ザンゲズル回廊は、アゼルバイジャン本土と、アルメニアを挟んだ西側にある飛び地ナヒチェヴァン自治共和国を結ぶ輸送路の構想である。経路はアルメニア南部シュニク地方の、イラン国境沿いを走る約44キロの区間になる。2020年の第二次ナゴルノ・カラバフ紛争の停戦合意にこの連絡路の確保が盛り込まれて以降、南コーカサスで最も政治的な争点であり続けてきた。
| 場所 | アルメニア南部シュニク地方。イラン国境沿いの約44キロ |
|---|---|
| つなぐもの | アゼルバイジャン本土 ↔ 飛び地ナヒチェヴァン自治共和国 |
| アルメニア側の呼称 | シュニク回廊 |
| 2025年の合意 | 米国が99年間の独自開発権を得る「TRIPP」構想。8月にワシントンで首脳が署名 |
| 整備するもの | 鉄道、エネルギー輸送インフラ、光ファイバー |
なぜ揉めるのか
アゼルバイジャンにとっては、本土と飛び地を陸路で結ぶ悲願であり、さらにその先のトルコへ直結する経路でもある。実現すれば中央アジアからトルコ・欧州へ抜ける中間回廊に新しい選択肢が加わる。
アルメニアにとっては、自国領を外国の管理下に置くことになりかねないという主権の問題であり、同時に南のイランとの唯一の陸上国境を分断されるという安全保障の問題でもある。アルメニア側はこれを「シュニク回廊」と呼び、「回廊」という語が治外法権を連想させるとして用語自体を避けてきた。
イランもまた、アルメニアとの国境が事実上遮断されることを強く警戒しており、この構想に一貫して反対の立場を取ってきた。
2025年の合意(TRIPP)
2025年8月、米国が仲介してワシントンでアルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領が合意文書に署名した。従来の「ザンゲズル回廊」に代わる枠組みとして示されたのが「TRIPP(Trump Route for International Peace and Prosperity)」である。
内容は、米国がこの区間について99年間の独自開発権を得て、鉄道、エネルギー輸送インフラ、光ファイバーを整備するというもの。アルメニアの主権は維持したまま、運営に第三国である米国が入ることで双方の懸念を橋渡しする設計とされる。ただし具体的な工程や運用の詳細はまだ詰まっておらず、作業部会での協議が続いている。
物流にとっての意味
実現すれば、カスピ海から欧州へ抜ける経路が現在のジョージア経由に加えてもう一本増える。中間回廊の輸送量はジョージアの鉄道と港湾の能力に制約されており、代替路の登場は回廊全体の容量に効く。
もっとも、鉄道の新設には数年から十年単位の工期と巨額の投資が要る。合意から実際の貨物が流れるまでの距離は長い。
参考資料
- Armenia Balances Between the TRIPP and Zangezur Corridor — Jamestown ↗
- What the Armenia-Azerbaijan Peace Deal Means for the Middle Corridor — The National Interest ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。