カザフスタン首相府の公式情報サイトが2026年8月31日、国営の投資誘致会社KAZAKH INVESTの案件ポートフォリオを取り上げたレビュー記事を掲載した。同社が抱える案件は215件、総額786億ドルで、8万8,000人を超える雇用の創出を見込むという。うち93件・322億ドルがすでに実施段階に入っており、残る122件・464億ドルは検討段階にある。
まず数字の性格を確かめておきたい。レビューは786億ドルを、誘致機関のポートフォリオに並ぶ215件の案件の額として示している。契約済みの投資額とも、調達を終えた資金とも書いていない。どれだけ資金手当てが済んでいるかについても記載は無い。金額でみると全体の約59%にあたる464億ドルが、まだ実施に入っていない122件に属する。
このレビューは首相府サイト編集部の記事であり、政令でもプレスリリースでもない。本文自身が、首相府サイト編集部によるレビューだと断っている。215件の分野別・投資元国別の内訳も示されておらず、示されているのは93件と122件という進捗の区分だけである。
「新しい投資サイクル」という言い回しは、2025年の大統領教書「人工知能の時代のカザフスタン: 喫緊の課題とデジタル変革による解決」に由来する政策用語である。レビューには、これ以前のポートフォリオの総額と比べた記述は無い。示されているのは現時点の案件の集計である。
制度面では、2021年から運用されている投資協定の仕組みが軸になっている。事業費320億テンゲを超える案件を対象に、国と投資家の義務、実施条件、主要な条件の安定性を投資期間を通じて固定するものである。レビューによれば、規則の承認以降に66件・17兆8,000億テンゲ超が締結され、うち2024年が6件、2025年が30件・約11兆2,000億テンゲだった。2026年8月時点でさらに25件・約4兆4,000億テンゲが締結され、前年同期の実績を上回っている。対象は医薬品、エネルギー、冶金、農工業、インフラ、医療にわたる。
案件の伴走を担う仕組みも整備が進む。2025年からは地域が優先案件の一覧を作り投資家を個別に探す三層構造が動いており、許認可と国の支援を早く通すための「ファスト・トラック」、各地の投資本部、監督官庁による不当な圧力を抑える「検察のフィルター」が置かれた。2024年12月からは国家デジタル投資プラットフォームで案件を監視している。次の段階として、KAZAKH INVESTを基盤に単一窓口のKazakhstan Investment Houseを設ける構想がある。外国投資家の誘致を広げるための「アルティン(黄金)ビザ」の仕組みも検討中だが、外務省がビザ規則の改正案を用意した段階で、本格導入には移民法制の改正が先に要る。
投資の構造については、レビューは2019年から2025年にかけて固定資本投資が12兆6,000億テンゲから23兆5,000億テンゲへ1.9倍になったとする。製造業向けは1兆テンゲから3兆テンゲへ3倍に増え、投資全体に占める比率は8.1%から12.7%へ、工業内部では13.1%から31.3%へ上がった。レビューは名目か実質かを書いていない。
2025年の外国直接投資の総流入額は205億ドルで、14.4%増だった。製造業向けは47.4%増え、増加額は14億ドルである。金融は43億ドル、通信は13億ドルに達した。一方で採掘部門は47%減り、減少額は30億ドルだった。投資元では、アラブ首長国連邦からの流入が7億6,270万ドルから16億ドルへ増え、カタールが13億ドル、シンガポールが14億ドルとなった。新規案件への投資について、レビューは国連アジア太平洋経済社会委員会の集計を引き、2025年のカザフスタンの誘致額は190億ドルで前年比266%増、北アジア・中央アジア全体のこの種の投資のほぼ89%を占めたとしている。
レビューがドル建ての金額とともに名前を挙げた個別の案件は次のとおりである。このほかに医薬品などテンゲ建てで示された案件もある。ただしレビューは、これらのどれが215件に数えられているかを書いていない。
| 案件 | 投資額 | 所在・内容 |
|---|---|---|
| データセンター・バレー | 約300億ドル | パブロダル州エキバストゥズ、計算基盤 |
| Firebird・NVIDIAとの一括合意(2026年6月) | 100億ドル | 人工知能とデジタル基盤 |
| Dalian Hesheng Holdings | 7億3,900万ドル | 小麦の深加工 |
| PepsiCo | 3億6,800万ドル | アルマトイ州、塩味スナック |
| Carlsberg Group | 3億4,400万ドル | アルマトイ州、飲料工場 |
| Fufeng Group | 3億4,000万ドル | ジャンブール州、トウモロコシ深加工 |
| Tiryaki Agro | 約3億2,000万ドル | 穀物・豆類の深加工 |
| Mars | 1億6,000万ドル | アラタウ市、ペットフード |
テンゲ建てでは、カラガンダ州の年産100万トンの冶金用コークス工場が636億テンゲ、2026年1月に政府が承認した医薬品4事業が合わせて1,730億テンゲである。
最大の300億ドルは、エキバストゥズ火力発電所1号の近くに整備が進む「データセンター・バレー」の想定投資額である。215件に含まれるかどうかはレビューに書かれていないが、金額としては786億ドルの38%に相当する。敷地は200ヘクタールから1,400ヘクタールへ拡大し、電力インフラは300メガワットから1ギガワットまでを想定する。高度技能の雇用500人を計画する。この計画についてはカザフスタン、パブロダルに1GW級の計算基盤で伝えた。2026年6月には、カザフスタン側がFirebirdおよびNVIDIAとの間で100億ドル規模の一括合意に署名した。Firebirdが投資家、NVIDIAが技術パートナーの位置づけとされている。
検討段階という区分が実際にどのような状態を指しうるかは、同じ敷地をめぐる別の発表が示唆する。KAZAKH INVESTが2026年8月28日に公表した発表によれば、シンガポールのEnergy Capital Globalがデータセンター・バレーでのAI向けキャンパスの開発を協議した。第1期はIT負荷で約100メガワット、将来は1ギガワットまでの拡張が想定され、同社は投資家・開発者・所有者として関わることを検討している段階である。訪問後に署名されたのは、同社とKT-Telecomとの覚書だった。
案件の額そのものが動くこともある。ジャンブール州のFufeng Groupのトウモロコシ深加工について、8月31日のレビューは投資額を3億4,000万ドルとし、レシチン、イソロイシン、BCAA、テアニンを生産すると書いている。同じ事業の着工を伝えた2025年4月16日のKAZAKH INVESTの発表では、総投資額は8億ドル、年間処理能力はトウモロコシ100万トン、新規雇用は1,500人で、製品はリジン、グルタミン酸ソーダ、キサンタンガム、飼料用アミノ酸とされていた。2つの政府発表で額が8億ドルから3億4,000万ドルへ変わっているが、理由の説明はどちらにも無い。製品の構成も入れ替わっているため、第1期だけの額なのか、事業範囲が変わったのかは、いずれの発表からも読み取れない。稼働時期も、2025年4月の発表が第1期を2025年第4四半期、フル稼働を2026年としていたのに対し、今回のレビューは2026年9月の稼働開始としている。
786億ドルは、レビューが同時に示した2025年の外国直接投資の総流入額205億ドルの3.8倍にあたる。金額の6割近くがまだ検討段階にあり、資金手当ての状況も分野別の内訳も示されていない以上、この数字は実現した投資額ではなく、誘致機関のポートフォリオに並ぶ案件の額の合計として読む必要がある。個別案件の額が政府の発表間で説明なく変わる例がある点も、集計値を追ううえで留意がいる。
