解説 · 2026年8月時点
ソカール・エナジー・ジョージア(SOCAR Energy Georgia、SEG)は、アゼルバイジャン国営石油会社SOCARがジョージアに置く持株会社である。2006年にSOCAR初の国外グループ会社として設立され、給油所網を運営するソカール・ジョージア・ペトロリアム(SGP)と、天然ガスの輸入・供給と地方の配給網を担うソカール・ジョージア・ガス(SGG)を傘下に持つ。2024年通期の売上高は20億3,803万ラリで、ジョージアで最大級の企業の一つである。
この会社を理解するうえで大事なのは、二つの事業が市場での立ち位置をまるで異にすることである。燃料小売は事業者が多く、SGPの全国シェアは約13%で「大手の一角」にすぎない。一方でガス配給は、規制下の地域独占が積み重なった事実上の公益事業であり、SGGは首都以外のほぼ全域を押さえている。隣国の国営企業がジョージアの家庭のガス供給の中核にいるという構図は、両国関係の深さと、ジョージア側のエネルギー依存の形をそのまま映している。
| 正式名 | SOCAR Energy Georgia LLC(SEG)。ジョージアにおけるSOCARグループの持株会社 |
|---|---|
| 設立 | 2006年(SOCARにとって初の国外グループ会社) |
| 本社 | ジョージア・トビリシ(アラグヴェリ通り24番) |
| 株主 | SOCAR 91.835%、Intersun Holding FZE 8.165%(2024年12月31日時点) |
| 経営 | ゼネラル・ディレクター マヒル・マメドフ |
| 事業 | 石油製品の輸入・卸・小売、天然ガスの輸入・卸・小売、ガス配給網の建設・改修・運営 |
| 主な子会社 | ソカール・ジョージア・ペトロリアム(SGP、100%)、ソカール・ジョージア・ガス(SGG、100%)、ソカール・ジョージア・セキュリティ(100%) |
| 売上高 | 20億3,803万ラリ(2024年通期、SGP・SGG・本社の連結) |
| 従業員 | 4,167人(2024年12月31日時点、SGP・SGG・本社の合計)。ジョージア国内のSOCAR系列全体では5,500人超 |
| 給油所 | 107か所(2024年末)。併設のコンビニ「ウェイマート」は70店 |
| ガス配給網 | 稼働中2万2,140km(2024年末)。1,178の集落に供給 |
| 市場での位置 | 燃料販売は全国の約13%、ガス需要家は全国の55%超(いずれも2024年、同社開示) |
設立と株主構成
2006年、SOCARがアゼルバイジャン国外に初めて設けたグループ会社として発足した。翌2007年にはジョージア初のSOCARブランド給油所が開業し、同じ2007年にガス事業会社SGGが設立された。2008年には黒海岸クレビの石油ターミナルが稼働し、同じ年、29の地方自治体系ガス配給会社の株式を取得してガスの配給・供給事業に本格的に参入した。
株主構成は一枚岩ではない。同社の2024年サステナビリティ報告書によれば、2024年12月31日時点の株主はSOCARが91.835%、アラブ首長国連邦のIntersun Holding FZEが8.165%である。2024年4月4日にSOCARが少数株主Eventus General Trading FZEから16.33%を取得しており、それ以前はSOCAR 75.505%、Intersun 8.165%、Eventus 16.33%だった。「国営企業の完全子会社」ではなく、私企業の少数持分が残る構成である点は押さえておきたい。
経営はゼネラル・ディレクターのマヒル・マメドフが率いる。公式サイトの経営陣一覧には、SGP、SGG、ソカール・ジョージア・ガス・ディストリビューション、ソカール・ジョージア・セキュリティの各責任者が並ぶ。
石油製品——競争のある市場での一角
SGPはガソリン、軽油、圧縮天然ガス(CNG)、液化石油ガス(LPG)の4種を輸入して売る。2024年末時点の給油所は107か所(トビリシ35、地方72)で、そのうち賃借は10か所にとどまり大半は自社所有である。給油所併設のコンビニ「ウェイマート」は70店あり、SGPグループ収入の約7%を占める。
同社自身の説明によれば、この市場は競争的である。2024年時点で輸入業者は約50社、全国の給油所は約1,300か所あり、5〜6の主要ブランドが販売の半分ほどを占め、残りは多数の無ブランド店が担う。SGPの全国燃料販売シェアは約13%(小売約9%、卸約4%)で、製品別では軽油約17%、ガソリン約10%、CNG約25%、LPG約1%だった。販売量はガソリン8,153万リットル、軽油1億3,249万リットル、LPG163万リットル、CNG4,208万立方メートルである。
