GUIDE · インフラ・地理2026年9月時点

中央アジアのデータセンターと計算基盤とは

カザフスタンのパブロダル州で進む「データセンター・バレー」構想を軸に、大規模な計算基盤が必要とする電力と冷却、暗号資産マイニングを対象にした許認可と電力課金の制度、系統の余力という前提条件、そして誘致策を、法令とエネルギー当局の公表資料にもとづいて整理する。

計算基盤は、ここ数年で電力インフラの一部として語られるようになった。大規模言語モデルの学習と推論は大量の電力を消費し、その電力はほぼすべて熱になるため冷却も要る。用地、電力、水、通信、そして安定した系統があれば、内陸国でも輸出産業になりうる。中央アジアが計算基盤の誘致に乗り出しているのは、この四つの条件を比較的安く揃えられるからである。

域内で最も具体的に動いているのはカザフスタンである。パブロダル州で建設中の「データセンター・バレー」は、第1棟の計画容量が50メガワット、段階的に拡張して総容量で最大1ギガワットに達する設計である。単一のデータセンターではなく、データセンター、AIファクトリー、GPUクラスタ、国際的なハイパースケーラー向けのクラウド基盤を収容する計算キャンパスとして構想されている。

ただし1ギガワットという数字は、この国の電力系統に対して小さくない。カザフスタンの発電設備容量は2026年1月1日時点で2万6,807メガワット、利用可能出力は2万2,844メガワットである。1ギガワットは利用可能出力の4%を超える。しかも同国はまだ電力不足の解消を2027年第1四半期に見込んでいる段階にあり、計算基盤の拡張と電力の新設は同じ時間軸で競合する。

この分野にはもうひとつの層がある。暗号資産のマイニングである。カザフスタンは2023年2月にデジタル資産法を制定し、マイニングを許認可の対象とし、消費した電力に応じた課金を導入した。人工知能向けのデータセンターと、マイニング用のデータ処理センターは、法令上は別のものとして扱われるが、電力を大量に使う施設という点では系統に同じ負荷をかける。制度の設計はこの二つを分けて考える必要がある。

データセンター・バレー — 所在カザフスタン・パブロダル州。人工知能の開発を支える計算基盤として、データセンター、AIファクトリー、GPUクラスタ、国際的なハイパースケーラー向けのクラウド基盤を収容する構想
同 — 規模第1棟の計画容量は50メガワット。段階的に拡張し、総容量で最大1ギガワットに達する設計
同 — 工程(2026年8月13日時点)エネルギーセンターとAIファクトリー棟の掘削は90%完了。主要建屋は2026年12月末までに完成、試運転は2027年5月、運用開始は2027年6月の予定
同 — 電力215メガワットの変電所を取得済み。用水と通信のインフラも整備中
カザフスタンの電力系統(2026年1月1日時点)発電所248か所、設備容量2万6,807.0メガワット、利用可能出力2万2,844.2メガワット(KEGOC)
同 — 需給の見通し2026年に従来型と再エネを合わせて2.6ギガワットを新規稼働させ、2027年第1四半期に電力不足を解消、2029年に安定した余剰へ移行する計画(エネルギー省)
カザフスタンのIT役務の輸出2020年の3,350万ドルから2025年に11億4,200万ドルへ。2021年6,007万ドル、2022年3億3,700万ドル、2023年5億2,910万ドル、2024年6億9,070万ドル(人工知能・デジタル発展省)
デジタルマイニングの根拠法「カザフスタン共和国におけるデジタル資産について」(2023年2月6日 第193-VII号)。第3章がデジタルマイニングを定める
同法の定義デジタルマイニングのデータ処理センターは、マイニング用のハードウェア・ソフトウェア複合体からなるデジタルインフラの施設で、居住区域の外に所在し、電力法に従って電力を使用するものと定義される
ライセンス有効期間3年。第I種は自らデータ処理センターを保有するマイナー、第II種は他者のデータ処理センターに自前の機器を置くマイナー。ライセンス手数料は第I種が2,000月次計算指数
マイニングプール認定制。機器がカザフスタン国内に物理的に所在すること、サイバーセキュリティ要件への適合試験に合格していることが条件。認定費用は事業者の自己負担
デジタルマイニングへの課金(2026年施行の税法典)消費した電力1キロワット時あたり2テンゲ。国内の自前の発電所で作った再生可能エネルギー由来の電力、または統一電力系統に接続していない発電設備からの電力は1テンゲ。ライセンスや計量器がない場合、または計量器が故障している場合は25テンゲ
同 — 申告と納付課税期間は四半期。申告は翌々月15日まで、納付は同25日まで
電力市場での位置づけ単一買取者とデジタルマイナーとの間の電力の売買は、電子取引システム上の集中取引として行われる(KEGOC)
国の方針2025年9月8日の大統領教書「人工知能の時代のカザフスタン」。3年で完全なデジタル国家への転換を掲げ、国立銀行投資公社を基盤とする国家デジタル資産基金の設立、アラタウ市を暗号資産で決済できる地域最初の完全なデジタル都市とすることなどを指示した
法改正の頻度デジタル資産法は2024年7月5日(第115-VIII号)、2025年11月17日(第231-VIII号)、2026年1月9日(第256-VIII号)、2026年1月16日(第259-VIII号、2026年5月1日施行)と繰り返し改正されている

