付加価値税は、物やサービスが売られるたびに売上に課税し、仕入れにかかった税を差し引いて納める間接税である。差し引き(仕入税額控除)が働くため、事業者どうしの取引では税が積み重ならず、最終的な負担は消費者に帰着する。旧ソ連の各国は独立後にこの方式を採用し、いまでは8か国すべてが付加価値税を持つ。歳入に占める比率が高く、税率の変更がそのまま物価と財政に効くため、政策の焦点になりやすい。
標準税率は2026年9月時点で12%から20%まで開いている。低いのはウズベキスタンとキルギスの12%、高いのはアルメニアの20%である。カザフスタンは2026年1月に12%から16%へ引き上げ、この地域で最も大きな税率変更を行った。ジョージアとアゼルバイジャンは18%、タジキスタンは15%を標準とする。
税率と並んで実務上の分かれ目になるのが、どの規模から課税事業者になるかである。閾値は国によって設計が大きく違い、売上高で線を引く国、法人であれば規模を問わず納税者とする国、そして付加価値税の章に閾値を置かず簡易な税制の側で線を引く国がある。同じ規模の企業でも、国が変われば申告義務の有無が変わる。
もうひとつの共通の動きが、国外の事業者が国内の消費者にデジタルサービスを提供する場合の課税である。ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、アゼルバイジャンはいずれも、非居住の事業者に自国の税務当局への登録と申告を求める規定を税法典に置いている。ジョージアはこれと異なり、非居住者から役務を受け取る側が納税義務を負うリバースチャージの仕組みを採る。
| カザフスタン | 標準16%(2025年7月18日の税法典第214-VIII号第503条、2026年1月1日施行)。医薬品・医療機器と医療サービスは2026年が5%、2027年から10%。国内の定期刊行物は10% |
|---|---|
| カザフスタンの閾値 | 暦年の売上高が月次計算指標(MCI)の1万倍を超えたとき登録が義務になる。2026年のMCIは4,325テンゲなので4,325万テンゲ。超えた日から5営業日以内に申請する |
| ジョージア | 標準18%(税法典第166条) |
| ジョージアの閾値 | 連続する12暦月の課税取引の合計が10万ラリを超えた日から2営業日以内に登録を申請する(第165条)。物品税課税物品の製造者は供給の前に登録する |
| アゼルバイジャン | 標準18%(税法典第173.1条) |
| アゼルバイジャンの閾値 | 連続する12か月のいずれかの月に課税取引が20万マナトを超えた者は登録の申請を求められる(第155.1条) |
| アルメニア | 標準20%(税法典第63条)。課税対象の一部には算定用の16.67%が使われる |
| アルメニアの閾値 | 課税年度の売上高が1億1,500万ドラムを超えると回転税の対象でなくなり、超過分について付加価値税を計算して納める |
| ウズベキスタン | 標準12%(税法典第258条。2022年12月30日の法律ORQ-812号により2023年1月1日から15%を引き下げ) |
| ウズベキスタンの閾値 | 国内の法人は原則として納税者。個人事業主は課税期間の売上高が10億スムを超えると納税者になる(第237条)。総所得10億スム以下の法人・個人事業主は回転税を選べる(第461条。2025年12月25日の法律ORQ-1108号により2026年1月1日から現行の形)。2026年8月18日にミルジヨエフ大統領が基準を50億スムへ引き上げると表明した |
| キルギス | 標準12%(税法典第254条第1項)。同条第3項により、非居住の外国法人による供給にも12%が課される |
| キルギスの閾値 | 付加価値税の章に売上高の閾値はない。一般税制の事業者は税務登録の日に付加価値税の登録がなされる(第255条、2023年4月3日の法律第78号による改正)。小規模事業者は単一税による簡易税制を選ぶことで対象外になる |
| タジキスタン | 標準15%、軽減7%(建設工事、ホテル、外食)、軽減5%(国内産農産物と加工、綿花の加工を除く。教育、療養所の医療)、ゼロ税率(税法典第264条。2025年2月11日の法律第2143号による現行の形) |
| タジキスタンの閾値 | 連続する12暦月以内の総所得が100万ソモニを超える者が納税者になる(第245条)。国外から遠隔サービスを提供する外国人も納税者に含まれる |
| トルクメニスタン | 標準税率と閾値を公表資料から確認できなかった |
| 輸出の扱い | 8か国とも物品の輸出にはゼロ税率を適用するのが基本で、仕入れにかかった税は控除または還付の対象になる |
| 非居住者のデジタルサービス | ウズベキスタン(税法典第278条から第282条)、キルギス(第28条第4項と第254条第3項)、タジキスタン(第43章)、アゼルバイジャン(第33.8-1条、第169条。2026年9月から年間売上高1万ドル超の事業者に電子登録の義務)。ジョージアはリバースチャージ(第165条の2第2項) |
仕組み — 差し引きで積み重ならない税
