解説 · 2026年8月時点
サクナフシリ(Saknakhshiri)は、ジョージア西部イメレティ州のトキブリで石炭を採掘する会社である。ジョージアで石炭を産出しているのはトキブリだけであり、同社はこの国で唯一の石炭生産企業にあたる。採掘した石炭を自社の選炭工場で処理し、国内のセメント工場と合金鉄工場に売るのが主な事業である。
国の資源産業としては小さい。ジョージアの石炭生産量は2023年で14万8,000トンにとどまり、同じ年に国内で消費された石炭・コークスの多くは輸入で賄われた。それでも同社が注目されるのは、人口が減り続ける旧炭鉱都市トキブリで最大の雇用先であり、かつ炭鉱で死亡事故が繰り返し起きてきたためである。
資本関係は2019年に大きく変わった。それ以前はジョージアン・インダストリアル・グループ(GIG)の子会社だったが、同年9月にスティール・インターナショナル・トレーディング・カンパニーへ移り、現在もこの体制が続く。GIG傘下の企業として記述している資料が今も多いので、時点に注意して読む必要がある。
| 正式名 | LLC Saknakhshiri(ジョージア語表記の翻字はShps Saknakhshiri) |
|---|---|
| 法人形態 | 有限責任会社 |
| 登記番号 | 230868120 |
| 登記日 | 2006年4月26日 |
| 登記機関 | ルスタヴィ税務監督署 |
| 登記上の所在地 | ジョージア・イメレティ州トキブリ市タブカシュヴィリ通り13 |
| 登記上の活動分類 | 鉱業・採石業、電気・ガス・蒸気・空調の供給、卸売・小売業および自動車・二輪車修理 |
| 事業 | トキブリ炭鉱での石炭採掘、選炭、販売 |
| 坑 | ミンデリ坑とジジグリ坑の2つ |
| 採掘可能埋蔵量 | ミンデリ坑4,520万トン、ジジグリ坑94万トン(2020年1月1日時点) |
| 主要ライセンス | 2007年12月25日付第01018号。トキブリ・アンブロラウリ地区の5,479.9ha、対象量2億3,329万8,000トン、期間45年 |
| 親会社 | スティール・インターナショナル・トレーディング・カンパニー(登記番号405254692、2019年9月から) |
| 子会社 | 貿易商社サクナフシリ100%、CBMジョージア100%、ポルチャル・ジョージア50%(2023年の年次報告時点) |
| 国内石炭生産量 | 14万8,000トン(2023年、ジョージア全体。国内の産炭地はトキブリのみ) |
| 公式サイト | 無い(2026年8月時点で自社サイトを運営していない) |
| 財務 | 2017〜2023年分の年次報告が会計・報告・監査監督局のポータルに登録されているが、閲覧には利用登録が要る。2024年・2025年分は2026年8月時点で未掲載 |
トキブリ炭鉱の来歴
トキブリの石炭層は1825年に見つかり、1847年に採掘が始まった。ソ連期に最盛期を迎え、1950年代には4つの坑を合わせて年300万トンを超える石炭を出していた。トキブリはこの炭鉱を中心につくられた企業城下町で、鉄道と選炭工場、労働者住宅が一体で整備された。
ソ連の崩壊とともに採掘は止まり、町は急速に縮小した。世界メタン・イニシアティブの報告によれば、ミンデリ坑が採掘を再開したのは約15年の中断を経た2008年である。現在稼働しているのはミンデリ坑と、規模の小さいジジグリ坑の2つで、ジジグリ坑の埋蔵量はほぼ掘り尽くされている。
サクナフシリは2006年に登記され、同年8月14日付の第10000237号ライセンスでトキブリ・シャオリ炭田の採掘権を得た。2007年12月25日には、トキブリとアンブロラウリの両地区にまたがる5,479.9haを対象とする第01018号ライセンス(対象量2億3,329万8,000トン、期間45年)を取得している。このほか、2001年に選炭工場の廃棄物利用のライセンス、2016年にトキブリ産の色砂岩の採掘ライセンスを得ている。
設備と生産
石炭は2つの立坑から掘り出される。ミンデリ坑の面積は4万3,018平方メートル、ジジグリ坑は3万6,192平方メートルで、いずれも坑内掘りである。ミンデリ坑の深さは894メートルに達する。2020年1月1日時点の採掘可能埋蔵量はミンデリ坑が4,520万トン、ジジグリ坑が94万トンだった。同社はトキブリ市内に選炭工場を持ち、原炭と選炭済みの2種類を出荷している。
生産量は年によって振れる。2017年は2つの坑を合わせて約30万トンだったが、2018年に相次いだ死亡事故で操業が止まり、2019年までほとんど産出がなかった。ジョージア国家統計局の集計では、生産再開後の2020年が9万9,000トン、2021年が14万8,000トン、2022年が14万4,000トン、2023年が14万8,000トンである。グローバル・エナジー・モニターは同統計に基づき、2024年を17万7,800トンとしている。
1950年代の年300万トン超に対し、現在は年15万トン前後にとどまる。設備投資の不足と、需要側の縮小がその理由として挙げられている。とくに大きいのは、この国に石炭火力発電所が1基もないことである。トキブリと首都近郊のガルダバニに石炭火力を建てる計画はいずれも実現せず、ガルダバニに建ったのはガス火力だった。
