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アスタナ国際金融センター(AIFC)とは

カザフスタンがアスタナ市内に設けた金融特区AIFCについて、根拠となる憲法的法律、英米法にもとづく独自の法体系、AIFC裁判所と国際仲裁センター、規制当局AFSA、2066年までの税の免除、登録企業と誘致した投資の規模、世界の金融センター指数での位置づけを、公表資料にもとづいて整理する。

アスタナ国際金融センター(AIFC: Astana International Financial Centre)は、カザフスタンがアスタナ市内に設けた金融特区である。根拠は2015年12月7日の憲法的法律第438-V号「アスタナ国際金融センターについて」で、2018年に開業した。区域は市内に境界を定めた一定の地理的範囲であり、その境界は大統領が定める。2017年万博の跡地と施設が中核として使われている。

最大の特徴は法域の切り離しである。AIFCの内側で適用される法(Acting Law of the AIFC)は、この憲法的法律と、AIFCの機関が制定するAIFC法、そして両者が定めない事項に適用されるカザフスタン法の三層で構成される。憲法的法律第4条は、AIFC法をイングランド・ウェールズ法の原則・法令・判例と、主要な国際金融センターの基準にもとづいて制定できると定めている。旧ソ連圏の司法と会社法に対する外国投資家の警戒を、制度ごと迂回する仕組みといえる。第15条により公用語は英語で、AIFC法の起草・採択、区域内に提出される財務・統計文書、裁判手続はいずれも英語で行われる。

規模は開所以来伸び続けている。AIFCが2026年8月27日に公表した参加者統計によれば、2026年6月30日時点の参加者は6,014社で、同年上半期だけで1,065社(22%)増えた。2018年から2026年上期までにAIFCの枠組みを通じて誘致された投資は累計263億ドル、参加者が納めた税は累計3,537億テンゲにのぼる。

同じ発想の特区としては、ドバイのDIFCやアブダビのADGMがある。いずれも自国の一般法から切り離した区域にコモンローの体系と専用の裁判所を置く設計である。この地域を見渡すと、ジョージアの主要銀行がロンドン上場という形を取るのに対し、カザフスタンは自国のなかに国際基準の法域と市場を作るという別の道を選んだ。どちらも、自国の法制度だけでは国際資本を呼べないという同じ問題への答えである。

正式名称Astana International Financial Centre(AIFC)
根拠法2015年12月7日の憲法的法律第438-V号「アスタナ国際金融センターについて」。2017年3月13日(第52-VI号)、2017年12月22日(第119-VI号)、2019年12月30日(第296-VI号)、2022年12月30日(第176-VII号)に改正
所在アスタナ市内に境界を定めた区域。境界は大統領が定める
開業2018年
適用法憲法的法律、AIFC法、カザフスタン法(前二者が定めない事項)の三層。AIFC法はイングランド・ウェールズ法の原則・法令・判例と主要国際金融センターの基準にもとづいて制定できる
公用語英語(憲法的法律第15条)。AIFC法の起草と採択、区域内の文書、裁判手続がいずれも英語
機関運営評議会、総裁、AIFC庁、アスタナ金融サービス機構(AFSA)、AIFC裁判所、国際仲裁センターの6つ(第9条)
運営評議会常設の合議機関で、議長は大統領(第10条)。開発戦略、機関の構成、AFSA経営陣の任命などを決める
総裁大統領が任免する(第10-1条)。2026年時点はレナト・ベクトゥロフ
税の免除期限2066年1月1日まで(第6条)
参加者数6,014社(2026年6月30日時点)。2026年上期に1,065社・22%増
外国資本の参加2,678社(参加者の45%、2026年6月30日時点)
金融免許の保有148社(2026年6月30日時点)。うち資産運用・仲介業が106社
誘致した投資累計263億ドル(2018年〜2026年上期)。うち2026年上期が54億ドル
参加者の納税累計3,537億テンゲ(2018年〜2026年上期、財務省歳入委員会の集計)。うち2026年上期が694億テンゲ
紛争処理の実績AIFC裁判所と国際仲裁センターの累計処理は3,410件(2018〜2024年)。2024年単年は1,009件
GFCIの順位65位(2026年3月のGFCI第39版、格付684)。東欧・中央アジア地域では首位。フィンテック分野は55位
構成組織アスタナ国際取引所(AIX)、グリーン金融センター、AIFCテックハブ、AIFCアカデミー、エクスパット・センターなど

