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カザフスタンの新税法典(2026年1月施行)とは

2025年7月18日に採択され2026年1月1日に施行されたカザフスタンの新しい税法典について、構成と施行の日程、付加価値税・法人所得税・個人所得税・鉱業課税・特別税制の変更、そして銀行・資源・小売・中小企業それぞれへの効き方を、法文と企業の開示にもとづいて整理する。

カザフスタンの新しい税法典は、2025年7月18日に法典第214-VIII号として採択され、2026年1月1日に施行された。2017年12月25日の旧税法典を全面的に置き換えたもので、税率、課税の対象、特別税制、鉱業への課税がまとめて書き換えられている。同国で税制の全面改正が行われるのは2017年以来である。

改正の狙いは、非資源分野の歳入を厚くして財政赤字を縮めることにあった。付加価値税の税率を12%から16%へ上げ、登録の閾値を半分に下げて課税事業者の数を増やす一方で、社会税を11%から6%へ下げ、中小企業向けの特別税制を整理する、という組み合わせになっている。

この改正は、カザフスタンに投資する側にとって二つの意味を持つ。ひとつは、銀行と資源会社の2026年の利益見通しがこの法典によって直接に下がったこと。もうひとつは、付加価値税の登録義務が生じる売上の水準が下がったことで、これまで課税事業者ではなかった小規模な事業者が新たに申告の負担を負うことである。

正式名カザフスタン共和国法典「租税およびその他の義務的な予算納付について」(税法典)
番号と採択日2025年7月18日採択、法典第214-VIII号
施行2026年1月1日(第848条第1項)。第189条は2026年7月1日、第92条と第90章(固形鉱物のロイヤルティ)は2027年1月1日から
置き換えたもの2017年12月25日の旧税法典と、その施行法。旧法典では施行の順序を別の法律で定めていたが、新法典は第848条として自らの中に取り込んだ
構成総則部と特別部からなり、22編95章848条
施行後の改正2026年6月11日の法律第308-VIII号(同年7月1日施行)のみ。用語の統一が中心である(2026年8月31日現在の法令データベースの版による)
付加価値税の標準税率16%(旧法典は12%)。医薬品・医療機器と医療サービスは2026年が5%、2027年から10%。国内の定期刊行物は10%
付加価値税の登録閾値暦年の売上高が月次計算指標(MCI)の1万倍を超えたとき登録が義務になる。2026年は4,325万テンゲ。旧法典は2万倍で、2025年は7,864万テンゲだった
法人所得税標準20%。第2階層銀行の銀行業務(事業者向け融資から生じる所得を除く)とカジノ・賭博は25%、農業生産は3%、農業協同組合は6%、社会分野の団体は2026年が5%、2027年から10%
個人所得税年間の課税所得8,500MCI(2026年は3,676万2,500テンゲ)までが10%、超過分が15%の累進。旧法典は一律10%だった
配当(個人)23万MCI(2026年は9億9,475万テンゲ)までが5%、超過分が15%
社会税6%(旧法典は2025年1月から11%)。農産物の生産・加工は1.8%
特別税制自営業者向け、簡易申告に基づくもの、農民・農業経営体向けの3類型。旧法典の7類型から絞られた
鉱物採掘税(ウラン)鉱区の年間生産量に応じて4%(500トン以下)から18%(4,000トン超)。精鉱の加重平均価格が1ポンドあたり70ドル超で0.5ポイント、80ドル超で1.0、90ドル超で1.5、100ドル超で2.0、110ドル超で2.5ポイントを上乗せ
鉱物採掘税(石油)2026年は年間生産量に応じて5%(25万トン以下)から18%(1,000万トン超)。国内市場向けは0.5の低減係数。2027年からは生産量と原油価格の二次元の表に変わる
デジタル採掘への課金消費電力1キロワット時あたり2テンゲ。自前の再生可能エネルギー電源や系統に接続しない発電設備の電力なら1テンゲ、免許や計量器がない場合は25テンゲ
月次計算指標(MCI)2026年は4,325テンゲ(2025年12月8日の共和国予算法第239-VIII号第7条)。閾値と控除の多くがこの倍数で書かれている
所管カザフスタン共和国財務省国家歳入委員会