供給先とジョージアの石炭需給
ジョージア国家統計局のエネルギーバランスによれば、2023年に国内で生産された石炭14万8,000トンの用途は、非金属鉱物製品(セメントなど)が11万5,700トン、鉄鋼が4万2,200トン、農林水産業が2,600トン、家庭が900トン、その他が3,500トンで、炭鉱の自家消費が800トンだった。輸出は事実上ゼロである。
つまり、トキブリの石炭のほぼすべては国内のセメント工場と合金鉄工場に向かう。長年の主要な買い手はセメントのハイデルベルグセメントで、ゼスタポニの合金鉄工場ではフェロシリコマンガンの製造に使われている。国内需要にぶら下がった構造であるため、セメント需要の増減がそのまま採掘量に響く。
一方でジョージアは石炭・コークスの輸入国でもある。2023年の輸入は無煙炭6,500トン、その他の瀝青炭13万1,600トン、コークス炉コークス8万4,200トンだった。トキブリ産の石炭は発熱量が低く、製鉄用のコークスには向かないため、コークスと半コークスは輸入に頼る。国内に産炭地がありながら輸入が上回るのはこのためである。
地元自治体との関係では、天然資源利用料に関する法律により、石炭1トンの採掘につき1ラリが所在自治体に納められる。投資家には固定資産税も課される。トキブリ自治体にとって同社は雇用と歳入の両面で最大の存在である。
資本関係
ジョージア企業登記簿(enreg.reestri.gov.ge)で検索すると、登記番号230868120の有限責任会社サクナフシリは2026年8月時点で「有効」の状態にあり、持分保有者としてスティール・インターナショナル・トレーディング・カンパニーが登録されている。会計・報告・監査監督局のポータル(reportal.ge)が返す登記情報では、登記日は2006年4月26日、登記機関はルスタヴィ税務監督署、所在地はトキブリ市タブカシュヴィリ通り13である。
2018年までの親会社はジョージアン・インダストリアル・グループの持株会社(登記番号205138493)だった。2018年の年次報告に添えられたグループ構成では同社が親会社として記載されているが、2019年以降の報告では親会社がスティール・インターナショナル・トレーディング・カンパニー(登記番号405254692)に置き換わっている。
交代の経緯は当時報じられている。2019年9月26日、賃金未払いを理由とする坑夫の抗議とハンガーストライキが続くなか、当時の同社取締役はトキブリでの採掘から撤退し、新たな投資家であるスティール・インターナショナル・トレーディング・カンパニーが引き継ぐと表明した。新投資家側の説明では、同社はジョージア市場で2年ほど石炭の売買を手がけてきた企業で、坑夫への未払い賃金を肩代わりし、第1段階として800万〜1,000万ラリを2年程度で投じる計画だった。GIG側は、13年の操業の後に資産を象徴的な価格で移転したと説明している。
スティール・インターナショナル・トレーディング・カンパニーは2018年2月20日に登記された会社で、reportal.geの登記情報では取締役はギオルギ・チェリゼである。同社はサクナフシリのほか、GMエナジーとSITCソリューションズにも持分を持つ。サクナフシリ自身は、2023年の年次報告時点で貿易商社サクナフシリ(100%)、CBMジョージア(100%)、ポルチャル・ジョージア(50%)を傘下に持つ。
経営陣については、ネトガゼティが2025年4月23日の記事で、ロシア国籍のミヘイル・ソツキがトキブリのサクナフシリのゼネラルディレクターであると報じている。ジョージア企業登記簿の詳細画面は画像認証を経ないと開けず、会計・報告・監査監督局の登記情報にも代表者名が入っていないため、公表資料だけで現在の代表者を確定することはできない。
労働災害
トキブリの坑内では死亡事故が繰り返し起きている。以下は公表された報道で確認できる範囲の経緯である。
2017年5月、ミンデリ坑で支保の崩落により坑夫4人が死亡した。トビリシで抗議行動が起きたが、操業は続いた。
2018年4月5日、ミンデリ坑で坑道の天盤が崩れ、坑夫6人が死亡、3人が負傷した。経済省が事故を確認し、安全規則違反の疑いで捜査が始まった。当時の同社の従業員は約1,500人で、その多くがトキブリの住民だった。この事故を受けて、坑夫の有志が安全確保までの操業一時停止を求め、ジョージア労働組合連合も少なくともミンデリ坑の閉鎖を支持すると表明した。
2018年7月16日、同じミンデリ坑でメタンガス爆発が起き、坑道が崩落して坑夫4人が死亡、6人が負傷した。死亡した4人は30歳から57歳だった。バフタゼ首相は当日を服喪の日と定め、刑事捜査と国際的な工学調査が終わるまで坑を閉鎖すると発表した。GIGは同日、トキブリの坑の特性から完全に安全な採掘を実現する工学的解決を見いだせなかったとして、サクナフシリを無償で国へ移管する用意があると表明したが、政府はこれを受け入れなかった。
