ソ連解体後に独立した8か国は、いずれも国家が経済の大部分を所有した状態から出発した。1990年代の第一波の民営化で小規模な商業と住宅の多くは私有になったが、鉄道、送電、通信、石油ガス、鉱業、大手銀行といった基幹部門は国有のまま残った。現在この地域で「民営化」と呼ばれているのは、この残った部分を競争環境へ移す作業を指す。
手法は大きく二つに分かれる。ひとつは株式公開(IPO)で、国が保有株の一部を取引所で売り出し、国民と機関投資家に持たせる。もうひとつは入札・オークション・直接指名売却といった相対に近い売却で、事業ごと特定の買い手に渡す。前者は資本市場を育てる政策と一体で語られ、後者は経営の効率化と歳入の確保が主な目的になる。
規模と制度化の度合いで先行しているのはカザフスタンである。政府決定にもとづく包括民営化計画があり、対象企業と売却の手法、予定年が一覧の形で公表されている。ウズベキスタンは国有資産管理庁を中心に整理を進め、2026年には完了した民営化取引の再審査を法律で禁じて、取引の最終性を制度として担保した。
一方で、計画と実績の差は大きい。カザフスタンの計画に載る主要企業の多くは、当初の予定年を過ぎても株式公開に至っていない。市場環境、価格の折り合い、国が手放す割合をめぐる政治的な判断が絡むためで、計画表に書かれた年をそのまま実行の見込みとして読むことはできない。
| カザフスタンの根拠法 | 2011年3月1日の法律第413-IV号「国有財産について」。第94条が国有財産の処分の種類を定める |
|---|---|
| カザフスタンの処分の方法 | オークションとテンダーの形式による入札、証券取引所での売買、2段階手続きによる競争入札、派生証券の売却、および国営イスラム特別金融会社への直接指名売却(第94条第1項) |
| 売却の窓口 | 国有財産登記簿のウェブ・ポータルを用いて行う(第93条) |
| 落札者への条件 | 国が支配株を持つ会社をテンダーで売る場合、事業の分野を維持し従業員数の3分の2以上を保つ条件が付く(第94条第5項)。潜在的な買い手とその関係者は同じ入札に同時に参加できない(同第6項) |
| 防衛産業の扱い | 株式会社は「黄金株」を国の管理下に残して売却し、有限責任組合は議決権の4分の1超の持分を国に残す(第94条第3-1項・第3-2項) |
| 包括民営化計画 | 2020年12月29日の政府決定第908号「2021年から2025年の民営化に関する一部の問題について」。包括計画と、対象の追加・除外の手法を承認した |
| 計画の更新 | 第908号は繰り返し改正されており、直近では2025年12月19日の第1113号と同年12月31日の第1202号がある。2026年時点でも運用中の枠組みである |
| 「大規模組織」の定義 | 帳簿価額が月次計算指標(MCI)の250万倍を超える準国家部門の主体。2026年のMCIは4,325テンゲなので約108億テンゲにあたる |
| 計画の対象(付属2の例) | カザフスタン鉄道(IPO、2025年)、カズムナイガス(IPO、2022年)、KEGOC(IPO、2023〜2024年)、QAZAQ AIR(直接指名売却、2024年)、シャルキヤ・ジンク(2025年)、モバイル・テレコム・サービス(直接指名売却、2024年)、サムルク・エナジー傘下のボガティル・コミル(2025年) |
| 報告の義務 | 所管の各機関と準国家部門の主体は、半期ごと(7月10日と1月10日まで)に国民経済省へ進捗を報告する(第908号第7項) |
| サムルク・カズナの裁量 | 同社の資産の売却方法は、国家福祉基金法第24-1条にもとづき取締役会が承認する手続きに従って変更できる |
| ウズベキスタンの所管 | ウズベキスタン共和国国有資産管理庁 |
| ウズベキスタンの取引の最終性 | 2026年8月17日署名の改正法ORQ-1168号。完了した民営化取引の再審査を国家機関と裁判所に禁じる規定を、国有財産民営化法、企業活動の自由の保障法、私有財産の保護と所有者の権利の保障法の3法に追加した。施行は2026年11月18日 |
