国家予算は、財政の全体像を一枚で示す文書ではない。中央アジア・コーカサスの各国では、承認される予算が複数の層に分かれ、そのうえで分析用の集計がいくつも作られる。同じ国の「歳入」という語が、資料によって別の範囲を指すことは珍しくない。数字を比べる前に、どの層の、どの定義の数字かを確かめる必要がある。
もう一つの特徴は資源収入の扱いである。カザフスタンとアゼルバイジャンは、石油・ガスから得た収入をいったん政府系ファンドに入れ、そこから予算へ移転する仕組みを持つ。この移転は予算の歳入に計上されるため、歳入の総額だけを見ると、資源価格の変動が財政に与える影響が見えにくくなる。両国とも、移転と資源関連の収入を除いた「非石油赤字」という別の指標を併せて公表しているのはこのためである。
第三に、予算法が税制や社会保障の基準値を毎年決める国がある。カザフスタンの月次計算指標(MCI)や生活最低限は共和国予算法の条文で定められ、税法や社会保障法の閾値がこの倍数で書かれている。予算法は歳入と歳出の表であるだけでなく、翌年の制度の目盛りを決める法律でもある。
以下では、法令の条文と当局の公表資料で確認できる範囲に絞って、予算の層、資源収入の扱い、基準値、そして数字の読み方を整理する。個々の歳出項目の是非は扱わない。
| カザフスタンの予算法制 | 2025年3月15日の予算法典第171-VIII号。会計年度は1月1日から12月31日、計画期間は3年 |
|---|---|
| 承認される予算(カザフスタン) | 共和国予算と地方予算(州、共和国直轄市、首都、区)。国家予算と連結予算は分析用の集計であって承認されない |
| 国家予算の定義(同) | 共和国予算と地方予算を、相互に打ち消し合う取引を除いて合算したもの |
| 連結予算の定義(同) | 共和国予算、首都・州・共和国直轄市の予算、国民基金の収支、予算外基金の収支を、相互に打ち消し合う取引を除いて合算したもの |
| 承認の期限(同) | 共和国予算はクルルタイが当年12月1日までに承認する。12月1日までに成立しない場合、大統領は翌年第1四半期の共和国財政計画を定めることができ、その承認期限は12月25日 |
| 2026年の共和国予算(同) | 歳入22兆8,893億テンゲ、支出26兆2,753億テンゲ、純予算貸付8,582億テンゲ、金融資産取引の差引3,505億テンゲ、赤字4兆5,947億テンゲ(GDP比2.5%)、非石油赤字9兆592億テンゲ(同4.9%) |
| 移転収入の内訳(同) | 3兆6,499億テンゲのうち、国民基金からの保証移転が2兆7,700億テンゲ、アティラウ州・アルマトイ市・アスタナ市から共和国予算への吸い上げが8,799億テンゲ |
| 非石油赤字の定義(同) | 借入金、国民基金からの移転、原油の輸出関税を除いた収入から、借入の返済を除いた支出を差し引いた額。共和国予算については予算法で承認され、国家予算については承認されず分析用に使われる |
| 財政ルール(同) | 保証移転のルール(カットオフ価格のもとで見込まれる石油部門から国民基金への収入を超えない)と、共和国予算の支出のルール(過去10年の実質GDP成長率の平均にインフレ目標を加えた率を超えない) |
| 予算法で毎年決まる基準値(同、2026年) | 最低賃金8万5,000テンゲ、月次計算指標(MCI)4,325テンゲ、生活最低限5万851テンゲ、最低年金6万9,049テンゲ、基礎年金の最低額3万5,596テンゲ |
| アゼルバイジャンの国家予算(2026年上半期の執行) | 歳入191億7,920万マナト、支出167億7,550万マナト、黒字24億370万マナト |
| 同・歳入の構成 | 税46.1%(88億4,270万マナト)、国家石油基金からの移転33.5%(64億2,000万マナト)、関税および輸入に係る税16.4%(31億4,360万マナト)、予算機関の有料サービス1.8%、その他2.2% |
| アゼルバイジャンの連結予算(同期間) | 歳入244億500万マナト、支出198億2,430万マナト、黒字45億8,070万マナト |
