解説 · 2026年8月時点
ウチクン(ОАО «Учкун»、「火花」の意)は、キルギス最大の印刷企業であり、国家の身分証明書と有価証券類を一手に刷る国有企業である。旅券とIDカード、銀行券、酒税・たばこ税の証紙、運転免許証、自動車のナンバープレートといった、偽造されると国家の秩序が揺らぐ印刷物を扱う。株式の98.9%を大統領府管理局が保有する。
起点は1926年、フルンゼ(現ビシケク)に開かれた「セルプ・イ・モロト(鎌と槌)」という同国初の国営印刷所である。それまでキルギス語の新聞・雑誌・書籍は、著名な『エルキン・トー』を含めてモスクワ、カザン、タシケントで刷られていた。自前の印刷所を持ったことが、情報面での自立に向けた最初の一歩だったと同社は位置づけている。2026年には創業100年を迎える。
| 正式名 | ОАО «Учкун»(Uchkun OJSC) |
|---|---|
| 創業 | 1926年、フルンゼ(現ビシケク)に開設された国営印刷所「セルプ・イ・モロト」が起点。1992年に国営コンツェルン「ウチクン」となり、1997年に公開型株式会社へ改組 |
| 法人登記 | 1992年10月10日。直近の再登記は2026年3月27日 |
| 本社 | キルギス・ビシケク市S.イブライモフ通り24(証券取引所への届出は24/5) |
| 事業 | 印刷。旅券とIDカード、銀行券、酒税・たばこ税の証紙、運転免許証と自動車登録証、自動車のナンバープレート、国家標準の証書・卒業証書、教科書、商品と燃料のマーキング |
| 株主 | 大統領府管理局が98.929%(3,535万6,828株)。発行済株式は3,573万9,619株、株主は497(2026年8月5日時点) |
| 従業員 | 630人(2026年8月5日時点) |
| 配当 | 1株あたり1.27ソム(2023年度・2024年度・2025年度) |
| 上場 | キルギス証券取引所(KFB)のカテゴリーB。普通株と優先株を上場 |
| 財務 | 売上高・利益は公表されていない |
沿革
1930年から1931年にかけて、共和国最大の印刷所である第1号活版所を収める「出版会館」が建てられ、アルマトイとタシケントの技術者の助けを借りて印刷基盤が整えられた。1930年には工場付属学校が開かれ、キルギス人の印刷職人の養成が始まった。第二次大戦中も操業を続け、戦時ビラ、新聞、教科書を刷った。1940年時点で共和国では69紙が発行され、うち43紙がキルギス語だった。
1960年代から大規模な再建期に入る。1966年、レニングラードの設計機関「ギプロニーイポリグラフ」の設計により近代的な印刷コンビナートが建設され、オフセット機、製版工程、製本工程が稼働した。1972年には第1号共和国印刷所がキルギス共産党中央委員会の出版所に統合され、技術の刷新が加速した。編集・出版複合施設、鉄道に近い紙倉庫、中央紙の受信用電信局が整備された。1983年には西ドイツ製のロンドセット機でオフセット印刷を習得し、1986年には近代的なオフセット・組版・製本の各工程を備えた雑誌棟が稼働した。
1990年には生産能力が最大に達し、年間10億部を超える印刷が可能になった。1992年、印刷所を基盤として国営コンツェルン「ウチクン」が設立され、1997年に公開型株式会社へ改組された。1990年代の経済危機のなかでも生産設備と人員を維持し、教育省の発注で115万部を超える教科書を短期間に刷り上げた。1999年にはマドリードで「品質の金の星」賞を受けている。
現在の事業
2010年代以降、同社は保護印刷(セキュリティ印刷)に事業の重心を移した。酒税・たばこ税の証紙、旅券、卒業証書、納税者番号(ИНН)、各種証明書を刷り、カラー新聞ラインも導入した。2024年からはキルギス市民の一般旅券とIDカードの発行を担っている。国立銀行が発行する国内通貨の銀行券も同社の設備で刷られている。
2026年6月には、キルギス国内で商品のマーキング(識別標)を担う新しい事業者に指定された。同社の説明では、これは商品の国家追跡制度の整備、流通の透明化、違法製品の抑止、市場参加者に等しい条件を与えることを目的とする。これに先立ち、同社の下には燃料マーキングセンターが置かれ、ガソリンと軽油の分子レベルのマーキングを行う事業者として機能している。
このほか、新型の運転免許証と自動車登録証、あらゆる寸法・形状の自動車ナンバープレート、教育省が定める様式の公式用紙・証書・卒業証書、学校教科書と書籍の印刷を手がける。2026年には卒業生向けの国家様式の証書を前年より1万部多く用意したと発表している。
資本と開示
上場目論見書によれば、2026年8月5日時点の発行済株式は3,573万9,619株で、そのうち3,535万6,828株(98.929%)を大統領府管理局が保有する。法人4社で99.654%、個人493人で0.346%という構成である。株主総会は2026年5月14日に開かれた。
配当は2023年度、2024年度、2025年度のいずれも1株あたり1.27ソムである。2025年度分は2025年4月22日の基準日で確定し、同年8月20日から支払いが始まった。株主の未受領による未払いは2,185.9ソムにとどまる。
従業員は2026年8月5日時点で630人、支店・駐在所は持たない。監査人はОсОО «Крестон Бишкек»、株主名簿の管理はОсОО «СТАТУС-регистр»である。売上高と利益は公表されていない。証券取引所の一覧に表示される時価総額(1億1,599万ソム、2026年8月21日時点)は、上場されている銘柄の直近約定価格と証券数から計算されたもので、上場目論見書の発行済株式総数とは一致しない。企業規模の指標として読むことはできない。
国家との関係
同社の位置づけは、単なる印刷会社ではなく国の情報基盤の一部である。旅券とIDカード、銀行券、税の証紙、運転免許証、ナンバープレートは、いずれも偽造への耐性が求められ、製造の管理そのものが国家の管轄事項になる。株式の98.9%を大統領府管理局が握る資本構成は、この性質から来ている。
同社は自らを「国の技術的自立を支える組織」と説明し、大統領サディル・ジャパロフの言葉として「国家の安全、歴史、主権の番人として発展している」という評価を掲げている。2026年2月には大統領が同社を訪れた。2026年7月の取締役会では創業100周年の記念行事の準備が議題に上がっている。
国家の発注に依存する事業構造は、安定と裏腹の課題も抱える。発注量は政策と人口動態で決まり、価格も自由に決められない。同社は教科書とワークブックの販売、書籍印刷、商業印刷といった民需も抱えるが、財務が公表されていないため、両者の比率はわからない。
参考資料
- Тарых(沿革)— «Учкун» ААК(公式サイト) ↗
- «Учкун» ААК — Мамлекеттик маанидеги полиграфиялык ишкана(公式サイト) ↗
- Листинговый проспект ОАО «Учкун»(作成日2026年8月5日、キルギス証券取引所) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。