GUIDE · 経済・金融2026年9月時点

カスピ海の原油と油種(CPCブレンド、KEBCO、アゼリ・ライト)とは

カザフスタンとアゼルバイジャンが輸出する原油の油種について、品質の指標と実際の値、輸出経路ごとに油種が分かれる理由、CPCの品質バンク、税法が定める「世界価格」の建値、トンとバレルの換算、そして生産量と輸出収入が同じ方向に動かない理由を、公表資料にもとづいて整理する。

原油には規格品がない。産地ごとに比重も硫黄分も違い、精製したときに出てくる製品の構成も違う。だから原油は「◯◯産の原油」ではなく、混ぜたあとの品質でひとまとまりにした油種(グレード)の単位で売買される。カスピ海の周辺では、カザフスタンのCPCブレンドとKEBCO、アゼルバイジャンのBTCブレンドとアゼリ・ライトが主な油種である。

品質を測る指標は主に二つある。ひとつはAPI比重で、数字が大きいほど軽い。もうひとつは硫黄分で、少ないほど「スイート(低硫黄)」と呼ばれ、精製設備への負担が小さい。カスピ海の原油はどちらの指標でも良質な部類に入る。CPCブレンドはAPI45.3度・硫黄0.56%、BTCブレンドはAPI36.6度・硫黄0.15%である。

油種は地理でも分かれる。同じ国から出る原油でも、どのパイプラインで運ぶかによって別の油種になる。カザフスタンの原油は、黒海のノヴォロシースクへ向かうカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)の系統に入ればCPCブレンドとして、ロシアの幹線パイプラインと港を経由すればKEBCOとして売られる。アゼルバイジャンの原油も、地中海のジェイハンへ抜ければBTCブレンド、黒海のスプサへ抜ければアゼリ・ライト、ロシア向けの北ルートに入ればロシア国内で混ぜられてウラル・ブレンドになる。経路が変われば売り物の名前と値段が変わる。

この構造を知らないと、報道に出てくる数字が読めない。「カザフスタンの原油価格」という単一の値段は存在せず、CPCブレンドとKEBCOでは建値も引き渡し条件も違う。生産量と輸出収入が同じ方向に動かないのも、経路ごとの油種と価格が別々に決まるためである。