施行の日程と、法典の組み立て

施行の順序は法典の最終条にあたる第848条が定める。原則は2026年1月1日で、例外は二つある。第189条が2026年7月1日から、第92条と固形鉱物のロイヤルティを定める第90章が2027年1月1日からである。旧法典では施行の順序を「税法典の施行について」という別の法律で定めていたが、新法典は同じ第848条第3項でその施行法ごと廃止し、施行の規定を自らの中に取り込んだ。

同条第2項は、いくつかの条項に期限を付けている。イノベーション・クラスター「アスタナ・ハブ」の参加者を定める第17条と、それに連なる免税の各条項は2029年1月1日まで、他の控除は2027年、2028年、2030年、2031年までと、条項ごとに終期が違う。優遇の恒久性を前提に投資判断をしないための設計だが、読む側からすると、条文本体だけを見ても有効期限が分からないという読みにくさがある。

法典は総則部と特別部からなり、22編95章848条で構成される。編の並びは、総則、納税義務、税務行政、居住者と非居住者の課税、法人所得税、個人所得税、付加価値税、物品税、社会税、輸送手段税、土地税、財産税、賭博事業税、予算への各種納付、非居住者の課税、特別税制、契約に基づく税の優遇、輸出レント税、地下資源利用者の課税、単一納付、電子商取引を行う外国企業の課税、そして経過規定である。

施行後の改正は、2026年8月31日時点で2026年6月11日の法律第308-VIII号(同年7月1日施行)1本にとどまる。内容は「外国人」「テンゲ」「共和国直轄市・首都」といった語の統一が中心で、税率や課税対象を変えるものではない。

付加価値税 — 税率と閾値の両方が動いた

標準税率は第503条第1項で16%と定められた。旧法典の第422条は12%だったので、4ポイントの引き上げである。第503条第2項は、医薬品・医療機器と、免許を持つ医療機関が提供する医療サービスについて2026年は5%、2027年から10%とする段階的な税率を置いた。国内の定期刊行物は10%である。輸出などのゼロ税率は従来どおり残る。

実務上はむしろ登録の閾値のほうが影響が大きい。第101条は暦年の売上高が「売上の上限閾値」を超えた事業者に登録を義務づけ、第99条がその閾値を月次計算指標(MCI)の1万倍と定義する。MCIは毎年の共和国予算法で決まる基準額で、2026年は4,325テンゲなので、閾値は4,325万テンゲになる。旧法典の第82条第4項は2万倍だったから、2025年の閾値は3,932テンゲの2万倍で7,864万テンゲだった。倍率で半分、テンゲ建てでも45%下がったことになる。超えた日から5営業日以内に申請しなければならない。

金融取引の非課税の範囲も狭まった。旧法典の第397条は、預金の受け入れ、口座の開設と管理、送金、貸出、現金取引、信用状、銀行保証、ファクタリング、銀行間清算といった銀行業務を列挙して非課税としていた。新法典の第477条にはこの列挙がなく、残ったのは証券取引、デリバティブ、保険、外国為替の両替、決済カードの取引、持分の譲渡、債権の譲渡などである。ただし貸出の利息そのものは、別の条文(第474条第11号)で引き続き非課税とされている。つまり利ざやは対象外で、口座・送金・現金・保証などの手数料が16%の対象に入った。

法人所得税 — 単一税率から業種別へ

第357条第2項は、課税所得に適用する税率を業種で分けた。標準は20%で据え置かれたが、25%の区分が新設され、第2階層銀行の銀行業務と、カジノ・スロットホール・トタリザトル・ブックメーカーの事業がここに入った。銀行については、事業者向け融資から生じる課税所得は20%のまま残る。この区分をどう計算するかは、国家歳入委員会と国立銀行が共同で定めることになっている。

軽減される側も動いた。農業生産と養殖、およびその自家製品の加工は3%(旧法典は10%)、農業協同組合は6%、社会分野で活動する団体は2026年が5%、2027年から10%である。源泉徴収の対象となる所得(非居住者向けを除く)は15%、非居住者の恒久的施設の純所得も15%、被支配外国法人の課税所得は20%と定められた。

カザフスタンで営業する銀行にとって、この5ポイントの引き上げは2026年の利益見通しを直接に下げる要素になっている。カスピ・ケーゼットは米証券取引委員会に提出した2025年12月期の年次報告書(Form 20-F)で、新税法典が第2階層銀行の法人所得税率を20%から25%へ引き上げたこと(事業者向け融資から生じる所得には20%の軽減税率が残ること)と、第2階層銀行の一部の金融取引に対する既存の非課税措置が50%縮小されたことを挙げ、税負担が重くなったと記している。

