GUIDE · 経済・金融2026年9月時点

中央アジア・コーカサスの政府系ファンドとは

カザフスタンの国民基金とサムルク・カズナ、アゼルバイジャンのSOFAZ、ウズベキスタンの再建発展基金など、域内の政府系ファンドを性格の違い(歳入の安定化、国有資産の持株、開発金融)ごとに整理し、規模、予算への移転の仕組み、為替への効き方、数字の読み方を解説する。

資源に依存する国は、価格が高いときの収入をそのまま使うと、価格が下がった年に財政が破綻する。この振れを均すために作られるのが政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)である。ただし、この地域で「基金」「ファンド」と呼ばれる組織は、目的も資産の中身も一様ではない。

大きく三つの型がある。第一は歳入の安定化と将来世代のための貯蓄を担う型で、資源収入を受け取って海外資産で運用し、その一部を毎年の予算へ移す。カザフスタンの国民基金(NFRK)とアゼルバイジャンの国家石油基金(SOFAZ)がこれにあたる。第二は国有企業の株式を一括して保有する持株型で、運用しているのは金融資産ではなく事業会社そのものである。カザフスタンのサムルク・カズナ、アゼルバイジャンのAZCONホールディングとアゼルバイジャン投資持株会社(AIH)、ジョージアのパートナーシップ基金がこの型で、いずれも別項で扱う。第三は開発金融型で、国内の投資事業に融資や出資を行う。ウズベキスタンの再建発展基金(UFRD)が代表例である。

名称は紛らわしい。カザフスタンの国民基金(National Fund of the Republic of Kazakhstan)は石油収入を海外資産で運用する第一の型だが、持株会社サムルク・カズナの正式名にも「国家福祉基金(Sovereign Wealth Fund)」の語が入る。両者は目的も資産の中身も別の組織である。記事で「基金」の語に出会ったら、どちらを指すかを確かめる必要がある。

カザフスタン国民基金(NFRK)2000年設立。外貨資産661億2,100万ドル(2026年7月31日、国立銀行)。受託運用者は国立銀行
同基金の運用収益率2025年は15.09%。2024年7.59%、2023年11.38%、2022年はマイナス10.35%
子どものための国民基金2026年の繰入額9億200万ドル、控除後の累計23億1,100万ドル。18歳到達者への支払いのため2026年に1億3,300万ドルをENPFへ移管
予算への保証移転(計画)2027年・2028年に各2.4兆テンゲ、2029年に2兆テンゲ
予算への目的移転(計画)2027年に2兆テンゲ、2028年・2029年に各1.5兆テンゲ
SOFAZ(アゼルバイジャン)1999年12月設立。運用資産725億9,600万ドル(2026年6月30日)。詳細は別項
サムルク・カズナ(カザフスタン)2008年設立の国有持株会社。連結総資産41兆996億テンゲ(2024年末)。詳細は別項
ウズベキスタン再建発展基金(UFRD)2006年設立。内閣府付属の金融機関で、運営評議会の議長は首相。設立者は財務省を通じた政府
同基金の実績融資した投資事業136件・総額277億2,030万ドル。うち基金の融資は125億5,480万ドル(完了84件、実施中52件)
トルクメニスタン政府系ファンドの資産規模や運用内容を示す公表資料が無い
安定化・貯蓄型の原資石油ガスの売却収入、契約ボーナス、ロイヤルティ、通過料、および自らの資産運用収入
同じく使途財政への移転、大型インフラへの拠出、将来世代のための積立
同じく運用先外国の国債、短期金融商品、株式、不動産など。SOFAZは金も独立した資産分類として持つ

カザフスタンの国民基金

カザフスタン国民基金は、石油・ガスその他の天然資源の採掘から生じる収入を積み立て、経済が不安定な時期にこれを支えるために設けられた基金である。資産の受託運用者はカザフスタン国立銀行で、同行が外貨資産の運用実績と残高を公表している。

外貨資産の残高は、2025年1月末の584億7,800万ドルから2026年7月末の661億2,100万ドルへ増えた。同じ期間に国の外貨準備(グロス)は471億8,800万ドルから633億2,400万ドルへ膨らんでおり、この増加の大半は金の評価額(258億3,800万ドルから481億7,300万ドル)による。基金と外貨準備は別の資産であり、両者を足して「外貨の蓄え」とすることはできない。

運用成績は年によって大きく振れる。外貨資産の収益率は2022年がマイナス10.35%、2023年が11.38%、2024年が7.59%、2025年が15.09%である。国立銀行はこの系列を年1回更新している。

2024年2月1日からは、公表される外貨資産の額が「子どものための国民基金」の目的債務を差し引いた後の値になった。このプログラムは、基金の運用収益の一部を子ども一人ひとりの口座に毎年積み立て、18歳に達した時点で支払うものである。国立銀行の集計では、繰入額は2024年6億9,600万ドル、2025年8億8,900万ドル、2026年9億200万ドルで、支払いを差し引いた累計は2026年で23億1,100万ドルにのぼる。2026年には18歳到達者への支払いのため1億3,300万ドルが運営主体のENPF(統一積立年金基金)へ移された。

