綿花は中央アジアの農業を長く規定してきた作物である。ソビエト期の計画経済のもとで、ウズベキスタンとトルクメニスタンは綿花の単作地帯として位置づけられ、アムダリヤ川とシルダリヤ川の水を灌漑に振り向ける大規模な事業がその生産を支えた。アラル海の縮小は、この構造の帰結として起きた。
独立後もウズベキスタンは世界有数の綿花生産国であり続けたが、2017年以降、その仕組みは大きく組み替えられた。作付面積を減らし、国が生産量と価格を決める国家調達を廃止し、栽培から紡績・織布・縫製までを一体で担う「クラスター」に生産を移した。この転換は、収穫時の強制労働という国際的な批判への対応でもあった。
2022年3月、国際労働機関が組織的な強制労働と児童労働の解消を確認し、10年以上続いた世界的なボイコットが解除された。以降のウズベキスタンの課題は、原綿を輸出する国から、糸・生地・縫製品を輸出する国へ移ることに移っている。
域内の他国では事情が異なる。タジキスタンは綿花を農村の基幹産業として維持し、単収の改善を進めている。アゼルバイジャンは規模こそ小さいが輸出を伸ばしている。トルクメニスタンについては、国際的な労働団体が国家による強制労働が広範に続いていると報告しており、綿花のボイコットが解除されていない。
| ウズベキスタンの位置づけ | 世界の上位10位に入る綿花生産国。綿繊維の年産は約100万トン(世界銀行、2025年5月時点) |
|---|---|
| 作付面積の推移 | 2008年140万ヘクタール、2017年123万ヘクタール、2018年107万1,000ヘクタール、2019年103万3,000ヘクタール、2020年約100万ヘクタール(世界銀行、2020年5月) |
| 縮小の意味 | 12年で40万ヘクタールの削減は、同国の灌漑地(350万〜400万ヘクタール)の10%を超える(同) |
| 国家調達の廃止 | 2020年の収穫から実綿の国家調達を廃止。大統領決定PP-4633号(2020年3月6日採択、3月7日施行)。根拠は農業発展戦略2020〜2030年を承認した大統領令UP-5853号(2019年10月23日) |
| クラスターの拡大 | 2018年15社が作付の16%、2019年75社が63%、2020年92社が86%(88万6,000ヘクタール)を担当(世界銀行、2020年5月) |
| クラスターの要件 | 自社の加工能力が生産・調達する実綿の50%以上(最低でも糸まで)ある申請者を優先。三者協定の期間は30年、外資系企業と外国法人は25年まで。大統領令UP-14号(2021年11月16日) |
| 収穫の動員規模 | 摘み手の推計人数は2015年340万人、2017年280万人、2018年240万人、2019年175万人(国際労働機関の推計を世界銀行が引用) |
| 強制労働の推移 | 強制的に動員された摘み手は2015年44万8,000人(14.0%)、2017年36万4,000人(13.0%)、2018年17万人(6.8%)、2019年10万2,000人(5.9%)(同) |
| 摘み取りの賃金 | 1キログラムあたり2015年200スム、2017年450〜700スム、2019年800〜1,400スム(同) |
| 国際労働機関の検証 | 2022年3月、ウズベキスタンの綿花が組織的な強制労働と児童労働から自由であることを確認。同機関は2015年から世界銀行との合意にもとづき収穫を監視してきた(世界銀行、2025年5月) |
| ボイコットの終了 | 2022年3月10日、コットン・キャンペーンがタシケントの記者会見でウズベク綿花の世界的なボイコットの呼びかけを終了し、企業向けの誓約を解除した |
| 繊維産業の雇用 | 2018年18万8,000人から2024年約60万人へ(世界銀行、2025年5月) |
| 紡績の国内化 | 2023年以降、収穫した実綿の100%を国内で糸にできる状態になった(同) |
| 直近の支援策 | 大統領決定PQ-246号「綿花・繊維分野の財務的安定を高め、繊維の深度加工を追加的に支援する措置について」(2026年6月29日採択、6月30日施行) |
| タジキスタンの綿花 | 2026年の収穫目標は39万3,000トン超、作付実績18万2,800ヘクタール。フィルムマルチ栽培は4万200ヘクタールで前年の2万1,000ヘクタールからほぼ倍増(農業省、2026年8月) |
