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南コーカサス鉄道

南コーカサス鉄道(South Caucasus Railway)は、アルメニアの鉄道網を運営する会社である。ロシア鉄道の完全子会社で、2008年に結ばれた30年のコンセッション契約に基づいて路線を管理する。アルメニアの基幹インフラをロシア国営企業が握る構図であり、周辺国との交通の再開をめぐる政治の焦点にもなっている。

South Caucasus Railway CJSC
公式サイト ↗

解説 · 2026年8月時点

南コーカサス鉄道(SCR、ロシア語略称ЮКЖД)は、アルメニアの鉄道網をコンセッション契約に基づいて運営する会社である。ロシア鉄道(РЖД)が設立した子会社で、線路や駅などの資産はアルメニア共和国の所有のまま、その占有・使用・管理・運営・保守・改良の権利を受託している。監査済み財務諸表は、親会社をロシア鉄道、最終的な支配をロシア連邦政府と明記している。

内陸国であるアルメニアにとって鉄道は数少ない大量輸送の手段だが、鉄道が接する4つの国境のうち、実際に列車が越えられるのはジョージア側の1か所だけである。トルコとアゼルバイジャンに向かう線区は閉じたままで、路線網は事実上ジョージア経由の一本に依存してきた。2026年に入り、この会社の存在自体が地域の物流計画の争点になった。アルメニア領を通る新しい国際回廊の構想が具体化する一方で、既存の国内線がロシア企業の管理下にあることが投資家の忌避を招いているとして、パシニャン首相が国民議会でコンセッションの見直しに言及したためである。

正式名ЗАО «Южно-Кавказская железная дорога»(ロシア語、略称ЮКЖД)/«Հարավկովկասյան երկաթուղի» ՓԲԸ(アルメニア語、略称ՀԿԵ)。英語表記は South Caucasus Railway CJSC(SCR)
登記2008年1月31日。アルメニア共和国法に基づく閉鎖型株式会社
本社アルメニア・エレバン市ティグラン・メツ大通り50番地
親会社ロシア鉄道(ОАО «РЖД»)。最終的な支配はロシア連邦政府(2024年12月期の監査済み財務諸表)
事業アルメニア鉄道網の受託運営。貨物輸送、旅客輸送、コンセッション資産の改良の3セグメント
コンセッション契約2008年2月13日にエレバンで署名。アルメニア共和国(供与者)、南コーカサス鉄道CJSC(受託者)、保証人としてのロシア鉄道の三者
契約期間コンセッション活動開始日から30年。双方の合意により新たな条件のもとで10年延長できる(契約第4-2条・第4-3条)。監査済み財務諸表は契約の満了を2038年としている
コンセッション料一時金17億ドラム(署名から30営業日以内)と、旅客輸送収入を除く総収入の2%の年額変動料(契約第5-1条・第5-2条)
投資義務2008〜2038年に合計1,745億5,990万ドラム(インフラ1,223億4,980万ドラム、車両522億1,010万ドラム)。2024年12月末時点の未履行残は302億4,064万ドラム
旅客輸送の補助アルメニア政府が2016〜2038年、合意した区間・輸送量の旅客輸送で生じた年間損失の30%を補填する。その年の変動コンセッション料が上限
営業路線751.6キロ、電化率100%、貨車1,191両(同社サイト、2026年8月時点)
ネットワークの規格軌間1,520ミリ、営業駅49、電化方式は直流3.3キロボルト。旅客列車の最高速度は時速100キロ、貨物列車は時速70キロ(同社の公共鉄道インフラ情報、2026年版)
売上高171億4,436万ドラム(2025年通期)。142億2,326万ドラム(2024年)、176億6,957万ドラム(2023年)
当期損益23億5,026万ドラムの利益(2025年通期)。8億2,951万ドラムの損失(2024年)、586億9,012万ドラムの損失(2023年)
授権資本1,041億5,295万ドラム(1株1,000ドラム、1億415万2,946株。全額払込済み)
経営取締役会議長ヴャチェスラフ・パヴロフスキー、総支配人アレクセイ・メルニコフ(同社サイト、2026年8月時点)

設立とコンセッションの成立

アルメニアは2008年、国営のアルメニア鉄道CJSCが担ってきた鉄道網を、入札を経てコンセッションに出した。2008年1月17日の政府決定第17-A号でロシア鉄道が落札者と認定され、同社が設立した南コーカサス鉄道CJSCへ鉄道システムを引き渡すことが決まった。会社の登記は2008年1月31日である。