予算への移転の仕組み

カザフスタンでは、基金から共和国予算への資金の流れが二本立てになっている。ひとつは予算規則にもとづいて毎年の額が決まる保証移転、もうひとつは重要インフラや全国的な意義を持つ事業の資金として個別に決める目的移転である。

国民経済省が2026年8月25日の閣議で示した2027〜2029年の予算案の数字は次のとおりである。保証移転は2027年と2028年が各2.4兆テンゲ、2029年が2兆テンゲ。目的移転は2027年が2兆テンゲ、2028年と2029年が各1.5兆テンゲ。二つを合わせると4.4兆テンゲから3.5兆テンゲへ細る計画になっている。同じ期間に基金への受入総額は5.1兆テンゲ、5.5兆テンゲ、5.7兆テンゲ、移転などを差し引いた純受入は0.5兆テンゲ、1.4兆テンゲ、2兆テンゲと見込まれ、外貨資産は2027年の652億ドルから2029年の706億ドルへ増える想定である。なおこれは閣議で審議された案の数字であり、承認された数字ではない。

目的移転の存在は、この仕組みを読むうえで重要である。保証移転だけを見て「予算規則が守られている」と評価することはできない。実際に取り崩される額は二つの移転の合計であり、目的移転の規模はその年の政策判断で決まるからである。

為替との関係

基金から予算へ資金を移すには、外貨建ての資産をテンゲに替える必要がある。この売却は取引所の需給に直接効くため、テンゲ相場を語るときに必ず論点になる。

国立銀行は月ごとにその規模を公表している。2026年8月の国民基金の外貨売却は2億ドルで、取引所の売買代金全体の2.3%、1日あたり約950万ドルにあたった。同月の取引所の売買代金は87億ドル、1日平均4億1,500万ドルである。同行は9月の売却を2億〜3億ドルと見込むと予告した。

2026年9月からは、国立銀行が国民基金との取引を国内の為替市場で相殺する「ミラーリング」の運用も始まった。これは、以前に基金から買い取った外貨を市場で売り戻す仕組みで、9月の売却規模は2億〜3億ドル(8月に不胎化された約3,740億テンゲに相当する額)とされている。基金の売却とミラーリングは別々に公表されるため、月々の外貨供給を見るときは両方を足す必要がある。

なお国立銀行は、統一積立年金基金の年金資産の外貨比率を保つための買い入れも行っており、2026年8月には7億2,100万ドルを取引所で購入した(売買代金の約8.3%)。基金の売却と年金資産の買い入れは方向が逆であり、公的な主体の関与を一方向とみなすと需給を読み誤る。

アゼルバイジャンとウズベキスタン

アゼルバイジャンの国家石油基金(SOFAZ)は1999年12月に設立され、運用資産は2026年6月30日時点で725億9,600万ドルである。生産分与契約にもとづく政府取り分の売却収入とボーナス・通過料に加えて、資産運用収入が収入の柱になりつつある。四半期ごとに収支と資産構成を公表しており、域内では開示の水準が高い。国内では、バクー・トビリシ・ジェイハン・パイプラインやバクー・トビリシ・カルス鉄道の建設にも資金を出してきた。詳細は同基金の解説で扱う。

ウズベキスタンの再建発展基金(UFRD)は性格が違う。2006年の大統領令にもとづいて設立された内閣府付属の金融機関で、設立者は財務省を通じた政府、最高意思決定機関は首相を議長とする運営評議会である。海外資産の運用ではなく、国内の投資事業への融資、商業銀行を通じた与信枠の供与、企業の授権資本への出資(授権資本の25%以下)、国際金融機関との協調融資を行う。同基金の公表によれば、これまでに融資した投資事業は136件・総額277億2,030万ドルで、うち基金の融資は125億5,480万ドルである。84件が完了し、52件が実施中となっている。

つまり同じ「基金」でも、SOFAZが外貨建ての金融資産を積み上げる主体であるのに対し、UFRDは国内の設備投資に資金を出す開発金融機関である。前者の残高は将来の財政余力を示し、後者の残高は進行中の投資事業の規模を示す。混ぜて比較することはできない。

数字の読み方

第一に、公表される資産の定義を確かめる必要がある。カザフスタン国民基金について国立銀行が公表するのは外貨建ての資産であり、2024年2月1日からは「子どものための国民基金」の目的債務を差し引いた後の値になっている。国内向けの資産や、それ以前の系列とそのままつなぐことはできない。

第二に、持株型のファンドの「資産」は事業会社の連結総資産であり、いつでも換金できる金融資産ではない。サムルク・カズナの連結総資産41兆996億テンゲ(2024年末)を、国民基金の外貨資産と同じ性質の数字として並べることはできない。

第三に、開示の水準に差がある。SOFAZは四半期ごとに収支と資産構成を公表し、国際的な政府系ファンドの行動規範であるサンティアゴ原則に参加している。カザフスタン国民基金は国立銀行が残高と収益率を定期的に公表するが、資産構成の詳細な内訳は同じ頻度では出ない。トルクメニスタンについては、政府系ファンドの資産規模や運用内容を示す公表資料が無い。

第四に、年度の途中の値と計画値を混ぜないことである。2026年7月末の661億ドルは実績、2027年の652億ドルは政府の予算案が置いた前提であり、後者は閣議で審議された案の数字にすぎない。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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