| 同種の先行措置 | 2017年1月17日の大統領令第4633号にも同種の制限があったが、今回は法律の条文として基本法に書き込まれた |
| ウズベキスタンの受け皿 | タシケント共和国証券取引所。上場企業の時価総額は2026年上期に50.4%増え、ウズベキスタン総合指数(UCI)は同期に46.24%上昇して1,088.07ポイントとなった |
なぜ民営化が政策課題になるのか
この地域の政府が民営化を掲げる理由は複数ある。第一に財政である。国有企業の株式や資産の売却は一度きりの歳入をもたらし、赤字の縮小や基金への積み増しに使われる。第二に効率で、価格形成と経営判断を市場に委ねることで、補助金や暗黙の政府保証に頼らない経営に近づけるという狙いがある。
第三に資本市場の育成である。国有の大企業を取引所に上場させると、市場に流動性のある銘柄が生まれ、年金基金や個人投資家に投資先ができる。カザフスタンとウズベキスタンはいずれも、この点を民営化の目的として明示している。第四に、国が保有し続けることで生じる準財政的な活動を減らす狙いもある。カザフスタンでは、主要な国有企業の準財政活動を減らす方針が財政の健全化と結びつけて語られている。
同時に、手放さない理由も明示されている。カザフスタンの国有財産法は、防衛産業の会社について「黄金株」を国の管理下に残す、有限責任組合では議決権の4分の1超を国が持ち続ける、と定める。テンダーで支配株を売る場合には、事業の分野を維持し従業員数の3分の2以上を保つ条件を付けることもできる。民営化は所有の全面的な放棄を意味しない。
カザフスタン — 計画表としての民営化
カザフスタンの制度は、法律と政府決定の二層でできている。手続きの骨格は2011年3月1日の法律第413-IV号「国有財産について」が定め、何をいつどう売るかは政府決定で決まる。現行の計画は2020年12月29日の政府決定第908号で、2021年から2025年を対象とする包括民営化計画とその運用の手法を承認したものである。
同決定は、帳簿価額が月次計算指標の250万倍を超える準国家部門の主体を「大規模組織」と定義し、優先的に競争環境へ移す対象として付属の一覧に並べる。付属1が共和国所有の組織、付属2がサムルク・カズナ、バイテレク、カザフスタン・エンジニアリングの傘下企業である。それぞれに売却の方法と実施予定年が書かれている。
付属2に載る主な項目は、カザフスタン鉄道(株式公開、2025年)、カズムナイガス(株式公開、2022年)、KEGOC(株式公開、2023〜2024年)、QAZAQ AIR(直接指名売却、2024年)、鉱業のシャルキヤ・ジンクとアライギル合弁(2024〜2025年)、カザフテレコム傘下のモバイル・テレコム・サービス(直接指名売却、2024年)、QazaqGaz傘下のGPCインベストメント(2025年)、サムルク・エナジーが持つ石炭のボガティル・コミル(2025年)などである。カズムナイガスの株式公開はアスタナ国際取引所とカザフスタン証券取引所で実施され、同社は現在も国の民営化計画の看板銘柄とされている。
第908号は繰り返し改正されている。付属2だけでも2022年から2025年にかけて10回近く手が入り、直近は2025年12月19日の第1113号と同月31日の第1202号である。対象の追加と除外、予定年の変更がその都度行われるため、一覧は固定された計画ではなく更新され続ける台帳に近い。所管の各機関と準国家部門の主体は半期ごとに国民経済省へ進捗を報告する義務を負う。
サムルク・カズナの資産については、売却方法を国家福祉基金法第24-1条にもとづく手続きで取締役会が変更できるという注記が付いている。政府決定に「株式公開」と書かれていても、実際には入札や直接売却に切り替わりうるということである。
売却の手法
カザフスタンの国有財産法第94条は、国有財産の処分の種類として、オークションとテンダーの形式による入札、証券取引所での売買、2段階手続きによる競争入札、派生証券の売却を挙げる。オークションは価格だけで決まる方式、テンダーは価格に加えて条件の履行を約束させる方式、2段階手続きは技術的な提案を先に評価してから価格を競わせる方式である。売却の窓口は国有財産登記簿のウェブ・ポータルに一本化されている。
