解説 · 2026年8月時点
キルギス国家電力網(NESK)は、キルギスの高圧送電網を保有し、全国の系統運用を担う国有企業である。2022年に国内4つの配電会社を吸収合併したことで、いまは送電から各家庭の配電・料金徴収までを一社で受け持つ。従業員は1万人を超え、同国有数の大規模事業者である。
電力は国内の発電会社である電力ステーションズなどから買い、規制料金で最終需要家に売る。買値と売値の差、そして送配電の途中で失われる分が損益を決める構図で、近年は大きな赤字が続いている。キルギスの電力料金改定、スマートメーター導入、冬季の供給不足といった話題は、いずれもこの会社の経営に行き着く。
| 正式名 | National Electric Grid of Kyrgyzstan OJSC(ОАО «Национальная электрическая сеть Кыргызстана», ОАО «НЭС Кыргызстана») |
|---|---|
| 設立 | 2001年12月25日、キルギスエネルゴの再編により発足 |
| 本社 | キルギス・ビシケク、ジベクジョル大通り326番(720070) |
| 事業 | 電力の送電、配電、販売、輸出入。全国系統の中央給電指令(システムオペレーター) |
| 支店 | ビシケク、バトケン、ジャララバード、イシククリ、ナルイン、オシ、タラス、チュイの8電力網企業 |
| 株主 | エネルギー省50.39%、財務省48.93%、個人0.16%、その他法人0.52%(2025年7月31日時点) |
| 株式 | 普通株44,072,401,297株、額面1.6549ソム、資本金729億3,568万ソム(2025年7月31日時点) |
| 株主数 | 20,042人(2026年6月末) |
| 従業員 | 10,472人(2026年6月末)。2025年末は10,618人 |
| 総資産 | 822億9,302万ソム(2025年12月31日) |
| 当期損失 | 95億6,691万ソム(2025年通期)。前期は53億890万ソムの損失 |
| 上場 | キルギス証券取引所カテゴリーC |
成り立ちと2022年の再統合
2001年1月12日、旧国営統合企業キルギスエネルゴの臨時株主総会が同社の再編を決議し、配電・熱供給の資産複合体を切り出してセヴェルエレクトロ、ヴォストクエレクトロ、ジャララバートエレクトロ、オシエレクトロ、ビシケクテプロセチを設立するとともに、残りを発電会社と送電会社の2社に分割することを承認した。同年6月29日、110キロボルト以上の高圧送電線を基礎として設立されたのがNESKである。会社としては2001年12月25日の発足とされている。
2022年、この分離は逆向きに巻き戻された。セヴェルエレクトロ、ヴォストクエレクトロ、オシエレクトロ、ジャララバートエレクトロの4配電会社がいずれもNESKに吸収合併され、それぞれの営業区域は同社の支店「電力網企業」(предприятие электрических сетей)に改組された。現在の支店はビシケク、バトケン、ジャララバード、イシククリ、ナルイン、オシ、タラス、チュイの8つである。
この統合により、同社の登記上の事業目的は「電力の送電、配電、販売、輸出入」となり、あわせて全国系統の中央給電指令を行うシステムオペレーターの役割も担っている。ウズベキスタンのタシケントにある送電網設計会社スレダズエネルゴセチプロエクトの株式10%も保有している。
資本と株主
株式はキルギス証券取引所のカテゴリーCに上場している。2025年7月31日時点の資本金は729億3,568万2,633.82ソムで、額面1.6549ソムの普通株44,072,401,297株から成る。株主構成はエネルギー省50.39%、財務省48.93%、個人0.16%、その他法人0.52%である。株主の総数は2026年6月末で20,042人だった。
資本金は近年、増資によって急速に膨らんでいる。2024年に278億9,728万ソム、2025年に372億6,857万ソムの新株が発行され、2025年末の資本金は731億3,847万ソムに達した。2026年に入ってからも、6月に14億2,648万株(額面総額2億3,607万ソム)と46億4,481万株(同76億8,672万ソム)が財務省に割り当てられている。累積損失は2025年末で179億4,791万ソムに上り、増資が損失を埋める形になっている。