| アゼルバイジャンの非石油基礎赤字 | 2026年6月時点の直近12か月合計で非石油GDP比17.5%。2026年通年の当初想定は18.8%、年末の見通しは17.5% |
| アゼルバイジャンの年末見通し(2026年) | 国家予算の赤字14億9,760万マナト、GDP比1.1% |
| ジョージアの予算の層 | 国家予算、自治共和国の共和国予算、自治体の予算。財務省はこれらを合わせた総括予算と、予算の作成日程を公表する |
何が「予算」と呼ばれているか
カザフスタンの予算法典は、承認される予算と、承認されない分析用の集計をはっきり分けている。承認されるのは共和国予算と地方予算(州、共和国直轄市、首都、区・州級市)であり、非常事態や戦時には共和国予算と地方予算を基礎とする別の予算が導入される。
承認されないものが四つある。国家予算、連結予算、州の予算、区(州級市)の予算である。国家予算は共和国予算と地方予算を、相互に打ち消し合う取引を除いて合算したもの。連結予算は共和国予算、首都・州・共和国直轄市の予算に加えて、国民基金の収支と予算外基金の収支まで含めて合算したものである。したがって「カザフスタンの財政赤字」という表現は、共和国予算の赤字なのか、国家予算の赤字なのか、連結ベースなのかで値が変わる。予算法で承認され法的な意味を持つのは共和国予算の数字である。
アゼルバイジャンも二層で公表する。国家予算(dovlet budcesi)と、これに国家石油基金や社会保険の収支などを合わせた連結予算(icmal budcesi)である。財務省の半期報告は両方の執行状況を並べて示す。
ジョージアは、国家予算、自治共和国の共和国予算、自治体の予算という三つの層を持ち、財務省がそれらを合わせた総括予算を公表する。予算の作成日程(バジェット・カレンダー)も層ごとに公表されている。
カザフスタン — 2026年の数字で構造を見る
2025年12月8日の法律第239-VIII号は、2026年の共和国予算を次のように定めた。歳入22兆8,893億テンゲ、支出26兆2,753億テンゲ、純予算貸付8,582億テンゲ、金融資産取引の差引3,505億テンゲ、赤字4兆5,947億テンゲ(GDP比2.5%)、非石油赤字9兆592億テンゲ(同4.9%)である。
この五つの数字は一本の式で結ばれている。歳入から支出を引き、さらに純予算貸付と金融資産取引の差引を引くと赤字になる。22兆8,893億から26兆2,753億を引くと3兆3,860億の不足で、そこから8,582億と3,505億を引いて4兆5,947億になる。歳入と支出の差だけを見て赤字を語ると、1兆2,000億テンゲ以上を取り落とすことになる。
歳入の内訳も構造を示す。税収18兆8,860億テンゲ、非税収入3,307億テンゲ、固定資本の売却22億テンゲ、特別収入204億テンゲ、そして移転収入3兆6,499億テンゲである。移転収入はさらに二つに分かれる。国民基金からの保証移転2兆7,700億テンゲと、アティラウ州(2,624億)、アルマトイ市(4,919億)、アスタナ市(1,257億)から共和国予算への吸い上げ8,799億テンゲである。逆に共和国予算から州や共和国直轄市へは、補助金として5兆1,716億テンゲが配分される。
2026年の予算法には制度上の変更も含まれている。第35条は「2025〜2027年の国民基金からの保証移転について」という別個の法律を廃止した。それまで保証移転の額は独立した法律で定められていたが、2026年からは共和国予算法の条文(第6条)に置かれている。
石油収入をどう扱うか — 非石油赤字と財政ルール
カザフスタンの予算法典は、非石油赤字を明確に定義している。共和国予算または国家予算への収入から、借入金の収入、国民基金からの移転、原油の輸出関税を除き、そこから借入の返済を除いた支出を差し引いた額である。負の値なら非石油赤字、正の値なら非石油黒字となる。共和国予算の非石油赤字は予算法で承認されるが、国家予算の非石油赤字は承認されず分析用に使われる。
2026年の場合、赤字4兆5,947億テンゲに対して非石油赤字は9兆592億テンゲで、差は4兆4,645億テンゲである。この差が、定義上の「石油に由来する部分」にあたる。資源価格が下がれば、赤字は動かなくても非石油赤字との差が縮む。財政の持続性を見るときに非石油赤字が使われるのは、この理由による。
