経済特区は、国土の一部に境界を引き、その内側だけに通常と異なる税・関税・土地・雇用の規則を適用する制度である。中央アジアでは1990年代末から2000年代初めにかけて導入が始まり、現在はカザフスタンとウズベキスタンが最も多くの区画を運営している。呼び名は国によって違い、カザフスタンは特別経済区、ウズベキスタンとタジキスタンは自由経済区という語を使う。
制度の中身は、おおむね四つの層でできている。第一が税で、法人所得税や土地税・財産税を一定期間免除または減額する。第二が関税で、区域内を関税領域の外側とみなして輸入時の関税・付加価値税を課さない手続き(自由関税地帯)を置く。第三が土地で、国有地を長期の賃貸で提供する。第四が手続きで、運営会社(管理会社・ディレクション)が窓口となり、許認可やインフラの接続を一括して扱う。
投資家から見た要点は、優遇の中身そのものよりも、優遇が「いつまで」「どの活動に」効くかにある。カザフスタンは2024年から、投資額の大きさで優遇の年数を変える方式に移った。ウズベキスタンは2020年に法人所得税の優遇を廃止し、既存の参加者にだけ経過措置を残している。どちらも、過去の解説に載っている条件がそのまま現在も有効とは限らないことを意味する。
以下では、法令の条文と当局の一覧で確認できる範囲に絞って制度を整理する。個別の特区の入居条件や料金は運営会社が公表しており、ここでは扱わない。
| カザフスタンの根拠法 | 2019年4月3日の法律第242-VI号「特別経済区および産業区について」 |
|---|---|
| カザフスタンの特区の数 | 15(国家投資誘致機関カザフ・インベストの一覧、2026年9月時点)。最も新しいアクトベ特区は2025年設置 |
| カザフスタンの存続期間 | 最長25年。未開発の面積が2割を超えるか、投資家の見込みがある場合、政府の決定で延長できる |
| カザフスタンの税の優遇 | 優先活動から生じる所得に対する法人所得税、および土地税・財産税・土地使用料を100%減額(税法典第735条) |
| 優遇が続く期間 | 区分Aは7年、区分Bは15年、区分Cは25年。2024年1月1日以後に参加契約を結んだ事業者に適用される |
| 区分の基準 | 事業費が月次計算指標(MCI)の300万倍までがA、300万倍から1,450万倍までがB、1,450万倍超がC。2026年のMCIは4,325テンゲなので、順に約129億7,500万テンゲまで、同額から約627億1,250万テンゲまで、それ超となる |
| 軽い業種の特例 | 食品、繊維、衣料、皮革、コンピュータ・電子光学機器、電気機器の製造は、事業費100万倍(2026年で約43億2,500万テンゲ)から区分Bになる |
| 参加できない者 | 地下資源利用者、物品税課税品の製造者(一部の例外あり)、特別税制の適用者、投資協定などを結んだ事業者、賭博事業者、アスタナ・ハブ参加者、アスタナ国際金融センター参加者 |
| 関税上の扱い | 特区の全部または一部に自由関税地帯の手続きが適用される。特区はユーラシア経済連合の関税領域の一部だが、関税・税・非関税措置の適用上は域外にあるものとして扱われる |
| 税制の安定化 | 参加契約の締結後に税法が改正され、減額の対象や率が変更・廃止された場合でも、契約時の規定を適用できる。期間は契約の残存期間内で、最初の改正の施行日から最長10年 |
| ウズベキスタンの根拠法 | 2020年2月17日の法律第ZRU-604号「特別経済区について」。自由経済区、特別科学技術区、観光レクリエーション区、自由貿易区、特別産業区の5類型 |
| ウズベキスタンの設置と期間 | 大統領の決定により最長30年で設置。2025年3月4日の大統領令第UP-41号は、特区の存続期間の制限を撤廃した |
| ウズベキスタンの案件要件 | 自由経済区の案件は、国内で生産されていない製品か国内需要を満たせない製品であること、原材料と最終製品で関税分類の上位4桁が変わるか付加価値が30%以上増えることを要する。全量輸出向けの案件はこの要件の対象外 |
| ウズベキスタンの法人所得税優遇 | 2020年1月1日に廃止された。2020年10月1日時点で参加者登録簿に載っていた事業者には、投資額に応じて登録から3年から10年の範囲で未使用分が適用される(2021年9月14日の決定第PP-5243号) |
