GUIDE · 経済・金融2026年9月時点

中央アジアの石炭とは

カザフスタンを中心とする域内の石炭について、エキバストゥズとカラガンダを軸とする産炭地と埋蔵量、生産と輸出、発電に占める比率、2026年に始まった石炭火力の国家事業、キルギス・タジキスタン・ウズベキスタンの状況、そして脱炭素の目標との緊張関係を、政府とエネルギー企業の公表資料にもとづいて整理する。

石炭は中央アジアの電力と暖房を支える基幹燃料である。とくにカザフスタンでは、発電の4分の3が石炭火力によるものであり、都市の熱供給も石炭に依存している。ウランや石油と違い、石炭は国内で消費される割合が高く、価格も国内政策の影響を強く受ける。

カザフスタンの石炭は二つの地域に集中している。北東部のエキバストゥズ炭田は露天掘りで採掘費が低く、灰分の高い低品位炭を大量に産出して、隣接する大型火力発電所とロシア向けの輸出を支えている。中部のカラガンダ炭田は坑内掘りで、製鉄用の原料炭を産出する。

キルギスとタジキスタンでは事情が違う。両国とも発電は水力が中心だが、冬季の熱需要と輸入燃料への依存を減らすために石炭の増産を進めており、キルギスの生産は2015年からの10年で2.6倍になった。タジキスタンにとって石炭は、輸入に頼らずに増やせる数少ない一次エネルギーである。

この構造は、各国が掲げる脱炭素の目標と正面から衝突する。カザフスタンは2060年のカーボンニュートラルを国際的に表明し、石炭が国内の温室効果ガス純排出の55.7%超を占めると自ら認めている。にもかかわらず2026年3月には、石炭火力を7.8ギガワット新設・更新する国家事業を承認した。増える電力需要を賄う手段として石炭が選ばれている状態が、当面続くという前提に立った政策である。

カザフスタンの埋蔵量世界の上位10位。現在の採掘水準で300年以上分に相当する(エネルギー相、2026年4月7日の政府会合)
主な産炭地中部はカラガンダ炭田、トルガイ炭田、シュバルコル鉱床、ジャルン鉱床。北東部はエキバストゥズ炭田、マイクベン炭田、カラジラ鉱床(同)
2024年の生産(カザフスタン)1億846万トン(硬質炭。前年比3.8%減。国家統計局の集計をサムルク・エネルゴが引用)
2026年上半期の生産5,890万トン(前年同期比112.4%)。2026年通年の見通しは1億2,890万トン(エネルギー相、2026年7月14日)
2026年の輸出4か月間で1,010万トン(前年同期比104.1%)。年末までに3,320万トンとする計画(同)
発電に占める比率2024年の統一電力系統の発電のうち、石炭火力が74.9%(サムルク・エネルゴ2024年次報告)
発電量と設備容量2024年の発電は1,179億キロワット時(前年比4.3%増)、消費は1,200億キロワット時。設備容量は2024年12月31日時点で2万4,641.9メガワット、可能出力2万428.4メガワット(同)
最大の生産者ボガティル・コミル(サムルク・エネルゴとルサールの合弁)。2024年の生産4,267万トンは全国の38.1%、エキバストゥズ炭田の66.8%にあたる(同)
石炭の販売価格ボガティル・コミルの加重平均販売価格は1トンあたり2021年2,292テンゲ、2023年3,084テンゲ、2024年3,215テンゲ、2025年の計画値4,168テンゲ(同)
対ロシア輸出の主軸ボガティル・コミルからロシアのレフチンスカヤ発電所へ2024年に931万トン(同)
石炭火力の国家事業2026年3月20日に政府が承認。7.8ギガワットの新設・更新、新設8か所(エキバストゥズ2,640メガワット、クルチャトフ700メガワット、ジェズカズガン500メガワットなど)、既設11か所の近代化。投資は7兆5,000億テンゲ以上
2030年の追加需要同事業により、発電用石炭の需要が年約2,000万トン増える見込み。貨車を1日あたり600両追加する
排出に占める石炭カザフスタンの温室効果ガス純排出のうち石炭の寄与は55.7%超。国内で使われた一次エネルギー1億5,070万トン(石油換算)のうち石炭と石炭製品は29.4%(カーボンニュートラル戦略、2023年2月2日)
気候目標2060年のカーボンニュートラル。中期目標は2030年に温室効果ガスを1990年比15%削減(無条件)、国際支援があれば25%削減(同)
キルギスの生産2025年は492万1,600トン(暫定値)。2015年の192万8,700トンの2.6倍。2025年の地域別はナルイン州252万3,800トン、バトケン州144万300トン、オシ州59万5,600トン、ジャララバード州34万800トン(国家統計委)
タジキスタンの生産2026年1〜7月に149万5,000トン(前年同期比15.4%増)、うち33万2,000トンを主にウズベキスタン向けに輸出。2025年は通年280万トンで輸出55万トン。2026年の目標は300万トン(産業・新技術省、統計庁)
ウズベキスタンの生産国営ウズベクウゴリの2024年の採掘は670万トン超(アングレン鉱床550万トン超、アパルタク鉱床120万トン超)。2019年は380万7,600トンだった(鉱業・地質省、2025年1月1日)