付加価値税は流通の各段階で課される。原材料を売る会社、加工して部品にする会社、完成品を売る会社がそれぞれ売上に税を上乗せして受け取り、仕入れのときに支払った税を差し引いて、差額だけを国庫に納める。これによって、途中の段階が何回あっても税の総額は最終価格に対する一定の割合に収まる。この点が、段階ごとに積み重なる売上税との最大の違いである。
差し引きが働くためには、事業者が仕入れの証憑(インボイス、この地域では電子インボイスが主流)を保存し、申告で仕入税額を主張できることが前提になる。したがって付加価値税は、税率の設計と同じくらい、書類と申告の仕組みに依存する税である。ジョージアの税法典が課税期間を暦月とし、翌月15日までの申告を義務づけているように、各国は月次または四半期の申告サイクルを定めている。
課税事業者でない小規模な事業者は、仕入れにかかった税を差し引けない。この場合、税は費用としてそのまま原価に乗る。閾値をどこに置くかは、徴税の事務負担と、小規模事業者にとっての実質的な負担の両方を左右する。
税率 — 12%から20%まで
2026年9月時点の標準税率は、ウズベキスタンとキルギスが12%、タジキスタンが15%、カザフスタンが16%、ジョージアとアゼルバイジャンが18%、アルメニアが20%である。
この5年で最も大きく動いたのがカザフスタンとウズベキスタンで、方向は逆だった。ウズベキスタンは2022年12月30日の法律で税率を15%から12%へ下げ、2023年1月1日から適用している。カザフスタンは2025年7月18日に採択した新税法典で12%から16%へ引き上げ、2026年1月1日に施行した。同じ改正で登録の閾値も半分に下げており、税率と課税範囲を同時に広げた形である。
軽減税率を持つのはカザフスタンとタジキスタンである。カザフスタンは医薬品・医療機器と医療サービスに2026年は5%、2027年から10%を適用し、国内の定期刊行物を10%とする。タジキスタンは建設工事・ホテル・外食に7%、国内産農産物とその加工(綿花の加工を除く)、教育、療養所の医療に5%を適用するが、5%の区分には仕入税額を控除する権利が付かない。控除できない軽減税率は、途中段階で使うと税が積み重なる点で通常の軽減税率とは性格が違う。
閾値 — 設計が国ごとに違う
売上高で明快に線を引くのはジョージア、アゼルバイジャン、カザフスタン、タジキスタンである。ジョージアは連続する12暦月の課税取引が10万ラリを超えた日から2営業日以内、アゼルバイジャンは連続する12か月のいずれかの月に課税取引が20万マナトを超えたとき、カザフスタンは暦年の売上高が2026年で4,325万テンゲを超えたときに登録の義務が生じる。タジキスタンは連続する12暦月以内の総所得100万ソモニが基準である。
ウズベキスタンは設計が異なる。国内の法人は規模を問わず付加価値税の納税者とされ、個人事業主だけが売上高10億スムの線で分かれる。ただし総所得10億スム以下の法人と個人事業主は回転税という別の税を選ぶことができ、これを選ぶと付加価値税と法人所得税を納めない。実質的な閾値はこの回転税の側にある。2026年8月18日、ミルジヨエフ大統領はこの基準を50億スムへ引き上げると述べた。
キルギスは2023年4月3日の改正で、付加価値税の章から売上高の閾値をなくした。一般税制で税を納める事業者は税務登録の日に付加価値税の登録がなされる。小規模な事業者は単一税にもとづく簡易税制を選ぶことで対象から外れる。閾値を税の側ではなく制度の選択の側に置いた設計といえる。
いずれの国でも、閾値は自国通貨で書かれるか、カザフスタンのように毎年の予算法で決まる指標の倍数で書かれる。年をまたいで比較するときは、その年の指標と為替の両方を確認する必要がある。
輸出のゼロ税率と、還付の滞留
付加価値税は消費地で課すのが原則なので、輸出される物品には税を課さない。単なる非課税ではなくゼロ税率とするのは、仕入れにかかった税を控除・還付できるようにするためである。非課税だと仕入税額が控除できず、輸出品の原価に国内の税が残ってしまう。
輸出比率の高い事業者は、売上に対する税より仕入れにかかった税のほうが大きくなるため、恒常的に還付を受ける立場になる。ここで問題になるのが、申請から実際の入金までにかかる時間である。還付が滞ると、輸出企業は本来手元にあるはずの運転資金を国に預けたままになる。8か国のいずれでも、還付の手続きと期間は事業者にとって税率と同じくらい重要な条件になっている。
関連する制度として、経済特区や自由経済地帯の参加者に対するゼロ税率や免除がある。ウズベキスタンでは、特定の区域の参加者について、区域内および国外向けの販売の回転高にゼロ税率を適用する枠組みが設けられている。こうした優遇は税法典本体ではなく個別の法令で定められることが多く、期限が付いているのが通例である。
非居住のデジタルサービスへの課税
国境を越えて配信される音楽、動画、ゲーム、クラウド、広告といったサービスは、従来の課税の枠組みでは取りこぼされやすい。売り手が国内に拠点を持たず、買い手が個人だと、誰から税を取るのかがはっきりしないためである。この地域の各国は、非居住の事業者自身に登録と申告を求める方式を順に導入してきた。
