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カンバラタ1水力発電所とは

キルギスがナルイン川上流に計画する186万キロワットの水力発電所について、諸元、ソ連期からの経緯、カザフスタン・ウズベキスタンとの3か国の枠組み、世界銀行の技術支援、環境社会影響評価と工事の進み具合を整理する。

カンバラタ1水力発電所は、キルギスがナルイン川の上流に計画している水力発電所である。設備出力186万キロワットは既設で同国最大のトクトグル(144万キロワット)を上回り、完成すればキルギス最大の発電設備になる。エネルギー省は「世紀の事業」と呼び、国家事業の位置づけを与えている。ただし2026年8月時点で本体の工事は始まっておらず、進入路、橋、送電線、輸送トンネルといった準備工事の段階にある。

この事業が中央アジア全体の話題になるのは、キルギス一国の電源計画にとどまらないためである。カザフスタンとウズベキスタンが共同の事業主体として加わり、世界銀行を筆頭に十を超える機関が支援側の調整委員会を作っている。上流に大きな貯水池をもう一つ置けば、下流のトクトグルが冬に無理な放流をしなくても済むようになる。この水管理上の理屈が、上流のダムに反対しがちな下流国を賛成側に動かした点が、同じ地域のログンダムとの大きな違いである。

所在キルギス・ジャララバード州、ナルイン川上流。既設のカンバラタ2水力発電所から約14キロ上流
設備出力186万キロワット(1,860メガワット)。完成すればキルギス最大の発電所になる
年間発電量56億4,000万キロワット時(うち保証分44億5,500万、二次分11億8,500万)
堤高256メートル。堤頂標高1,200メートル、堤頂長579.3メートル、堤体の盛土量2,780万立方メートル
貯水池総容量は最大およそ50億立方メートル、有効容量28億7,000万立方メートル。常時満水位は標高1,198メートル、最低運用水位は1,138メートルで、運用幅は60メートル
貯水池の広がり満水時の湛水面積61.7平方キロメートル、湛水長68キロメートル
水車フランシス水車4台。1台あたり46万5,000キロワット、設計落差210メートル、設計流量は毎秒244立方メートル。発電所建屋は地上式
集水域4万7,000平方キロメートル。年平均流量105億立方メートル、平均流出量は毎秒333立方メートル
事業費およそ29億ドル(2014年の実現可能性調査。建設中の金利を含まない)
3か国の枠組み2023年1月6日にキルギス・カザフスタン・ウズベキスタンのエネルギー相がロードマップに署名、2024年6月に共同実施の合意に署名
世界銀行の技術支援事業番号P181086。総額500万ドル(IDA信用300万ドル、ESMAP信託基金200万ドル)。2023年10月31日承認、2027年12月31日終了予定
本体工事2026年8月時点で未着工。進入路、橋、送電線、輸送トンネルなどの準備工事の段階

何を作るのか

計画地はナルイン川上流、既設のカンバラタ2発電所から約14キロ上流である。世界銀行が2023年に公表した事業評価文書は、2014年にSNCラバリン(カナダ)がまとめた実現可能性調査に基づいて主要諸元を示している。堤高は最大256メートル、堤頂長579.3メートル、堤体の盛土量2,780万立方メートル。常時満水位は標高1,198メートル、最低運用水位は1,138メートルで、運用幅は60メートルである。

貯水池は総容量が最大でおよそ50億立方メートル、有効容量が28億7,000万立方メートルになる。総容量はこの地点のナルイン川の年平均流量105億立方メートルのおよそ半分にあたる。満水時の湛水面積は61.7平方キロメートル、長さは68キロメートルに及ぶが、湛水域に集落はなく、水没するのは2軒の農場だけとされている。

発電設備はフランシス水車4台で、1台あたり46万5,000キロワット、設計落差210メートル、設計流量は毎秒244立方メートルである。発電所建屋は地上式で、寸法は96.0メートル×53.0メートル。送電は50万ボルトで行う。年間発電量は56億4,000万キロワット時と見込まれ、うち保証分が44億5,500万キロワット時、二次分が11億8,500万キロワット時である。