| アゼルバイジャンの綿花輸出 | 2026年1〜7月に1億7,226万ドル、前年同期比31.4%増。輸出全体の0.89%(国家税関委員会) |
作付面積の縮小 — 水と収益性の両面から
ウズベキスタンの綿花の作付面積は、2008年の140万ヘクタールから2020年には約100万ヘクタールへ、28%減った。削減の大半は2017年から2019年にかけて起きている。世界銀行はこの40万ヘクタールという削減幅を、同国の灌漑地(350万〜400万ヘクタール)の10%を超える規模だと評価した。
減らした面積は果樹・野菜など収益性の高い作物へ振り替えられた。付加価値、雇用、輸出収入のいずれもこれらの作物のほうが大きいという判断である。同時に、綿花は水を多く使う作物であり、面積の縮小はそのまま取水量の抑制につながる。
ただし面積の縮小は生産量の縮小を意味しない。ウズベキスタンでは単収の改善が並行して進んでおり、綿繊維の年産は約100万トンの水準で世界の上位10位に位置し続けている。
面積の配分については、国が作付を割り当てる仕組み(作物配置制度)が2020年時点でも残されていた。大統領決定PP-4633号は、この制度を農業発展戦略にしたがって2023年まで維持すると定めていた。
国家調達の廃止とクラスター制度
国家調達(国家発注)は、作物の配置、生産計画、生産資金と資材の供給、灌漑用電力の負担、国家買取価格、摘み手の動員、国による買い取りと販売という、相互に結びついた要素の集合体だった。2019年10月23日の大統領令UP-5853号が承認した農業発展戦略2020〜2030年は、綿花と穀物の国家発注を廃止する方針を掲げ、これを受けた大統領決定PP-4633号(2020年3月6日)が、2020年の収穫から実綿の国家調達を廃止した。同じ決定で綿花加工の国営企業ウズパフタサノアトが清算された。
国家買取価格は廃止前の数年で市場水準まで引き上げられていた。1トンあたり2016年に121万8,000スム(377ドル)だったものが2019年には430万スム(488ドル)となり、輸出パリティ価格に並んだ。廃止後は、世界市場の相場と国内の生産費を反映した「期待指標価格」が公表される仕組みに置き換えられた。
この転換を可能にしたのがクラスターである。クラスターは綿花の栽培(自社または契約農場)から、繰綿、紡績、生地の製造、縫製までを一体で行う企業体を指す。導入は2018年で、当初は15社が作付面積の16%を担当していた。2019年には75社・63%、2020年には92社・86%(88万6,000ヘクタール)まで広がり、残る14%(14万8,000ヘクタール)には協業組織が置かれた。
大統領令UP-14号(2021年11月16日)が運用の枠組みを定めている。クラスターの設立はカラカルパクスタン共和国閣僚会議または州政府が農業省と合意して決め、申請者のうち自社の加工能力が生産・調達する実綿の50%以上(最低でも糸まで)ある者を優先する。設立にあたっては農業省、地方政府、事業者の三者協定を30年(外資系企業と外国法人は25年まで)の期間で結ぶ。農場はクラスターと契約ベースで取引し、実綿の供給について先物契約を自発的に結ぶことができる。三者協定の解除は裁判によってのみ行われる。同令の第1項と第2項は2023年12月12日の大統領令UP-205号で失効している。
強制労働問題とボイコットの終了
綿花の収穫は9月から11月にかけて手作業で行われ、2017年以前は毎年およそ200万人の成人と子どもが動員された。世界最大の季節労働の動員であり、そのうち15%が強制されたものだったと世界銀行は説明している。摘み手は地方政府によって集団で編成され、農場やクラスターが自前で雇うことは実際上できなかった。摘み取りの95%は手作業である。
2010年、人権団体と労働団体の連合であるコットン・キャンペーンとレスポンシブル・ソーシング・ネットワークが、企業向けの「ウズベク綿花誓約」を立ち上げた。署名した衣料ブランドと小売業者は、国家が組織する強制労働で生産される限りウズベク綿花を使わないと約束した。署名は100社を超えた。
数字は改善していった。国際労働機関の推計では、摘み手の総数は2015年の340万人から2019年に175万人へ減り、強制的に動員された人数は44万8,000人から10万2,000人へ、比率は14.0%から5.9%へ下がった。背景には作付面積の縮小、生産量の減少、そして賃金の上昇がある。摘み取りの賃金は1キログラムあたり2015年の200スムから2019年には800〜1,400スムになり、自発的な参加者が集まりやすくなった。
