中央アジア・コーカサスの8か国は、ソ連解体後の1990年代前半にそれぞれ独自通貨を導入した。ルーブル圏から離脱して自国の金融政策を持つための措置で、導入時期はおおむね1993年から1995年に集中している。名前が似ていて紛らわしいものが多く、アゼルバイジャンとトルクメニスタンはどちらも「マナト」、キルギスの「ソム」とウズベキスタンの「スム」は同じ語源(テュルク諸語で「純粋な」の意)である。
8つの通貨は同じ制度で運営されているわけではない。インフレ目標を掲げて政策金利で運営する変動相場制の国、中央銀行が変動をならしながら運営する国、そして公定レートを固定している国が並んでいる。政策金利の水準も2026年9月時点で6.5%から16.75%まで開いており、同じ地域だからといって金融環境をひとまとめに見ることはできない。
この違いは、記事の数字の読み方にも直結する。自国通貨建てとドル建てで伸び率が食い違うこと、公定レートと市場実勢の参考レートが別物であること、ドル化の水準が国によって大きく違うことを押さえておくと、統計と決算を誤読しにくくなる。
| ジョージア | ラリ(GEL、記号 ₾)。1995年導入。補助単位テトリ。公定レートは1ドル=2.6205ラリ(2026年9月3日) |
|---|---|
| アルメニア | ドラム(AMD、記号 ֏)。1993年導入。補助単位ルマ。公定レートは1ドル=364.19ドラム(2026年9月時点) |
| アゼルバイジャン | マナト(AZN、記号 ₼)。2006年にデノミ。補助単位ゲピク。公定レートは1ドル=1.7000マナト(2026年9月時点) |
| カザフスタン | テンゲ(KZT、記号 ₸)。1993年導入。補助単位ティイン。公定レートは1ドル=455.40テンゲ(2026年9月3日) |
| ウズベキスタン | スム(UZS)。1994年に現行スム導入。補助単位ティーイン。公定レートは1ドル=11,813.09スム(2026年9月3日) |
| キルギス | ソム(KGS)。1993年導入。補助単位ティイン。公定レートは1ドル=87.4488ソム(2026年9月4日) |
| タジキスタン | ソモニ(TJS)。2000年導入。補助単位ディラム。公定レートは1ドル=9.2525ソモニ(2026年9月時点) |
| トルクメニスタン | マナト(TMT)。2009年にデノミ。補助単位テネシ。公定レートは1ドル=3.5000マナト(2026年9月時点) |
| 政策金利(2026年9月時点) | カザフスタン16.75%、ウズベキスタン14%、キルギス12.00%、ジョージア8.25%、タジキスタン7.00%、アルメニア6.50%、アゼルバイジャン6.5% |
| インフレ目標 | ジョージア3%、カザフスタン5%(中期)、ウズベキスタン5%、タジキスタン5%(中期、上下2ポイント)、キルギス5〜7%(中期) |
為替制度は国によって大きく違う
ジョージアのラリとアルメニアのドラムは変動相場制で、中央銀行はインフレ目標を掲げて政策金利で運営する。市場の需給が素直に反映されるため、送金流入や観光収入の増減が相場に表れやすい。
カザフスタンのテンゲは2015年8月に変動相場制へ移行した。原油価格とロシア・ルーブルの動きに連動しやすく、資源価格が下がると減価する傾向がある。国立銀行は柔軟な為替制度を維持すると繰り返し表明しており、2026年8月には為替介入を行っていない。一方で、国民基金の外貨売却や年金資産の外貨買い入れといった公的な主体の売買が需給に効くため、その規模を月ごとに公表している。2026年8月末のテンゲは月間で2.6%上昇して1ドル=461.57テンゲとなり、9月3日の公定レートは455.40テンゲだった。
ウズベキスタンのスムは2017年9月に大幅な自由化を行い、それまでの公定レートと闇レートの二重構造を解消した。以後は市場実勢に近い水準で推移し、中央銀行が過度な変動をならす運用を続けている。キルギスのソムとタジキスタンのソモニも、中央銀行が公定レートを日々公表しながら変動を許す形をとる。
アゼルバイジャンのマナトは、中央銀行が公表する対ドルの公定レートが1ドル=1.7000マナトで動いていない。2021年9月、2023年9月、2025年9月、2026年9月のいずれの時点でも同じ値である。トルクメニスタンのマナトも公定レートが1ドル=3.5000マナトに固定されている。ドル建てに換算された両国の統計は、どのレートで換算したかによって意味が変わるため、換算の前提を確かめる必要がある。
公式レートの決め方
公定レートは、中央銀行が政令のように決める値ではなく、多くの国で前営業日の市場取引から算出される。カザフスタン国立銀行は、取引所でアスタナ時間15時30分に確定したテンゲの対ドル加重平均レートを、その取引日の翌営業日の公定レートとすると明示している。ドル以外の通貨は、16時に確定するクロスレートから計算される。
この決め方の帰結として、公定レートは常に1営業日遅れる。土日と祝日は前営業日の値が据え置かれる。月間の平均レートを自分で計算するときに、日ごとの公定レートを単純平均すると、取引の多い日と少ない日の重みが同じになる点にも注意が要る。カザフスタン国立銀行は月平均のレートを公表していない。
日々の報道や為替情報サイトで見る値は、市場実勢を集計した参考レートであることが多く、中央銀行の公定レートとは一致しない。統計や決算をドルへ換算するときは、どちらを使ったかで結果が変わる。
政策金利とインフレ目標
カザフスタン国立銀行は2026年7月24日、政策金利を16.75%へ引き下げた(上下1ポイントの回廊付き)。中期のインフレ目標は5%で、消費者物価は2026年8月に前年同月比9.8%と、7月の10.2%から鈍化した。次の決定は9月4日に予定されている。
