解説 · 2026年8月時点
ファン・オールト(Van Oord N.V.、日本語では「ヴァン・オールト」とも表記される)は、オランダの浚渫・海洋土木会社である。1868年に始まる同族企業で、5代目が経営に加わっている。浚渫と埋め立て、海岸防護を本業とし、近年は洋上風力の基礎・タービン据え付けと海底ケーブル敷設を第二の柱にしている。ベルギーのヤン・デ・ナルとDEME、オランダのボスカリスと並ぶ世界大手「ビッグ4」の一角である。
ビッグ4のうち、大カスピ海地域での実績がもっとも厚いのがこの会社である。アゼルバイジャンではアラトに建設されたバクー国際海上貿易港の航路を掘り、カザフスタンではテンギス油田の増産設備を運ぶための72キロの進入航路をカスピ海に開いた。アクタウとバクーには現在も拠点を置いている。
| 正式名 | Van Oord N.V.(2018年に王室御用達の称号を授与) |
|---|---|
| 創業 | 1868年。創業者はホーヴェルト・ファン・オールト |
| 本社 | オランダ・ロッテルダム(Schaardijk 211) |
| 所有形態 | 非上場の同族企業。MerweOord B.V. 78.50%、ConsOord B.V. 10.75%、Ulran S.A. 10.75% |
| 事業 | 浚渫・インフラ、洋上エネルギーの2部門 |
| 売上高(純収益) | 25億9,000万ユーロ(2025年通期) |
| EBITDA | 4億300万ユーロ(2025年通期) |
| 純利益 | 1億1,000万ユーロ(2025年通期) |
| 受注残 | 44億2,800万ユーロ(2025年末) |
| 自己資本比率 | 31.3%(2025年末) |
| 従業員 | 6,299人(常勤換算、2025年12月31日時点)。92の国籍 |
| 大カスピ海地域の拠点 | Caspian Dredging and Marine Contractors LLP(カザフスタン・アクタウ)、バクー事務所(アゼルバイジャン) |
沿革と所有
起源は1868年、ホーヴェルト・ファン・オールトが事業を起こしたことにさかのぼる。以後、複数の同業を吸収・合併しながら、オランダの干拓・治水事業とともに成長した。2018年にはオランダ王室から王室御用達の称号を受けている。本社はロッテルダムにあり、社内に企業史料室を持つ。アフスライトダイク(締切大堤防)の仕様書やデルタ計画の図面のほか、2万点を超える写真・映像資料を保存している。
株式は上場していない。2025年の年次報告書によれば、持株会社MerweOord B.V.が78.50%、ConsOord B.V.が10.75%、ルクセンブルクのUlran S.A.が10.75%を保有する。四半期ごとの市場評価にさらされない資本構成が、船という重い資産への長期投資を支えている点は、同じく非上場のヤン・デ・ナルと共通する。
事業と船隊
事業は浚渫・インフラと洋上エネルギーの2部門である。前者は港湾・航路の建設と維持、埋め立て、海岸防護、気候適応のための治水工事を担う。後者は洋上風力発電所の基礎とタービンの据え付け、海底ケーブルの敷設、海底への捨石設置(シーベッド・インターベンション)、石油・ガス向けのパイプライン埋設と埋め戻しを扱う。
船隊はトレーリングサクションホッパー浚渫船、カッターサクション浚渫船、ウォータージェット浚渫船、ケーブル敷設船、捨石設置船、洋上風力据え付け船からなる。2025年には洋上風力据え付け船ボレアス(全長175メートル、ブーム高155メートル、20MW級タービンに対応)とウォータージェット浚渫船トールを就役させ、可搬式の捨石設置船2隻を発注した(2028年と2029年に就役予定)。
カッターサクション浚渫船にはウラル・リバー、マンギスタウといった船があり、いずれもカスピ海の工事に投入された。
業績
2025年通期の純収益は25億9,000万ユーロ(前年24億4,200万ユーロ)、EBITDAは4億300万ユーロ(同2億9,000万ユーロ)、純利益は1億1,000万ユーロ(同4,300万ユーロ)だった。受注残は2025年末で44億2,800万ユーロ、自己資本比率は31.3%、期末は借入を現預金が上回る実質無借金(純有利子負債マイナス4,200万ユーロ)だった。従業員は常勤換算で6,299人、国籍は92を数える。
2021年には純損失6,200万ユーロを計上しており、2022年以降に立て直した経緯がある。売上規模ではビッグ4のうち最小だが、洋上風力の据え付けと海底捨石設置では有力な地位を占める。
バクー国際海上貿易港の航路浚渫(アゼルバイジャン)