国際労働機関は2015年から世界銀行との合意にもとづいて収穫を監視してきた。2022年3月、同機関はウズベキスタンの綿花が組織的な強制労働と児童労働から自由であることを確認した。これを受けてコットン・キャンペーンは2022年3月10日、タシケントでの記者会見でボイコットの呼びかけを終了し、誓約を解除した。
ただし同連合は、誓約の解除は個々の企業の判断を代替しないとしている。独立した監視団体が自由に登録・活動できない状況、地方当局による干渉や個別の強制労働の事例が残ることを挙げ、調達を検討する企業には人権デューデリジェンスと是正計画が要ると述べている。クラスターが栽培から縫製までを垂直統合しているため、監視の対象は農場、紡績、生地、縫製のすべての段階に及ぶ。
川下化 — 原綿から糸、生地、縫製へ
改革のもう一つの目的は、輸出に占める原料の比率を下げることだった。世界銀行が米農務省の集計として示した綿繊維の収支では、輸出は2017年の68万1,000トンから2018年51万1,000トン、2019年21万5,000トンへ3年で3分の1以下に減っている。原料の輸出が減ったのは生産が落ちたためではなく、国内での加工が増えたためである。
世界銀行によれば、2023年以降ウズベキスタンは収穫した実綿の100%を国内で糸に変えられる状態になった。次の段階は生地と縫製品である。国内の繊維産業の雇用は2018年の18万8,000人から2024年には約60万人へ増え、その多くを女性と若年層が占める。
政策の支援も続いている。大統領決定PQ-246号(2026年6月29日採択、6月30日施行)は、2025年に割り当て地で綿花を栽培したクラスターと関連企業に対して1ヘクタールあたり300万スムの補助を与えること、染色生地と混紡の染色織物の生産事業に対して染色設備の購入補助の残余資金から補助を出すこと、企業家持続性格付けでA以上に分類されるクラスターと繊維企業には2027年7月1日まで検査なしで20日以内に付加価値税の還付を行うことを定めた。
水との関係
綿花は灌漑を前提とする作物であり、中央アジアではアムダリヤ川とシルダリヤ川の水に依存する。ソビエト期の綿花増産計画がこの二つの川からの取水を拡大した結果、流入量を絶たれたアラル海は縮小した。綿花の面積と水の配分は、いまも同じ問題の二つの面である。
ウズベキスタンの綿花の作付削減は、この文脈で理解される。灌漑地の10%を超える面積を綿花から外したことは、水需要の構造そのものを変える規模である。
カザフスタンでも同じ調整が進んでいる。2026年の作付構成は初めて実際の取水枠に合わせて決められ、綿花では点滴灌漑の面積を2万9,800ヘクタール増やしつつ、従来型の灌漑を1万2,000ヘクタール減らした。稲の面積は2万200ヘクタール削られている。灌漑方式の切り替えは、面積を減らさずに取水量を減らす手段として使われている。
域内の他国 — タジキスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタン
タジキスタンでは綿花が農産業の基幹部門であり、農業省によれば労働人口の約2割がこの分野で働く。2026年の収穫目標は39万3,000トン超で、前年の39万トンから引き上げられた。作付は18万6,800ヘクタールの目標に対して18万2,800ヘクタールだった。単収の底上げ策としてフィルムマルチ栽培が広がり、2026年の導入面積は4万200ヘクタールと前年の2万1,000ヘクタールからほぼ倍増している。農業省は、この技術を使った圃場の平均単収が1ヘクタールあたり4トンに達したと説明している。政府は2026〜2030年の綿花栽培イノベーション発展国家プログラムを採択した。
アゼルバイジャンの綿花は規模が小さい。2026年1〜7月の輸出額は1億7,226万ドルで前年同期比31.4%増だが、輸出全体に占める比率は0.89%にとどまる。同期間の綿花の輸入額は603万ドルである。同国の輸出は石油とガスに偏っており、綿花を原料のまま出すか繊維製品まで加工して出すかは、非資源部門の育成という文脈で問われている。
