GUIDE · インフラ・地理2026年9月時点

テンギス油田とカシャガン油田とは

カザフスタンの石油生産を左右する二つの巨大油田について、埋蔵量と生産量、操業会社の出資構成、テンギスの拡張事業FGP-WPMPの完了、カシャガンが硫化水素と海氷に阻まれた経緯、CPCに偏った輸出経路、そして国家財政に占める位置を、操業会社と国営カズムナイガスの公表資料にもとづいて整理する。

カザフスタンの石油生産は、事実上この二つの油田で決まる。西部の陸上にあるテンギスと、カスピ海北部の洋上にあるカシャガンである。これに西部のカラチャガナクを加えて三大油田と呼ぶ。いずれも国際石油会社が主導する合弁で、国営のカズムナイガスは少数株主として参加する。同国の輸出、国家財政、通貨テンゲの相場まで、この2か所の生産量に左右される。

二つの油田には共通点がある。どちらも原油に硫化水素を高い濃度で含む「サワー原油」で、貯留層の圧力が高く、地下深い。処理には巨大なガス処理設備と、抜いたサワーガスを地層へ押し戻す圧入設備が要る。事業費が数百億ドル規模に膨らむのはこのためで、開発の遅れと費用の超過はどちらの油田でも繰り返し起きてきた。

違うのは立地である。テンギスは陸上で、1979年の発見から半世紀近い操業の蓄積がある。カシャガンは冬に凍るカスピ海の浅海で、人工島を築いて掘るという方式を取らざるをえなかった。この違いが、二つの油田の生産の伸び方と、抱えている課題の性格を分けている。

テンギス — 所在カザフスタン西部アティラウ州の陸上。鉱区面積2,500平方キロメートルにテンギス油田とコロレフ油田を含む
テンギス — 発見1979年12月18日、深さ4,045〜4,095メートルの塩下層から最初の産油
テンギス — 原始埋蔵量テンギス油田31億トン(250億バレル)、コロレフ油田2億トン(16億バレル)。両油田の可採量は14億トン(110億バレル)と推定(操業会社テンギスシェブロイルの公表値)
テンギス — 操業会社と出資テンギスシェブロイル(TCO)。シェブロン50%、エクソンモービル・カザフスタン25%、カズムナイガス20%、ルクオイル5%
テンギス — 生産量2026年上半期の原油生産1,660万トン(約1億3,250万バレル)
テンギス — 併産物(2026年上半期)販売用ガス約26億7,000万立方メートル、LPG約61万9,000トン、硫黄約116万トン
テンギス — 拡張事業将来成長事業・坑口圧力管理事業(FGP-WPMP)。2012〜2025年。年1,200万トンの増産を狙う
カシャガン — 所在カスピ海北部の洋上。アティラウの沖合80キロ、水深3〜4メートル、貯留層は海底下約4,200メートル
カシャガン — 可採埋蔵量約90億〜130億バレル(10億〜20億トン)。操業会社NCOCの公表値
カシャガン — 操業会社と出資ノース・カスピアン・オペレーティング・カンパニー(NCOC)。カズムナイガス16.88%、アジップ16.81%、エクソンモービル16.81%、シェル16.81%、トタル16.81%、中国石油天然気集団(CNPC)8.33%、国際石油開発帝石(INPEX)7.56%
カシャガン — 生産開始2013年に生産を開始したがパイプラインの腐食で全面停止。2016年に再開し、カザフスタン史上初の洋上原油の商業生産となった
カシャガン — 施設人工島5基(D島、A島、EPC-2・3・4)と、アティラウ東方35キロの陸上処理施設ボラシャク(350ヘクタール)
カシャガン — 増産計画第2A期(2024〜2026年)で日量約50万バレル、第2B期(2025〜2031年)で日量約71万バレルを目標。投資額540億ドル(カズムナイガスの事業ページ)
三大油田の三番目西部のカラチャガナク。テンギス・カシャガンと合わせてカザフスタンの生産の中核をなす
主な輸出経路カスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)。テンギスから黒海のターミナルまで1,500キロ
2026年の国の生産計画9,600万トン。当初の9,800万トンから引き下げ(エネルギー相、2026年8月25日)

テンギス — 発見から合弁まで

テンギス油田はソ連時代の1979年に見つかった。同年12月18日に掘られた最初の坑井が、深さ4,045〜4,095メートルの塩下層から油を出している。1985年2月には開発のためテンギスネフチガス生産合同が設立されたが、同年6月にT-37坑井で火災が起き、鎮火まで400日以上を要した。米キャメロン社の技術者が加わってようやく収まったこの事故は、この油田の圧力と硫化水素の扱いにくさを象徴する出来事として語られる。