| ウズベキスタンの2025年の目標 | 特別経済区で投資23億ドル、輸出10億ドル、生産43億ドル相当、常用雇用1万2,000人。産業区で投資8億ドル、輸出5億1,220万ドル、生産18億ドル相当、常用雇用1万7,000人 |
| タジキスタンの自由経済区 | 5か所。登録企業123社(2026年7月1日時点)、活動開始以来の雇用2,196人、誘致した投資約27億ソモニ、工業製品の生産額40億ソモニ超(経済発展貿易省) |
カザフスタン — 制度の骨格
根拠法は2019年4月3日の法律第242-VI号である。同法は特別経済区と産業区を一つの法律で扱う。特別経済区は境界の定まった区域で、参加者が優先活動を行うために特別法的制度が適用される。産業区は、地域で事業を行う者にインフラを提供することを目的とし、国のもの(共和国級、地域級、小規模)と私営のものに分かれる。
特別経済区は最長25年で設置される。未開発の面積が全体の2割を超えている場合、または投資家の見込みがある場合、政府の決定で延長できる。区域は国有地の上に設けられ、参加者は運営会社と参加契約を結んで登録簿に載る。
カザフ・インベストの一覧によれば、2026年9月時点で15の特区がある。首都の アスタナ・ニューシティとアスタナ・テクノポリス、国境の国際国境協力センター「ホルゴス」とホルゴス・東門、港湾のアクタウ海港、産業のサリアルカ(カラガンダ)、パブロダル、オントゥスティク(シムケント)、ジベク・ジョルィ(ジャンブール州)、クズルジャル(ペトロパブル)、国立産業石油化学テクノパーク、情報技術のイノベーション技術パーク、トルキスタン州のトゥラン、アラタウ、そして2025年に設置されたアクトベである。設置年は2001年から2025年まで幅があり、規模も面積200ヘクタールから1万5,000ヘクタール超まで開きがある。
カザフスタン — 優遇の中身と、投資額で決まる期間
税の優遇は税法典の第734条と第735条にある。特区で活動する法人・個人事業主は、優先活動から生じる所得に対する法人所得税を100%減額でき、区域内にあって優先活動に使う資産について土地税・財産税・土地使用料も100%減額できる。土地税と土地使用料は税率に係数0を掛け、財産税は課税標準に税率0を適用する形をとる。特区と産業区の運営会社にも、区域の運営に使う資産について同じ減額が認められる。
2024年1月1日から、優遇が続く年数が投資額で分かれた。法律第242-VI号第51条が事業費に応じて三つの区分を置き、税法典第735条第10項がそれぞれの年数を定める。区分Aは事業費がMCIの300万倍までで7年、区分Bは300万倍から1,450万倍までで15年、区分Cは1,450万倍超で25年である。いずれも参加契約の期間と特区の存続期間を超えることはできない。食品、繊維、衣料、皮革製品、コンピュータ・電子光学機器、電気機器の製造は、100万倍から区分Bとして扱われる。
参加できない者も条文で明示されている。地下資源利用者、物品税課税品の製造者(一部の組立などを除く)、特別税制の適用者、投資協定・投資義務協定・固形鉱物加工協定を結んだ事業者、賭博事業者、アスタナ・ハブの参加者、アスタナ国際金融センターの参加者である。連合の関税国境と境界が重なる特区については、外国の個人と法人も参加者になれない。
優遇は取り消されうる。運営会社が参加契約を解除した場合、違反のあった課税期間の初日にさかのぼって減額が無効になり、納税者は30日以内に追加の申告を行う義務を負う。
カザフスタン — 関税、外国人労働、安定化条項
関税の面では、特区の全部または一部に自由関税地帯の手続きが適用される。適用される範囲は、特区を設置する政府決定で定められる。区域はユーラシア経済連合の関税領域の一部であり続けるが、関税・税・非関税措置の適用上は領域の外側にあるものとして扱われる。区域は税関の管理区域となり、国家歳入機関が管理を行う。
外国人労働については、カザフ・インベストの説明によれば、事業費が100万MCIを超える特区参加者の法人と、その元請・下請・役務提供者に雇用される外国人は、建設・据付工事の全期間と施設の稼働開始から1年間、外国人労働力の割当と就労許可の対象外となる。
