は、キルギスの鉄道網を保有・運営する国営企業である。株式会社ではなく国営企業のまま運輸通信省の監督下にあり、株式も上場もない。中央アジアの鉄道会社としては小さく、本線の総延長は424.6キロにとどまる。しかもその路線は一本につながっておらず、首都ビシケクを含む北部区間323.4キロと、フェルガナ盆地に面した南部区間101.2キロが地理的に分断されている。北部はカザフスタン側へ、南部はウズベキスタン側へ抜けるだけで、国内で南北がつながっていない。
この会社が域外から注目されるのは、中国・カシュガルからキルギスの天山山脈を越えてウズベキスタン・アンディジャンへ至る中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道(CKU鉄道)の当事者だからである。事業主体である合弁会社にキルギス側の出資者として参加しており、同時に、CKU鉄道が国内網とどう接続するか、軌間の違いをどこで処理するかという設計上の中心的な論点にも当事者として関わっている。分断された自国の路線網を一本につなぐ国内新線の建設主体でもある。
| 正式名 | Государственное предприятие «Национальная компания «Кыргыз темир жолу» при Министерстве транспорта и коммуникаций Кыргызской Республики(キルギス共和国運輸通信省付属 国営企業「国家会社キルギス・テミル・ジョル」) |
|---|---|
| 略称 | ГП «НК «Кыргыз темир жолу»。英語表記は Kyrgyz Temir Zholu(KTZh) |
| 本社 | キルギス・ビシケク市レフ・トルストイ通り83番地 |
| 法人形態 | 国営企業(государственное предприятие)。株式会社ではなく、株式は発行されていない |
| 監督官庁 | 運輸通信省 |
| 沿革の起点 | 1992年10月28日の大統領令第303号で「キルギス鉄道管理局」として発足。2005年5月24日の大統領代行令第187号で現在の名称に改組され、定款は2005年7月19日の政府決定第301号で承認された |
| 路線網 | 本線424.6キロ。地理的に分断された北部区間323.4キロと南部区間101.2キロから成る。営業駅28(同社発表、2025年12月) |
| 規格 | 軌間1,520ミリ、全線非電化(ディーゼル機関車牽引) |
| 国境接続点 | 6か所。ウズベキスタン側5か所(シャマルドゥサイ、カラス・ウズベクスキー2か所、38キロ地点ポスト=クズルキヤ、ジャララバード)、カザフスタン側1か所(トゥルクシブ) |
| 貨物輸送量 | 1,000万トン超(2025年、同社発表)。920万トン(2024年)、766万トン(2021年) |
| 旅客輸送 | 42万人超(2025年、同社発表)。25万5,200人(2021年) |
| 総資産 | 453億ソム(同社の2025年12月の発表時点)。2022年12月31日時点は92億ソム |
| 納税 | 共和国予算へ8億ソム超、社会基金へ7億ソム超(2025年、同社発表) |
| 総裁 | アザマト・サキエフ(Азамат Абдукаримович Сакиев、2021年6月25日就任) |
| CKU鉄道での立場 | 合弁会社「鉄道会社『中国・キルギス・ウズベキスタン』」有限責任会社のキルギス側出資者 |
沿革
キルギス領内で最初に鉄道が通ったのは、帝政ロシア末期の南部だった。1915年にカラスからジャララバード駅までの区間が開業している。北部に鉄道が届いたのはソ連期で、トルキスタン・シベリア鉄道(トゥルクシブ)の建設計画の一環として、カザフスタンのアウリエアタ(現タラズ)からピシュペク(現ビシケク)までの266キロが1924年に完成した。同年8月8日、ピシュペク駅に最初の列車が到着している。
その後の路線は、ほとんどが石炭や砂糖といった特定の産物を運ぶために引かれた。南部のクバサイ〜クズルキヤ(1929年)、ジャララバード〜コクヤンガク(1932年)、ウチクルガン〜タシュクムイル(1936年)は、いずれもコクヤンガク、クズルキヤ、タシュクムイルの炭田からフェルガナ盆地へ石炭を供給するための路線である。北部のフルンゼ〜カント(1932年)は、カント市に建設された製糖工場の操業に合わせて敷かれた。カント〜トクモク(1941年)、トクモク〜ブイストロフカ(1942年)と延び、1950年にブイストロフカからルイバチエ(現バルクチ)までが開通して、北部の路線が完成した。