予算法典第48条は財政ルールの体系を置く。ルールは二種類である。第一が保証移転のルールで、国民基金からの保証移転は、カットオフ価格のもとで石油部門から国民基金に入ると見込まれる額を超えて計画してはならない。カットオフ価格の決め方は財政政策の所管官庁が国立銀行と協議して定める。第二が支出のルールで、共和国予算の支出(借入の返済を除く)の伸び率は、長期の経済成長率にインフレ目標を加えた水準に制限される。長期の経済成長率は、計画期間の前の10年間の実質GDP成長率の平均として求める。
同条は逸脱も認めている。経済成長が止まり歳入が落ち込むような危機、非常事態または戦時である。逸脱した場合は、政府が国立銀行と共同で行動計画を作り、3年以内に元の水準へ戻すことが求められる。ルールの遵守状況は社会経済発展予測の中で示される。
アゼルバイジャン — 国家予算と連結予算で姿が変わる
財務省が2026年8月に公表した上半期の執行報告によれば、2026年1〜6月の国家予算は歳入191億7,920万マナト、支出167億7,550万マナトで、24億370万マナトの黒字だった。前年同期の黒字27億820万マナトからは3億450万マナト、11.2%減っている。
歳入の3分の1は国家石油基金からの移転である。内訳は税46.1%(88億4,270万マナト)、国家石油基金からの移転33.5%(64億2,000万マナト)、関税および輸入に係る税16.4%(31億4,360万マナト)、予算機関の有料サービス1.8%(3億507万マナト)、その他2.2%(4億2,220万マナト)となっている。石油基金からの移転を除いた歳入は127億5,920万マナトである。財務省は、前年同期比で歳入が3.2%減った理由を、財政の持続性を高めるために石油基金からの移転を減らしたことにあると説明している。
同じ期間の連結予算は、歳入244億500万マナト、支出198億2,430万マナトで、45億8,070万マナトの黒字だった。国家予算の黒字24億370万マナトの約1.9倍にあたる。
ただし黒字であることは、資源に依存しない財政が成り立っていることを意味しない。財務省は同時に、連結予算の非石油基礎赤字が非石油GDPに対して17.5%に相当すると示している(2026年6月時点の直近12か月合計。季節性を除くため12か月の合計を使う方法をとっている)。2026年通年の当初の想定は18.8%で、年末には17.5%になる見通しとされる。年末の国家予算の赤字は14億9,760万マナト、GDP比1.1%が見込まれている。上半期が黒字で通年が赤字になるのは、支出が年後半に偏るためである。
予算法が毎年決める基準値
カザフスタンの共和国予算法は、翌年の基準値を条文で定める。2026年については、最低賃金8万5,000テンゲ、基礎年金の最低額3万5,596テンゲ、最低年金6万9,049テンゲ、月次計算指標(MCI)4,325テンゲ、生活最低限5万851テンゲである。年金の支給額は2026年1月1日から10%引き上げられることを前提に計上されている。
このうちMCIは、税制と行政手続きの多くの閾値の単位になっている。付加価値税の登録義務が生じる売上高、個人所得税の累進の刻み、経済特区の優遇の区分、行政罰の額などがMCIの倍数で書かれるため、条文が変わらなくてもテンゲ建ての金額は毎年動く。年をまたいで金額を比べるときは、その年のMCIで換算し直す必要がある。2025年のMCIは3,932テンゲだった。
生活最低限は社会扶助の受給要件などに使われる。これも予算法で決まるため、社会保障の対象範囲は予算の審議と同時に決まっていることになる。
予算の日程
予算の審議日程は投資家にとって実務上の意味を持つ。翌年の税率や基準値、公共投資の配分が、この日程に沿って確定するからである。
カザフスタンの予算法典は、共和国予算をクルルタイ(議会)が当年12月1日までに承認すると定める。12月1日までに成立しない場合、大統領は翌年第1四半期の共和国財政計画を定める権限を持ち、その承認期限は当年12月25日、規模は翌年の共和国予算見込みの4分の1とされる。この財政計画は、議会が予算法を可決するまでの間に効力を持つ。