1986年から本格的な建設が始まり、西ドイツ、フランス、カナダ、ハンガリーの企業が加わってガス処理設備の建設が進んだ。1991年4月6日に坑井T-8が立ち上がり、油ガス複合施設が稼働を始めている。ソ連の解体後、1993年4月6日にアルマトイでナザルバエフ大統領とシェブロンのケネス・デア会長が合弁の設立に署名し、テンギスシェブロイルが生まれた。

2026年9月時点の出資構成は、シェブロン50%、エクソンモービル・カザフスタン25%、カズムナイガス20%、ルクオイル5%である。鉱区は2,500平方キロメートルで、超巨大油田テンギスと、規模で劣るが相当量を持つコロレフ油田を含む。テンギスの貯留層は東西20キロ、南北21キロに広がる。

テンギスの設備と、9年がかりの拡張

生産設備は世代ごとに積み上がっている。第一世代は合弁が引き継いだ油ガス分離設備で、複合技術ライン(KTL)と呼ばれる。1991年に稼働したKTL-1が2系列、1996年のKTL-2が2系列で、いずれも1系列あたり日量約7,000トンの処理能力を持つ。2001年にはコロレフ油田の初産と合わせて5系列目が加わり、こちらは日量1万1,000〜1万2,000トンを処理する。

第二世代は2008年に完成した。第二世代プラント(SGP)とサワーガス圧入設備(SGI)からなり、これで日量7万5,000トン(60万バレル)の原油と2,200万立方メートル(7億5,000万立方フィート)のガスを扱えるようになった。SGPは単一のサワー原油処理系列としては世界最大とされる。SGIは生産したサワーガスの3分の1を高圧で地層へ押し戻して圧力を保つ設備で、これが同社の生産の約25%を支えている。2009年には年産2,500万トンに達した。

第三世代にあたるのが将来成長事業・坑口圧力管理事業(FGP-WPMP)である。2012年から2025年まで続いた事業で、年1,200万トンの処理能力を持つ第三世代プラント、年94億立方メートルのサワーガス圧入設備、新しい集油系統と坑井、坑口の昇圧設備、プロルバ港と関連インフラを含む。カズムナイガスの事業ページは投資額を489億ドルと記す一方、同じページの本文は事業の総額を467億ドルとしており、公表値には幅がある。モジュールはカザフスタン、韓国、イタリアで製作され、1基500〜1,800トンのものを含む合計約28万トンがロシアの内陸水路を通ってカスピ海へ運ばれた。専用の荷揚げ路(CaTRo)が71キロの海上航路とともに新設されている。

WPMPの運転開始は2024年4月25日で、最初の計量ステーションを低圧に切り替え、あわせて昇圧設備を立ち上げた。事業を通じてカザフスタン企業から購入した物品・役務は136億ドルを超え、要員の約91%はカザフスタン国籍だったと同社は説明する。

カシャガン — 難産だった洋上の巨人

カシャガンは2000年にカスピ海北部の浅海で発見された。NCOCの説明では可採埋蔵量は約90億〜130億バレル(10億〜20億トン)で、ここ数十年で最大級の発見にあたる。カシャガン、カイラン、アクトティの三鉱床をあわせて北カスピ海事業と呼ぶ。

開発は極端に難航した。水深はわずか3〜4メートルだが、ヴォルガ川からの淡水流入で塩分が低いため、この海域は年に5か月近く凍る。流氷が海底をえぐるため、建設も生産も物流も大きな制約を受ける。気温は冬にマイナス30度を下回り、夏はプラス40度に達する。貯留層は海底下約4,200メートルで圧力が高く、原油には硫化水素と二酸化炭素が多く含まれる。

こうした条件から、人工島を築いて掘るという方式が採られた。2013年にいったん生産を始めたものの、輸送用パイプラインの腐食が見つかって全面停止し、再開は2016年にずれ込んだ。この年が、カザフスタン史上初の洋上原油の商業生産となった。

設備は洋上と陸上に分かれる。洋上は人工島5基(D島、A島、EPC-2・3・4)で構成され、D島が生産とガス再圧入の中枢として、周囲の掘削・生産島から集めた産出物の一次分離も担う。油とガスは直径28インチのパイプラインで陸へ送られ、アティラウ東方35キロ、面積350ヘクタールのボラシャク陸上処理施設でサワー原油とサワーガスを製品規格まで処理する。処理の過程で高純度の硫黄が生じ、これは固形のペレットにして貨車で搬出される。物流の拠点はマンギスタウ州のバウティノ基地で、通年で氷結しないトゥプカラガン湾に置かれている。