証券取引所での売買が、いわゆる株式公開にあたる。国が持株の一部を放出し、個人と機関投資家が取引所で買う。上場後も国が支配株を保持する例が多く、放出比率は数パーセントから十数パーセントにとどまることが多い。この形は、経営権の移転を伴わずに市場の規律と株主の目を導入する手段として使われている。
直接指名売却は、特定の買い手を指定して売る方式である。競争がない分だけ価格の妥当性が問われやすく、法は適用できる場面を限定している。第94条は、国営イスラム特別金融会社への直接指名売却を独立の類型として置く一方、2025年6月24日の法律第196-VIII号で他の類型を削除するなど、範囲の見直しが続いている。
入札の公正さを保つ規定もある。国が支配株を持つ会社の株式や持分の売却では、潜在的な買い手とその関係会社が同じ入札に同時に参加することが禁じられている。
ウズベキスタン — 手続きより先に「蒸し返さない」ことを決めた
ウズベキスタンの民営化は、国有資産管理庁が実務を担う。同庁は政府ポータル上に置かれ、国有資産の管理、売却、上場の準備を所管する。売却の受け皿はタシケント共和国証券取引所で、同取引所に上場する企業の時価総額は2026年上期に50.4%増え、ウズベキスタン総合指数は同じ期間に46.24%上昇して1,088.07ポイントとなった。上期の売買代金は6兆9,400億スム、およそ5億7,890万ドルである。
この国で2026年に起きた最も重要な制度変更は、手続きの整備ではなく取引の最終性の保障だった。ミルジヨエフ大統領は2026年8月17日、完了した民営化取引の再審査を禁じる規定を盛り込んだ改正法ORQ-1168号に署名した。施行は2026年11月18日である。規定は、国有財産民営化法、企業活動の自由の保障法、私有財産の保護と所有者の権利の保障法の3つの法律に追加された。
内容は明快である。監督機関や法執行機関を含む国家機関、および裁判所が民営化の結果の再審査に着手する行為は、私有財産の不可侵の侵害と見なされる。民営化された資産の価値を評価し直すことや、評価報告書の正確性を検証することも同様に扱われ、そうした再審査を求める訴えは受理されない。同種の制限は2017年1月17日の大統領令第4633号にもあったが、今回は法律の条文として基本法に書き込まれた。
この措置の背景には、民営化で資産を取得した所有者が後から取引を蒸し返されるリスクへの投資家の懸念がある。旧ソ連圏では、政権交代や汚職捜査を機に過去の民営化が再検証され、資産を失う事例が繰り返されてきた。取引の最終性を法律で担保することは、国有企業の上場や資産売却を進める国にとって、買い手を集めるための前提条件でもある。運用が実際にどうなるかは、施行後の事例を見るまで分からない。
外国投資家の参加
株式公開の場合、外国の投資家は取引所を通じて誰でも買える。カザフスタンではアスタナ国際取引所とカザフスタン証券取引所が上場の場になり、前者はアスタナ国際金融センターの法域にあるため英語の開示と国際的な決済に近い設計を持つ。ウズベキスタンではタシケント共和国証券取引所が受け皿になる。
入札や直接売却の場合は、案件ごとの条件が参加の可否を左右する。カザフスタンの国有財産法は、支配株の売却で事業分野の維持と従業員数の保持を条件にできると定めており、買い手はこれらの義務を引き受けることになる。防衛産業では「黄金株」や4分の1超の持分が国に残るため、経営権を完全に取得することはできない。
土地や地下資源に関わる案件では、鉱業や石油ガスの免許制度、外国人の土地所有に関する制限が別に働く。したがって「民営化案件に参加できるか」は、民営化の法令だけでなく、対象事業を規律する分野別の法令とあわせて確認する必要がある。
計画と実績が食い違う理由
第一に、価格である。株式公開は市場環境に左右され、資源価格や金利の局面が悪ければ、政府は希望する評価額を得られない。国有企業を安く売ったという批判は政治的な負担が大きいため、条件が整うまで延期する誘因が働く。