産炭地と埋蔵量

カザフスタンのエネルギー相は2026年4月7日の政府会合で、同国が石炭の埋蔵量で世界の上位10位に入り、現在の採掘水準で300年以上分に相当すると述べた。大規模な鉱床は二つの地域に分かれる。中部カザフスタンにはカラガンダ炭田、トルガイ炭田、シュバルコル鉱床、ジャルン鉱床があり、北東部にはエキバストゥズ炭田、マイクベン炭田、カラジラ鉱床がある。

エキバストゥズはパブロダル州にあり、厚い炭層を露天掘りで採る。石炭の灰分が高く発熱量は低いが、採掘費が安く、炭鉱に隣接して大型の火力発電所が置かれている。カラガンダはコークス用の原料炭を産出し、製鉄業と結びついている。

事業者は分散している。サムルク・エネルゴの2024年次報告は、主要な事業者としてボガティル・コミル(サムルク・エネルゴとルサールの合弁)、ユーラシア・エネルギー・コーポレーションとシュバルコル・コミル(いずれもERGグループ)、カザフムィス、カラジラ、アングレンソル・エネルゴを挙げている。最大手のボガティル・コミルの2024年の生産は4,267万トンで、全国の38.1%、エキバストゥズ炭田の66.8%を占めた。

生産と輸出

生産量は年によって振れる。国家統計局の集計では、カザフスタンの硬質炭の採掘は2022年に1億1,393万トン、2023年に1億1,274万トン、2024年に1億846万トン(前年比3.8%減)だった。2026年に入って増勢に転じ、上半期の生産は5,890万トンで前年同期の112.4%、通年の見通しは1億2,890万トンとされている。

輸出の相手は圧倒的にロシアである。ボガティル・コミルの2024年の販売4,300万トンのうち、国内向けが3,368万トン、輸出がロシアのレフチンスカヤ発電所向けの931万トンだった。エキバストゥズ炭は、ソビエト期に設計された発電所の燃料として国境をまたいで使われ続けている。エネルギー相は2026年7月14日、輸出が4か月間で1,010万トン、前年同期比104.1%になったと報告し、年末までに3,320万トンとする計画を示した。

国内向けの価格は事業者が自ら定める。ボガティル・コミルの加重平均販売価格は1トンあたり2021年に2,292テンゲ、2024年に3,215テンゲ、2025年の計画値は4,168テンゲである。同社は発電事業者向け(鉄道の接続駅渡しと集炭駅渡し)と一般家庭・公共向けの3区分で価格表を持つ。輸送は買い手が自ら手配し、貨車の運用会社と契約する仕組みである。

