東西ハイウェイは、ジョージアを黒海沿岸からアゼルバイジャン国境まで横断する幹線道路である。欧州国際道路網ではE60号線にあたり、ジョージアの道路局はこの呼称で工区を管理している。世界銀行はこの道路を同国の輸送網の背骨と呼び、欧州と中国を結ぶ中間回廊の「陸橋」に位置づけている。中央アジアから船でカスピ海を渡ってきた貨物も、黒海の港やトルコへ抜けるにはこの道路を使う。
路線の弱点は長く一か所に集中していた。東部の高原と西部の低地を隔てるリコティ峠である。ここだけが片側1車線の曲がりくねった旧道のままで、大型車が連なると渋滞し、冬季は事故で通行が止まった。2015年から2025年にかけて行われた改良工事は、この区間を4車線に置き換えるものだった。
| 路線 | 欧州国際道路網のE60号線。ジョージア国内では黒海沿岸(サルピ、ポチ、バトゥミ方面)からトビリシを経てアゼルバイジャン国境の赤い橋へ至る |
|---|---|
| 通称 | 東西ハイウェイ(East-West Highway、EWH) |
| 位置づけ | 2015年時点でジョージアの対外貿易の6割超と、全車両交通の約4分の1を担う |
| 最難関区間 | ゼモ・オシアウリ〜アルグヴェタの約85キロ。リコティ峠を越える山岳・地すべり地帯 |
| リコティ峠の主要工事 | ゼモ・オシアウリ〜チュマテレティとチュマテレティ〜ヘヴィの2区間。事前評価では計25.4キロ・3億1,940万ドル、実績は計25.7キロ・3億6,200万ドル |
| 資金の出し手 | 世界銀行、欧州投資銀行(EIB)、アジア開発銀行(ADB)、ジョージア政府 |
| 世界銀行の累計 | 2006年以降、東西ハイウェイ回廊の投資に加わり5億2,700万ドル超を動員した |
| 効果(2025年12月時点) | ゼモ・オシアウリ〜ヘヴィの所要時間は17.7分から13.4分へ短縮。乗用車の走行費用は1キロあたり0.31ドルから0.27ドルへ低下 |
路線の構成
東西ハイウェイは工区に分けて順次改良されてきた。東はトビリシ周辺、西は黒海沿岸で、その間をアガイアニ、アガラ、ゼモ・オシアウリ、チュマテレティ、ヘヴィ、アルグヴェタ、サムトレディア、グリゴレティといった地名で区切る。世界銀行が2006年から支援した4件の事業でアガイアニ〜アガラ間が先に4車線化され、そのあとに残ったのがゼモ・オシアウリから西のアルグヴェタまでの約85キロだった。
トビリシ周辺では、E60はナタフタリからルスタヴィまでの環状道路として整備が進んでいる。道路局はこの事業を「E60幹線道路のナタフタリ〜ルスタヴィ区間(トビリシ環状道路)」と呼び、工区ごとに用地取得計画を公開している。その先はアゼルバイジャン国境の赤い橋、およびアルメニア国境のサダフロへ分岐する。
ジョージアの貨物のおよそ3分の2は道路で運ばれる。世界銀行が2017年にまとめた環境社会影響評価は、旧ソ連の崩壊後に市場が広がったことで通過貨物が増え、多くの道路が交通量と大型車の比率に追いついていないと指摘していた。
リコティ峠がなぜ難所だったか
リコティ峠は、ジョージア東部と西部を分ける分水嶺にあたる。旧道はここを既存のトンネル1本と急曲線で越えており、地すべりが起きやすい山腹を縫って走る。世界銀行の実施完了報告は、この区間について、山岳の地すべり地帯を通り、深いトンネルと不安定な斜面を含み、通過交通の効率にとって長く隘路であったと記している。工事には高度な工学的解決と地盤工学の専門性が求められた。
工事は二つの契約に分けられた。ひとつはゼモ・オシアウリからチュマテレティ(リコティトンネルの東坑口の手前)まで。もうひとつがチュマテレティからヘヴィ村までで、リコティ峠を貫く新しいトンネルの掘削を含む。後者の区間は全長11.2キロのうち2.4キロがトンネルで、既存トンネルと並行する1.7キロの新トンネルと、0.7キロの小トンネルからなる。設計速度は時速80キロ、片側の車道幅は7メートルである。
事業費と資金の出し手
