GUIDE · インフラ・地理2026年9月時点

中間回廊(カスピ海横断国際輸送ルート)とは

中国と欧州をカスピ海経由で結ぶ輸送路「中間回廊」について、経路と積み替えの実際、カザフスタン・アゼルバイジャン・ジョージア3国の鉄道が作った運営の枠組み、輸送量、集まる投資、そして隘路と対策を、運営主体の発表にもとづいて整理する。

中間回廊は、中国から中央アジアとカスピ海、コーカサスを経由して欧州へ至る輸送路の呼び名である。正式にはカスピ海横断国際輸送ルート(TITR: Trans-Caspian International Transport Route)といい、ロシアを通る「北回廊」、イランを通る「南回廊」に対して、その中間を通ることからこう呼ばれる。

経路はおおむね次のとおりである。中国の国境(ホルゴスなど)からカザフスタンを鉄道で横断し、カスピ海東岸のアクタウ港またはクリク港から船でアゼルバイジャンのバクー(アラト)へ渡る。そこからアゼルバイジャンとジョージアを鉄道か道路で抜け、黒海のポチ港・バトゥミ港から海路で、またはバクー・トビリシ・カルス鉄道でトルコ経由の陸路で欧州へ向かう。

注目された直接のきっかけは2022年以降、ロシア経由の北回廊を避ける荷主が増えたことである。ただし迂回路にとどまらず、中央アジア産の資源や製品の輸出路、欧州と中央アジアの直接貿易の幹線として整備が進んでいる。

一方で制約もはっきりしている。カスピ海を渡る船腹と港の処理能力が細く、天候による欠航や滞船が起きやすい。鉄道は国ごとに事業者が分かれ、通関と積み替えのたびに時間がかかる。北回廊に比べて距離あたりの費用が高く、輸送量の総量ではなお及ばない。各国が投資を続けているのは、まさにこの制約を外すためである。

正式名カスピ海横断国際輸送ルート(TITR)。中間回廊、ミドルコリドーは通称
結ぶ範囲中国・東南アジアから、カザフスタン、カスピ海、アゼルバイジャン、ジョージアを経て欧州へ(TITR国際協会の定義)
カスピ海の港東岸はカザフスタンのアクタウ港とクリク港、西岸はアゼルバイジャンのバクー(アラト)港
黒海側の出口ジョージアのポチ港・バトゥミ港。陸路はバクー・トビリシ・カルス鉄道でトルコへ
運営の枠組みTITR国際協会(2017年2月に活動開始、本部アスタナ)。カザフスタン・アゼルバイジャン・ジョージアの3国鉄道が中核
共同事業体ミドル・コリドー・マルチモーダル社。3国鉄道が同率出資で2024年11月にアスタナ国際金融センターに登記
コンテナ輸送(2025年)4万2,000TEU・前年比15%増(3国鉄道首脳会合の発表)
2026年の計画中国発のコンテナ列車600本をカザフスタン経由で通す(2026年4月の協会総会で承認)
ポチ港の取扱(2025年)コンテナ63万6,000TEUで過去最高。2026年1〜7月は40万TEU超・前年同期比7%増
クリク港の取扱(2026年上半期)88万4,800トン(港湾運営会社の発表)
投資の規模中央アジアの輸送インフラ案件は総額717億ドル・114件、うち428億ドルがTRACECA・中間回廊関連に集中(ユーラシア開発銀行の集計、2026年8月時点)
アクタウ港の改良浚渫で航行喫水を6〜7メートルへ引き上げる工事が進行中(2026年6月時点)

組織はどう作られたか

中間回廊は単一の会社が運営する路線ではなく、各国の鉄道・港湾・船社が協定で束ねられた経路である。出発点は2013年11月7日、アスタナで開かれた国際輸送物流フォーラムでカザフスタン鉄道、アゼルバイジャン鉄道、ジョージア鉄道の3社首脳が合意したことにある。翌2014年2月にルート発展調整委員会が発足し、コンテナの通し運賃の設定、重油・軽油・穀物の優遇運賃、中国〜トルコ間のコンテナ列車を鉄道と海運で直通させる運行技術の承認といった実務を進めた。

