資料写真:オフィスビル/torekhan(CC BY 2.0)出典

金融・投資

S&Pがカザフスタンを「BBB」へ格上げ。2016年以来の水準で、投資適格の境目から1段の余裕

S&Pグローバル・レーティングが8月21日、カザフスタンの長期ソブリン格付けをBBB-からBBBへ引き上げ、見通しをポジティブから安定的に戻した。国民経済省によれば2016年以来の水準。上半期の財政赤字はGDP比1.2%だった。

この記事が扱う国。国境は Natural Earth(パブリックドメイン)、点は各国の首都の位置。

格付会社S&Pグローバル・レーティングが8月21日、カザフスタンの長期ソブリン格付けをBBB-からBBBへ1段階引き上げ、見通しを安定的とした。カザフスタン国民経済省が同日、この水準は2016年以来だと発表した。

同時に動いた評価を並べておく。以下のうち短期格付け、移転・交換性評価、自国基準の国内格付けの3項目は経済省の発表には含まれず、S&Pの発表を伝えたアスタナ・タイムズの記事による。従来値は、同紙が伝えた直前の格付け行動(2026年2月20日の据え置き)の内容である。

項目従来今回
長期ソブリン格付けBBB-BBB
短期ソブリン格付けA-3A-2
移転・交換性評価BBBBBB+
自国基準の国内格付けkzAAAkzAAA(据え置き)
見通しポジティブ安定的

BBBという水準の意味を先に押さえておきたい。S&Pの尺度は高いほうからAAA、AA、A、BBB、BB、B、CCC、CC、C、Dと並び、AAからCCCまでは各段にプラスとマイナスが付く。投資適格と呼ばれるのはBBB-以上で、BB+から下は投機的等級に区分される。カザフスタンはこれまで投資適格の最下段であるBBB-にいたが、今回の格上げでその1段上へ移った。境界のすぐ上に立っていた状態から、境界との間に1段の余裕がある位置になったということである。

この余裕は実務上の差になる。運用規約で投資適格債しか買えない年金基金や保険会社にとって、BBB-の発行体は1段の格下げで投資対象から外れるが、BBBならもう1段の緩衝がある。同じ水準はムーディーズの記号ではBaa2、フィッチではBBBにあたる。域内で比べると、ジョージアはBBに据え置かれて見通しがポジティブに変わった段階、タジキスタンは8月にB+へ引き上げられたばかりで、いずれも投機的等級にある。

見通しの動きも押さえておきたい。カザフスタン国立銀行の告知によれば、S&Pが同国の見通しを安定的からポジティブへ変えたのは2025年8月23日で、そのときの格付けはBBB-の据え置きだった。アスタナ・タイムズによれば、2026年2月20日の格付け行動でもBBB-とA-3が据え置かれ、ポジティブの見通しが維持されている。ポジティブは、条件が整えば格上げがありうるという予告にあたる。今年2月の時点でS&Pは、歳出の抑制と非石油収入の下支えで財政の緩衝材が厚くなり、政府の利払い負担が中程度で安定すれば格上げがありうるとしていた。今回はその条件が満たされたという判断であり、格上げに伴って見通しは安定的へ戻った。安定的への変更は評価の後退ではなく、引き上げ後の水準を新しい出発点として置き直したという意味である。

国民経済省が挙げた格上げの理由は、経済発展の持続的な見通し、経済の多角化の継続、そして積み上がった対外・財政の緩衝材である。同省によれば、S&Pはカザフスタン経済が外的な逆風と国際商品市況の変動にもかかわらず中期的に底堅く成長するとみており、2026年の実質GDP成長率を5.1%と予想している。産油国の中では相対的に高い成長が続くという見立てである。素材加工とインフラ整備を柱とする大規模な投資計画については、国家持株会社バイテレクを通じた資金供給を含め、投資水準をGDP比30%まで高めうると評価した。歳出の伸びを抑えて課税ベースを広げる措置が財政赤字を縮小させること、外貨資産が対外債務を上回り対外債権国としての強い立場を保つこと、規制・監督の継続的な改善で銀行部門のショック耐性が高まり、資産の質にかかるシステム上のリスクが下がったことも、理由として並んでいる。

より細かい数字は、S&Pの発表を伝えたアスタナ・タイムズの記事にある。同紙のまとめによれば、実質GDPは速報値で1〜6月に4.1%成長した。第1四半期は原油の生産と輸出の混乱で大きく減速したが、上半期としては4%台を確保した形である。成長率は2027〜29年に4〜4.5%へ緩やかに落ち着くと予想されている。非石油部門の活動が、財政再建と原油価格の低下による下押しを部分的に相殺するという想定で、建設と製造業が既に追加の推進力になっているという。

財政の数字も同紙が伝えている。共和国予算の赤字は2026年上半期でGDP比1.2%と、通年目標の2.5%以内に収まる軌道にある。S&Pは一般政府ベースの赤字が2026〜29年に平均1.2〜1.3%になるとみており、2025年の3.7%からの大幅な改善を織り込む。上半期の税収は前年同期比17%増で、うち付加価値税の徴収額は42%増だった。政府の流動資産は今後4年間、GDP比21%前後で安定すると予想されている。中央銀行と政府の対外資産は国全体の対外債務総額を上回っており、外的ショックの局面で政策の余地を残す。

ただし安定的という見通しには前提がある。同紙によれば、S&Pは原油の輸出の8割近くがロシア領を通るCPCパイプラインに依存し、原油が輸出額の半分以上を占める構造を挙げたうえで、CPCの混乱が起きても短期にとどまることを前提に見通しを置いている。世界的な原油安が長引くか、パイプラインの停止が長期化すれば、格付けの引き下げにつながりうるとされた。逆に、財政の結果がさらに改善し、政府の利払い負担が減れば引き上げの方向に働く。CPCの長期の停止は今年2月の据え置きの際にも引き下げ材料として名指しされており、格上げを挟んでも警戒の対象は変わっていない。

輸出路の脆さは今年の数字にも表れている。1〜7月の原油生産は前年同期比8.9%減の5,320万トンと落ち込む一方、上半期の輸出総額は8.6%増の403億ドルで、原油・石油製品はそのうち46.5%を占めた。物量の減少を価格が補った半年だったが、価格が反転すれば同じ構造が逆に働く。

格付けの1段は、それ自体が資金を生むものではない。効くのは、国債の利回りに乗る国リスクのプレミアムが下がり、その水準を基準に価格が決まる国営企業や銀行の外貨調達コストにも波及するという経路である。カザフスタンの発行体はここ数年、国際市場での起債と買い戻しを繰り返しており、カズムナイガスが2030年満期債について上限5億ドルの買入消却を開始したように、調達条件の改善は具体的な財務判断に直結する。格上げが実際の資金コストにどれだけ反映されるかは、次の起債の条件を見るまでわからない。

この記事の日付 2026年8月21日 は、出典が発表された日です。

本サイトでの初出 2026年8月24日 1:06

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