供給網の把握も課題になっている。エネルギー省は2026年8月、生産と出荷から輸送、備蓄、最終消費者への販売までを一元的に追うデジタル基盤を稼働させたと発表した。

発電に占める位置

サムルク・エネルゴの2024年次報告によれば、2024年のカザフスタンの統一電力系統の発電は、石炭を燃やす火力発電所が74.9%を占めた。発電量は1,179億キロワット時で前年比4.3%増、消費は1,200億キロワット時で、差はロシアからの受電で埋められている。設備容量は2024年末で2万4,641.9メガワット、可能出力は2万428.4メガワットだった。

電力系統は北部・南部・西部の三つの区域に分かれる。石炭と水力の資源が集まる北部区域が2024年の発電の73.3%(865億キロワット時)を担い、南部区域の不足を補い、輸出の余力も生む。南部は13.2%(156億キロワット時)、西部は13.5%(159億キロワット時)で、西部は北部・南部と系統がつながっていない。

2026年に入っても構造は変わっていない。上半期の発電は634億キロワット時で前年同期の101.9%、通年の見通しは1,265億キロワット時である。再生可能エネルギーによる発電は上半期に51億キロワット時(前年同期比21.2%増)で、年間88億キロワット時が目標とされる。

石炭火力の国家事業(2026年)

2026年3月20日、カザフスタン政府は国家事業「石炭発電の発展」を承認した。基幹電源の不足を解消することが目的で、産業化とデジタル経済の進展、データセンターと人工知能の導入によって基幹負荷の需要が急増するのに対し、再生可能エネルギーだけでは賄えないという判断が根拠に置かれている。

内容は7.8ギガワットの新設と更新である。新設は8か所で、エキバストゥズ(2,640メガワット)、クルチャトフ(700メガワット)、ジェズカズガン(500メガワット)が最大規模にあたり、コクシェタウ、セメイ、ウスチカメノゴルスクには熱電併給所が建てられる。並行してアクス火力、エキバストゥズ第2火力、カラガンダの電力結節点を含む既設11か所を改修し、2030年までに主要設備の物理的な老朽度を12.6ポイント下げる。投資は予算外資金で賄い、総額は7兆5,000億テンゲ以上とされる。

事業には環境対策が組み込まれている。新設は高効率の技術に限り、高性能の電気集塵装置、窒素酸化物の触媒還元装置、湿式脱硫装置を設置して、排出濃度を国際基準と利用可能な最良技術の要件に合わせるとされる。首相は既設の火力発電所についても、二酸化炭素と不純物を最大90%捕捉できる技術の導入状況を分析し、発電所ごとに工程表を作るよう指示した。

事業は採掘と輸送にも波及する。2030年までに発電用石炭の追加需要は年約2,000万トンとされ、これに対応して貨車を1日あたり600両増やし、鉄道インフラを改修し、国内向け燃料の輸送料金に予測可能な範囲を設ける。常用の雇用は約4,500人が見込まれ、石炭火力発電所の従業員向けに優遇住宅ローンが導入される。

脱炭素の圧力と、その扱われ方

カザフスタンは2020年12月の気候野心サミットで2060年のカーボンニュートラルを表明し、2023年2月2日の大統領令第121号でカーボンニュートラル戦略を承認した。中期目標は、2030年に温室効果ガスを1990年比15%削減(無条件)、国際的な支援があれば25%削減(条件付き)である。

同戦略は石炭の位置づけを明示している。国内で使われた一次エネルギー1億5,070万トン(石油換算)のうち石炭と石炭製品は29.4%を占めるが、国内の温室効果ガス純排出への寄与は55.7%を超える。エネルギー量の比率よりも排出への寄与がはるかに大きいという構図である。戦略は、運転期間が30年を超える石炭火力の退役に関する構想を策定し、2035年以降も稼働を続ける設備には二酸化炭素の回収・貯留技術を導入する方針を掲げ、退役する設備には再生可能エネルギー事業の優先権を与えるとしている。