税制の安定化も条文にある。税法典第735条第12項は、参加契約の締結後に税法が改正され、法人所得税・個人所得税・土地税・財産税・土地使用料の減額が廃止または変更された場合でも、契約時に有効だった規定を適用できると定める。適用は契約の残存期間内で、最初の改正の施行日から10年を超えない。運営会社が一方的に契約を解除した場合には適用されない。
ウズベキスタン — 5類型と、2025年の作り直し
根拠法は2020年2月17日の法律第ZRU-604号である。特別経済区は5類型に分かれる。自由経済区は新しい生産能力の創出と高度技術製品の生産を目的とする区域、特別科学技術区は研究機関・技術移転センター・ベンチャー基金などを集める区域、観光レクリエーション区は宿泊や娯楽の施設を整える区域、自由貿易区は保税倉庫や仕分け・包装・保管の場所を含み国境地点・空港・鉄道拠点などに置かれる区域、特別産業区は管理・経済・財務の面で特別な体制を敷く区域である。
案件の要件は自由経済区で最も厳しい。申請時点で、国内で生産されていない製品か、国内の生産量が需要を満たしていない製品の生産を予定していること。原材料と最終製品を比べて関税分類の上位4桁のいずれかが変わるか、付加価値が30%以上増えること。国内に同種の製品を十分に供給できる生産者がいる分野では認められないこと。ただし全量が輸出向けの案件はこれらの要件から外れる。区域内では、武器・弾薬、核物質、酒類・たばこ、セメント・コンクリート・れんが、廃棄物の処理、製油所や原子力施設などの活動が禁じられている。
2025年3月4日の大統領令第UP-41号は、枠組みをかなり作り直した。新しい専門区は特別経済区か産業区のいずれかの形でしか作らないこと。特別経済区は輸出志向・高度技術の案件のために設けられ、輸出案件だけを集める「特別輸出区」の形もとりうること。特区の存続期間の制限を撤廃すること。投資家には最長49年の土地賃貸が可能であること。参加者が選定から6か月以内に投資義務の履行に着手しない場合は賃貸契約を解除し、建物と土地をディレクションに戻すこと。所管は投資産業貿易省とし、観光専門の区域と私営管理の区域を除く特区のディレクションを同省の所管に移すこと。2025年6月1日から、輸出向け製品の製造に使う原材料・部品について、関税を払わずに保税加工の手続きを使えるようにすること。同令は東部のナマンガン州に特別輸出区を新設することも定めた。
同令は2025年の目標値も置いた。特別経済区で投資23億ドル、輸出10億ドル、生産43億ドル相当、常用雇用1万2,000人。産業区で投資8億ドル、輸出5億1,220万ドル、生産18億ドル相当、常用雇用1万7,000人である。
税の優遇については、2021年9月14日の決定第PP-5243号が経緯を明記している。特別経済区参加者の法人所得税の優遇は2020年1月1日に廃止された。廃止時点で未使用だった分は、2020年10月1日時点で参加者登録簿に載っていた事業者に限り、投資額に応じて登録から3年から10年の範囲で適用される。同決定は2021年9月15日から、参加者が生産用の部品・原材料を輸入する際の付加価値税と関税の支払いを、利息も担保もなしに最長120日繰り延べられるようにし、超過分の付加価値税の還付を7日以内に行うよう財務省と国税当局に求めた。
タジキスタン — 5つの自由経済区
タジキスタンは5か所の自由経済区を運営している。経済発展貿易省が2026年8月に公表した数字では、登録企業は2026年7月1日時点で123社、活動開始以来に創出された雇用は2,196人、誘致した投資は約27億ソモニ、工業製品の生産額は40億ソモニ超である。生産される製品の品目数は2015年の18から2025年には100品目を超えたとされる。製品は中央アジア諸国のほか、ドイツ、イラク、トルコ、ロシアなどへ輸出されているという。
同省は2026年4月にも、5か所の自由経済区に120社が登録していると説明していた。123社はその更新値にあたる。累計の数字であるため、単年の実績を読み取ることはできない。
投資家が確認すること
第一に、予定している事業が当該特区の優先活動の一覧に入っているかである。カザフスタンでは優先活動が特区ごとに定められ、経済活動分類の項目で指定される。一覧に入っていない活動から生じる所得は、通常どおり課税される。
第二に、優遇の年数を決める区分である。カザフスタンでは事業費がMCIの何倍かで7年・15年・25年に分かれ、2024年1月1日以後の契約に適用される。それ以前に結んだ契約の条件は異なる。