コンセッション契約は2008年2月13日にエレバンで署名された。当事者は、2008年2月7日の政府決定第83-A号に基づいて行動するアルメニア共和国運輸通信相アンドラニク・マヌキャン(供与者)、南コーカサス鉄道CJSC総支配人アレクサンドル・クズネツォフ(受託者)、そして保証人として加わったロシア鉄道社長ウラジーミル・ヤクーニンである。契約は、監督官庁を運輸通信省と定めていた。その後の2019年6月6日の政府決定第733-N号により、権限を持つ官庁は領土行政・インフラ省に移っている。

契約の有効期間は「コンセッション活動開始日」から30年で、双方が合意すれば新たに取り決めた条件のもとで10年延長できる。延長の意思は、契約発効から20年目の6か月前までに相手方へ通知することになっている。監査済み財務諸表は、減損テストの前提として契約の満了を2038年と置き、2024年12月末時点のコンセッション権の残存耐用年数を14年としている。

契約の中身

資産の所有権は移らない。契約第2-1条は、供与者が所有するコンセッション資産の占有、使用、管理、運営、保守、修理、必要な改良の権利を受託者へ引き渡すと定める。契約が終了した日から、受託者は大きな改良を加えずに少なくとも3年間は運営できる状態で資産を返還する義務を負う。機関車や貨車などの車両は別扱いで、受託者が供与者から買い取っており、返還の義務はない。

対価は二本立てである。一時金17億ドラムを署名から30営業日以内に支払い、以後は毎年、旅客輸送収入を除く総収入の2%を変動コンセッション料として納める。支払いが遅れた場合は日利0.01%の違約金が付く。

投資義務も契約に書かれている。2008年から2038年までに合計1,745億5,990万ドラム(インフラに1,223億4,980万ドラム、車両に522億1,010万ドラム)を投じるというものである。同社は自社サイトで、インフラの近代化と国際輸送の発展に向けた投資額を5億7,200万ドルと掲げている。2024年12月末時点で未履行の投資義務は302億4,064万ドラムだった。

旅客輸送は赤字が前提の事業として設計されている。アルメニア政府は2016年から2038年まで、合意した区間・輸送量で生じた旅客輸送の年間損失の30%を補填する。ただし補填額はその年の変動コンセッション料を超えてはならない。監査済み財務諸表によれば、2024年の合意区間の旅客輸送の純損失は34億9,363万ドラム(2023年は31億6,349万ドラム)だった。

譲渡には制限がある。契約第19-5条は、受託者が契約または契約上の権利義務を第三者へ移転するには、供与者すなわちアルメニア共和国の事前の書面による同意が必要だと定めている。

路線と運営

同社が公表する公共鉄道インフラ情報(2026年版)によれば、アルメニアの鉄道は4つの国境に接する。東はイジェヴァン駅(アゼルバイジャン国境)、南はエラスフ駅(同)、北はアイルム駅(ジョージア国境)、西はアフリャン駅(トルコ国境)である。同じ文書は運行されていない線区として、アルティク〜マラリク、ギュムリ〜アフリャン〜トルコ国境、アルマヴィル〜アルシャルイス、メグラゾル〜イジェヴァン〜アゼルバイジャン国境、エラスフ〜アゼルバイジャン国境を挙げている。つまり定期的に国境を越えられるのはジョージア方面だけである。

規格は旧ソ連の標準で、軌間1,520ミリ、電化方式は直流3.3キロボルトである。営業中の駅は49で、うち48駅に転てつ器と信号の電気集中制御が入る。旅客列車の最高速度は時速100キロ(最低40キロ)、貨物列車は時速70キロ(最低25キロ)で、貨物列車の最大長は690メートル、旅客列車は450メートルである。会社の紹介ページは営業路線を751.6キロ、電化率100%、貨車1,191両としている。

旅客輸送はエレバンを起点に、ギュムリ、エラスフ、セヴァン湖畔のショルジャ、そして国境を越えてトビリシとバトゥミへ向かう系統がある。バトゥミ行きは夏季の季節列車である。監査済み財務諸表は、2024年のエレバン〜ショルジャ間の電車について、6月14日から9月15日まで金・土・日の週3日運行し、376席の列車が43往復したと記録している。

業績

同社は国際財務報告基準(IFRS)による財務諸表を毎年公表し、監査はクロウ・アルメニアが担当している。2023年12月期は、非流動資産の減損テストの結果615億4,513万ドラムの減損を計上し、当期純損失は586億9,012万ドラムに達した。減損の内訳はコンセッション権(無形資産)が514億3,906万ドラム、貨物セグメントに帰属する有形固定資産が101億607万ドラムで、旅客セグメントの有形固定資産に減損は認められなかった。使用価値の算定に用いた割引率は貨物11.63%、旅客1.96%である。

