GUIDE · 経済・金融2026年8月時点

サムルク・カズナ(カザフスタン国家福祉基金)とは

カザフスタンの国有企業を一元的に保有する持株会社について、制度上の位置づけ、政府との権限の分け方、傘下企業の構成、配当と民営化計画を、同基金の公表資料にもとづいて解説する。

サムルク・カズナは、カザフスタンの基幹産業を担う国有企業の株式をまとめて保有する持株会社である。名称に「国家福祉基金(Sovereign Wealth Fund)」を含むが、石油収入を海外資産で運用する貯蓄型のファンドとは性格が違う。運用しているのは金融資産ではなく事業会社そのもので、石油ガス、鉄道、電力、ウラン、通信、郵便といった産業の親会社として日々の経営に関わる。同じカザフスタンでも、石油収入を積み立てる国民福祉基金(NFRK、National Fund of the Republic of Kazakhstan)とは別の組織である。名称が似ているため混同されやすいが、両者は目的も資産の中身も異なる。

設立は2008年11月3日、同年10月13日の大統領令第669号と10月17日の政府決定第962号による。国家資産管理持株会社サムルクと、持続的発展基金カズィナを合併し、政府が保有していた一部企業の持分を移したものである。唯一の株主はカザフスタン共和国政府で、取締役会の議長は、2024年の年次報告書時点ではオルジャス・ベクテノフ首相が務めている。

正式名Sovereign Wealth Fund "Samruk-Kazyna" JSC(АО «Фонд национального благосостояния «Самрук-Қазына»)
設立2008年11月3日。2008年10月13日の大統領令第669号と同年10月17日の政府決定第962号による
根拠法国家福祉基金に関する法律(On Sovereign Wealth Fund、第550-IV号、2012年2月1日施行)。それ以前は福祉基金に関する法律(On National Welfare Fund、第134-IV号、2009年2月13日)
唯一の株主カザフスタン共和国政府
取締役会議長2024年の年次報告書時点ではオルジャス・ベクテノフ首相が務める
連結総資産41兆996億テンゲ(2024年12月31日。前年は36兆9,247億テンゲ)
連結売上高16兆4,331億テンゲ(2024年通期)
連結純利益2兆3,544億テンゲ(2024年通期、前年比38.5%増)
株主への配当7,368億テンゲ(2024年。前年は1兆2,689億テンゲ)
グループ従業員25万6,380人(2024年末。前年は26万658人)
計画2023〜2032年開発計画。2021年比で純資産価値を2032年までに倍増させる目標

制度としての位置づけ

基金の活動を規律する法律は途中で置き換わっている。2012年2月1日までは2009年2月13日の「福祉基金に関する法律」(On National Welfare Fund、第134-IV号)で、経済の安定的発展、近代化と多角化、グループ企業の効率改善を目的に掲げていた。2012年2月1日に施行された「国家福祉基金に関する法律」(On Sovereign Wealth Fund、第550-IV号)は、目的を「グループ企業の長期的価値を高め、グループ資産を効果的に管理することによって、カザフスタン共和国の国家的富を増進すること」と定め直した。個別政策の実行機関から、資産の価値を高める持株会社へと定義を寄せた改正である。

基金と政府の関係は、基金に関する法律と基金定款、そして両者の間の協力協定で定められている。政府はここで、唯一の株主としての権限と、国家の規制当局としての権限とを区別している。同じ政府が株主でも規制者でもあるという構造をそのままにすると、規制と経営が混ざるためである。

政府は基金とその傘下企業に対して、日常の業務と投資活動への不干渉を含む「完全な運営上の自律性」を与えると定めている。例外は法令および大統領の行為で特に定められた場合に限られる。基金の経営陣と傘下企業の機関は、自らの権限の範囲で意思決定と行動の自律性と独立性を持つ。

一方で、株主の専権事項は列挙されている。定款の承認、年次財務諸表の承認、開発計画の承認、コーポレートガバナンス・コードの承認、配当政策の策定と純利益の分配・配当支払いの決定、基金の自主的な再編・清算、取締役会の任期設定と取締役の選任・解任、経営執行機関の議長(会長)の任免、そして株主が定める一覧に載る企業の株式の譲渡や信託への移管、同じく一覧に載る企業の清算・再編の決定である。

この列挙が意味するのは、どの企業を売るか、いくら配当を出すか、誰が経営するかという最も大きな判断は政府が握り、それ以外の経営は基金と傘下企業に委ねる、という線引きである。カザフスタンの国有企業に関するニュースを読むときは、その決定が株主の専権に属するのか、基金の裁量に属するのかを見分けると位置づけが分かりやすい。