既設のカンバラタ2は、設計出力36万キロワット(12万キロワット3台)のうち1台だけが2010年11月27日から動いている。日調整用の小さな貯水池しか持たないため、世界銀行は事実上の流れ込み式と記し、発電量5億キロワット時の大半が夏に出ると説明している。カンバラタ1が完成すれば両者は一体で運用され、冬の発電を優先できるようになる。

1986年に始まり、1991年に止まった

最初にこの地点でダムの建設が試みられたのは1986年である。事業公式サイトによれば、工事は1991年のソ連崩壊で中断し、その後は2022年にジャパロフ大統領が新しい段階の開始を宣言するまで進展がなかった。この間、事業は国家事業の地位を与えられ、現地で準備工事が始まった。

空白の期間にも、法人の器は作られている。国有の発電会社である電力ステーションズの2024年12月期の連結財務諸表によれば、閉鎖型株式会社「カンバラタ水力発電所1」は、2009年2月3日にモスクワで署名されたロシア・キルギス政府間協定(キルギス側は2009年2月10日の法律第44号で批准)に基づいて、2009年5月7日の設立総会で設立された。授権資本は1億568万ソムで、2024年12月31日時点の唯一の株主は電力ステーションズである。ただし、この枠組みのもとでも建設は始まらなかった。

長い準備期間が必要なこと自体は、世界銀行も前提としている。同行の文書は、この事業の準備と建設に10年近くを要するという見積もりを引き、だからこそ着手の判断を先送りできないと述べている。

3か国の枠組み

転機は2023年1月6日である。この日ビシケクのエネルギー省で、キルギスのタアライベク・イブラエフ、カザフスタンのボラト・アクチュラコフ、ウズベキスタンのジュラベク・ミルザマフムドフの3エネルギー相が、カンバラタ1建設のロードマップに署名した。3国のいずれにも公平で有益な事業にすることに重点が置かれ、カザフスタンとウズベキスタンは合弁会社の設立を全面的に支持すると表明した。

2024年6月10〜11日、世界銀行グループの支援でウィーンで開かれた国際エネルギー投資フォーラムの場で、3国のエネルギー省は共同実施の合意に署名した。エネルギー省の発表によれば、この合意には電力の保証買取、発電所の運転方式の管理、事業を運営する株式会社の設立、資金の調達が盛り込まれている。署名者はイブラエフ、カザフスタンのアルマサダム・サトカリエフ、ウズベキスタンのミルザマフムドフである。同じ会合ではカンバラタ1建設のための支援側調整委員会の設置も決まった。

その後も3国の作業部会と協議が続いている。2025年1月27日にはタシケントで3国のエネルギー相が集まり、2025年2月19日にはビシケクで、3国の代表団と世界銀行、専門家パネル、更新作業を担うAFRYの関係者が参加する検討会が開かれた。

事業公式サイトによれば、支援側の調整委員会には世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、欧州復興開発銀行(EBRD)、欧州投資銀行(EIB)、欧州連合、イスラム開発銀行、OPEC基金、イタリアのCDP、英国の外務・英連邦・開発省、アラブ調整グループが名を連ねている。

世界銀行の技術支援

世界銀行の関与は、いまのところ建設資金ではなく事前の作業への技術支援である。事業番号P181086「カンバラタ1水力発電所事業への技術支援」は2023年10月31日に承認され、2027年12月31日に終了する予定である。総額500万ドルのうち300万ドルがIDA信用、200万ドルがエネルギー部門管理支援計画(ESMAP)の信託基金で、借入人はキルギス共和国、実施機関はエネルギー省である。

構成は4つに分かれる。既往調査を更新して技術的な実現可能性と経済性を検証する部分に295万ドル、環境社会枠組みと便益配分の強化に110万ドル、マクロ経済的に持続可能な資金計画と商業的枠組みの策定に60万ドル、実施支援と能力構築に35万ドルである。

同行のリスク評価は厳しい。全体評価は「相当」で、財務管理と環境社会の2項目は「高」と付けられている。政治・ガバナンス、マクロ経済、部門戦略、実施能力、関係者はいずれも「相当」である。