ジョージア競争・消費者保護庁が2023年12月に公表した自動車用ガス市場のモニタリング報告も、この市場の姿を裏づけている。同報告によれば、2022年の自動車用CNG小売市場では88社が128か所のガス充填所を運営し、市場集中度を測るハーフィンダール・ハーシュマン指数は1,004(同庁の基準で1,250未満は「低集中」)だった。上位3社にSGPが入るが、上位3社を除く85社の合計が53.4%を占める。同庁は2019〜2022年の当該市場について、支配的地位も集団的支配も認められないと結論している。
供給の物流は、ガソリンが主にルーマニア(2024年は約53%)から、軽油が主にアゼルバイジャン(同約94%)から届く。欧州とロシアからの分はポティ港またはクレビのターミナルに海上輸送で入り、鉄道でトビリシ(キジキ油槽所、約1,000万リットル)とサムトレディア(約3,200万リットル)の2拠点に運ばれる。SGPはジョージアの石油会社で唯一、自前の認定燃料試験所(2009年設立、2014年からISO/IEC 17025)を持つ。
天然ガス——地方配給の担い手
ジョージアの天然ガスはほぼ全量が輸入で、2024年は国内需要の99.5%を輸入が賄い、アゼルバイジャンが約74%を供給した。ガス部門は「供給者(商業的に売る側)」と「配給者(物理的な管網を運営する側)」に分かれ、家庭向けの配給は国家エネルギー・水道規制委員会(GNERC)の規制を受ける地域独占である。
SGGはこの二つの役割を兼ねる。2024年末時点で全国に18の配給ライセンス保有者があるなか、トビリシ・エナジー、SGG、サコルグガジ(Sakorggazi)の3社で配給量の約9割を占め、うちSGGとサコルグガジの2社だけで配給管延長の約77%を保有・運営する。SGG単体では配給管延長の約56%を運営し、全国のガス需要家の55%超(SGG網に36%、サコルグガジ網に19%)に供給している。卸売シェアは約52%(シャフデニズ産、国内生産、国営ジョージア石油ガス公社の直販を除く)、小売シェアは約40%である。
IEAが2023年3月に公表した「ジョージア・エネルギープロファイル」も、SOCARガス系の2社(小売市場シェア24.94%と36.05%)を国内最大の配給系統運用者とし、地方部を担うと記述している。首都はトビリシ・エナジー(同24.87%)が最大であり、SOCARが強いのは首都以外という区別は、この会社を読むうえで重要である。
2024年の販売実績は、小売が12億450万立方メートル(うち家庭向け62.4%、商業向け37.6%)、卸売が12億6,798万立方メートル。商業向けの大口には、国内最大の化学企業ルスタビ・アゾットが含まれる。調達はアゼルバイジャン産とロシア産の組み合わせで、ロシア産とシャフデニズ産の輸入は国営のジョージア石油ガス公社(GOGC)が扱い、SOCARが供給するアゼルバイジャン産はSGGが直接輸入している。
ガス化事業と、公表数字の食い違い
2008年、同社は経済発展省との調達契約で全国のガス化義務を負い、2009年から実施に入って2018年に義務を果たしたと公表している。この2008〜2018年の事業では、新設管5,364km、800を超える集落の接続、25万人超への供給開始が実現し、累計投資額は2億9,000万ドルとされる。SOCARのESG報告書は、ジョージアのガス化率が2008年の46%から2024年末に88%へ達する見込みだと記している。これは2023年時点の見通しであり、実績としての数字は公表資料では確認できない。
配給網の広がりには買収も効いている。2012年にアジャラの配管資産を取得し、2013年にはサコルグガジのライセンス区域へ供給事業を広げて全国の需要家数を倍増させた。2023年には国有資産の民営化に伴って配給ライセンスが拡大され、3,266kmの配管と約5万5,000件の潜在顧客が既存網に加わった。
2018年以降は事業の型が変わった。原則として新規のガス化のために中圧管を自ら敷くことはせず、国が建設した管網を民営化を通じて買い取り、その運営を引き継ぐ。毎年の投資計画はGNERCと合意して実施する。2024年には245,018メートルの国有中圧管をイメレティ、グリア、サメグレロで取得し、133kmを改修した。新たに109の集落が接続された。