CPCブレンドカザフスタンの主力輸出油種。API比重45.3度、硫黄分0.56%の軽質・低硫黄原油で、ガソリンと軽質留分の収率が高い。テンギス油田の産油がCPCブレンドの約6割を占め、ほかにカラチャガナク、カシャガン、クムコルの各鉱区と、シベリアン・ライトなどロシアの油種が混ざる(米エネルギー情報局の国別分析、2019年1月更新)
KEBCOKazakhstan Export Blend Crude Oil。ロシアの幹線パイプラインと港を経由して出荷されるカザフ産原油の呼称。建値はCIFアウグスタで公表される
BTCブレンドアゼルバイジャンの主力輸出油種。API比重36.6度、硫黄分0.15%。バクー・トビリシ・ジェイハン・パイプラインで運ばれ、この名で売られる。アゼリ・チラグ・グナシリ鉱区の原油を主体に、シャフデニズのコンデンサート、トルクメニスタン・カザフスタン・ロシアの原油やコンデンサートが混ざる(同)
アゼリ・ライトバクー・スプサ・パイプラインで運ばれる油種。API比重35.2度、硫黄分0.14%(同)
アゼルバイジャンの北ルートロシア向けの北部輸出パイプラインで出る少量の低品位原油は、ロシア国内で混合されウラル・ブレンドとして売られる(同)
CPCの品質バンク2002年から稼働。API比重と硫黄分の2指標で、投入した原油と引き取った原油の品質差を金銭で精算する。11の参照油種からなるバスケットを基準に、2週間ごとに評価する(CPC)
カザフスタンの税法上の標準油種「ウラル地中海(Urals Med - CIF Augusta)」「Kazakh Export Blend Crude Oil(Kebco - CIF Augusta)」「North Sea Dated(Brent Dtd)」の3つ。建値の出所はArgus Mediaの Argus Crude で、掲載がない場合はS&P Globalの資料を使う(2026年施行の税法典)
同 — 建値の選び方供給契約にUralsまたはKEBCOと書かれている場合は、両方の建値のうち課税期間の世界価格が高いほうを使う。Brentと書かれていればBrent Dtdを使う。上記以外の油種が書かれている場合は、世界価格が最も高い標準油種に割り当てる義務がある
同 — 日次の建値の作り方各日の建値は、その日の最低値と最高値の平均をとる。課税期間の世界価格は、日次の建値の単純平均と、期中の平均為替レートの積として決まる
カザフスタンの輸出レント税世界価格に応じた階段状の税率。1バレル40ドル以下は0%、50ドル以下7%、60ドル以下11%、70ドル以下14%、80ドル以下16%、90ドル以下17%、100ドル以下19%、110ドル以下21%、150ドル以下26%、200ドル以上32%。課税期間は四半期
カズムナイガスの開示(2026年上半期)Dated Brentの平均が1バレル92.31ドル、KEBCOの平均が92.44ドル。前年同期はそれぞれ71.87ドルと72.83ドル。出所はS&P Global Platts
トンとバレルの換算税法典は油の品質証明書に記された密度と温度にもとづく「バレル化係数」で換算する。カズムナイガスの2026年上半期の開示から逆算すると、テンギス・カシャガン・カラチャガナクはいずれも1トンあたり約8.0バレル、同社の連結ベースの産油は約7.6バレルにあたる
カザフスタンの生産(2026年)1〜7月の原油生産は5,320万トンで前年同期比8.9%減。通年の石油・ガスコンデンセート生産計画は9,600万トンで、当初の9,800万トンから改定された(エネルギー相、2026年8月25日)
カザフスタンの輸出(2026年上半期)輸出総額403億ドルのうち原油・石油製品が46.5%(約188億ドル)。輸出総額は前年同期比8.6%増
カザフスタンの精製2025年の処理量は1,840万トン、石油製品の生産は1,547万トン。2026年の製品生産計画は1,549万トン。2025〜2040年の構想では処理能力を1,800万トンから4,000万トンへ引き上げる(エネルギー省)
アゼルバイジャンの生産(2026年1〜7月)原油・ガスコンデンセート1,554万3,300トンで3.1%減、うち商品分1,550万4,100トン。天然ガスは295億6,580万立方メートルで1.1%増(国家統計委員会の月報)
アゼルバイジャンの生産枠OPECプラスにおける同国の日量産油枠は55万1,000バレル。2026年末まで一定に保つことが決まっている。OPECプラス全体の2026年末までの生産指標は日量3,970万バレル(アゼルバイジャンエネルギー省、2026年7月20日時点)

カザフスタン — CPCブレンドとKEBCO

CPCブレンドは、カザフスタンの主力輸出油種である。米エネルギー情報局の国別分析は、API比重45.3度、硫黄分0.56%の非常に軽い低硫黄原油で、ガソリンと軽質留分の収率が高いために評価が高いと説明する。テンギス油田の産油がCPCブレンドの約6割を占め、そこにカラチャガナク、カシャガン、クムコルの各鉱区の原油と、シベリアン・ライトなどロシアの油種が混ざる。個々の構成油種も少量なら別の油種として売られてきたが、CPCパイプラインの拡張とともに単独で売られる量は減った。

KEBCO(Kazakh Export Blend Crude Oil)は、ロシアの幹線パイプラインと港を経由して出荷されるカザフ産原油の呼称である。カザフスタンの税法典は、この油種の建値を「Kazakh Export Blend Crude Oil(Kebco - CIF Augusta)」として定義しており、引き渡し条件はイタリア・アウグスタ着のCIFである。同じ条文はウラル地中海の建値も「Urals Med - CIF Augusta」として並べており、両者が同じ市場・同じ引き渡し条件で評価されていることが読み取れる。

国営カズムナイガスは四半期の決算でDated BrentとKEBCOの平均価格を並べて開示している。2026年上半期はDated Brentが1バレル92.31ドル、KEBCOが92.44ドルで、前年同期はそれぞれ71.87ドルと72.83ドルだった。KEBCOのほうが高く見えるが、これは品質がBrentより良いという意味ではない。Dated BrentはFOBの北海積み、KEBCOはCIFアウグスタ着で、後者には輸送費と保険料が含まれる。引き渡し条件の異なる二つの数字を並べているだけなので、この差を品質の差額として読んではいけない。同社は建値の出所をS&P Global Plattsとのみ記しており、開示の中に引き渡し条件の説明はない。

品質バンク — 混ぜたあとで精算する

複数の生産者が同じパイプラインに原油を流し込むと、良質な原油を入れた者が損をし、劣る原油を入れた者が得をする。CPCはこの不公平を金銭で調整する仕組みを2002年から動かしている。品質バンク(Quality Bank)と呼ばれ、国際的なコンサルタントの助言を受けて設計された。