出資構成と生産物分与契約

カシャガンは1997年の北カスピ海生産物分与契約(PSA)にもとづいて開発されている。カズムナイガスの事業ページによる2026年時点の権益は、カズムナイガス・カシャガンB.V.が16.88%、アジップ・カスピアン・シーB.V.、エクソンモービル・カザフスタン、シェル・カザフスタン・デベロップメントB.V.、トタルE&Pカザフスタンが各16.81%、CNPCカザフスタンB.V.が8.33%、INPEXノース・カスピアン・シーが7.56%である。テンギスと違い、カザフスタン側の持ち分は最大ではあるが過半には遠い。

PSAは費用を回収してから利益を分ける仕組みであるため、費用がどこまで回収対象として認められるかが政府と事業者の間で繰り返し争点になってきた。契約の内容と係争の詳細は当事者が公表しておらず、争点の金額や進行状況を公開資料から確かめることはできない。

増産計画は段階に分けて検討されている。カズムナイガスによれば、第2A期(2024〜2026年)は既存設備を使い、年約20億立方メートルのサワーガスを第三者のガス処理設備へ回すことで日量約50万バレル(日量約6万3,000トン)へ引き上げる。第2B期(2025〜2031年)は新たな鉱区と設備を加え、追加のサワーガス約60億立方メートルを外部処理に回して日量約71万バレル(日量約8万9,500トン)を目指す。同社は事業の投資額を540億ドル、要員を7,000人と記すが、いずれも構想段階の数字で、最終投資決定の有無は公表されていない。

CPCへの一極依存

両油田の原油は、主にカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)で運ばれる。テンギスシェブロイルは、テンギスとCPCの黒海ターミナルを結ぶ全長1,500キロのこの経路を自社原油の主要ルートと明記し、予備としてバルト・パイプライン系統への接続と、オデーサの石油ターミナルへの鉄道輸送を確保していると説明する。LPGと硫黄はすべて鉄道で出荷される。

この一極依存が、輸送の問題を生産の問題へ直結させる。カズムナイガスの2026年上半期の報告では、同社持ち分のテンギス生産は前年同期比14.7%減の332万1,000トンだった。理由としてCPCの受け入れ制限と、2026年1月にFGPの設備で起きた変圧器火災が挙げられ、設計どおりの生産が戻ったのは3月末である。カシャガンは同社持ち分で152万トンと横ばいだったが、随伴ガスは6.5%減り、CPCの一点係留ブイの稼働制限が理由とされた。CPC系統全体の輸送量は同期間で3,334万9,000トンである。

エルラン・アッケンジェノフ・エネルギー相は2026年8月25日、CPCへの攻撃の影響を織り込んで同年の石油・ガスコンデンセート生産計画を9,800万トンから9,600万トンへ改定したと説明し、1月と6〜7月の攻撃で約350万トンを失ったと述べた。カザフスタンが代替経路の確保を国家的な課題として繰り返し掲げているのは、この構造による。

国の経済に占める位置

テンギスシェブロイルは、1993年から2026年上半期までにカザフスタン側へ支払った直接の金額を約2,170億ドルと公表している。これには政府への税と使用料、国有企業へ支払う料金、カザフスタン側株主への利益配分、国内から購入した物品・役務、国内従業員の給与が含まれる。2026年上半期だけで約55億ドルである。国内調達は1993年以降の累計で約530億ドル、2026年上半期は約8億ドルだった。従業員に占めるカザフスタン国籍の比率は96%で、1993年の50%から上がっている。

カザフスタン全体で見ると、2026年1〜7月の原油生産は5,320万トンで前年同期比8.9%減、上半期の輸出総額403億ドルのうち原油と石油製品が46.5%(約188億ドル)を占めた。生産が落ちても価格が高ければ輸出額は伸びる、という関係にあり、生産量と輸出収入は必ずしも同じ方向に動かない。

数字を読むときに注意がいるのは、公表主体によって範囲が違う点である。テンギスシェブロイルが出す生産量は鉱区の100%であり、カズムナイガスが出すのは同社の持ち分(テンギス20%、カシャガン16.88%)に按分した数字である。エネルギー省が示す国全体の計画値は、年によって「石油・ガスコンデンセート」と「石油・ガスコンデンセート・軽質炭化水素混合物」で範囲が変わることがある。三者の数字を並べるときは、まず範囲をそろえる必要がある。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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