資金は複数の国際金融機関が分担した。世界銀行は2006年から東西ハイウェイ回廊の投資に加わり、5億2,700万ドル超を動員したと自ら記している。リコティ峠の区間を扱った東西ハイウェイ回廊改良事業は2015年12月に承認され(融資1億4,000万ドル、総事業費1億6,400万ドル)、2017年11月に2,000万ドルの追加融資が承認された。追加融資はチュマテレティ〜ヘヴィ区間を対象とし、これが回廊の「欠けた環」だった。
欧州投資銀行が並んで資金を出している。ゼモ・オシアウリ〜チュマテレティは世界銀行とEIBの協調融資で、区間はロット2つに分けられた。チュマテレティ〜ヘヴィへのEIBの配分額は当初6,747万ユーロだったが、2023年10月に9,947万ユーロへ増額された。
完成時の実績は、2区間合わせて25.7キロ、3億6,200万ドルである。事前評価の見積もりは25.4キロ・3億1,940万ドルだったので、距離はほぼ計画どおりで費用が13%あまり増えた。とくにチュマテレティ〜ヘヴィ区間は1キロあたりの建設費が39%増えている。工期も延び、事業の終了日は当初の2023年12月31日から2025年6月30日へ繰り延べられた。
完成後に測られた効果
世界銀行が2026年6月に公表した実施完了報告は、事後の数字を示している。ゼモ・オシアウリからヘヴィまでの所要時間は2015年12月の17.7分から2025年12月に13.4分へ、4.3分短縮した。目標の13.2分にはわずかに届かず、報告書はトンネル内の速度制限が回廊の約4割に及ぶことを理由に挙げている。
走行費用は目標を上回って下がった。乗用車は1キロあたり0.31ドルから0.27ドルへ、トラックは0.56ドルから0.51ドルへ低下している。経済的内部収益率は事前評価の15.1%に対し事後で13.7%、正味現在価値は割引率12%で4,520万ドルだった。チュマテレティ〜ヘヴィ区間は1キロあたりの建設費が39%増えたため、この区間だけの正味現在価値はマイナスになっている。
報告書は受益者を94万4,375人と数え、うち女性49万1,075人、若年層10万8,603人としている。整備区間の沿線世帯の満足度は58%から76%へ、事業者の満足度は55%から64%へ上がった。トンネルには監視制御システムが導入され、道路局に交通管理の実務が残された。
次に来るもの
世界銀行は2026年6月2日、後継事業として「カスピ海横断回廊 — ジョージア・アクセシビリティ・輸送強化事業」を承認した。融資額3億7,200万ドル、総事業費6億5,567万ドル、終了予定は2031年12月である。鉄道の電気機関車更新と、東西ハイウェイおよびカヘティ回廊で残る未整備区間の建設を柱に据えている。
トビリシ周辺でも工事が続く。E60の環状道路の第4・第5工区はADBの融資2億5,000万ドルで入札にかけられ、ルスタヴィ〜赤い橋とアルゲティ〜サダフロの計61.2キロはEIBの融資2億5,000万ユーロで進む。ジョージアの道路投資は、黒海の港と隣国の国境を結ぶ一本の線を太くする作業として続いている。
参考資料
- Implementation Completion and Results Report — East-West Highway Corridor Improvement Project (世界銀行、2026年6月10日) ↗
- Works for the Improvement of Chumateleti-Khevi Section of E-60 Highway — Environmental and Social Impact Assessment, Executive Summary(ジョージア道路局/世界銀行、2017年1月) ↗
- Resettlement Action Plan for Section Two: Zemo Osiauri – Chumateleti(ジョージア道路局/世界銀行、2017年3月) ↗
- Trans-Caspian Transport Corridor - Georgia Accessibility and Transport Enhancement Project(世界銀行、2026年6月承認) ↗
- ジョージア道路局(公式サイト) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。