操業停止は約13か月続き、2019年9月に再開した。停止期間中、政府はドイツのDMTグループに労働安全の調査を委託し、2019年11月1日に報告が示されたが、内容は公表されていない。
2022年1月30日23時ごろ、ミンデリ坑で爆発が起き、坑夫1人が死亡、8人が負傷した。うち3人が集中治療室に運ばれた。労働監督局は翌日に暫定的な所見を公表し、坑内のメタン濃度が許容値を超えた状態で穿孔と発破が行われていたこと、発破が技術監督者の直接の監督なしに実施されたことという少なくとも2件の違反を指摘した。
2026年2月9日、トキブリの炭鉱で作業員1人が死亡した。内務省はラジオ・タヴィスプレバに対し、刑法240条(鉱山・建設その他の作業における安全規則違反)で捜査を開始したと確認した。グローバル・エナジー・モニターは、この事故をジジグリ坑で起きたものとしている。原因は同日時点で公表されていない。
累計の犠牲者数について、ジョージアの環境NGOグリーン・オルタナティブは、ラジオ・タヴィスプレバの報道を引いて2010年から2018年までにミンデリ坑で少なくとも20人が負傷し27人が死亡したとしている。グローバル・エナジー・モニターは、2007年以降にトキブリの2坑で合わせて41人が死亡したと集計している。
現況
2026年8月時点で、同社は操業を続けている。グローバル・エナジー・モニターの2026年8月版データベースはミンデリ坑とジジグリ坑をいずれも稼働中と分類しており、2026年2月に坑内で死亡事故が起きたこと自体、採掘が行われていたことを示している。
直近で表面化した論点は雇用である。2024年11月から12月にかけて、同社は「欧州基準」の導入を掲げた組織再編と人員最適化を進め、38人の従業員を停職とした。解雇されたと主張する坑夫の一部は、政治的な理由による人員整理だと訴えている。同社はこれを否定し、従業員の一部に3〜4か月の再訓練(給与と手当は全額補償)を提供し、試験に合格すれば再雇用すると説明した。同社の発表では、この過程で350人の再訓練と契約更新が済み、停職となった38人のうち20人が追加の再訓練に同意したという。
財務の実態は外からは見えにくい。会計・報告・監査監督局のポータルには2017年から2023年までの個別・連結の年次報告が登録されており、監査人は2021年がBDOアウディティ、2022年と2023年がグラント・ソントン(ジョージア)である。ただし報告書そのものの閲覧には利用登録が要る。2024年と2025年の報告は2026年8月時点で掲載されていない。同社は自社のウェブサイトを運営しておらず、生産量、販売量、雇用者数といった基礎的な数字を継続的に開示していない。
参考資料
- 企業登記簿の検索結果(LLC Saknakhshiri、登記番号230868120) — ジョージア公共登記簿庁 ↗
- 登記情報(登記番号230868120) — 会計・報告・監査監督局 reportal.ge ↗
- 年次報告の登録状況とグループ構成(登記番号230868120) — 会計・報告・監査監督局 reportal.ge ↗
- 石炭の供給と消費 2023年(エネルギーバランス、Excel) — ジョージア国家統計局 ↗
- Saknakhshiri — Company Profile 2021(PDF) — Green Alternative ↗
- Mindeli Coal Mine — Global Energy Monitor(Global Coal Mine Tracker) ↗
- Dzidziguri Coal Mine — Global Energy Monitor(Global Coal Mine Tracker) ↗
- サクナフシリ、トキブリの炭鉱から全面撤退 — ネトガゼティ(2019年9月26日) ↗
- チアトゥラの操業再開をめぐり企業が坑夫に最後通告 — ネトガゼティ(2025年4月23日、ソツキ氏の肩書に言及) ↗
- トキブリの炭鉱で坑夫1人が死亡 — ラジオ・タヴィスプレバ(2026年2月9日) ↗
- Six miners killed in Georgia's Tkibuli coal mine — OC Media(2018年4月5日) ↗
- Work halts in Georgian coal shaft after four miners killed in explosion — OC Media(2018年7月16日) ↗
- One dead and eight injured in Tkibuli mine explosion — OC Media(2022年1月31日) ↗
- Tkibuli miners allege political dismissals amid company's reorganisation — OC Media(2024年12月) ↗
- 石炭 — トキブリが生きる採算の合わない事業 — Mtis Ambebi(2022年2月) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。