政府案の骨格は夏の終わりに閣議で示される。2026年8月25日には、国民経済省が2027〜2029年の社会経済発展予測と共和国予算案を説明し、共和国予算の赤字を2027年のGDP比2.3%から2029年の0.4%へ、非石油赤字を5.3%から2.5%へ縮める方針を示した。
ジョージアでは財務省が層ごとの予算作成日程を公表しており、国家予算、自治共和国の共和国予算、自治体の予算のそれぞれについて日程を確認できる。
数字の読み方
第一に、歳入の範囲を確かめる。カザフスタンの2026年予算法の歳入22兆8,893億テンゲには、国民基金からの保証移転2兆7,700億テンゲと地方からの吸い上げ8,799億テンゲが含まれる。一方、2026年8月25日の政府説明で示された2027年の歳入は19兆9,000億テンゲ、支出は30兆2,000億テンゲである。この二つの差は10兆3,000億テンゲで、同時に示された赤字(GDP比2.3%)とは対応しない。予算法上の赤字は歳入と支出の差から純予算貸付と金融資産の取引をさらに差し引いて求めるものであり、歳入の範囲も移転を含むかどうかで大きく変わる。年をまたいで比べるときは、同じ定義の数字を並べる必要がある。
第二に、赤字と非石油赤字を混同しない。カザフスタンの2026年は赤字がGDP比2.5%、非石油赤字が4.9%である。アゼルバイジャンは2026年上半期の国家予算が黒字である一方、連結予算の非石油基礎赤字は非石油GDP比17.5%である。分母も違えば(GDPか非石油GDPか)、対象も違う(国家予算か連結予算か)。
第三に、執行期間の偏りを見る。アゼルバイジャンの上半期は黒字だが通年では赤字が見込まれている。半期の数字を2倍して通年を推計する読み方は成り立たない。
第四に、政府系ファンドの移転が歳入に入ることを念頭に置く。移転を減らせば歳入は減り、財政は悪化したように見えるが、資源収入への依存は下がっている。アゼルバイジャン財務省が2026年上半期の歳入減を石油基金からの移転の縮小で説明しているのは、この関係を示す例である。
第五に、単位を確認する。カザフスタンの予算法の表は千テンゲ単位で書かれており、テンゲに直すには1,000を掛ける必要がある。桁を一つ取り違えると兆と億を取り違えることになる。
参考資料
- Бюджетный кодекс Республики Казахстан(2025年3月15日 第171-VIII号。予算の種類、非石油赤字の定義、財政ルール、承認の期限) ↗
- Закон Республики Казахстан «О республиканском бюджете на 2026 – 2028 годы»(2025年12月8日 第239-VIII号。2026年の歳入・支出・赤字・基準値) ↗
- Дефицит республиканского бюджета снизится до 0,4% к ВВП к 2029 году(カザフスタン国民経済省、2026年8月25日。2027〜2029年の予算案) ↗
- Министерство финансов Республики Казахстан(カザフスタン財務省) ↗
- 2026-cı ilin dövlət və icmal büdcələrinin yarımillik icrasına dair arayış(アゼルバイジャン財務省、2026年8月18日。上半期の執行と年末見通し) ↗
- 同・本体PDF(国家予算と連結予算の執行表、非石油基礎赤字の比率) ↗
- STATE BUDGET(ジョージア財務省。年度別の国家予算) ↗
- Budgetary Calendar(ジョージア財務省。国家予算・自治共和国・自治体の予算作成日程) ↗
- Common Budget(ジョージア財務省。総括予算) ↗
- Кыргыз Республикасынын Финансы министрлиги(キルギス財務省) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。