カザフスタンは中央アジアで唯一、穀物を大量に輸出する国である。北部のコスタナイ州、アクモラ州、北カザフスタン州に広がる黒土地帯で春小麦を作り、南部のトルキスタン州、ジャンブール州、西カザフスタン州で冬小麦を作る。作付から収穫までの季節は北と南で二か月ほどずれる。
生産の規模は年によって大きく振れる。降水量が少ない大陸性の気候で、灌漑ではなく天水に依存する面積が広いためである。国連食糧農業機関の推計では2025年の穀物生産は約2,300万トン、うち小麦が約1,800万トンで、過去5年の平均を約20%上回った。同機関は2025/26年度(7月〜翌6月)の穀物輸出を約1,000万トン、うち小麦を900万トンと見込んでいる。
輸出先は近い順に決まる。内陸国であり海への出口がないため、鉄道で運べる範囲の市場が中心になる。ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、アフガニスタンの4か国はいずれも小麦の消費を輸入に大きく依存しており、その供給元がカザフスタンである。この地域の主食価格は、カザフスタンの作柄と輸送の状況に直結している。
政策の焦点は、原料のまま売る構造から抜けることにある。政府は小麦の作付を減らして油糧種子と豆類へ振り替え、小麦粉やでんぷん製品などの加工品の比率を上げようとしている。同時に、輸送費の補助で遠方の市場を開き、輸入規制で国内の相場を支えるという、相反する方向の手段を並行して使っている。
| 2025年の穀物生産 | 約2,300万トン(国連食糧農業機関GIEWSの推計。うち小麦約1,800万トン、大麦約300万トン、とうもろこし約100万トン。基準日2026年3月12日) |
|---|---|
| 2025/26年度の穀物輸出見通し | 約1,000万トン(7月〜翌6月の年度。同推計。うち小麦900万トン、大麦100万トン) |
| 2026年の総作付面積 | 2,380万ヘクタール(前年より18万ヘクタール増。農業省、2026年5月12日) |
| 2026年の収穫面積 | 2,420万ヘクタール。うち穀物・豆類が1,560万ヘクタール(2026年8月14日時点) |
| 小麦の作付削減 | 2026年は前年より87万5,000ヘクタール減(多角化政策による。2026年8月18日) |
| 2026年の刈り取り進捗 | 8月28日時点で550万ヘクタール(作付の35.5%)、収穫量770万トン、平均単収は1ヘクタールあたり1.4トン |
| 穀物の保管能力 | 3,060万トン。うち免許を持つ集荷企業189社が1,320万トン、生産者の設備が1,740万トン(2026年8月18日) |
| 主な輸出先 | 2024年9月〜2025年4月の新穀輸出760万トンの内訳は、ウズベキスタン270万トン、タジキスタン110万トン、イラン88万9,000トン、アゼルバイジャン56万9,000トン、アフガニスタン27万トン、キルギス18万1,000トン(農業省、鉄道会社の集計) |
| 輸送費の補助 | 1トンあたり2万〜3万テンゲ。ロシア経由でアゾフ海・黒海・バルト海の港へ2万テンゲ、アゼルバイジャンとジョージア経由で黒海の港へ3万テンゲ、トルクメニスタン経由でアフガニスタンへ3万テンゲなど(農業相令。2026年9月1日まで有効) |
| 小麦の輸入規制 | 2026年7月27日から6か月間、第三国とユーラシア経済連合加盟国からの自動車・水運・鉄道による小麦輸入を禁止。養鶏場、製粉企業、免許を持つ倉庫、食料契約公社向けの鉄道輸送は例外(農業相令) |
| 鉱物肥料 | 2026年の使用計画は230万トン。2年前の3倍にあたる180万トンからさらに引き上げ(2026年8月18日) |
| 油糧種子 | 2025年の収穫は490万トンで前年比48%増。ひまわり油の輸出は60万トンで世界8位(農業相、2026年2月17日) |
| 穀物の深度加工 | 稼働中は3社・能力50万トン超(グルテン、バイオエタノール、でんぷん製品)。今後3年で6件・1兆9,000億テンゲの投資計画(2026年2月17日) |
| 近隣国の輸入需要 | ウズベキスタンは2026/27年度に小麦420万トン(穀物と粉の合計)、タジキスタンは2025/26年度に135万トン、キルギスは穀物全体で35万トン、アフガニスタンは穀物全体で370万トン(国連食糧農業機関GIEWS) |
作付と収穫 — 小麦を減らし、油糧種子と豆類へ
