解説 · 2026年8月時点
ケレメト銀行(ОАО «Керемет Банк»)は、キルギスの商業銀行である。2010年に破綻したアジア・ユニバーサル銀行(AUB)の資産を引き継いで「ザルカル銀行」として発足し、ロシンバンクを経て2019年に現在の名になった。国立銀行の登録簿に載る支店は9と少ない。
この銀行が域外で知られているのは、2025年1月15日に米財務省外国資産管理局(OFAC)が制裁対象(SDN)に指定したためである。米財務省は、キルギス財務省が2024年に同行の支配株式をロシアの政府に近い実業家と強く結びついた企業へ売却し、ロシアの輸出入決済のための制裁回避拠点をつくる意図があったと説明している。指定は2026年8月時点でも解かれていない。
| 正式名 | ОАО «Керемет Банк»(Keremet Bank OJSC) |
|---|---|
| 前身 | 破綻した ОАО «АзияУниверсалБанк»(AUB)の資産を基に、2010年12月20日に「ザルカル銀行」として登記。のちに ОАО «Росинбанк» |
| 改称 | 2019年8月の株主総会決議でロシンバンクからケレメト銀行へ。同年9月から新ブランドで営業し、ロシンバンクの権利・資産・債務を承継 |
| 免許 | キルギス国立銀行の免許第049号。免許登録簿への記載は2010年12月24日 |
| 本店 | キルギス・ビシケク市トゴロク・モルド通り40/4 |
| 支店 | 9(2026年8月14日時点、キルギス国立銀行の登録簿) |
| 頭取 | ダミラ・ムクシェワ氏(キルギス国立銀行の登録簿) |
| 米国の制裁 | 2025年1月15日、米財務省外国資産管理局(OFAC)が大統領令14024にもとづきSDNリストへ指定。2026年8月28日時点でも掲載が続く |
| 資産の伸び | 2026年6月末までの1年間で627.1%(840億ソム)増加し、キルギスの23行のなかで最大の伸び(Economist.kgの集計) |
| 株主構成 | 現在の持ち分は公表資料からは確認できない |
| イスラム窓口 | なし(キルギス国立銀行の登録簿) |
沿革
同行の説明によれば、その登記は2010年12月20日で、破綻した公開型株式会社「アジア・ユニバーサル銀行(АзияУниверсалБанк、AUB)」を基礎として「ザルカル銀行(Залкар Банк)」の名で発足した。AUBは2010年の政変後に処理された銀行で、キルギス国立銀行の一覧では現在も清算対象の銀行として、預金保護庁を清算人に掲げて残っている。キルギス国立銀行の免許登録簿では、免許第049号の登録日は2010年12月24日である。
その後、行名は「ロシンバンク(ОАО «Росинбанк»)」となる。2019年8月の株主総会決議によりロシンバンクからケレメト銀行への改称が決まり、同年9月から新しいブランドで営業を続けた。同行はロシンバンクの権利・資産・債務の承継者である。OFACが公表する掲載情報に残るSWIFTコード「RINBKG22」は、ロシンバンク時代の識別子がそのまま使われていることを示している。
米国による制裁
2025年1月15日、米財務省は大統領令14024(2023年の大統領令14114による改正を含む)にもとづき同行を制裁対象に指定した。財務省の説明によれば、遅くとも2024年夏以降、同行の関係者はロシア政府関係者および米国の制裁対象であるロシアのプロムスビャジバンク(PSB)と連携し、同行がPSBに代わって国境をまたぐ送金を扱う仕組みを実行しようとしていた。
PSBは2022年2月22日に大統領令14024にもとづき指定された銀行で、ロシア政府が2018年に国有化し、防衛産業の資金供給と大型の防衛契約の決済を担う国家の防衛銀行として位置づけ直したものである。財務省は、この転換以降PSBがロシアの軍需産業基盤に数十億ドル規模の資金支援を行ってきたと述べている。
財務省はさらに、2024年にキルギス財務省が同行の支配株式を、ロシア政府に近い実業家と強く結びついた企業へ売却したと記し、この買収がロシアの輸入代金の支払いと輸出代金の受け取りのための制裁回避の拠点をつくる意図であったとしている。米国の制裁対象であるロシア・モルドバの実業家イラン・ミロノヴィチ・ショル氏も、同行の役割に関する協議に関与していたと説明されている。
OFACが公開する特別指定国民(SDN)リストの2026年8月28日時点の版でも、同行は「RUSSIA-EO14024」の枠で掲載され続けている。掲載情報には、二次制裁のリスクが大統領令14024第11条の対象であることが明記されている。米ドル建ての決済とコルレス関係に事実上の制約がかかるため、貿易金融や国際送金の面では大きな制約を受ける立場にある。
規模と事業
経済専門紙エコノミストの集計によれば、同行の資産は2026年6月末までの1年間で627.1%増え、額にして840億ソム積み上がった。伸び率でも増加額でもキルギスの銀行のなかで突出しており、伸び率は第1位、増加額では第3位である。同時点で上位5行には入っていないため、総資産は第5位のキルギス投資信用銀行(1,102億ソム)を下回る水準にある。
短期間でこれだけ資産が膨らんだ理由は公表資料からは説明されていない。読み手は、制裁対象に指定された銀行の資産が急拡大したという事実そのものを、キルギスの銀行部門を読むうえでの論点として受け止める必要がある。
事業としては、個人向けにカード、融資、預金、住宅ローン、エスクロー口座、送金、貸金庫を、法人・事業者向けに口座開設、給与振込、信用状や保証といった書類取引、契約の銀行随伴業務を扱う。国有財産管理国家庁(ГАУГИ)に関わる契約の銀行随伴業務を専用の窓口として掲げている点は、公的部門との結びつきを示すものである。キルギス国立銀行の登録簿では、同行は貴金属の取り扱い、電子マネーの発行、イスラム窓口のいずれの許可も得ていない。
読み方の注意
同行の現在の株主構成は、公表資料からは確認できない。同行のウェブサイトには株主の一覧がなく、四半期の情報開示報告は走査画像の形で提供されているため、外部から機械的に読み取ることができない。米財務省の説明にある2024年の支配株式の売却について、その後どうなったかを裏づける一次資料も見つかっていない。
同行は2026年7月9日に臨時株主総会を開き、新たな取締役としてルスラン・サギナエフ氏を4年の任期で選任するとともに、同年1月14日の株主総会で承認されていた定款の変更を確定させた。同氏はカザフスタンとキルギスの銀行・金融部門で27年以上の経歴を持ち、ハリク・リージングの取締役やカザフスタン人民銀行の支店副所長を務めた人物である。定款の変更が半年をまたいで扱われていることは統治の構造に動きがあることを示すが、その内容は公表されていない。
国立銀行の登録簿によれば頭取はダミラ・アシプベコヴナ・ムクシェワ氏である。財務の詳細、従業員数、顧客数はいずれも公表されていない。
参考資料
- История — ОАО «Керемет Банк»(公式サイト) ↗
- Treasury Disrupts Russia’s Sanctions Evasion Schemes(米財務省、2025年1月15日) ↗
- Specially Designated Nationals and Blocked Persons List(OFAC、CSV版。2026年8月28日取得) ↗
- Руслан Сагинаев избран в состав Совета директоров «Керемет Банка»(同行、2026年7月13日) ↗
- Список коммерческих банков Кыргызской Республики и реестр лицензий(キルギス国立銀行、2026年8月14日時点) ↗
- Рейтинг банков КР за I полугодие 2026 года — Economist.kg(2026年7月31日) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。