ウズベキスタンは税法典に専用の章を置き、電子的な形でサービスを提供し個人と直接決済する外国法人について、税務当局への登録と抹消の手続き、課税の対象と期間、申告と納付の手順を定めている。登録した外国法人はインボイスを発行せず、購入・販売の登録簿も持たない。キルギスは第254条第3項で、外国法人による供給に12%を課すと明記する。タジキスタンは遠隔サービスを提供する外国人を納税者に含める。
アゼルバイジャンは2026年9月から新しい方式に移った。税法典第33.8-1条と第169条にもとづき、電子商取引の形で役務を提供し国内での年間売上高が1万ドルを超える非居住の事業者に、税務当局での電子登録を義務づける。登録すると、それまで銀行が利用者の口座から差し引いていた税を、事業者が自ら計算し申告して納めることになる。物品の販売や電子プラットフォーム経由の注文・配送は対象外である。
ジョージアはこれらと異なる設計である。税法典第165条の2第2項は、登録の義務なしに納税義務が生じる場合として、リバースチャージの対象となる取引の税務代理人を挙げる。つまり非居住者にではなく、役務を受け取る国内の側に納税義務を置く。
中小企業の扱いと、税率だけでは比べられない理由
各国は、小規模な事業者が付加価値税の申告事務を負わずに済むよう、売上高に対する低率の課税で置き換える簡易な税制を用意している。ウズベキスタンの回転税、キルギスの単一税にもとづく簡易税制、カザフスタンの簡易申告にもとづく特別税制、アルメニアの回転税がこれにあたる。これらの制度の対象範囲が変われば、付加価値税の実際の課税範囲も同時に変わる。
したがって、標準税率の数字だけを並べて税負担を比較することはできない。同じ12%でも、法人であれば規模を問わず課税されるウズベキスタンと、簡易税制を選べば対象外になるキルギスとでは、実際に付加価値税を扱う事業者の裾野が違う。カザフスタンの2026年の改正で影響が大きかったのも、税率の4ポイントより、閾値が下がって新たに課税事業者になる小規模事業者が増えたことだった。
軽減税率の有無、非課税とされる取引の範囲、還付にかかる期間、電子インボイスの義務の広さも、実務上の負担を左右する。税率、閾値、控除の可否、事務負担の4点を揃えて見ないと、国ごとの比較にはならない。
数字の読み方
税率は施行日で切り替わる。カザフスタンの16%は2026年1月1日から、ウズベキスタンの12%は2023年1月1日からである。それ以前の期間の統計や決算は旧税率で計算されているため、年をまたぐ比較では税率の変更が数字を動かしている可能性を先に確認する必要がある。
閾値は自国通貨建てなので、ドル換算した値を国際比較に使うと為替の変動が混ざる。カザフスタンのようにMCIの倍数で書かれている場合は、条文が変わらなくてもテンゲ建ての閾値が毎年動く。
大統領や閣僚が表明した変更と、法令として公布された変更は分けて扱う必要がある。ウズベキスタンの閾値を50億スムへ引き上げるという方針は2026年8月18日の発言によるもので、税法典の条文は本稿の時点で10億スムのままである。
条番号は改正で動く。カザフスタンでは付加価値税の税率が旧税法典の第422条から新税法典の第503条へ移った。2026年より前に書かれた解説の条番号は、そのままでは現行の法典に当てはまらない。
参考資料
- НАЛОГОВЫЙ КОДЕКС РЕСПУБЛИКИ КАЗАХСТАН(2025年7月18日 第214-VIII号。法令情報システム「アディレト」の現行版) ↗
- Tax Code of Georgia(ジョージア立法権公報「マツネ」の英語版。第165条の登録義務と第166条の税率) ↗
- Vergi Məcəlləsi(アゼルバイジャン税法典。法令データベース e-qanun。第155.1条の登録閾値と第173.1条の税率) ↗
- Tax Code of the Republic of Armenia(アルメニア法情報システム ARLIS の英語版。第63条の税率) ↗
- Ўзбекистон Республикасининг Солиқ кодекси(ウズベキスタン税法典。国家法令データベース lex.uz。第258条の税率と第461条の回転税) ↗
- Налоговый кодекс Кыргызской Республики(キルギス国家税務局が公開する税法典。第254条の税率と第255条の登録) ↗
- Кодекси андози Ҷумҳурии Тоҷикистон(タジキスタン税法典、2025年12月17日現在版。税務委員会。第245条の納税者と第264条の税率) ↗
- Кодекси андоз(タジキスタン税務委員会の法令ページ。税法典の各版の一覧) ↗
- Закон Республики Казахстан «О республиканском бюджете на 2026 – 2028 годы»(第7条に2026年の月次計算指標。カザフスタンの閾値の算定に用いる) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。