2026年の総作付面積は2,380万ヘクタールで、前年より18万ヘクタール増えた。内訳では油糧種子が400万ヘクタール超、飼料作物が330万ヘクタールに拡大し、とうもろこしは加工事業の原料確保のため26万5,000ヘクタールへ広げられた。一方で穀物の面積は12万7,000ヘクタール減らされ、うち小麦は前年より87万5,000ヘクタール少ない。多角化と呼ばれるこの振り替えは、単価の低い小麦から利益率の高い作物へ移す政策である。
2026年の作付構成には、水の制約が初めて明示的に組み込まれた。実際の取水枠に合わせて計画を組み、水を多く使う稲の面積を2万200ヘクタール減らし、綿花では点滴灌漑の面積を2万9,800ヘクタール増やして従来型の灌漑を1万2,000ヘクタール減らしている。
単収の底上げには資材の投入が効いている。鉱物肥料の使用量は2年で3倍の180万トンになり、2026年の計画は230万トンである。優良種子の比率は2023年の7.1%から11.6%へ上がった。2026年の刈り取り開始時点の平均単収は1ヘクタールあたり1.64トンで、前年同期の1.48トンを上回っている。副首相はこの水準について、以前は平均1.1〜1.2トンだったと述べた。
収穫は8月中旬に南部で始まり、8月下旬から北部の主産地で本格化して9月から10月に終わる。2026年は猛暑で成熟が早まり、全国的な収穫開始は8月15日だった。
進捗の発表は面積と収穫量を並べて示す。2026年8月28日時点で刈り取りは550万ヘクタール、作付の35.5%まで進み、収穫量は770万トンだった。前年同期の刈り取り面積のほぼ2倍で、収穫量も前年同期の390万トンから倍増している。ただし単位面積あたりの実りが良かったからではなく、刈り取りが早く進んだ結果である。
品質は等級で示される。同じ発表では、免許を持つ集荷企業に入荷した新穀の小麦のうち78%が3等級、14%が4等級、7%が5等級と等外だった。ただしこの比率が対象にするのは入荷分だけで、8月28日時点の入荷は102万5,200トン、収穫量770万トンの13%程度にとどまる。
輸出先 — 中央アジアとアフガニスタン
輸出の主力は隣接する市場である。農業省が鉄道会社の集計として公表した2024年9月から2025年4月までの新穀の輸出は760万トンで、前年同期の480万トンから58%増えた。国別ではウズベキスタン270万トン、タジキスタン110万トン、イラン88万9,000トン、アゼルバイジャン56万9,000トン、アフガニスタン27万トン、キルギス18万1,000トンである。イランとアゼルバイジャン向けは前年からそれぞれ16.4倍、113.8倍に伸びた。
この2か国の急増は、カスピ海を渡る経路とロシア経由の鉄道が使えるようになったことによる。輸送費の補助もこの方向を後押ししている。補助の対象はアゼルバイジャンとジョージアを抜けて黒海の港へ出る経路、ロシアを通ってバルト海と黒海の港へ出る経路、トルクメニスタン経由でアフガニスタンとイランへ向かう経路、中国を通って東南アジアへ向かう経路であり、いずれも近隣4か国への直接の輸送より遠い市場に向けられている。
中国向けも増えている。2024年の暦年ベースでは、鉄道会社の集計で中国へ170万トンが出ている。
小麦粉としての輸出と、加工の広がり
カザフスタンの穀物輸出の特徴は、粒だけでなく小麦粉として出る量が大きいことにある。輸出の統計はしばしば「穀物と小麦粉の穀物換算」という単位で示され、粒のままの輸出量より大きな数字になる。アフガニスタンは国内の製粉能力が足りないため、粉での輸入を必要とする代表的な市場である。
加工の裾野は広がっている。2025年の食品生産額は3兆9,000億テンゲで前年比8.1%増、加工品の輸出は2025年1〜11月に32億ドルで33.8%増え、農産加工品が農業分野の輸出全体に占める比率は52%になった。ひまわり油の輸出は60万トンで世界8位、レンズ豆の輸出は世界6位である。かつてレンズ豆を原料のままトルコへ輸出し、加工品として輸入し直していた構造は、国内の選別・包装工場の稼働で変わったと農業相は説明している。
穀物そのものの深度加工も始まっている。グルテン、バイオエタノール、でんぷん製品を作る工場が3社・能力50万トン超で稼働しており、今後3年で6件・総額1兆9,000億テンゲの投資が計画されている。2026年4月には、アクモラ州の工業団地に年間最大600万トンの製品能力を持つ穀物深度加工工場を建設する投資協定が政府に承認された。投資額は3,000億テンゲ、雇用は約800人の計画である。
輸送と保管の制約
内陸国であるカザフスタンにとって、穀物の商売は鉄道の商売でもある。輸出量が増える時期には貨車と機関車の手当てが隘路になり、政府は収穫期のたびに車両の確保を関係機関に指示している。