同社は、1948年のバルクチ(旧ルイバチエ)駅の開設を最後に、78年間にわたって新しい鉄道が1本も建設されなかったとしている(2022年の政府文書は、ブイストロフカ〜ルイバチエ間の恒久運用開始を1950年としており、年の取り方に差がある)。この空白は、2026年にバルクチ〜コチコル線が開通するまで続いた。
ソ連期の組織上の位置づけは、一貫して他共和国の鉄道局の一部門だった。1958年5月13日のソ連運輸省決定第631号で「第6ピシュペク鉄道支局」が「カザフ鉄道第10フルンゼ支局」に改組され、1977年11月18日のソ連鉄道省(МПС)命令第26-Ц号でアルマアタ鉄道に編入されて「レーニン勲章受章アルマアタ鉄道第3フルンゼ支局」となった。独立に伴い、1992年10月28日の大統領令第303号でこの支局が「キルギス鉄道管理局」に改組され、2005年5月24日の大統領代行令第187号で現在の国営企業「国家会社キルギス・テミル・ジョル」となった。定款は2005年7月19日の政府決定第301号で承認されている。
分断された路線網
同社の本線は424.6キロである。内訳は北部区間323.4キロと南部区間101.2キロで、この二つは国内でつながっていない。北部はバルクチ(旧ルイバチエ)からビシケクを経てカザフスタン国境のトゥルクシブ駅へ抜け、そこからカザフスタン、ロシアの鉄道網に接続する。南部はジャララバード、カラス、クズルキヤなどの駅を持ち、ウズベキスタン側へ5か所の接続点で出ている。国境接続点は全部で6か所しかなく、そのうち5か所はウズベキスタン、1か所がカザフスタンである。
北部区間には、路線の一部がカザフスタン領内を通るという事情もある。2022年5月20日の閣僚会議決定第258号で承認された「2022〜2026年の鉄道輸送発展の基本方向」は、トゥルクシブ〜バルクチ間を単線・営業延長321.5キロとし、うち60.3キロがカザフスタン領内、261.2キロがキルギス領内であると記している。ビシケク発の旅客列車がカザフスタン領のメルケまで運行されているのも、この線形による。
軌間は旧ソ連規格の1,520ミリで、全線が非電化である。同じ政府文書は、トゥルクシブ〜バルクチ間の電化を投資案件として掲げ、ディーゼル燃料への依存と排出を減らす効果を挙げているが、2026年8月時点で実現していない。
輸送実績と設備の状態
貨物量は長く年700万トン前後で頭打ちになっていた。2022年5月の政府文書に載る実績は、2017年715万7,000トン、2018年752万6,300トン、2019年702万3,100トン、2020年730万6,500トン、2021年766万500トンである。貨物回転量は2021年で10億310万トンキロ。旅客は2019年に36万523人だったが、2020年のコロナ禍で7万2,361人へ落ち込み、国際列車は運休した。
ここ数年は伸びている。同社は2025年12月の年末発表で、2024年の貨物輸送量が920万トン、2025年は1,000万トンを超え、鉄道史上の最高記録になったとしている。旅客も2025年に42万人を超えた。財務についても、2023〜2025年の戦略計画の期間に資本が75億ソムから427億ソムへ増え、総資産は2022年12月31日の92億ソムから453億ソムになったと説明している。2025年の納税額は共和国予算へ8億ソム超、社会基金へ7億ソム超である。
一方で設備の老朽化は深刻である。2022年の政府文書は、本線424.6キロ(レール延長849.2キロ)のうち17%にあたる146.4キロ分のレールが規定通過トン数を超えていて交換を要すること、貨車の60%と客車の63%が稼働できない状態にあること、6両の新型機関車を除くディーゼル機関車がすべて建造から40年を経て償却対象であること、通信は旧式のアナログ方式で、駅の連動装置も機械式が残っていることを挙げている。同社は2022〜2025年に68台の特殊機械を購入し、2025年には55キロ超の線路を修繕したと発表している。機関車修繕の内製化を進める機関区の再装備事業も進行中で、これが完成すれば国外での修理をやめられるとしている。