資金の組み立て方はまだ決まっていない。同行の文書は、事業費の借入部分を開発機関の譲許的資金と商業銀行の融資の組み合わせで調達する必要があり、そのためには技術と経済の調査が銀行融資に耐えるだけの水準でなければならないと述べている。2014年の調査に基づく約29億ドルという事業費は建設中の金利を含まない数字で、更新後の値は公表されていない。

環境社会影響評価と下流への影響

環境社会影響評価は国際的なコンサルタントSMECが担当している。エネルギー省は2025年8月21日に報告書の草案を公表し、公開協議の第2段階を始めた。文書は事業公式サイトに掲載されている。国内の協議は2025年10月に2巡目が行われ、11月4〜5日にはイスタンブールで国際協議が開かれた。タジキスタン、ウズベキスタン、カザフスタンの各エネルギー省の代表と、市民社会・研究機関・専門家・地域の団体から50人を超える参加者がオンラインで加わっている。

報告書が扱う論点として同省が挙げているのは、水資源の量と質、工事期間中の大気と土壌、生物多様性、文化遺産、住民の生計と経済活動、公衆衛生と安全、労働、そして累積的な影響である。世界銀行が2023年時点で整理していた影響は限定的で、湛水域に集落がないこと、魚の移動が妨げられること、植生と放牧地が水没すること、季節ごとの放牧地を結ぶ経路が断たれることが挙げられている。ナルイン川はすでにトクトグル発電所群の5基のダムとカンバラタ2で分断されている、というのが同行の見立てである。

下流への影響の議論は、同じ中央アジアのログンダムとは構図が異なる。世界銀行の文書は、カンバラタ1の放流は下流のトクトグル貯水池で再調整されるため、トクトグルより下流にあるキルギス、カザフスタン、ウズベキスタンの発電所に直接の影響は及ばないと説明している。むしろトクトグルの運用に余裕を与え、ナルイン・シルダリヤ流域の水管理を改善するというのが、下流2国が事業に加わった理由でもある。

どこまで進んだか

準備工事は国家予算で進められてきた。エネルギー省が2026年3月11日に整理した進み具合はこうである。ビシケク・オシ幹線道路と建設地を結ぶ道路がおよそ9割完成し、建設機械を現場に入れるための長さ126メートルの輸送トンネルの掘削が完了、現場に給電する11万ボルト送電線と変電所の建設が続いている。ナルイン川に架ける橋の工事は冬季も止めずに続けられた。

2026年4月16日、イブラエフ・エネルギー相はワシントンで世界銀行の欧州・中央アジア地域インフラ担当地域局長チャールズ・コルミエと会談し、資金の問題を協議した。同省の発表によれば、主要な準備工事は2026年4月末までに終わり、その後、建設の第1段階として長さ800メートルのトンネル2本の掘削に入る。このトンネルができて初めて、堤体と発電所建屋の本格的な工事が可能になる。実現可能性調査の更新も完了したとされている。

実現可能性調査の更新は、2024年初めに入札で選ばれたスイスのエンジニアリング・コンサルタントAFRYが担当した。同社は2025年2月の検討会で中間報告、地震評価、水文調査の結果を示している。

読むときの注意

第一に、着工日も運転開始の目標年も公表されていない。2023年1月の署名の際、イブラエフ・エネルギー相は運転開始の見込み時期は実現可能性調査ができてから決まると述べており、2026年8月時点でもこの状態は変わっていない。

第二に、本稿に挙げた諸元は2014年の実現可能性調査に基づく世界銀行の資料の数字である。同じ文書の中でも堤高を256メートルと記す箇所と250メートルと記す箇所があり、更新された調査の結果は全体が公表されていない。堤高、貯水容量、出力はいずれも変わりうる。

第三に、世界銀行が承認したのは500万ドルの技術支援であって、建設資金ではない。2026年8月時点で建設のための融資契約は結ばれていない。準備工事はキルギスの国家予算で行われており、本体工事の資金をどう組むかがこの事業の最大の未決事項である。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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