配管延長の数字は資料によって大きく違うので注意が要る。公式サイトは「開発・改修した配管3万1,200km超」と書くが、これは新設と改修を積み上げた累計の作業量である。2024年サステナビリティ報告書は「稼働中2万2,140km」(2024年末)と書き、SOCARのESG報告書は「2007〜2023年に新設した配給管1万1,200km」とする。IEAは2023年時点で全国の配給管を1万9,000kmとしている。どの数字も定義が異なるだけで矛盾ではないが、そのまま並べると混乱する。
供給先の件数も同様である。公式サイトは「94万4,000件超」と表示するが、SOCARの2023年ESG報告書は「2023年末で約87万件」、同社の年表は「2022年に80万件を突破」とする。時点の違いか、契約者と需要家の数え方の違いかは公表資料からは判別できない。
従業員数も境界の取り方で変わる。2024年サステナビリティ報告書はSGP・SGG・本社の合計で4,167人(2024年12月31日時点)とし、注記で「ジョージア国内のSOCAR系列全体では5,500人を超える」と補っている。SOCARのESG報告書は2023年末で4,055人超、公式サイトは「5,000人超」と書く。数え方の対象が違う。
EV充電と太陽光
SGPはジョージアの石油・ガス業界で最初にEV充電器を給油所に設置した事業者で、2024年末時点で15か所に19基を運用していた。2025年の計画には既存店への6基増設と、EV専用拠点1か所の開設が挙げられていた。
その専用拠点は2026年2月20日にトビリシで開業した。同社は南コーカサス初の完全EV専用充電ステーションだとしている。充電器は4基で最大6台が同時に充電でき、うち2基は120kWの急速充電(4台を40分ほどで満充電にできるとする)、残る2基は22kWで、隣接する「プラスチックフリー」仕様のウェイマート店舗での滞在を前提にしている。ステーションは一部を太陽光で賄う。太陽光設備は全国6か所の給油所に置かれている。
クレビ——ターミナルと製油所は別物
黒海岸のクレビには、SOCARが所有する石油ターミナルがある。運営法人はブラックシー・ターミナル(Black Sea Terminal LLC)で、2008年5月16日に操業を開始し、年間最大1,000万トンの炭化水素・石油化学製品を積み替える能力を持つ。鉄道で受け入れてタンクに移し、貯蔵し、船舶と積み降ろしする施設であり、精製設備ではない。SEGの傘下ではなくSOCAR本体の資産として運営されている。
2026年、EUの対ロシア制裁との関係でクレビの名前が繰り返し取り沙汰された。2026年7月23日に採択された理事会規則(EU)2026/1848は、ロシアおよび第三国の製油所を対象とする一覧を新設し、その第1号に「クレビ製油所(ジョージア)」を挙げた。ロシア産原油の精製・混合に使われていること、および規則の回避を助けていることが理由とされ、適用日は2027年1月25日である。
ここで指定されたのは製油所であって、SOCARが運営する積み替えターミナルではない。両者はクレビという同じ地名を共有するため、報道でも混同されやすい。ターミナル自体はEU規則の一覧に載っていない。
参考資料
- SOCAR Energy Georgia Sustainability Report 2024(同社初の単独サステナビリティ報告書) ↗
- SOCAR in Georgia(公式サイト・沿革と主要数値) ↗
- Management(公式サイト・経営陣とグループ各社) ↗
- The First Fully electric EV Charging Station(公式ニュース、2026年2月20日) ↗
- SOCAR ESG Report 2023(親会社の報告書、SOCAR Energy Georgiaの節) ↗
- Georgia energy profile – Energy security(IEA、2023年3月22日公表) ↗
- 自動車用ガス(液化・気体)市場モニタリング報告(ジョージア競争・消費者保護庁、2023年12月29日) ↗
- About our company(クレビ石油ターミナル公式サイト) ↗
- Council Regulation (EU) 2026/1848 of 23 July 2026(EUR-Lex) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。