2011年2月、同社はアゼルバイジャン運輸省と、アラト集落に新設されるバクー国際海上貿易港の浚渫工事の契約を結んだ。契約額は約8,000万ユーロ、工期は2年である。工事の内容は、長さ7キロ・幅160メートルの航路と回頭泊地を掘ることで、浚渫・投棄される土砂は約880万立方メートルにのぼった。
この港はバクー南方のアラトに新設されたもので、現在は中国と欧州をロシアを通らずに結ぶ中間回廊(カスピ海横断輸送ルート)のアゼルバイジャン側の玄関口になっている。カスピ海は外洋とつながらない閉鎖水域で水深も浅く、船が入れるかどうかは浚渫によって決まる。アラトの航路を最初に掘ったのがこの契約である。
プロルヴァ進入航路とテンギス油田(カザフスタン)
2015年12月2日、オランダのマルク・ルッテ首相のカザフスタン訪問に合わせて、同社はカスピ海地域で総額5億ドルを超える複数の契約を受注したと発表した。中核は、テンギズシェブロイルが運営するテンギス油田の増産計画(将来成長プロジェクト)に伴う「貨物輸送ルート」の一部で、北東カスピ海からプロルヴァ港へ至る進入航路の浚渫である。あわせて、同じ海域で2本のパイプラインを敷設するための延長8キロの溝の掘削と埋め戻し、別の進入航路の浚渫と海底の均し作業も受注した。
進入航路の工事は、増産設備のプラント用モジュールを海路でテンギスへ運び込むためのものだった。ルートはプロルヴァ港への進入航路、荷揚げ・保管施設、そこから油田までの陸送路で構成され、荷揚げ施設の建設は同社の契約範囲外である。カッターサクション浚渫船4隻が編隊を組み、30隻以上の支援船が付いた。掘削土量は約1,700万立方メートルとされた。
現場は極端に遠隔だった。アクタウ空港から現場事務所のあるバウティノまで150キロ、そこから航路の入口まで海路300キロ以上あり、11月から3月は結氷して作業できないため、施工は毎年4月から10月に限られた。支援船の修理のために船台とクレーン、工房を備えた浮体式の作業船を自社設計して持ち込んでいる。ピーク時には350人を超える要員が入った。
航路の沿線には浚渫土の投棄場所が32か所つくられ、うち16か所は水面上に出る人工島になった。北カスピ海はカスピカイアザラシと渡り鳥の生息域であり、独立した野生生物観察員を同行させたうえで施工した。これらの島には工事中からアザラシと鳥が定着し始めたと同社は報告している。
2017年12月21日、同社は全長72キロの航路の浚渫を完了したと発表した。着工から4年を要している。テンギス油田の増産計画は、完成後に年間約1,200万トンの原油生産増を見込むものだった。
域内の拠点と黒海側
同社の拠点一覧(2026年8月時点)には、カザフスタン・アクタウのCaspian Dredging and Marine Contractors LLP(第12小地区79番地)と、アゼルバイジャン・バクーのVan Oord Dredging and Marine Contractors(カスピアン・プラザ3)が載っている。カスピ海の両岸に事務所を残していることになる。
黒海側では、ルーマニアのコンスタンツァに支店を置き、同国のエフォリエで海岸線の再生工事を手がけた。ジョージア、ブルガリア、トルコの黒海沿岸での施工は、同社の公表資料では確認できなかった。
参考資料
- Van Oord(公式サイト) ↗
- Van Oord Annual Report 2025 — Key figures ↗
- Van Oord Annual Report 2025 — Van Oord in brief(株主構成) ↗
- Our offices — Van Oord(アクタウ、バクー、コンスタンツァの拠点) ↗
- Van Oord creates 72-kilometres access channel in Caspian Sea(2017年12月21日) ↗
- Project in progress - Prorva — Van Oord「About Marine ingenuity」誌 ↗
- Van Oord strengthens position in Caspian Sea(プレスリリース、2015年12月2日、PDF、Wayback Machine保存版) ↗
- Van Oord to develop Baku International Sea Trade Port(2011年、Wayback Machine保存版) ↗
- History — Van Oord ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。