2024年12月期は売上高142億2,326万ドラム(前年176億6,957万ドラム)と2割近く減り、当期純損失は8億2,951万ドラムだった。財務諸表は、ナゴルノ・カラバフでの軍事行動の影響が2024年も輸送量の減少として残ったと説明している。売上の内訳は貨物輸送100億4,212万ドラム、コンセッション資産の改良16億4,867万ドラム、駅構内の役務11億8,796万ドラム、旅客輸送10億2,691万ドラム、貨車の賃貸3億1,760万ドラムである。前年に7億3,908万ドラムを計上していた運行指令の役務は、2024年はゼロだった。

2025年12月期は売上高が171億4,436万ドラムへ回復し、当期純利益23億5,026万ドラムと黒字に転じた。2024年末時点の自己資本は432億8,892万ドラムで、授権資本1,041億5,295万ドラムに対して608億6,403万ドラムの累積損失を抱えている。

従業員数と年間の輸送トン数は、監査済み財務諸表では開示されていない。同社サイトは年間の貨物量を5,000万トンと掲げているが、財務諸表をはじめ他の公表資料からは確認できない。

2026年の争点 — TRIPPと受託管理の見直し

2025年8月8日のワシントンでの合意を受けて、アルメニア南部を通る回廊「TRIPP」の構想が動き出した。パシニャン首相が2026年8月24日に国民議会で説明したところでは、TRIPPの鉄道はアルメニア南部国境沿いのヌルナゾル〜アガラクを、アラス川沿いのソ連期の線形で通り、貨物はアガラクからナヒチェヴァンへ入る。

ここから先が問題になる。ソ連期には、ナヒチェヴァンから鉄道がアララト地方のエラスフを経てシラク地方のアフリクへ抜け、トルコへ入っていた。首相によれば、TRIPPに意欲を示す国際投資家はいま、このエラスフ〜アフリク区間を迂回する経路を探している。理由は管理の形にあり、この区間はアルメニアの所有でありながらロシアの鉄道の管理下にあるため、対ロシア制裁を踏まえて投資家や輸送業者、荷主がリスクと見なしている、というのが首相の説明である。迂回されればアルメニアは収入も投資も雇用も失う、と首相は述べた。

首相はロシア側に柔軟性を求め、コンセッションの権利をアルメニアとロシアの双方が受け入れられる第三国へ売却するよう要請していると説明した。契約第19-5条が受託者による権利の移転にアルメニア政府の事前の書面同意を求めていることを踏まえると、権利の移転は当事者双方の意思がそろって初めて成立する。首相はあわせて、トルコ領内で進むカルス〜ディルジュ(カルスからナヒチェヴァンへ向かう)鉄道の建設が活発になっており、エラスフ〜アフリクはこれと競争しなければならないとした。

2026〜2031年の政府活動計画には、第4節に「鉄道の受託管理の制度は、アルメニア共和国が国際輸送体系へ統合されるという、すでに生じている歴史的な機会の実現を妨げないよう見直される」という文言が入った。ただし相手のある話であり、首相の発言も要請にとどまっている。

同社の側からは、2026年7月の鉄道員の日に際して総支配人アレクセイ・メルニコフが、会社はアルメニア共和国に対する義務を全面的に履行し、鉄道インフラと輸送体制の安定した運用を確保し続けていると述べた。取締役会は7名で、議長はヴャチェスラフ・パヴロフスキー、副議長はヴァジム・ブィンコフ、委員にはアルメニア領土行政・インフラ副大臣のアルメン・シモニャンが入っている(2026年8月時点)。法人秘書の職務はロシア鉄道のコーポレート支援センターが担う。

読むときの注意

この会社をめぐる議論では、所有と運営がしばしば混同される。線路、駅、電化設備といったコンセッション資産の所有者はアルメニア共和国であり、南コーカサス鉄道が持つのは契約で定められた期間の運営権である。首相自身も、鉄道はアルメニアの所有であってロシアの鉄道の管理下にあるにすぎないと繰り返している。

数字の単位にも注意が要る。同社の財務諸表はアルメニア・ドラム建てで、表は千ドラム単位で組まれている。また2023年に計上した615億4,513万ドラムの減損によって資産の帳簿価額が大きく切り下がっているため、減損の前後で総資産や自己資本をそのまま比較することはできない。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。

MENTIONED IN

パシニャン首相、アルメニアからアゼルバイジャンへの初の輸出取引は「すでに成立したと考える」。品目・企業・金額は非公表2026.09.03アルメニアのパシニャン首相は2026年9月3日の記者ブリーフィングで、アゼルバイジャンへの最初の輸出取引について「すでに成立したと考える」と述べた。ARKA通信が伝えた。品目・企業名・金額は明かされていない。2025年10月の通過制限解除以降に伝えられた貨物は、アゼルバイジャン側からアルメニアへ入る方向だけだった。