設立の経緯と目的

カザフスタンには2006年6月5日の法律にもとづく「アルマトイ地域金融センター」があった。AIFCの憲法的法律は第22条第2項でこの法律を廃止しており、制度としては前身の置き換えにあたる。国内法の枠内に金融センターを置く方式から、法域そのものを切り離す方式へ設計を変えた点が最大の違いである。

憲法的法律第2条は目的として、投資誘致のための環境づくり、証券市場の育成と国際資本市場との統合、保険・銀行サービス・イスラム金融・金融技術・デジタル資産・電子商取引の発展、国際的な最良慣行にもとづく金融・専門サービスの発展、金融センターとしての国際的な認知の獲得を挙げる。デジタル資産と金融技術は2022年12月30日の改正で加わった項目で、同じ改正でデジタル資産の特別規制制度を定める第4-1条も新設された(2023年4月1日施行)。

法域としての仕組み

AIFCの内側で何がカザフスタン法の適用を受けるかは、条文で線が引かれている。刑法と刑事手続はつねに適用される。税法も原則として適用され、第6条が定める免除だけが例外になる。建設、医療などAFSAが規制しない分野の活動にもカザフスタン法が全面的に適用される。逆に民事関係、民事訴訟、財務関係、行政手続、AIFC機関の調達手続についてはAIFC法が定めることができる。

通貨についても特則がある。第5条は、参加者の金銭債務を契約で合意した通貨で表示し履行してよいと定め、資本取引にかかる為替契約の登録、外国銀行口座への番号付与、為替取引の届出といったカザフスタンの為替管理法上の要求を、区域内の参加者の為替取引には適用しないとしている。ただしAIFCは「通貨のペリメーター」と呼ぶ枠を設けており、カザフスタン国内の居住者へ役務を提供する場合には扱える通貨などに条件がかかる。参加者どうし、または参加者と非居住者のあいだの取引は、AIFCの為替規則に沿ってどの通貨でも行える。

2019年12月30日の改正で加わった第5-1条は「AIFC投資居住者」を定義する。投資税務居住プログラムにもとづいて投資を行った外国籍者・無国籍者のうち、申請前の20年間にカザフスタンの税務上の居住者でなかった者、かつ同じ20年間にカザフスタン国籍を喪失していない者が対象になる。2026年8月13日には、投資対象の一覧にデジタル資産が加えられた。

統治の構造と規制当局AFSA

憲法的法律第9条が定める機関は、運営評議会、総裁、AIFC庁、AFSA、AIFC裁判所、国際仲裁センターの6つで、各機関は権限の行使において独立とされる。運営評議会は大統領が議長を務める常設の合議機関で、開発戦略の決定、年次報告の承認、決議の形でのAIFC法の採択、機関の構成の決定、AFSA経営陣の任命を行う。総裁も大統領が任免する。AIFC庁はカザフスタン国立銀行が設立する非営利法人で、共和国予算からの目的別移転と参加者の手数料で運営される。

アスタナ金融サービス機構(AFSA: Astana Financial Services Authority)は、AIFCにおける金融サービスと関連活動の規制を担う法人である。第12条により、AIFC法案の起草と公開協議、規程の制定、参加者の登録・承認・免許、登録簿の管理、消費者保護と監督、資金洗浄・テロ資金供与対策の規則制定と監督を行う。免許が要るのは、投資運用、ブローカー・ディーラー、銀行業、駐在事務所の運営といった規制対象活動、取引所・清算機関・クラウドファンディング基盤の運営といった市場活動、法務・監査・コンサルティング・会計・信用格付けといった付随役務である。持株、IT、商取引などの非金融の活動は登録だけでよい。

AFSAは2026年8月20日付の通知(AFSA-ATD-NOT-2026-0018)で、承認済みの規制体制のもとですでに免許を受け監督されている金融事業者を対象に、簡略化した承認手続を導入した。当初の対象は英国のFCA、オーストラリアのASIC、シンガポールのMAS、香港のSFCとHKMA、アブダビ・グローバル・マーケットのFSRA、ドバイのDFSA、カタール金融センターのQFCRAの8当局である。