トルクメニスタンについては、コットン・キャンペーンが「トルクメン綿花誓約」を維持している。同連合は、収穫期に教員や医療従事者を含む公務員が動員され、応じない場合は解雇などの不利益を受けると報告し、国家が生産の全体を管理する体制のもとでは企業が現地で信頼できるデューデリジェンスを行うことはできないとしている。米国はトルクメン綿花に対する輸入差し止め命令を出しており、カナダも強制労働による製品の輸入を禁じている。
数字の読み方
「綿花」という語は二つの異なるものを指す。畑から穫れる実綿(種を含んだ状態)と、繰綿工場で種を分離した後の綿繊維である。実綿から取れる繊維はおおむね3割前後なので、同じ年の生産量が3倍以上違って見えることがある。世界銀行がウズベキスタンの年産を「約100万トン」と書くときは繊維、収穫目標として数百万トンという数字が出るときは実綿を指している。
作付面積の数字も、綿花を作る面積の割り当て、実際に播かれた面積、収穫した面積で異なる。タジキスタンの2026年の例では、目標18万6,800ヘクタールに対して実績18万2,800ヘクタールだった。
強制労働の統計は、監視の手法と定義に依存する。ここで引いた比率はいずれも国際労働機関が独自の面接調査にもとづいて推計したもので、動員された摘み手の総数に対する割合である。総数そのものが年ごとに大きく変わるため、比率と実数の両方を見ないと変化の意味を取り違える。
輸出額の伸び率は母数の大きさとあわせて読む必要がある。アゼルバイジャンの綿花輸出が31.4%増えたと言うとき、その額は同国の輸出全体の1%に満たない。
参考資料
- Weaving a New Future in Uzbekistan’s Cotton Sector(世界銀行、2025年5月27日。動員規模、国際労働機関による2022年3月の検証、繊維産業の雇用、紡績の国内化) ↗
- 「Хлопково-Текстильные Кластеры в Узбекистане: Оценка и Прогноз」(世界銀行、2020年5月2日。作付面積の推移、クラスターの拡大、国家買取価格、国際労働機関の強制労働推計) ↗
- 「ПП-4633-сон 06.03.2020. О мерах по широкому внедрению рыночных принципов в сферу хлопководства」(ウズベキスタン法令データベース。国家調達の廃止) ↗
- 「УП-14-сон 16.11.2021. О мерах по регулированию деятельности хлопково-текстильных кластеров」(同。クラスターの設立要件と三者協定) ↗
- 「ПҚ-246-сон 29.06.2026」(同。綿花・繊維分野の財務的安定と深度加工の支援) ↗
- New Presidential Resolution Adopted to Support Uzbekistan’s Cotton and Textile Industry(ウズベキスタン繊維・縫製産業協会、2026年7月1日。PQ-246号の内容の要約) ↗
- The Uzbek Cotton Pledge for Companies(コットン・キャンペーン。2022年3月10日の誓約解除と、その後の留意点) ↗
- The Turkmen Cotton Pledge for Companies(同。トルクメニスタンの綿花に関する見解と各国の輸入規制) ↗
- GIEWS Country Brief: Uzbekistan(国連食糧農業機関、基準日2026年7月14日。穀物との作付競合と輸入需要) ↗
- Tajikistan plans to harvest more than 393,000 tons of cotton this year(アジアプラス、2026年8月19日。タジキスタン農業省の発表) ↗
- Azerbaijan’s cotton exports increase(APA、2026年8月17日。国家税関委員会の統計) ↗
- 「Общая посевная площадь в текущем году превысит 23,8 млн га」(カザフスタン政府、2026年5月12日。取水枠に合わせた作付構成と点滴灌漑) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。