データセンター・バレー(パブロダル州)

カザフスタン政府は、人工知能の開発を支え、国際的なテクノロジー企業を誘致し、デジタル経済に輸出志向の新分野をつくることを狙って、パブロダル州に大規模な計算基盤を建設している。ベクテノフ首相が2026年8月13日に現地を視察し、進捗が公表された。

第1棟の計画容量は50メガワットである。視察の時点で、エネルギーセンターとAIファクトリー棟の掘削工事は90%が完了し、基礎工事と管理棟の建設が進んでいた。データセンターと電源設備の主要建屋は2026年12月末までに完成させ、試運転を2027年5月に終え、2027年6月の運用開始を予定する。電力供給のために215メガワットの変電所をすでに取得しており、用水と通信のインフラも整備中である。

長期の計画は段階的な拡張で、総容量は最大1ギガワットとされる。パブロダル州は石炭火力が集中する地域であり、この規模の電力をどの電源でまかなうかは、同国が掲げる脱炭素の方針と直接ぶつかる論点になる。

周辺の政策も動いている。2025年9月8日の大統領教書は、アラタウ市を地域で最初の完全なデジタル都市とし、スマートシティ技術の適用から暗号資産による決済までを可能にすると述べ、特別な法的地位を与える大統領令を10日以内に、統治体制と財務モデルを定める法律を6か月以内に用意するよう指示した。同じ教書は、国内で稼働したスーパーコンピュータについて「成功ではあるが、デジタル国家への転換の始まりにすぎない」と位置づけている。

電力という前提条件

計算基盤の立地を決めるのは、土地の値段よりも電力である。データセンターは24時間ほぼ一定の負荷をかけるため、系統からみれば大口のベースロード需要が新たに現れることになる。設備容量に余裕がなければ、既存の需要と競合する。

カザフスタンの現状は、KEGOCが公表する数字で読める。2026年1月1日時点で発電所は248か所、設備容量は2万6,807.0メガワット、利用可能出力は2万2,844.2メガワットである。設備容量と利用可能出力の差はおよそ4,000メガワットで、老朽化した設備が定格どおりに動かないことを示している。

エネルギー省は2026年に従来型と再エネを合わせて2.6ギガワットを新規稼働させる計画で、内訳は複合サイクルガスタービン4基、風力4か所、太陽光5か所、アティラウとテケリの既存発電所の拡張である。これらが完成すれば2027年第1四半期に電力不足を解消し、2029年には安定した余剰へ移行するとしている。1ギガワット級の計算基盤が動き出す時期は、この需給の転換点とほぼ重なる。

電力市場の制度も関係する。カザフスタンでは2023年7月1日から単一買取者の仕組みが動いており、発電された電力は原則として単一買取者に売られる。KEGOCの説明によれば、単一買取者とデジタルマイナーとの間の売買は電子取引システム上の集中取引として行われる。大口の計算需要は、市場の中で明示的に区別された参加者として扱われている。

暗号資産マイニングの制度

カザフスタンは2023年2月6日、「カザフスタン共和国におけるデジタル資産について」(第193-VII号)を制定した。その第3章がデジタルマイニングを扱う。同法はデジタルマイニングを、指定された暗号アルゴリズムに従って計算機の能力を使い、ブロックチェーンによってデータブロックの完全性を確認する処理と定義し、それを行う個人事業主または国内法人をデジタルマイナーと呼ぶ。

施設についても定義がある。デジタルマイニングのデータ処理センターは、マイニング用のハードウェア・ソフトウェア複合体からなるデジタルインフラの施設で、居住区域の外に所在し、電力法に従って電力を使用するものとされる。住宅地での操業を明文で排除している点が特徴である。

マイニングはライセンス制である。有効期間は3年で、二つの種別に分かれる。第I種は自らデータ処理センターを保有または適法に使用するマイナー、第II種はデータ処理センターを持たず、自前の機器を他者のセンターに置いて操業するマイナーである。ライセンス手数料は税法典で定められ、第I種は2,000月次計算指数である。虚偽の申告、法令違反、是正の不履行などがあれば1か月から6か月の停止、剥奪は裁判所が行う。