AIFC裁判所と国際仲裁センター

AIFC裁判所は、憲法的法律第13条により、カザフスタンの司法制度の一部ではない独立した裁判所として置かれている。第一審と控訴審の二審制で、首席裁判官と裁判官は総裁の推薦にもとづいて大統領が任免する。管轄は、参加者どうしの紛争、参加者と機関の紛争、参加者または機関とその外国人被用者の紛争、AIFCで行われAIFC法が規律する活動に関する紛争、当事者の合意によって付託された紛争に及ぶ。刑事と行政の事件は扱わない。AIFC法の解釈権は同裁判所が専属して持つ。

控訴審の判決は終審で、すべての自然人・法人を拘束する。判決はカザフスタン国内で同国の裁判所の裁判と同じ方法・条件で執行されるが、執行にはカザフ語またはロシア語への翻訳が必要になる。同裁判所の説明によれば、首席裁判官のほかに10名の裁判官が在籍し、うち6名が第一審と控訴審を、4名が少額請求を担当する。15万ドル以下の請求には少額裁判所の簡易手続があり、オンラインで提訴できるeJusticeの仕組みを持つ。国際仲裁センター(IAC)は当事者間の仲裁合意にもとづいて紛争を扱い、その仲裁判断はカザフスタン国内の仲裁機関の判断と同じ条件で承認・執行される。

両者を合わせた処理件数は、2018年から2024年までの累計で3,410件である。2024年単年は1,009件で、内訳は裁判所の判決54件、仲裁判断241件、調停による和解714件だった。当事者の国籍は32か国におよぶが、件数の79.3%はカザフスタンで、ロシア5%、ウズベキスタン3.8%、トルコ3.2%が続く。国際的な事件を扱う機関として設計されているが、実際の利用は国内の商事紛争が中心である。

税制

税の枠組みはカザフスタンの税法に従い、憲法的法律第6条が定める免除だけが例外になる。免除の期限はいずれも2066年1月1日である。

法人所得税については、AIFCの機関とその組織が免除される。参加者は、区域内で提供する一定の金融サービスから得た所得について免除される。対象はイスラム銀行業、再保険と保険仲介、投資ファンドの資産運用・記帳・保管およびファンド証券の発行・募集・売買・償還に関する役務、ブローカー・ディーラー・引受業務、そしてAIFCと国家計画当局・徴税当局が共同で承認するAIFC法が定めるその他の金融サービスである。デジタル資産取引所はこの免除の対象から外れている。加えて、AIFCの機関および上記の金融サービスを提供する参加者に対して法務・監査・会計・コンサルティングの役務を提供した所得も免除される。

個人所得税については、上記の役務を提供する参加者またはAIFCの機関に雇用される外国籍者が、雇用契約にもとづき区域内の活動から得た所得について免除される。さらに、自然人・法人を問わず、取引所の公式リストに載る証券の売却益、AIFC法にもとづき登記された参加者の株式・持分の売却益、公式リストに載る証券の配当と利子、参加者の株式・持分の配当が所得課税から免除される。免除される所得と課税される所得を分けて記帳する手続は、AIFC法と国家計画当局・徴税当局の規程で共同して定められる。AIFCは、この税制がBEPS(税源浸食と利益移転)の基準に沿うものだと説明している。

参加者の構成と財政への効果

2026年6月30日時点の6,014社は、金融関連が2,007社(34%)、法務・監査・会計・コンサルティングなどの専門サービスが134社(2%)、それ以外が3,873社(64%)という構成である。金融関連のうち免許を持つのは148社にすぎず、うち106社は資産運用とブローカー・ディーラーである。免許を要しない金融関連の会社1,530社の大半(1,296社)は持株会社で、このほか投資ファンド203件と特別目的会社101件、フィンテック・ラボの規制サンドボックスに25社が入る。非金融の3,873社は情報通信982社、卸小売862社、専門・科学・技術サービス661社が上位で、金融特区でありながら登録企業の多数派は金融業ではない。

国・地域別では、カザフスタン籍が3,336社、アジア1,656社、欧州729社、中東133社、北米109社である。外国資本が入るのは2,678社(45%)で、その大半(2,081社)は非金融の会社である。これとは別に、区域内に拠点を置かずにAIFCで活動することを認められた「非AIFC承認会社」が62社ある。