第三に、除外規定である。地下資源利用者、特別税制の適用者、投資協定の当事者、アスタナ・ハブやアスタナ国際金融センターの参加者は、特区の優遇と併用できない。すでに別の優遇制度に入っている企業は、どちらか一方を選ぶことになる。
第四に、安定化条項の射程である。カザフスタンの安定化は税の減額に関するもので、期間も契約の残存期間内かつ最初の改正から10年までに限られる。付加価値税の税率や社会税など、減額の対象になっていない項目の変更までは覆わない。
第五に、土地と契約の解除条件である。ウズベキスタンでは選定から6か月以内に着手しないと賃貸契約が解除される。カザフスタンでは契約が解除されると優遇がさかのぼって無効になる。着工の遅れがそのまま税負担に跳ね返る設計になっている。
数字の読み方
閾値がMCIの倍数で書かれている点に注意が要る。MCIは毎年の共和国予算法で決まるため、条文が変わらなくてもテンゲ建ての金額は毎年動く。2026年のMCIは4,325テンゲである。公的機関の英語ページが古いMCIのまま換算を載せていることがあり、2026年9月時点のカザフ・インベストの説明は3,692テンゲを引用している。金額を扱うときは、その年のMCIで換算し直す必要がある。
「誘致した投資」の数字は、多くの場合、活動開始からの累計であり、契約や覚書の総額を含む。実際に支出された額とは一致しない。単年の実績を知るには、期間を明示した数字を探す必要がある。
目標値と実績値の区別も要る。ウズベキスタンの大統領令が掲げる23億ドルや1万2,000人は2025年の目標であって、達成された額ではない。
特区の数も、定義によって変わる。カザフスタンでは特別経済区と産業区が別の制度であり、産業区には共和国級・地域級・小規模・私営の区分がある。ウズベキスタンでも特別経済区と産業区は別に数えられる。「経済特区が何か所ある」という記述は、どちらを数えたかを確かめないと比較できない。
参考資料
- О специальных экономических и индустриальных зонах(カザフスタン、2019年4月3日 法律第242-VI号。法令情報システム「アディレト」の現行版) ↗
- НАЛОГОВЫЙ КОДЕКС РЕСПУБЛИКИ КАЗАХСТАН(2025年7月18日 第214-VIII号。第734条・第735条が特区参加者の課税を定める) ↗
- Закон Республики Казахстан «О республиканском бюджете на 2026 – 2028 годы»(第7条に2026年の月次計算指標) ↗
- Special Economic Zones(カザフ・インベスト。15特区の一覧、面積、設置年、優遇の説明) ↗
- О специальных экономических зонах(ウズベキスタン、2020年2月17日 法律第ZRU-604号。法令データベース lex.uz) ↗
- О дополнительных мерах по повышению эффективности деятельности специальных экономических и промышленных зон(ウズベキスタン大統領令第UP-41号、2025年3月4日) ↗
- О мерах по дальнейшей поддержке участников специальных экономических зон(ウズベキスタン、2021年9月14日 決定第PP-5243号。法人所得税優遇の廃止と経過措置) ↗
- На международном форуме в Гулистоне подписано 12 документов о сотрудничестве(タジキスタン国営通信ホバル、2026年8月28日。経済発展貿易省による自由経済区の実績) ↗
- Министерство инвестиций, промышленности и торговли Республики Узбекистан(ウズベキスタン投資産業貿易省。特別経済区の所管官庁) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。