2026年4月23日には、2022年11月28日の内閣決定第661号に基づき、財務省が保有する30億9,507万株(額面総額51億2,204万ソム、資本金の6.34%)がエネルギー省へ移された。国有株を二つの省の間で動かす作業が続いている。
業績
2025年12月期は、売上総利益53億8,979万ソム、営業利益21億361万ソムと本業では黒字を確保したが、営業外の損益が111億4,683万ソムのマイナスとなり、税引前損失90億4,322万ソム、当期損失95億6,691万ソムを計上した。前期(2024年)の当期損失は53億890万ソムで、赤字幅は拡大している。営業外の損失は外貨建て借入の評価などが影響する項目で、期によって大きく振れる。
2025年12月31日時点の総資産は822億9,302万ソム、うち非流動資産が722億1,566万ソムを占める。負債合計は246億5,190万ソムで、長期負債は前年末の431億7,501万ソムから180億9,129万ソムへ大きく減った。自己資本は262億ソムから576億4,113万ソムへ増えており、増資と負債の資本振替が行われたことがうかがえる。
2026年上半期は売上総利益12億1,618万ソム(前年同期26億2,345万ソム)、当期損益は2億661万ソムの損失(前年同期は13億4,059万ソムの利益)と悪化した。6月末の総資産は807億9,851万ソム、自己資本は730億4,404万ソムである。
料金と投資
電力料金は規制で決まる。2026年8月時点で同社が公表している料金表では、家庭が月700キロワット時までの使用なら1キロワット時あたり1.64ソム、これを超える分は2.94ソムである。高山・遠隔地の住民は使用量にかかわらず1.64ソム、16歳未満の子どもがいる低所得世帯向けの給付「ウイ・ブロゴ・コモク」の受給世帯は月700キロワット時までが0.50ソムに抑えられる。社会・公共需要家は2.96ソム、産業需要家3.65ソム、商業需要家4.33ソム、予算機関4.62ソム、電力多消費産業6.84ソム、電気自動車の充電所5.99ソムで、再生可能エネルギーの買取価格は3.40ソムに設定されている。家庭向けの単価が産業向けを大きく下回る構造が、同社の赤字の背景にある。
設備投資は国際金融機関の融資に依存している。2026年4月16日の取締役会は、イスラム開発銀行の資金を財務省経由で転貸する副融資協定を大型取引として承認した。イシククリ州のタムガ村とカラコル市での変電所と送電線の建設に充てるもので、金額は5,825万ドルである。このほか欧州復興開発銀行(EBRD)の事業に関する助言業務の入札も公示されている。2025年に同社および子会社が調達した借入は31億670万ソムだった。
現場では、老朽化した変圧器や支柱の更新、絶縁電線への張り替え、自動検針システム(АСКУЭ)とスマートメーターの設置が全国規模で進んでいる。損失の削減と料金徴収率の改善は、増資に頼らない経営に近づくための前提条件になっている。
読むときの注意
2022年の統合により、キルギスの電力の流れは「発電(電力ステーションズなど)→送配電・小売(NESK)」という二段構えになった。2022年以前の配電会社別の統計や、送電のみを行っていた頃のNESKの財務数値とは連続しないので、時系列で比較するときは注意が要る。
同社が公表しているのは、キルギスの証券市場規制に沿った四半期・年次の開示様式である。連結ベースの国際会計基準の財務諸表は独立監査人の報告書として別に公表されており、両者で表示区分が異なる。
参考資料
- ОАО «Национальная электрическая сеть Кыргызстана»(公式サイト) ↗
- О компании — ОАО «НЭС Кыргызстана»(沿革と2022年の配電会社統合) ↗
- Общая информация — акционерам и инвесторам(株主構成と資本金、2025年7月31日時点) ↗
- Квартальные и годовые отчёты — ОАО «НЭС Кыргызстана»(2025年通期および2026年第2四半期の開示) ↗
- Отчеты независимого аудитора — ОАО «НЭС Кыргызстана» ↗
- Тарифы на электроэнергию — ОАО «НЭС Кыргызстана» ↗
- Филиалы — ОАО «НЭС Кыргызстана» ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。