一方で足元の電源構成は変わっていない。同戦略が引く数字では、再生可能エネルギーが国内のエネルギー消費に占める比率は2%、発電に占める比率は2020年に3.0%、2021年に3.6%だった。気候シンクタンクのエンバーの集計では、2025年のカザフスタンの発電に占める低炭素電源は15%、太陽光と風力は6%、化石燃料は85%である。

2026年の国家事業は、この目標と現実の距離を政策としてどう埋めるかの一つの答えである。石炭火力を増やしつつ、効率と排出処理の水準を上げるという方向であり、退役より更新に重心が置かれている。

キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン

キルギスの石炭生産は急速に伸びている。国家統計委の系列では、2006年の32万1,300トンから2015年に192万8,700トン、2020年に267万7,700トン、2024年に447万200トンとなり、2025年の暫定値は492万1,600トンである。2015年からの10年で2.6倍になった計算になる。

地域別では、2025年の暫定値でナルイン州が252万3,800トンと過半を占め、バトケン州144万300トン、オシ州59万5,600トン、ジャララバード州34万800トンと続く。ナルイン州は国内最大級の露天炭鉱があり、鉄道の建設計画がこの炭田と結びついている。

タジキスタンでは、産業・新技術省石炭産業局が2026年1〜7月の採掘を149万5,000トンと発表した。前年同期比15.4%増で、うち33万2,000トンを主にウズベキスタン向けに輸出している。2025年は通年の採掘が初めて280万トンに達し、輸出は55万トンで過去最高だった。2026年の目標は300万トンで、業界は将来的に輸出を100万トンへ引き上げる方針を示している。同省は2026〜2030年の石炭産業発展プログラムを策定中で、ナザル・アイロク鉱区の無煙炭工場、フォン・ヤグノブ鉱区のコークス用炭の生産が検討課題に挙がっている。冬季の熱供給が主用途で、2026〜2027年の暖房期に向けてドゥシャンベ第2熱電併給所へ85万トンを搬入する計画が置かれている。

ウズベキスタンの石炭は国営ウズベクウゴリが担う。同社の採掘は2019年に380万7,600トン、2021年に478万1,200トン、2023年に583万6,000トンと増え、2024年には初めて670万トンを超えた。うちアングレン鉱床が550万トン超、アパルタク鉱床が120万トン超である。アングレンは褐炭の露天掘りで、隣接する火力発電所の燃料になる。

数字の読み方

石炭の統計は種別で分かれる。硬質炭(無煙炭・瀝青炭)と褐炭は発熱量が大きく違い、統計もふつう別に集計される。カザフスタンの国家統計局が示す1億846万トン(2024年)は硬質炭であり、エネルギー省が示す通年見通し1億2,890万トン(2026年)は褐炭を含む。同じ「石炭生産量」という言葉でも、対象が違えば1,000万トン以上の差が出る。タジキスタンの統計庁も硬質炭と褐炭を分けて集計しており、2026年1〜7月は硬質炭が16.3%増、褐炭が11.7%減と方向が逆だった。

対象期間も揃っていないことがある。2026年7月14日のエネルギー相の報告では、生産が上半期(6か月)、輸出が「4か月」と期間が異なっている。輸出量を年換算するときは、この違いを確認する必要がある。

発電の比率にも複数の表現がある。サムルク・エネルゴが示す「石炭火力74.9%」(2024年)と、エンバーが示す「化石燃料85%」(2025年)は矛盾しない。後者にはガス火力が含まれる。低炭素電源の比率を語るときは、水力を含めるかどうかで数字が変わる。

価格はテンゲ建てで示されるため、為替の変動を含んで見える。ボガティル・コミルの販売価格が2021年から2025年計画値までに1.8倍になったという数字には、テンゲの下落分が含まれている。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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