第二に、準備の重さである。国際的な基準の財務諸表、独立した取締役会、内部統制、開示体制を整えるには年単位の時間がかかる。鉄道や電力のように料金が規制されている事業では、料金制度の改定が投資家の予見可能性に直結するため、制度改革が先に必要になることも多い。
第三に、国が何を手放すかという判断そのものが動く。カザフスタンの包括計画で対象の追加と除外、予定年の変更が繰り返されているのは、この判断が固定されていないことの反映である。実際、付属の一覧には「除外された」と注記された項目がいくつも並ぶ。
第四に、買い手の側の事情がある。相対の売却では、特定の資産に関心を持つ買い手が限られることが多い。3回の入札で売れなかった法人については、合併や清算を行うよう地方の執行機関と準国家部門の主体に勧告する規定が第908号に置かれている。売れない資産をどう処理するかまで含めて計画になっている、ということでもある。
数字の読み方
計画表の「実施予定年」は約束ではない。第908号の付属に書かれた年は繰り返し改正されており、過去の予定年をそのまま実績として扱うと誤る。ある企業が計画に載っていることと、その企業の株式が実際に売り出されたことは別の事実である。
売却額と「民営化の規模」も区別が要る。株式公開で調達された金額は、放出した比率に対応する部分でしかなく、企業の価値全体ではない。国が支配株を保持したままの上場では、経営権の移転は起きていない。
「大規模組織」の定義に使われる月次計算指標は毎年の予算法で決まるため、条文が変わらなくてもテンゲ建ての基準額は毎年動く。2026年のMCIは4,325テンゲで、250万倍は約108億テンゲにあたる。
民営化の統計は、件数と金額のどちらを見るかで印象が変わる。件数の大半は地方の小規模な資産で、金額の大半は少数の大型案件が占める。両方を並べないと、進捗の実像はつかみにくい。
参考資料
- Постановление Правительства Республики Казахстан от 29 декабря 2020 года № 908 «О некоторых вопросах приватизации на 2021 – 2025 годы»(包括民営化計画と対象企業の一覧。法令情報システム「アディレト」) ↗
- Закон Республики Казахстан от 1 марта 2011 года № 413-IV «О государственном имуществе»(第93条・第94条に処分の方法と条件) ↗
- Закон Республики Казахстан от 1 февраля 2012 года № 550-IV «О Фонде национального благосостояния»(第24-1条に資産の競争環境への移転手続き) ↗
- Агентство по управлению государственными активами Республики Узбекистан(ウズベキスタン国有資産管理庁。政府ポータル) ↗
- Закон Республики Казахстан «О республиканском бюджете на 2026 – 2028 годы»(第7条に2026年の月次計算指標。「大規模組織」の基準額の算定に用いる) ↗
- АО «Самрук-Қазына» — пресс-центр(サムルク・カズナの発表一覧) ↗
- Astana International Financial Centre — About AIFC(アスタナ国際金融センターの制度概要。アスタナ国際取引所を含む) ↗
- НАЛОГОВЫЙ КОДЕКС РЕСПУБЛИКИ КАЗАХСТАН(2025年7月18日 第214-VIII号。上場証券の譲渡益の非課税など、民営化に関わる税制) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。