個人所得税 — 一律10%から累進へ

第363条は、それまで一律10%だった個人所得税に累進の刻みを入れた。給与を含む一般の所得は、年間の課税所得が8,500MCI(2026年は3,676万2,500テンゲ)までが10%、これを超える部分が15%である。月あたりに直すと約306万テンゲが境目になる。

配当は別の表で、23万MCI(2026年は9億9,475万テンゲ)までが5%、超過分が15%である。個人事業主と農民・農業経営体が一般の課税方式を選んだ場合の課税所得も、23万MCIまでが10%、超過分が15%となる。農民・農業経営体には、自家生産の農産物とその加工品に係る税額を70%減らす措置が置かれた。私的業務従事者は9%である。

上場証券に関する非課税は残った。第400条第1項第6号は、カザフスタン国内の証券取引所の公式リストに載っている証券を、その取引所の公開取引で売却して得た譲渡益を課税所得から除く。アスタナ国際金融センター(AIFC)の憲法的法律が定める証券も、同じ「優遇証券」の枠に加わる形で条文に組み込まれている。

鉱業への課税

地下資源利用者への課税は第19編にまとまっている。鉱物採掘税は、炭化水素(第778条)と固形鉱物(第781条)で表が分かれる。

ウランは第781条第1項第2号に独立した表を持ち、税率は鉱区の年間生産量で決まる。500トン以下が4%、1,000トン以下6%、2,000トン以下9%、3,000トン以下12%、4,000トン以下15%、4,000トン超が18%である。これに価格連動の上乗せがあり、天然ウラン精鉱(U3O8)の加重平均価格が1ポンドあたり70ドルを超えると0.5ポイント、80ドル超で1.0、90ドル超で1.5、100ドル超で2.0、110ドル超で2.5ポイントが加わる。生産量が多く価格が高いほど税率が上がる二重の累進で、ウランの市況が上がっても生産者の手取りは価格の上昇ほどには増えない。

石油は2026年について、年間生産量25万トン以下の5%から1,000万トン超の18%までの階段が定められた。国内市場向けの販売や自家消費には0.5の低減係数が適用される。2027年からは、生産量と1バレルあたりの原油価格の二つを軸にした表へ切り替わる。

固形鉱物では金と銀にも価格連動の階段が入った。金は1トロイオンス2,800ドル以下の7.5%から3,800ドル超の11%まで、銀は28ドル以下の7.5%から段階的に上がる。銅8.55%、亜鉛10.5%、鉛10.4%、クロム鉱21.06%といった品目別の率も定められている。なお固形鉱物については、ロイヤルティを定める第90章が2027年1月1日から施行される予定で、鉱業課税の枠組みは2026年と2027年で連続していない。

中小企業・農業・IT・AIFC

特別税制は7類型から3類型へ絞られた。旧法典は小規模事業者向けだけでも特許制、簡易申告制、固定控除制、専用モバイルアプリ制の4種類を置き、これに小売税制、農民・農業経営体向け、農業生産者・農協向けが加わっていた。新法典の第715条が残したのは、自営業者向け(個人。月300MCIまで、個人所得税0%、社会関係の納付4%)、簡易申告に基づくもの(個人事業主と居住法人。年60万MCI=2026年で25億9,500万テンゲまで、所得の4%。地方の代表機関が最大50%の範囲で上下できる)、農民・農業経営体向け(個人所得税0.5%)の3類型である。

IT分野は「アスタナ・ハブ」の参加者に対する優遇が中心で、法人所得税の軽減、参加者の従業員の所得に対する個人所得税の免除、参加者が輸入する物品の付加価値税の免除などが置かれている。ただし前述のとおり、参加者を定義する第17条とこれに連なる条項の効力は2029年1月1日までである。

AIFCの税制上の優遇は、新税法典が定めるものではない。根拠は憲法的法律「アスタナ国際金融センターについて」にあり、新法典はAIFCの機関、AIFC法にもとづく投資家居住制度、AIFCの取引所に上場する証券などを参照する形で接続している。したがって新法典の施行によってAIFCの免税が変わったわけではないが、両者は別の法律なので、条件の変更もそれぞれの法律の改正として起きる。