マイニングは単独ではできない。同法はマイナーがマイニングプールを通じて操業することを求め、プールは認定を受けなければならない。認定の要件は、プールのハードウェア・ソフトウェア複合体がカザフスタン国内に物理的に所在すること、サイバーセキュリティ要件への適合試験に合格していることなどで、費用はプールの自己負担である。プールはマイナーの所得に関する情報を所管官庁と税務当局に提出する義務を負う。

この枠組みは頻繁に手が入っている。同法は2024年7月5日、2025年11月17日、2026年1月9日、2026年1月16日の各改正法によって繰り返し改められており、第8条の一部の項は2025年11月17日の改正で削除された。制度が固まりきっていないことは、投資判断のうえで前提として扱う必要がある。

電力への課金 — 系統から追い出す設計

2026年1月に施行されたカザフスタンの新しい税法典は、デジタルマイニングに対する「支払い」を独立の項目として置いている。課税の対象はデジタルマイニングで消費した電力量そのものである。納付義務者はマイニングを行う者に加えて、マイニング事業者に計算インフラを提供する者も含む。

税率は三段階になっている。原則は1キロワット時あたり2テンゲである。国内の自前の発電所で作った再生可能エネルギー由来の電力を使う場合、または統一電力系統に接続していない発電設備の電力を使う場合は1テンゲに下がる。ライセンスを持たない場合、電力量の計量器がない場合、あるいは計量器が故障している場合は25テンゲになる。さらに計量器がない場合の消費量は、最大出力で24時間稼働したものとして計算される。

設計の意図は率の差にはっきり出ている。系統から電気を買って掘るより、自前の再エネや系統に接続しない電源で掘るほうが半額になり、無許可・無計量なら12.5倍を払う。共用の系統への負荷を減らし、あわせて捕捉率を上げる方向に価格が付けられている。

課税期間は四半期で、申告は翌々月の15日まで、納付は同25日までである。所得の側も税法典に規定があり、マイナーの所得はプールから配分された暗号資産の数量とその評価額の積として決まる。

計算基盤が輸出産業になりうるか

カザフスタンがこの分野を「輸出志向の新分野」と位置づける根拠のひとつは、IT役務の輸出の伸びである。人工知能・デジタル発展省によれば、同国のIT役務の輸出は2020年の3,350万ドルから2025年に11億4,200万ドルへ増えた。2021年6,007万ドル、2022年3億3,700万ドル、2023年5億2,910万ドル、2024年6億9,070万ドルと毎年伸び、2025年に初めて10億ドルを超えている。同省はカザフスタンがIT役務の純輸出国になったとしている。

ただしIT役務の輸出と計算資源の輸出は別のものである。前者は人が提供する開発・運用の役務であり、後者は電力と設備を使って計算能力そのものを売る事業である。データセンター・バレーが目指すのは後者で、収益は国際的なテクノロジー企業がどれだけ計算容量を借りるかに依存する。

国の側は制度の器も用意している。デジタル資産法は、デジタル資産に関わる役務の提供者として、国立銀行の登録を受けた各種の運営者に加えて、アスタナ国際金融センターの参加者(デジタル資産取引所を含む)で相応のライセンスを持つものを挙げている。暗号資産の取引と計算基盤を同じ法域の中で扱う設計である。

数字の読み方

第一に、データセンターの規模はメガワットで表される。床面積やラック数ではなく、受電できる電力の大きさが能力の指標になるためである。「50メガワットの棟」は建物の大きさではなく、その棟が引き込める電力を指す。1ギガワットという最終形は、50メガワットの棟を20棟分積み上げた規模にあたる。

第二に、計画容量と稼働容量を区別する。パブロダルの第1棟の50メガワットは計画容量であり、2027年6月の運用開始が予定である。総容量1ギガワットは段階的な拡張の設計値で、着工済みの数字ではない。

第三に、変電所の容量と実際に使える電力は違う。215メガワットの変電所を取得したことは受電の器ができたことを意味するが、その電力を継続して供給できるかは発電側の余力次第である。カザフスタンが電力不足の解消時期を2027年第1四半期と見込んでいることと合わせて読む必要がある。

第四に、マイニングとAI向けデータセンターを混ぜない。カザフスタンの法令は「デジタルマイニングのデータ処理センター」を独立の施設類型として定義し、ライセンスと電力への課金を課している。人工知能向けの計算基盤はこの枠組みの外にある。電力消費の統計や政策文書を読むときは、どちらの施設を指しているかを確かめる。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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