中央アジアの一部の国では、国外で働く人の数が労働力人口に対して無視できない比率を占める。ウズベキスタン中央銀行が2026年8月に公表した分析レビューは、移住庁の資料として、約40か国でおよそ140万人の同国民が働いていると記した。国別の内訳を合計すると139万2,800人で、うちロシアが83万4,200人と6割近くを占める。キルギスとタジキスタンでも、家計の収入に占める海外からの送金の比率は高い。
この地域の労働移動には、他の地域にはない制度上の特徴がある。ユーラシア経済連合(EAEU)に加盟しているカザフスタン、キルギス、アルメニアの国民は、他の加盟国で就労許可を取らずに働ける。同じ地域にありながらEAEUに加盟していないウズベキスタン、タジキスタンの国民は、ロシアで働くのに許可が要る。同じロシア語圏で、同じ職種に就いていても、手続きの負担と滞在の安定性が国籍で分かれる。
もう一つの特徴は、行き先が動いていることである。中央銀行のレビューによれば、ウズベキスタンからの就労者の分布は独立国家共同体(CIS)諸国の比率が29%下がり、欧州地域で42%、東アジア地域で26%上がった。数字は比率の変化であって人数の減少ではないが、方向としては分散が進んでいる。各国政府は韓国、トルコ、湾岸諸国、英国、日本などとの間で送り出しの協定を積み重ねている。
投資の観点からは、労働移民は二つの意味を持つ。一つは、海外で稼いだ所得が送金として戻り、国内の消費と住宅需要を支えること。もう一つは、働き手が国外へ出ることで国内の労働市場が締まり、建設や運輸などの分野で人手の確保が制約になることである。後者はジョージアの国際貨物輸送のように、送り出し国ではない国でも起きている。
| ウズベキスタンの海外就労者 | 139万2,800人(2026年上半期。中央銀行の個人の外国為替取引に関する分析レビューが移住庁の資料として掲載) |
|---|---|
| 同・行き先の内訳 | ロシア83万4,200人、欧州地域25万8,000人、その他9万7,700人、カザフスタン8万4,400人、トルコ7万2,100人、韓国4万6,400人 |
| 同・属性 | 女性39万8,900人(28.6%)、若年層40万2,100人(28.9%) |
| 同・送り出しの枠組み | 23か国との間で48の協定。うち18は2025〜2026年に14か国と結ばれた。36か国の325社を超える雇用主・人材会社と連携し、2026年に入って12万4,500人が海外の職に就いた |
| EAEU加盟国の国民 | カザフスタン、キルギス、アルメニアの国民は他の加盟国で就労許可を取らずに働ける。設立条約は労働力の移動の自由を4つの自由の一つに掲げる |
| EAEU非加盟国の国民 | ウズベキスタン、タジキスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、トルクメニスタンの国民は、ロシアで働くのに就労の許可が要る |
| キルギスの担当官庁 | 労働・社会保障・移民省。海外就労の窓口は同省の下に置かれた海外就労センター |
| ウズベキスタンの担当官庁 | 移住庁(公式サイトは2026年9月時点で試験運用中と表示) |
| カザフスタンの担当官庁 | 労働・社会保護省 |
| 英国の季節労働の枠組み | 季節労働者査証。園芸は最長6か月、家禽は10月2日から12月31日まで。雇用主の後援が必要で、申請料は340ポンド(2026年9月時点) |
| キルギスの英国向け登録 | 2027年の英国の季節農業労働について、海外就労センターがオンライン登録を2026年8月17日12時から8月20日23時59分まで受け付けた |
| 韓国の雇用許可制(EPS) | 中央アジアからはウズベキスタン、キルギス、タジキスタンが参加。カザフスタンは18番目の送り出し国に指定され、就労開始は2028年の見込み(カザフスタン労働・社会保護省の説明) |
| 送金との関係 | 海外就労は送金の源泉だが、額と対GDP比は別項目で扱う。人数の統計と送金額の統計は集計主体も定義も異なる |
誰がどこへ行っているか
公表資料でもっとも細かい内訳が取れるのはウズベキスタンである。中央銀行の2026年上半期のレビューは、移住庁の資料として国別・地域別の人数を示している。ロシア83万4,200人、欧州地域25万8,000人、その他の国9万7,700人、カザフスタン8万4,400人、トルコ7万2,100人、韓国4万6,400人で、合計139万2,800人になる。女性は39万8,900人で28.6%、若年層は40万2,100人で28.9%とされる。人数が示されているのは4か国と2地域だけで、約40か国という広がりの残りの内訳は公表されていない。
