解説 · 2026年8月時点
パシャ・インシュアランス(PASHA Insurance)は、アゼルバイジャンの損害保険会社である。2006年に登記され、収入保険料でみて同国の損害保険市場の過半を占める最大手にあたる。生命保険を扱う姉妹会社パシャ・ライフ・インシュアランスと合わせ、パシャ・ホールディングの保険部門を構成する。
アゼルバイジャンの保険市場は規模が小さく、上位数社への集中が著しい。中央銀行の集計では、2025年通期の収入保険料の合計15億471万マナトのうち、パシャ・ライフが6億7,975万マナト、パシャ・インシュアランスが3億5,516万マナトを占めた。両社を合わせると市場全体のおよそ7割にあたる。
| 正式名 | “PASHA Insurance” Open Joint Stock Company(“Paşa Sığorta” Açıq Səhmdar Cəmiyyəti) |
|---|---|
| 登記 | 2006年3月15日(アゼルバイジャン中央銀行の保険会社登録簿) |
| 本拠 | バクー市サバイル地区 M・ウセイノフ通り61「サヒル・プラザ」 |
| 事業 | 損害保険。自動車、財物・住宅、医療、旅行など強制・任意あわせて36種類 |
| 収入保険料 | 3億5,516万マナト(2025年通期、中央銀行集計) |
| 保険金支払 | 1億4,067万マナト(2025年通期、中央銀行集計) |
| 授権資本 | 5,000万マナト |
| 所有 | パシャ・ホールディング(AMベストは完全子会社と記載、2025年8月) |
| 免許 | 2011年7月1日付の無期限免許。2006年7月4日付の期限付き免許から切り替え |
| 格付け | AMベスト 財務力格付B++、長期発行体格付bbb、見通し安定的(2025年8月27日) |
沿革と位置づけ
アゼルバイジャン中央銀行の保険会社登録簿によれば、同社の登記は2006年3月15日である。当初は期限付きの免許で営業していたが、2011年7月1日付で無期限の免許に切り替えられた。所在地はバクー中心部サバイル地区のサヒル・プラザで、納税者番号は1400837161である。なお同社の公式サイトは、2016年10月12日付で金融市場監督機構が発行した免許第476号にもとづいて営業していると記している。保険の監督は2016年に中央銀行から金融市場監督機構へ移り、2019年に再び中央銀行へ戻った経緯があり、監督機関の交代に伴って免許が出し直された結果とみられる。免許番号や日付が資料によって異なるのはこのためである。
親会社のパシャ・ホールディングは、パシャ銀行(アゼルバイジャン、ジョージア、トルコ)、投資・証券(パシャ・インベストメンツ、パシャ・キャピタル)、建設(パシャ・コンストラクション、パシャ・デベロップメント)、旅行・宿泊(パシャ・トラベル、アブシェロン・ホテル・グループ)、技術(パシャ・テクノロジー)などを傘下に置く複合企業グループである。保険は銀行と並ぶ主力部門にあたり、損害保険を同社が、生命保険をパシャ・ライフ・インシュアランスが担う。
取り扱う商品は強制・任意を合わせて36種類で、自動車(フル・カスコ、オプティマル・カスコ、パーキング・カスコ、自動車損害賠償責任の強制保険)、住宅・財物(強制住宅保険、家財、動産、画面保険)、旅行(海外・国内・学生向け)、医療(法人向け、学童向け、代替型の法人向け健康保険)が柱である。顧客数について、同社の公式サイトは個人・法人あわせておよそ70万としており、パシャ・ホールディングの説明ではおよそ30万とされている。数え方と基準時点が異なるとみられるため、ここでは両方を並べておく。
業績と市場シェア
中央銀行が公表している保険会社別の統計では、同社の収入保険料は2023年通期が2億9,309万マナト、2024年通期が3億1,756万マナト、2025年通期が3億5,516万マナトと伸びている。保険金の支払いは2025年通期で1億4,067万マナトだった。
同じ統計で、2025年通期の市場全体の収入保険料は15億471万マナトである。うち生命保険(任意の生命保険7億5,149万マナトと、労働災害・職業病の強制保険1億152万マナト)を除いた非生命分野の合計は6億5,170万マナトで、同社の3億5,516万マナトはその5割を超える。損害保険に限れば、同社が単独で市場の過半を握る構造になっている。
分野別にみると、2025年の非生命市場は医療保険1億3,303万マナト、自動車車両保険(カスコ)7,863万マナト、火災その他の財物保険8,553万マナト、自動車損害賠償責任の強制保険1億8,211万マナト、不動産の強制保険8,080万マナトが主要な構成要素である。強制保険の比重が高いことが、この市場の特徴のひとつである。
格付けと財務
AMベストは2025年8月27日、同社に財務力格付「B++(Good)」と長期発行体格付「bbb(Good)」を付与し、見通しを安定的とした。同社をパシャ・ホールディングの完全子会社と位置づけ、バランスシートの健全性、堅調な収益、限定的な事業基盤、妥当なリスク管理を評価の根拠に挙げている。指標としては2024年のコンバインド・レシオ87.5%、株主資本利益率43.8%、投資利回り8.8%が示された。
一方でAMベストは、資産がアゼルバイジャン国内に集中しているため、同国の経済・政治リスクと非常に高い金融システムリスクにさらされること、配当性向が高く資本の積み上がりが限られてきたことを懸念材料として挙げている。
パシャ・ホールディングの公表によれば、2023年12月末時点の同社の資産は2億5,700万マナトを超え、自己資本は8,840万マナトだった。S&Pグローバル・レーティングは2024年2月8日、長期発行体格付と財務力格付を「BB」に据え置いたうえで、見通しを安定的からポジティブへ変更している。
読み手が注意すべき点
この市場は上位への集中が強く、パシャ系2社で収入保険料のおよそ7割を占める。料率競争や商品の多様化の余地が限られやすい構造であり、同社の高い収益性もその市場構造と切り離しては読めない。
また、同社の四半期報告は公式サイトで公開されているが、画像として取り込まれた文書であり、機械的に数値を追うことは難しい。継続的に数字を比較する場合は、中央銀行が毎期公表する保険会社別の集計を使うのが確実である。
参考資料
- Insurance — 保険会社別の保険料・保険金(アゼルバイジャン中央銀行、2025年通期・2026年上期) ↗
- Insurers and reinsurers — 保険会社・再保険会社の登録簿(アゼルバイジャン中央銀行) ↗
- About us(パシャ・インシュアランス 公式サイト) ↗
- PASHA Insurance(パシャ・ホールディング 公式サイト) ↗
- AM Best Assigns Credit Ratings to PASHA Insurance OJSC(AMベスト、2025年8月27日) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。