誘致した投資は、資本市場を通じたポートフォリオ投資と参加者による直接投資の合計で、2026年上期末の累計263億ドル(ポートフォリオ155億ドル、直接108億ドル)である。年ごとの増分は2023年30億ドル、2024年34億ドル、2025年66億ドルと伸び、2026年は上期だけで54億ドルと前年通年の82%に達した。参加者の納税額は累計3,537億テンゲで、内訳はその他の会社が52%、金融会社が41%、専門サービス会社が7%である。税の免除が金融サービスの所得に絞られているため、納税額では非金融の会社が最大の項目になる。雇用については、2024年の年次報告が「参加者が生んだ国内の雇用は1万人超(前年から2,844人増)」としており、以後の更新値は公表されていない。

域外企業の受け皿としての機能

AIFCは、外国の法域で設立された会社が登記をAIFCへ移す再登記(redomiciliation)を認めている。AFSAが登記機関として手続を担い、移転した会社はAIFC法にもとづく法人として扱われる。区域外の外国会社の支店も、AFSAの登録を受ければ参加者になれる。

この機能が使われた最もよく知られた例が、ポリメタル・インターナショナルからソリッドコア・リソーシズへの一連の再編である。同社は登記をAIFCへ移し、そのためにロンドン証券取引所の主要市場に上場を維持する要件を満たせなくなり、AIXが主たる上場市場になった。詳細は同社の解説で扱う。再登記では移転先の法域の会社法が適用されるため、株主の権利、決済インフラ、指数への採用の可否がまとめて変わる。

構成組織と国際的な評価

憲法的法律が定める6機関のほかに、AIFCは複数の組織を抱える。アスタナ国際取引所(AIX)は中央アジアとその周辺で流動性のある資本市場をつくるために設けられた取引所で、別項で扱う。グリーン金融センターはグリーン・持続可能性関連の金融手段で投資を呼び込み官民に助言する組織で、2026年8月にはタジキスタンの国家としてのサステナブル・ファイナンス枠組みに対して中央アジアで初めての第三者意見を出した。AIFCテックハブは金融技術・人工知能の実証と提携、AIFCアカデミーは実務者向けの教育、エクスパット・センターは外国人の移住手続の一括窓口を担う。これらは毎年9月のアスタナ・ファイナンス・デイズでそれぞれセッションを持ち、制度改正や新商品の発表がその数日間に集中する。

外部の評価としてAIFCが繰り返し引用するのが、ロンドンのZ/Yenグループなどが半年ごとに公表する世界の金融センター指数(GFCI)である。2026年3月26日公表の第39版で、アスタナは総合65位(格付684)となり順位を3つ上げた。ただし格付そのものは7ポイント下がっている。第39版は多くの都市の格付が下がった版であり、順位の上昇は相対的なものである点をAIFC総裁自身が前書きで述べている。地域別ではアスタナが東欧・中央アジア地域の首位を保ち、キプロス78位、ワルシャワ85位、アルマトイ99位、イスタンブール101位が続く。フィンテック分野の別ランキングでは55位で前版の64位から9つ上げた。過去の版と比べると第37版64位、第38版68位、第39版65位という推移である。

数字の読み方

AIFCの規模を示す数字は、出どころによって食い違う。公式サイトのトップページは2026年9月時点で「登録企業6,600社超」「誘致した投資270億ドル」と表示するが、同じAIFCが2026年8月27日に公表した参加者統計は6月30日時点で6,014社・263億ドルとしている。前者は基準日を示さない累計の表示、後者は半期ごとの集計であり、同じ指標として並べることはできない。年ごとに比べるなら、基準日が明示されている参加者統計の系列を使うのが安全である。

「参加者」の語も広い。6,014社のうち金融の免許を持つのは148社で、残りは免許を要しない持株会社、IT、商社などである。金融センターの規模を測る目的で参加者数を使うと、実態を大きく上回る数字になる。

誘致した投資と納税額はAIFC自身が集計した値である(納税額の原資料は財務省歳入委員会)。報告書自身が、一次と二次の情報を誠実に集めたものであり正確性を保証する立場にないと断っており、第三者による検証は行われていない。裁判所と仲裁センターの件数も区分を確かめる必要がある。2024年の1,009件のうち裁判所の判決は54件で、残りは仲裁判断と調停による和解である。「処理件数」を裁判の件数として読むと10倍以上の過大評価になる。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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