カザフスタンは送り出しと受け入れの両方の性格を持つ。ウズベキスタンからの就労者8万4,400人が同国にいる一方、同国民も韓国などへ出ている。ジョージアとアルメニアでは、行き先がロシアだけでなく欧州連合諸国、米国、イスラエル、トルコに広く分かれている。
タジキスタンは、家計の収入に占める海外からの資金の比率が域内で最も高い国とされるが、海外で働く自国民の人数を国別に示した包括的な公表統計は見当たらない。キルギスも同様で、行き先ごとの人数は公表資料からは把握できない。人数の統計が細かく公表されているかどうかは、国によって大きく差がある。
EAEUの内と外で条件が違う
ユーラシア経済連合の設立条約は、モノ・サービス・資本と並んで労働力の移動の自由を掲げる。この規定により、加盟国であるカザフスタン、キルギス、アルメニアの国民は、ロシアを含む他の加盟国で就労許可を取らずに働くことができる。社会保障の通算も条約の枠組みで手当てされている。キルギスが2015年8月に加盟した際、この労働移動の規定は同国にとって加盟の最大の実利と説明された。
非加盟国の国民は同じ扱いを受けない。ウズベキスタン、タジキスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、トルクメニスタンの国民がロシアで働くには、就労の許可を取得し、それを維持するための手続きと費用を負担する必要がある。手続きの負担が重いほど、許可のないまま働く人が増え、統計に現れない層が厚くなる。
この線引きは、同じ国から出た人の中でも行き先によって効き方が変わる。EAEU域内であれば許可は不要だが、域外へ出れば受け入れ国の査証制度に従うことになる。ウズベキスタンやタジキスタンから見ると、ロシアもカザフスタンも許可の要る国であり、この点でキルギスとは条件が異なる。
受け入れ側の運用が変わると何が起きるか
受け入れ国の制度は、送り出し国の家計に直接届く。ロシアでの手続きや在留管理の運用が厳しくなると、許可の取得と更新の費用が上がり、就労を続けられない人が出る。ウズベキスタンでは2026年8月、大手建材メーカーの経営者が大統領との会合で、国外で暮らす自国民1万人を雇用する用意があると表明し、帰国希望者向けのコールセンターを設ける考えを示した。大統領は在外国民の就労と帰国希望者の受け入れを扱う仕組みの案を10日以内に提出するよう指示している。
韓国では、在留資格を持たないまま働く人の多さが制度参加の障害になった。カザフスタンは2023年から韓国の雇用許可制への加入を求めてきたが、同国当局が2025年に示した数字では在韓カザフスタン人約1万5,000人のうち約1万1,000人が無許可の状態だった。短期滞在の査証免除で入国し、そのまま職を探す例が生じていたためである。当局は無許可就労を減らす行程表を用意し、18番目の送り出し国として指定された。
働く側から見ると、正規の枠組みに乗るかどうかで送金の経路も変わる。在留資格があれば銀行を通じた送金に乗りやすく、統計に現れる送金額と実際の労働移動の規模との差が縮む方向に働く。
行き先の多様化 — 韓国、トルコ、湾岸、英国
韓国の雇用許可制(EPS)は、人手不足の分野で参加国から労働者を受け入れる政府の制度である。中央アジアではウズベキスタン、キルギス、タジキスタンがすでに参加している。カザフスタン労働・社会保護省の説明では、同国は18番目の送り出し国に指定され、渡航の開始は2028年の見込みである。両国は覚書を結び、韓国語試験の実施体制を整える必要がある。試験はアルマトイの国家試験センターで行うとされる。制度のもとで労働者は在留資格を得て、製造・建設・農業・水産などの分野で働き、在留は原則3年、延長で最長4年10か月となる。
英国は季節労働者査証の枠組みを持つ。園芸の作業は最長6か月、家禽の作業は毎年10月2日から12月31日までで、雇用主の後援(スポンサー)と一定の貯蓄の証明が要る。申請料は340ポンドで、決定までは通常3週間程度とされる(2026年9月時点)。この査証では永続的な職に就くことはできない。
キルギスは、この英国の枠組みへの窓口を政府が担っている。労働・社会保障・移民省の下にある海外就労センターは、2027年の季節農業労働について、2026年8月17日12時から8月20日23時59分(ビシケク時間)までオンライン登録を受け付けた。受付が3日間しかないことは、枠が限られていることを示している。