ウズベキスタン中央銀行の政策金利は2026年8月時点で14%である。インフレ目標は5%で、同行は金融政策の指針から段階的な緩和を示唆する文言を取り下げた。金の輸出停止と対外不均衡が、緩和に踏み切りにくい理由として挙げられている。
キルギス国立銀行は2026年8月24日、政策金利を12.00%に据え置くと決定した(8月25日発効)。オーバーナイト貸出は14.00%、オーバーナイト預金は10.00%である。同行によれば、2026年に入ってからの消費者物価の上昇は8月14日時点で7.3%、年間では11.7%だった。中期の目標は5〜7%で、次の決定は10月26日に予定されている。
ジョージア国立銀行の政策金利は8.25%である。2023年5月から2024年5月にかけて11.0%から8.0%へ下げた後、2年にわたって8.0%を維持したが、2026年5月6日に25ベーシスポイントの利上げに転じ、7月29日の会合でも据え置いた。同行はインフレ目標を3%としており、その水準を「発展途上の国にとって最適」と説明している。目標を下回るほど低くすると成長を妨げる、というのがその理由である。
アルメニア中央銀行は2026年8月4日、政策金利を6.50%に据え置いた。消費者物価は2026年7月に前年同月比4.5%で、域内では低い部類に入る。アゼルバイジャン中央銀行の割引率は2026年2月5日から6.5%で、金利回廊の下限は5.5%、上限は7.5%である。タジキスタン国立銀行の再貸出金利は2026年2月2日から7.00%、オーバーナイト貸出は再貸出金利プラス3ポイント、オーバーナイト預金はマイナス3ポイントである。中期のインフレ目標は5%(上下2ポイント)で、2026年7月の年間インフレは4.1%だった。
ドル化と脱ドル化
ドル化とは、預金や貸出が自国通貨ではなく外貨(多くは米ドル)建てで行われる割合のことである。比率が高いほど、通貨が減価したときに借り手の返済負担が跳ね上がり、銀行の資産の質が悪化しやすい。中央銀行にとっては、政策金利を動かしても経済に効きにくくなる問題でもある。
カザフスタンでは、この比率が着実に下がってきた。国立銀行の個人預金統計によれば、外貨建ての比率は2022年6月末の35.0%から、2023年6月末30.4%、2024年6月末25.4%、2025年6月末23.1%を経て、2026年6月末には19.8%になった。同じ期間に個人預金の残高は13兆6,940億テンゲから30兆151億テンゲへ増えている。
ジョージアは制度で脱ドル化を進めてきた国である。国立銀行が挙げる施策には、2017年7月1日から法人が提供する商品・役務の価格表示を自国通貨に限ったこと、2019年から20万ラリ未満の少額融資を自国通貨建てでしか出せないようにしたこと、バーゼルIIIに沿う流動性カバレッジ比率で自国通貨を優遇したこと、2015年1月1日より前に実行された融資の自国通貨への転換を一度限りの措置として支援したことが含まれる。長期のラリ資金を増やすため、国債市場の整備と年金改革も同じ文脈で進められている。
キルギスでは、貸出のドル化率が2025年末で18.3%と、前年から1.8ポイント下がった。国ごとに預金と貸出のどちらが先に下がるかは異なり、外貨建ての負債が貸出より高い比率で残る場合には、通貨の不一致が銀行部門に残る。
数字の読み方
この地域の統計は、自国通貨建てとドル建てで伸び率が食い違うことがよくある。通貨が減価した年は、自国通貨建てで二桁成長でもドル建てでは横ばい、ということが起きる。逆に通貨が上昇した局面では、ドル建ての数字が実力以上に大きく見える。実例として、カザフスタンの2026年7月の国際送金はテンゲ建てで前年同月比20.0%減だったが、月内の公定レートで換算すると10.3%減にとどまった。テンゲが1年で1ドル=528.75テンゲから471.74テンゲへ上昇したためである。
対GDP比のような比率も、分母と分子の通貨が揃っているかで意味が変わる。国際機関の系列はドル建てで揃えられていることが多く、各国当局の月次統計は自国通貨建てのことが多い。両者を並べると増減の向きが食い違うことがある。
為替制度の違いは、通貨の名目の変化率をそのまま比較できないことも意味する。公定レートが固定されている国では、名目レートが動かない代わりに物価や並行する取引条件の側に調整が出る。ドル換算された数字を国際比較に使うときは、どのレートで換算されたものかを確かめる必要がある。
参考資料
- Daily Official (market) Foreign Exchange Rates(カザフスタン国立銀行) ↗
- The base rate reduced to 16.75%(カザフスタン国立銀行、2026年7月24日) ↗
- Deposits of individuals in the banks of Kazakhstan(カザフスタン国立銀行) ↗
- Inflation Target(ジョージア国立銀行) ↗
- Larization Measures(ジョージア国立銀行) ↗
- Uçot faiz dərəcəsi(アゼルバイジャン中央銀行、割引率と金利回廊) ↗
- Policy rate(ウズベキスタン中央銀行) ↗
- Пресс-релиз о размере учетной ставки(キルギス国立銀行、2026年8月24日) ↗
- Отчет о стабильности финансового сектора Кыргызской Республики за 2025 год(キルギス国立銀行、貸出のドル化率) ↗
- Процентные ставки монетарной политики(タジキスタン国立銀行) ↗
- Merkezi Bankyň walýuta kursy(トルクメニスタン中央銀行の公定レート) ↗
- Central Bank of Armenia(政策金利の告知) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。