解説 · 2026年8月時点
テプリチヌイ(ОАО «Тепличный»、「温室の」の意)は、ビシケク市内に大きな土地を持つキルギスの上場企業である。社名が示すとおり、もとは温室野菜を作る農園から出発した会社だが、2025年に公表された上場目論見書では、主たる事業として住宅・非住宅建築物の建設が記載されており、期末の従業員は10人にとどまる。実態は、市街地の農地を宅地開発へ転換していく資産会社に近い。
キルギス証券取引所で表示される時価総額は15億3,900万ソム(2026年8月21日時点)で、上場企業としては中位に位置する。ただし発行済株式は31万6,999株しかなく、株主は31人(個人28人、法人3社)である。取引はごく薄く、直近約定価格に基づく時価総額を企業規模の指標として扱うことはできない。
| 正式名 | ОАО «Тепличный»(Teplichny OJSC) |
|---|---|
| 法人登記 | 1992年12月25日。直近の再登記は2005年9月22日 |
| 所在地 | キルギス・ビシケク市シャブダン・バアトゥル通り68 |
| 事業 | 上場目論見書に記載された主たる業種は住宅・非住宅建築物の建設 |
| 発行済株式 | 31万6,999株 |
| 株主 | ОсОО «Береке Билдинг»41.68%、個人株主マハトフ・アマンビトゥル40.36%、同マハトフ・アデン16.7%(2025年末時点) |
| 従業員 | 10人(2025年末時点) |
| 子会社 | ОсОО «Тепличный ДК»、ОсОО «Тепличный СК»(いずれも2025年に設立し土地・建物を現物出資) |
| 上場 | キルギス証券取引所(KFB)のカテゴリーB。時価総額15億3,900万ソム(2026年8月21日時点) |
| 財務 | 売上高・利益は公表されていない |
会社の概要
同社は1992年12月25日に法人として登記され、2005年9月22日に再登記されている。所在地はビシケク市シャブダン・バアトゥル通り68で、支店・駐在所は持たない。監査人はОсОО «Тандем Аудит»、株主名簿の管理はОсОО «СККР Реестр»が担う。
2025年末時点の株主は31人で、内訳は個人28人(資本の58.32%)と法人3社(41.68%)である。国は保有していない。5%を超える保有者は、ОсОО «Береке Билдинг»が41.68%(13万2,119株)、マハトフ・アマンビトゥル・ガリムジャノビッチが40.36%(12万7,943株)、マハトフ・アデン・ガリムジャノビッチが16.7%(5万2,952株)である。取締役会の構成員のうち複数がベレケ・ビルディングを本務先としており、同社と創業家が実質的に会社を支配している。
配当は2024年度について1株あたり6.71ソムが決議された。同社の開示によれば、株主の未受領により297万2,965ソムが未払いのまま残っている。2022年度と2023年度については配当の記載がない。
社名と実態のずれ
「テプリチヌイ」はロシア語で「温室の」を意味する。ソ連期のビシケク(当時はフルンゼ)近郊には市民向けの野菜を供給する温室農園が置かれ、同名の集落も残っている。会社の出自はその温室農園にあるが、2026年5月30日付で作成された上場目論見書では、届け出られている主たる事業は「住宅・非住宅建築物の建設」と記載されている。2025年10月16日の臨時株主総会でも主たる事業の変更が議題に上がっており、業種転換は書類の上でも進んでいる。
期末の従業員が10人という数字も、生産事業を自ら営む会社の姿ではない。土地と建物を持ち、その処分と開発を決める意思決定だけを本体に残して、実務は子会社と外部の事業者に委ねる構えだと読める。2025年9月23日には、外部の事業者ОсОО «Нью Инвест»との代理店契約の締結が取締役会で検討されている。
土地の子会社への移管
2025年、同社は保有する土地を子会社へ移す一連の決議を重ねた。9月23日の取締役会では、子会社ОсОО «Тепличный ДК»の授権資本を増やし、3.575ヘクタールまたは13.2753ヘクタールの土地を現物出資することが議題となった。同月29日、実際に不動産が同社の授権資本へ出資された。
10月1日には有限責任会社の形態でもう一つの子会社を設立し、13.2753ヘクタールの土地を授権資本に出資することが決議された。10月14日、この子会社ОсОО «Тепличный СК»へ不動産が出資され、10月16日の取締役会は同社の執行機関に対し、シャブダン・バアトゥル通り68に所在する13.2753ヘクタールの土地(地番1-03-08-0044-0522および1-03-08-0044-0464)を、その上の建物・構築物・植栽ごと売却する権限を与える同意を出した。
先立つ2025年2月24日には、16.04ヘクタールの土地の用途区分(целевое назначение)の変更を承認している。農地から他用途への転換は、市街地に取り込まれた温室農園を開発用地に変えるための手続きにあたる。
会社形態をめぐる動き
2025年の株主総会・取締役会の議題は、会社そのものの扱いをめぐって揺れ続けた。4月28日の年次総会では会社の清算が議題に上がり、10月16日の臨時総会ではその決議と清算委員会の指名の取り扱い、および主たる事業内容の変更が諮られた。10月28日の臨時総会では会社分割(выделение)による新会社設立と株式の転換が議題となった。
しかし12月29日の臨時総会は、分割による再編の決議を取り消したうえで、社名の変更、授権資本の額の変更、名称と資本の変更に伴う再登記、そして定款の新版承認を議題とした。2026年8月時点で証券取引所の上場一覧には引き続き「ОАО Тепличный」の名で載っており、名称変更の登記がどこまで進んだかは公表資料からは確認できない。
財務
同社は売上高、利益、総資産といった財務の数字を公表していない。上場目論見書に載るのは、主要債権者としてマハトフ・アデン氏に85万8,497.53ソム、ベレケ・ビルディングに86万3,476.35ソムの債務がある、という程度の断片である。負債の規模も、開発計画の採算も、公表資料からは追えない。
したがって、この会社について公開情報から言えるのは、ビシケク市内の一等地に十数ヘクタール規模の土地を持ち、それを子会社へ移して売却する準備を進めている、という点に限られる。
参考資料
- Листинговый проспект ОАО «Тепличный»(開示対象期間2025年1月1日〜12月31日、作成日2026年5月30日。キルギス証券取引所) ↗
- Листинг — Кыргызская фондовая биржа(KFB、2026年8月21日時点) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。