ウズベキスタン中央銀行のレビューによれば、同国は23か国との間で48の送り出し協定を結んでおり、うち18は2025年から2026年にかけて14か国と結ばれた新しいものである。36か国の325社を超える雇用主・人材会社との連携も進み、2026年に入って12万4,500人が海外の職に就いたとされる。建設分野では、同国企業が米国の建設会社と合弁を作り、メキシコの石油化学プラントやサウジアラビアの鉱山施設の建設契約を交渉していることが、企業側から公表されている。
送り出し国の政策
送り出し国の政策は、大きく三つに分かれる。第一に、二国間の協定と送り出し機関の整備である。政府が受け入れ国と協定を結び、募集・選考・出国前研修を国の機関または認可を受けた民間の人材会社が担う形が一般的である。ウズベキスタンでは移住庁が、キルギスでは労働・社会保障・移民省と海外就労センターがこの役割を担う。
第二に、言語と技能の訓練である。ロシア語圏以外の行き先が増えるほど、言語試験と技能の認定が渡航の前提になる。韓国の制度では韓国語試験が必須であり、試験の実施体制そのものが送り出し国側の準備事項になる。
第三に、帰還と国内雇用である。国外で働いていた人が戻ったときに国内で職を得られるかは、送金依存を構造的に減らせるかどうかを左右する。ウズベキスタンで在外国民の雇用が企業側から提案され、政府がそれを制度化しようとしているのは、この文脈にあたる。
なお、これらの政策の効果は短期には数字に出にくい。協定の数や登録者数は公表されるが、実際に渡航して定着した人数まで示されることは少ない。
数字の読み方
人数の統計は、集計の主体と定義によって大きく変わる。送り出し国の当局が把握できるのは、原則として国の枠組みを通って出国した人と、在外公館などに登録した人である。許可を得ずに働いている人、観光目的で入国してそのまま働いている人は含まれない。したがって公表される人数は、実際の就労者数の下限にあたる。
比率と人数を取り違えないことも重要である。ウズベキスタン中央銀行のレビューが示す「CIS諸国の比率が29%減った」という記述は、CIS向けの就労者が29%減ったという意味ではない。何と比べた変化かはレビューに書かれていない。
人数の統計と送金額の統計も別の系列である。送金は金融機関や送金事業者を通った取引の集計であり、就労者数とは集計の基礎が違う。行き先の構成が同じ方向に動いていても、両者の比率が一致することは期待できない。
受け入れ国側の統計も参照できるが、在留資格の種類ごとの集計であるため、送り出し国側の「海外で働く自国民」とは範囲が異なる。両者を足し合わせたり差し引いたりする使い方は成り立たない。
参考資料
- Jismoniy shaxslarning valyuta operatsiyalari tahliliy sharhi 2026-yil I yarim yilligi(ウズベキスタン中央銀行。海外就労者数と行き先の内訳) ↗
- Миграционное агентство(ウズベキスタン移住庁) ↗
- Министерство труда, социального обеспечения и миграции Кыргызской Республики(キルギス労働・社会保障・移民省) ↗
- Министерство труда и социальной защиты населения Республики Казахстан(カザフスタン労働・社会保護省) ↗
- Договор о Евразийском экономическом союзе(EAEU設立条約。2014年5月29日署名、2015年1月1日発効) ↗
- Eurasian Economic Union(公式ポータル。モノ・サービス・資本・労働の移動の自由) ↗
- Seasonal Worker visa (Temporary Work)(英国政府。滞在期間、後援、申請料) ↗
- Ministry of Employment and Labor, Republic of Korea(韓国雇用労働部) ↗
- IOM Kyrgyzstan(国際移住機関キルギス事務所) ↗
- Около 1,4 млн граждан Узбекистана работают за рубежом. География трудовой миграции меняется(Gazeta.uz、2026年8月17日) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。