2016年4月12日にはバクーで国際トランスカスピ輸送コンソーシアム設立協定が署名され、同年12月に調整委員会の参加国であるカザフスタン・アゼルバイジャン・ジョージアが国際協会の設立を決めた。TITR国際協会は2017年2月に活動を開始し、本部をアスタナに置く。会員は3国の鉄道と港湾に加え、中国や欧州の物流企業も含む。

2024年11月には、3国鉄道が同率出資する共同事業体ミドル・コリドー・マルチモーダル社がアスタナ国際金融センターに登記された。線路も港も国ごとに事業者が分かれるという中間回廊の弱点を、通し輸送を売る一つの窓口で補う試みである。2026年3月の株主総会で新しい取締役会と社長が決まっている。

荷動きの規模

3国鉄道の首脳会合が2026年3月に公表したところでは、2025年のルートのコンテナ輸送は前年比15%増の4万2,000TEUだった。2026年4月にアスタナで開かれた協会の理事会・総会は2026年の作業計画を承認し、中国発のコンテナ列車600本をカザフスタン経由で通すことを盛り込んだ。

輸送は西向きだけではない。2026年2月には、トルコのイズミルから中国福建省へ向かうコンテナ列車が初めて中間回廊経由で仕立てられた。40フィートコンテナ50個に家庭用冷蔵庫を積み、アクタウ港からアルティンコル駅までのカザフスタン通過は83時間だった。カザフスタン鉄道はこの発表で、2025年のカザフスタン・トルコ間の輸送量が34%増えたことも明らかにしている。

港湾の側でも伸びが続く。ジョージアのポチ港は2025年にコンテナ63万6,000TEUで過去最高を記録し、2026年1〜7月も40万TEUを超えて前年同期比7%増、一般貨物は60%増となった。カスピ海側では、フェリーと鉄道貨車の積み替えを担うクリク港が2026年上半期に88万4,800トンを扱っている。

集まる投資

ユーラシア開発銀行の2026年の集計では、中央アジアで進行中・計画中の輸送案件は114件・総額717億ドルにのぼり、うち428億ドルがTRACECA回廊(中間回廊を含む)に集中する。世界銀行グループは2026年6月、ジョージアの輸送力強化事業TC-GATEに3億7,200万ドルの供与を発表し、総額7億5,000万ドルの枠組みを組んだ。EBRDはカザフスタン鉄道の債券に1億2,500万ドルを出資したほか、中間回廊上のアクトベ〜ウルガイシン間234キロの4車線化に2億3,000万ユーロを投じている。

欧州連合も関与を深めている。TITR協会は2026年1月、ドイツ国際協力公社とフランスの公的機関エクスペルティーズ・フランスとの間で、EUの資金によるトランスカスピ回廊能力開発プログラムについて協議した。通関手続きの調和と欧州での経路の売り込みが柱である。

隘路と対策

中間回廊の所要時間を決めるのは、鉄道の速度よりも積み替えと待ちである。中国国境、カスピ海の両岸、黒海と、最短でも3回の積み替えが入り、船腹や貨車が払底すると貨物が滞留する。このため対策も結節点に集中している。

アクタウ港では2026年6月時点で浚渫工事の準備が進み、港内の航行喫水を6〜7メートルへ引き上げて大型船の入港を可能にする計画である。埋立地を囲う785メートルの堤防は680メートルまで築かれた。協会側は、カスピ海の港湾・ターミナル間のコンテナ輸送を規律する協定を2026年4月の総会で署名し、税関当局と輸送事業者の間の直接のデータ交換、電子署名による書類の電子化を進めることで合意している。

運賃の面では、調整委員会の時代からコンテナの通し運賃の設定が積み重ねられてきた。複数国の鉄道・海運をまたぐ料金を一本で示せるかどうかは、北回廊との競争条件を左右する。

北回廊との関係

ロシアを通る北回廊は、積み替えが少なく距離あたりの費用も低いため、中国〜欧州の鉄道輸送の大半をなお担う。中間回廊の輸送量はそれに比べれば小さく、コンテナで年数万TEUの規模である。それでも荷主が経路を分散する需要は続いており、各国の投資はこの経路を「非常時の迂回路」から「常用できる幹線」へ変えることを狙っている。速度と費用の差がどこまで縮まるかが、今後の焦点である。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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