CKU鉄道での役割と軌間の問題
中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道(CKU鉄道)の事業主体は、キルギス法に基づいてビシケクに設立された有限責任会社「鉄道会社『中国・キルギス・ウズベキスタン』」である。出資者は3か国の鉄道当局、すなわち中国国家鉄路集団、キルギス・テミル・ジョル、ウズベキスタン鉄道の3社で、出資比率は中国51%、キルギス24.5%、ウズベキスタン24.5%とされる。会社の事務所は2024年9月にビシケクで開設され、以後、出資者総会と取締役会が定期的に開かれている。2026年6月24日にビシケクで開かれた第5回総会・第5回取締役会には、同社第一副総裁のロマン・スパスキーが取締役として出席し、環境規制の順守、標識類のキルギス語併記、キルギス国民の雇用比率の引き上げを求めた。
事業費の中核となる融資は、2025年12月16日にビシケクで調印された。借り手は合弁会社で、貸し手は中国輸出入銀行と国家開発銀行から成る中国の銀行シンジケート、金額は23億ドルである。施工は中国鉄路国際(チャイナ・レイルウェイ・インターナショナル)のキルギス支店がEPC請負者として担う。
この事業で技術上の核心になるのが軌間である。中国側は標準軌1,435ミリ、旧ソ連圏は広軌1,520ミリで、どこかで積み替えるか台車を交換しなければならない。2022年の政府文書の時点では、経路、軌間、積み替え駅の位置がいずれも3か国間の調整事項として残っていた。その後、中国国境のトルガルト峠からマクマルまでを1,435ミリで建設し、マクマルに積み替え駅を置いて、そこから先を1,520ミリとする方針が報じられている。マクマルは同社が進める国内新線バルクチ〜コチコル〜カラケチェの延長先でもあり、同社自身も、国内線を将来マクマルの積み替え駅まで延ばしてCKU鉄道に接続させると説明している。つまりキルギス側にとって軌間の切り替え点は、単なる技術上の接点ではなく、自国の路線網とCKU鉄道が出会う場所として設計されている。
工事の進捗について、同社は2025年末時点で、路線全体で192.323キロの仮設進入路が建設され、11か所の主要工事キャンプが稼働し、路線上の29のトンネルすべてが坑内掘削の段階に入ったとしている。トンネルのうち3本は長さ12キロを超える。着工式は2024年12月27日にジャパロフ大統領が行い、2025年4月にはジャララバード州スザク地区で主要構造物の起工式が開かれた。
国内新線 — 南北をつなぐ試み
同社は、CKU鉄道と並行して国内の新線建設を進めている。中心はバルクチ〜コチコル〜カラケチェ線(186キロ)で、2022年2月28日の閣僚会議決定第100号により、外国からの投資を入れず同社自身の資金と人員で建設することが決まった。目的は、カラケチェ褐炭鉱の石炭をビシケクの火力発電所と市民向けに運ぶことである。石炭はそれまでトラックでバルクチ駅まで運ばれており、輸送費がかさむうえに道路を傷め、イシククル湖畔で積み替える際の粉じんも問題になっていた。政府文書は、カラケチェからバルクチへ毎年およそ70万トンの石炭がトラックで運ばれていたとし、バルクチ〜コチコル間の建設費を94億7,200万ソムと見積もっていた。
第1期のバルクチ〜コチコル間63.4キロは2022年3月31日に着工し、2026年7月25日にコチコルで開通式が行われた。ジャパロフ大統領が自ら機関車を運転して式典会場に到着し、最後の犬釘を締めた。路線は湿地帯、山麓、山腹を通る難所を含み、最初の5キロは軟弱地盤を全面的に入れ替えて排水設備を設け、その先ではジオグリッドを用いて路盤を築いた。山岳部では発破を行い、ボズバルマク山付近では紀元前2千年紀のスキタイ・サカ期の古墳が見つかっている。終点のコチコル駅には石炭ヤード、屋根付き貨物倉庫、コンテナヤードが設けられ、マイクロプロセッサ連動装置が導入された。
続く区間はコチコル〜カラケチェ〜マクマル(概算236キロ)で、これが完成すれば国内の南北が鉄道でつながり、同時にCKU鉄道の積み替え駅に接続する。別途、イシククル湖北岸を走るバルクチ〜タムチ〜チョルポンアタ線(約86キロ)の建設も2026年6月14日に起工され、将来は湖を一周する環状線とすることが構想されている。