仕組みは単純である。パイプラインに投入した原油と、末端で引き取った原油について、API比重と硫黄分の2指標を測る。CPC自身の説明によれば、この2指標が精製の採算と市場での値決めを決める要素だからである。11の油種からなる参照バスケットを基準に、2週間ごとに品質の価値を評価し、品質が基準より良ければバンクから受け取り、悪ければバンクへ支払う。CPCの系統を使う荷主はこの仕組みへの参加を義務づけられている。

品質バンクがあるために、CPCブレンドという油種の品質は取引の実態から見て安定している。逆に言えば、個別の鉱区の原油がどれだけ良質でも、パイプラインに入れた時点でその価値は金銭の精算に置き換わり、市場では混合後の一つの油種として値がつく。

アゼルバイジャン — BTCブレンドとアゼリ・ライト

アゼルバイジャンの原油は中質から軽質の低硫黄で、輸出経路によって三つに分かれる。主力はバクー・トビリシ・ジェイハン・パイプラインで運ばれるBTCブレンドで、API比重36.6度、硫黄分0.15%である。BTCブレンドの主体はアゼリ・チラグ・グナシリ鉱区の原油だが、シャフデニズのコンデンサートに加えて、トルクメニスタン、カザフスタン、ロシアの鉱区から来る原油やコンデンサートも混ざる。BTCの起点であるサンガチャル・ターミナルがカスピ海沿岸のどの国からもタンカーで受け入れられるためである。

第二がバクー・スプサ・パイプラインで黒海へ抜ける分で、アゼリ・ライトとして売られる。API比重35.2度、硫黄分0.14%で、BTCブレンドとほぼ同等の品質である。第三がロシア向けの北部輸出パイプラインで、少量の低品位原油が流れ、ロシア国内で混合されてウラル・ブレンドとして売られる。

BTCが建設された意味は、この三番目との対比にある。米エネルギー情報局は、BTCの完成がアゼルバイジャンの石油産業を変えたのは、ウラル・ブレンドより軽くて硫黄分の少ない原油を、混ぜずにそのまま輸出できるようになったためだと記す。混合を避けることは、油種としての値段を守ることと同じである。

価格はどう決まるか

原油の取引価格は、指標油種の建値に品質と地理の差額(ディファレンシャル)を足し引きして決めるのが一般的である。カスピ海の油種の場合、指標になるのは北海のDated Brentと、地中海市場のウラル地中海である。

カザフスタンの税法典は、この値決めの構造をそのまま制度に取り込んでいる。石油の「世界価格」を計算する際の標準油種を、ウラル地中海(CIFアウグスタ)、KEBCO(CIFアウグスタ)、North Sea Dated(Brent Dtd)の三つに限定し、建値の出所をArgus MediaのArgus Crudeと定める。掲載がない場合はS&P Globalの資料を、それもなければ移転価格税制で定める他の情報源を使う。

割り当ての規則には特徴がある。供給契約に油種としてUralsまたはKEBCOと書かれている場合、納税者はウラル地中海とKEBCOの二つの建値のうち、課税期間の世界価格が高いほうを使わなければならない。契約にBrentと書かれていればBrent Dtdを使う。そして上記以外の油種が書かれている場合は、世界価格が最も高い標準油種に割り当てる義務がある。CPCブレンドはこの三つの標準油種に含まれていないため、最後の規則の対象になる。安い建値を選んで課税所得を圧縮することを封じる設計である。

日次の建値の作り方も条文にある。各日の建値は、その日に公表された最低値と最高値の平均をとる。課税期間の世界価格は、日次の建値の単純平均と、期中の平均為替レートの積として決まる。

税率は世界価格に連動する。輸出レント税は1バレルあたりの世界価格に応じた階段状の表になっており、40ドル以下は0%、50ドル以下7%、60ドル以下11%、70ドル以下14%、80ドル以下16%、90ドル以下17%、100ドル以下19%、110ドル以下21%、150ドル以下26%と上がり、200ドル以上で32%に達する。2026年上半期のDated Brentの平均92.31ドルは「100ドル以下」の区分に入り、税率は19%である。価格が上がれば手取りは増えるが、増え方は価格の上昇率ほどではない。

トンとバレルの換算

カスピ海周辺の統計はトンで、価格はバレルで示されることが多い。換算は油種ごとに違う。軽い原油ほど同じ重さで体積が大きくなるため、1トンあたりのバレル数は多くなる。