保管も同じく季節の制約を受ける。全国の穀物保管能力は3,060万トンで、うち1,320万トンが免許を持つ集荷企業189社、1,740万トンが生産者自身の設備である。2026年8月中旬の充填率は17〜18%と全体では低かったが、アクモラ州、コスタナイ州、北カザフスタン州には40%を超えて埋まった倉庫があり、副首相は食料契約公社と協力して空きを作るよう地方政府に指示した。前の年の在庫が残っていると新穀の受け入れが滞るという関係は、輸入規制の理由としても使われる。
倉庫の管理体制も見直されている。2026年7月の省庁間委員会では、2018年以来行われていなかった集荷企業の年次点検を復活させる方針が示された。
規制と支援 — 相反する二つの手段
対外的な数量規制は、副首相が議長を務める対外貿易に関する省庁間委員会(MVK)で決められ、農業相令として実施される。ここでは穀物に限らず、牛肉の輸出割当、鶏卵の輸入禁止、種畜の輸出禁止といった品目ごとの措置が扱われる。
小麦については輸入の制限が繰り返し使われてきた。2026年7月11日付の農業相令は、7月27日から6か月間、第三国とユーラシア経済連合加盟国からの小麦の輸入を自動車・水運・鉄道で禁じた。例外は養鶏場、製粉企業、免許を持つ倉庫、食料契約公社に向けた鉄道輸送に限られ、この枠で輸入された小麦は国内でも国外でも販売できない。カザフスタンを通過する鉄道のトランジットと、連合加盟国どうしの往来は対象外である。措置の目的は、安価な輸入小麦の流入を抑えて国内の相場を支え、新穀の受け入れに倉庫を空けることにある。
輸出の側は補助で支えられている。農業相令(2025年3月3日付。2026年9月1日まで有効)は、経路ごとに1トンあたりの補助額を定めている。ロシア経由でアゾフ海・黒海・バルト海の港へ向かう場合は2万テンゲ、ロシアとバルト三国を経由してバルト海の港へ向かう場合は3万テンゲ、アゼルバイジャンとジョージアを経由して黒海の港へ向かう場合は3万テンゲ、トルクメニスタン経由でアフガニスタンへ3万テンゲ、同じくイランへ2万テンゲ、中国経由で東南アジアへ3万テンゲ、ロシア経由でアゼルバイジャン・ジョージア・アルメニアへ2万テンゲである。
中央アジアの輸入依存
カザフスタンの輸出は、近隣国の主食の安定に直接効いている。国連食糧農業機関の国別報告によれば、ウズベキスタンは2026/27年度に穀物と小麦粉を合わせて420万トンの小麦輸入を必要とし、粉の輸入は2016/17年度からの10年でおよそ70%増えた。同時に、国内の製粉能力への投資が進んだことで、粒のままの高品質小麦の輸入も増えている。主な調達先はカザフスタンである。
タジキスタンは穀物の消費の半分以上を輸入でまかない、輸入の90%以上が小麦である。2025/26年度の小麦輸入需要は135万トンと見込まれる。この10年で製粉能力が改善した結果、粒の輸入が増え、粉の輸入はほぼ90%減った。キルギスの2025/26年度の穀物輸入需要は35万トンで、うち約95%が小麦であり、食用と製粉に使う国内需要のほぼ半分を輸入が占める。
アフガニスタンは規模が大きい。2025/26年度の穀物輸入需要は370万トンで、その大半が小麦粉である。国内の製粉能力が足りないため、自国の小麦が平年並みに穫れる年でも粉を輸入する必要があり、調達先はカザフスタン、ウズベキスタン、ロシアである。輸入した粉は国産の粉と混ぜてたんぱく質の含有量を上げるのが一般的だという。
コーカサス側の依存はロシアに向いている。ジョージアの2025/26年度の穀物輸入需要は60万トンで、うち小麦が約55万トン。アルメニアは穀物の需要の半分以上を輸入に頼り、主な供給元はロシアである。アルメニアは2025年6月26日に小麦と大麦の一時的な輸出禁止を導入し、2026年1月6日に2026年7月6日までの延長を決めた。アゼルバイジャンは2017年1月に小麦の輸入と販売にかかる18%の付加価値税を免除し、2027年1月まで続ける措置をとっている。
数字の読み方
収穫量には二つの重さがある。刈り取り直後の水分と夾雑物を含んだ「バンカーウエイト」と、乾燥・選別を経た後の重さである。発表の時期と主体によってどちらを指すかが変わるため、同じ年の収穫量が数十万トンから100万トン単位で食い違って見えることがある。
単収の単位にも注意が要る。政府の発表は「ツェントネル毎ヘクタール」を使う。1ツェントネルは100キログラムなので、14ツェントネルは1ヘクタールあたり1.4トンである。