国際的な位置づけ
同社は独立国家共同体(CIS)鉄道輸送評議会、鉄道協力機構(OSJD)、上海協力機構、テュルク諸国機構の鉄道部門といった枠組みに参加している。2025年にはイラン鉄道、パキスタン国家物流公社、ドイツのレヌス(Rhenus SE & Co. KG)、スイスのシュヴィハーク(Schwihag AG)、韓国の現代ロテム(Hyundai Rotem)などと覚書を結んだ。中間回廊(カスピ海横断国際輸送ルート)に関しても、テュルク諸国機構の鉄道長官会合を通じて関与を強めている。
ロシア・キルギス開発基金(РКФР)との関係も続いている。2017年には同基金の資金で貨車150両を購入し、2026年8月6日には機関車車輪対の旋削設備の導入と、コンテナ輸送用のフィッティング付き平台車200両の購入という2件の投資案件について意向書を結んだ。
読むときの注意
同社は国営企業であり、監査済みの財務諸表を公表していない。上に挙げた資本、総資産、輸送量、納税額はいずれも同社自身の発表による数字で、外部の監査や統計による裏づけは公開されていない。従業員数も公表されていない。とくに2025年通期の貨物1,000万トンと旅客42万人は、2025年12月24日付の年末発表に載ったものであり、年を締める前の数字である点に注意が要る。
路線延長の数え方にも幅がある。同社は本線424.6キロを標準的に用いるが、これとは別に駅構内の側線220キロ、専用線66.4キロを管理下に置くと説明している。また北部の幹線はカザフスタン領内を60キロ余り通るため、「キルギスの鉄道の長さ」と「キルギス領内の鉄道の長さ」は一致しない。
参考資料
- О компании — ГП «НК «Кыргыз темир жолу»(公式サイト) ↗
- История развития — ГП «НК «Кыргыз темир жолу»(公式サイト) ↗
- Основные направления развития железнодорожного транспорта Кыргызской Республики на 2022-2026 годы(閣僚会議決定第258号、2022年5月20日。同社サイト掲載) ↗
- Перечень межгосударственных стыковых пунктов — ГП «НК «Кыргыз темир жолу» ↗
- Рекордный рост объёма грузоперевозок(同社ニュース、2026年1月13日) ↗
- Итоги 2025 года «Кыргыз темир жолу»(同社の年末発表、Tazabek、2025年12月24日) ↗
- Подписано соглашение о финансировании строительства железной дороги «Китай - Кыргызстан - Узбекистан»(同社ニュース、2025年12月16日) ↗
- 5-е Собрание участников и 5-е заседание Совета директоров ОсОО «Железнодорожная компания «Китай – Кыргызстан – Узбекистан»(同社ニュース、2026年6月24日) ↗
- Аннотация по проекту строительства железной дороги Балыкчы-Кочкор(同社ニュース、2026年7月30日) ↗
- Торжественное открытие железной дороги Балыкчы – Кочкор(同社ニュース、2026年7月28日) ↗
- Президент Садыр Жапаров дал старт строительству железной дороги Балыкчы – Тамчы – Чолпон-Ата(同社ニュース、2026年6月15日) ↗
- О проекте строительства железной дороги Китай—Кыргызстан—Узбекистан(同社発表、Tazabek、2025年12月29日) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。