カザフスタンの税法典は、この換算を厳密に扱う。品質証明書に記された密度と温度を標準状態に換算したうえで「バレル化係数」を求め、産油量ごとの加重平均をとる。鉱物採掘税の計算では、この加重平均係数を使ってトンをバレルに直す。

実際の値は開示から逆算できる。カズムナイガスの2026年上半期の報告では、テンギス油田の同社持ち分の生産が332万1,000トン・日量14万7,000バレル、カシャガンが152万トン・日量6万7,000バレル、カラチャガナクが49万9,000トン・日量2万2,000バレルとされている。いずれも1トンあたり約8.0バレルにあたる。一方、同社の連結ベースの石油・ガスコンデンセート生産は1,243万7,000トン・日量52万2,000バレルで、こちらは1トンあたり約7.6バレルである。マンギスタウなど比重の重い鉱区を含むためである。

差は5%に達する。単一の換算係数で国全体の生産量をバレルに直すと、この幅の誤差が入る。国際比較の表に載っている日量の数字が、どの係数で作られたかは通常示されない。

生産と輸出収入は同じ方向に動かない

カザフスタンの2026年は、この乖離が大きく出た年である。国家統計局のデータによれば1〜7月の原油生産は5,320万トンで前年同期比8.9%減、7月単月では12%減まで落ちた。原因は1月のテンギス油田の設備火災と、輸出の8割超を担うCPCルートの混乱である。一方で上半期の輸出総額は403億ドルで8.6%増え、原油・石油製品が輸出収入の46.5%を占めた。物量が減っても価格が上がれば輸出額は伸びる。

エネルギー相は2026年8月25日、2026年の石油・ガスコンデンセート生産計画を9,800万トンから9,600万トンへ改定したと述べた。CPCへの攻撃による生産の逸失を約350万トンとし、テンギスシェブロイルとNCOCが大規模補修を翌年へ繰り延べたことが一定の余裕を生んだとも説明している。ここで注意がいるのは範囲で、大臣が3月に示した9,600万〜9,800万トンという見通しは「石油・ガスコンデンセート・軽質炭化水素混合物」の合計であり、8月の数字とは対象が違う。

アゼルバイジャンでも同じ構図が見える。国家統計委員会の月報によれば、2026年1〜7月の原油・ガスコンデンセートの生産は1,554万3,300トンで3.1%減、鉱業部門の産出額は234億9,000万マナトで前年同期並み、うち原油・天然ガスの生産は208億3,390万マナトで1.5%減だった。生産量も産出額も減っているが、石油製品の輸出収入は同期間に2倍以上に増えている。

産油国の輸出枠にも制約がある。アゼルバイジャンのエネルギー省によれば、同国はOPECプラスの枠組みと協力憲章のもとで協調しており、日量の産油枠は55万1,000バレルで、2026年末まで一定に保つことが決まっている。OPECプラス全体の2026年末までの生産指標は日量3,970万バレルである。統計委員会が公表する生産量にはガスコンデンセートが含まれるため、産油枠と直接は比べられない。

数字の読み方

第一に、価格を並べるときは引き渡し条件をそろえる。Dated BrentはFOB、KEBCOとウラル地中海はCIFアウグスタである。輸送費と保険料が含まれるかどうかで数ドルの差が出るため、CIFの建値がFOBの指標を上回っても品質が良いことを意味しない。

第二に、油種名は経路の名前でもある。CPCブレンド、KEBCO、BTCブレンド、アゼリ・ライトは、いずれもどのパイプラインで運ばれたかを示している。輸送の混乱が起きると、生産量が変わらなくても油種ごとの出荷量と価格は動く。

第三に、生産量の統計は対象範囲を確かめる。「原油」「原油・ガスコンデンセート」「原油・ガスコンデンセート・軽質炭化水素混合物」は別の系列で、カザフスタンのエネルギー省は年によって使い分けている。前年比を計算する前に、分子と分母の範囲をそろえる必要がある。

第四に、トンとバレルの換算係数は一つではない。カザフスタンの主要3鉱区は1トンあたり約8.0バレル、カズムナイガスの連結ベースは約7.6バレルである。国全体の生産量を単一の係数でバレルに直した数字は、5%程度の幅を持つ概算として扱う。

第五に、税制が価格の見え方を変える。カザフスタンの輸出レント税は世界価格に応じて0%から32%まで動き、鉱物採掘税も同じ「世界価格」の定義に依存する。価格が上がったときに事業者の手取りがどれだけ増えるかは、この階段のどの段にいるかで変わる。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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