傘下企業

2024年の年次報告書に載る主要な出資先は次のとおりである。石油ガスのカズムナイガス(67.42%)、ウランのカザトムプロム(62.99%)、鉄道のカザフスタン・テミル・ジョリ(KTZ、100%)、電力のサムルク・エネルギー(100%)、ガスのカザクガス(100%)、送電のKEGOC(85%)、通信のカザフテレコム(80.85%)、郵便のカズポスト(100%)、航空のカザク・エア(100%)、鉱物資源のタウケン・サムルク(100%)、化学のサムルク・カズナ・オンデウ(100%)。

従業員数の分布を見ると、この基金がカザフスタンの雇用に占める位置が分かる。グループ全体で25万6,380人、うちKTZが11万7,681人、カズムナイガスが4万9,243人、サムルク・エネルギーが1万8,907人、カザフテレコムが1万8,395人、カズポストが1万7,348人、カザトムプロムが1万6,286人である(いずれも2024年)。

生産の規模も国全体の水準に近い。2024年の実績は、石油・ガスコンデンセート生産2,380万トン、ガス輸送884億立方メートル、ウラン生産2万3,300トン、発電量397億キロワット時である。

財政との関係

基金は政府の収入源でもある。2024年通期の連結純利益は2兆3,544億テンゲで前年比38.5%増、株主への配当は7,368億テンゲだった。前年の1兆2,689億テンゲからは減っているが、これとは別に「株主へのその他の分配」が5,676億テンゲあり、前年の1,329億テンゲから大きく増えている。配当と分配を合わせて財政へ回る額を見る必要がある。

資産売却の代金も財政へ渡る。カザフテレコムの子会社モバイル・テレコム・サービス(MTS)の売却では、2024年12月17日に売却代金の共和国予算への移転が国家委員会で審議され、同月27日に基金が配当の形で1,779億テンゲを共和国予算へ移した。

連結の財務規模は大きい。2024年12月31日時点の総資産は41兆996億テンゲ(前年36兆9,247億テンゲ)、負債合計は15兆5,062億テンゲ、資本合計は25兆5,935億テンゲである。2024年通期の売上高は16兆4,331億テンゲだった。

民営化と「競争環境への移管」

国有資産を民間へ渡す作業は「競争環境への移管」と呼ばれ、政府が期間を区切った包括民営化計画で対象を指定する。最初の計画は2014年4月30日に承認された2014〜2016年の計画で、2015年12月30日に2016〜2020年の計画が置き換えた。現行は2020年12月29日の政府決定第908号「2021〜2025年の民営化の若干の問題について」で承認された2021〜2025年の包括計画である。この決定の付属書2および5は、基金の30資産を競争環境への移管の対象としている。2024年の年次報告書によれば、うち14資産について手続きが完了し、そのうち6件が2024年中の完了だった。

代表例が2024年2月のエア・アスタナの新規株式公開である。世界預託証券(GDR)1単位9.5ドル、普通株1株1,073.83テンゲで、募集総額は約3億7,000万ドルだった。取引の直後に基金の持分は51%から41%へ、BAEシステムズは49%から15.3%へ下がり、その後グリーンシューの行使を経てBAEは16.95%となった。浮動株比率は42.05%である。

同じ年には、地域路線の航空会社カザク・エアの株式49%と2%の売買契約が2024年12月24日に結ばれた(金額はそれぞれ9億8,000万テンゲと4,000万テンゲ)。政府は同月27日にカザク・エア株の競争環境への移管に関する決定を採択している。カザフテレコムの子会社MTSは、2024年6月に売買契約が結ばれ、2025年1月6日に11億ドル(条件付き対価を含む)で売却が完了した。タウケン・サムルクは2024年5月にシリコン・マイニングとタウケン・テミルの持分55%を49億1,000万テンゲで売却している。

基金の開発計画は、この方向をさらに進めると述べている。2023〜2032年の計画では、当面7年間の運営モデルを「戦略持株会社」とし、社会・インフラ開発の支え手としての役割を維持したうえで、市場環境が整えば2030年までに「投資持株会社」の運営モデルへ移行するとしている。戦略資産については過半の持分を保持する前提である。純資産価値については、2021年比で2032年までに倍増させることを目標に掲げている。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

← 用語解説の一覧へ