輸出量は少なくとも三つの基準で語られる。7月から翌6月までの年度、9月から翌8月までの販売年度、そして暦年である。さらに「穀物のみ」か「穀物と小麦粉の穀物換算」かで数字が変わり、後者のほうが大きい。国別の内訳を足しても総計に一致しないことがあるのは、集計の対象期間と単位が発表ごとに違うためである。数字を引くときは、期間・基準・単位の三つを確認する必要がある。
発表の主体も一つではない。農業省、鉄道会社、国家統計局が別々に数字を出し、対象や集計方法が異なる。比較するときは同じ主体の系列どうしを並べるほうが安全である。
参考資料
- GIEWS Country Brief: Kazakhstan(国連食糧農業機関、基準日2026年3月12日。2025年の穀物生産と2025/26年度の輸出見通し) ↗
- 「В Казахстане намолочено 7,7 млн тонн зерна: 78% поступившей пшеницы нового урожая отнесено к 3 классу」(カザフスタン農業省、2026年8月28日。刈り取り進捗、等級、資材) ↗
- 「Экспорт зерна нового урожая достиг 7,6 млн тонн: рост на 58%」(カザフスタン農業省、2025年。2024年9月〜2025年4月の輸出先別内訳) ↗
- 「Экспорт зерновых нового урожая составил 4 млн тонн」(カザフスタン農業省、2025年。2024年暦年の輸出先別内訳) ↗
- 「Общая посевная площадь в текущем году превысит 23,8 млн га」(カザフスタン政府、2026年5月12日。2026年の作付構成、水の制約、資材) ↗
- 「Уборочная кампания в Казахстане началась с более высокой урожайностью」(カザフスタン政府、2026年8月14日。収穫面積、単収、燃料、保管) ↗
- 「Исполнение поручений Президента по повышению производительности в АПК」(カザフスタン政府、2026年8月18日。小麦の作付削減、肥料、保管能力3,060万トン) ↗
- 「Казахстан увеличил экспорт переработанной сельхозпродукции」(カザフスタン政府、2026年2月17日。加工品輸出、油糧種子、深度加工) ↗
- 「В Акмолинской области построят завод по глубокой переработке зерна」(カザフスタン政府、2026年4月23日。穀物深度加工工場の投資協定) ↗
- 「Итоги МВК: развитие бизнеса, сокращение административных барьеров и усиление контроля в АПК」(カザフスタン政府、2026年7月13日。集荷企業の年次点検の復活) ↗
- 「Об утверждении Правил выплаты субсидий на удешевление стоимости затрат, связанных с перевозкой зерна」(カザフスタン農業相令 2025年3月3日 第67号。経路別の輸送費補助額) ↗
- Kazakhstan introduces six-month ban on wheat imports(カザフスタン国営通信カジンフォルム、2026年7月17日。小麦輸入禁止令の内容) ↗
- GIEWS Country Brief: Uzbekistan(国連食糧農業機関、基準日2026年7月14日。2026/27年度の小麦輸入需要) ↗
- GIEWS Country Brief: Tajikistan(国連食糧農業機関、基準日2026年6月23日。輸入依存度と粉から粒への転換) ↗
- GIEWS Country Brief: Afghanistan(国連食糧農業機関、基準日2026年1月12日。小麦粉輸入の構造と調達先) ↗
- GIEWS Country Brief: Armenia(国連食糧農業機関、基準日2026年4月30日。小麦と大麦の輸出禁止の延長) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。