デジタル資産の分野には新しい納付が入った。第659条は、デジタル採掘(マイニング)に使った電力に対し1キロワット時あたり2テンゲの課金を定める。自前の再生可能エネルギー電源や、系統に接続しない発電設備の電力を使う場合は1テンゲに下がり、免許や計量器がない場合は25テンゲになる。

誰にどう効くか

銀行への効き方が最も分かりやすい。法人所得税率の5ポイント引き上げと、金融取引の非課税範囲の縮小が同時に来た。ハリク銀行は2026年上期の決算資料で、純手数料収入が前年同期比19.6%減った理由として、規制強化による後払い(BNPL)取引の減少と並んで、一部の銀行サービスに係る付加価値税を顧客へ段階的に転嫁したことを挙げている。営業経費の増加要因にも付加価値税の増加を挙げており、税負担は収入の側と費用の側の両方に現れている。

資源会社では、税率が価格に連動する設計が効く。ウランの鉱物採掘税は2024年が6%、2025年が9%の単一税率だったが、2026年から生産量と価格による区分方式に変わった。カザトムプロムは2025年の統合年次報告書で、2026年の生産計画(100%ベースで2万7,500〜2万9,000トンU)を前提とした感応度分析を示しており、スポット価格が1ポンド60ドルなら実効税率は11.2〜11.8%、70ドルなら11.7〜12.3%、80ドルなら12.2〜12.8%になる。市況が上がるほど税率も上がる設計である。原油についても、2027年からは価格を軸に含む表へ移る。

小売と消費財では、付加価値税の4ポイント引き上げが価格に転嫁される。同時に、これまで免税事業者だった小規模な小売業者が新たに課税事業者になる例が増える。閾値が7,864万テンゲから4,325万テンゲへ下がったことの影響は、税額そのものより、電子インボイスの発行と四半期ごとの申告という事務負担として現れる。

中小企業では、選べる特別税制が7から3に減ったこと自体が大きい。とくに小売税制と固定控除制がなくなったため、これらを使っていた事業者は簡易申告制か一般の課税方式へ移る必要がある。他方で社会税は11%から6%へ下がっており、人件費に対する負担は軽くなる。

施行後も細部の調整は続いている。2026年8月には、銀行が帳消しにした債務に対する個人所得税の扱いを見直す議論が、国民経済相を議長とする新税法導入プロジェクトオフィスの会合で行われた。詐欺被害や返済不能の場合を全額非課税とする一方、銀行が経営判断で商業融資を帳消しにする場合まで自動的に非課税とはしない、という線引きが示されている。

歳入への効果は既に数字に出ている。S&Pグローバル・レーティングは2026年8月21日にカザフスタンの長期ソブリン格付けをBBB-からBBBへ引き上げた。カザフスタン国民経済省の発表によれば、歳出の伸びを抑えつつ課税ベースを広げる措置が財政赤字を縮小させることが、格上げの理由の一つに挙げられている。格上げを報じたアスタナ・タイムズによれば、2026年上半期の税収は前年同期比17%増、うち付加価値税の徴収額は42%増だった。

数字の読み方

閾値と控除の多くはテンゲではなくMCIの倍数で書かれている。MCIは毎年の共和国予算法で決まり、2026年は4,325テンゲ、2025年は3,932テンゲだった。したがって法典の条文が変わらなくても、テンゲ建ての閾値は毎年動く。年をまたいで比較するときは、その年のMCIで換算し直す必要がある。

税率の引き上げ幅と実際の負担増は一致しない。銀行の法人所得税は20%から25%になったが、事業者向け融資から生じる所得には20%が残るため、実効税率は各行の資産構成で変わる。鉱業でも、生産量と価格の階段があるため、表の最高税率が実効税率になるわけではない。

施行の時期が条項ごとに違う点にも注意が要る。固形鉱物のロイヤルティを定める第90章は2027年1月1日から、アスタナ・ハブ関連の優遇は2029年1月1日までであり、「新税法典の内容」として語られるものの中に、まだ効力を持たないものと期限付きのものが混じっている。

条番号を引くときは版に注意したい。旧法典と新法典では同じ制度の条番号が違う(付加価値税の税率は旧第422条、新第503条)ため、2026年より前に書かれた解説の条番号はそのままでは使えない。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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