域内の電力は、長らく国が値段を決めて配る仕組みで動いてきた。ソ連期の設計を引き継いだ縦割りの体制では、発電所も送電網も配電会社も国が持ち、料金は政治的に低く抑えられる。その結果、設備の更新に回る資金が足りず、老朽化と停電が繰り返されてきた。
2020年代に入って、この構造を変える動きが各国で同時に進んでいる。取引所を通じた卸電力市場の導入、再生可能エネルギーの入札による価格決定、原価を回収できる水準への料金の引き上げ、そして送電網への外部資金の導入である。国際金融機関の融資が、料金改革を条件に付けて出されることも増えた。
投資家の側から見ると、この地域で電力事業を評価するときに確かめるべきは三つある。誰が値段を決めるのか(規制か市場か)、決まった値段で原価が回るのか、そして送電網につないでもらえるのかである。発電の建設費よりも、この三つのほうが事業の成否を左右することが多い。
| カザフスタンの市場運営者 | カザフスタン電力・容量市場運営者(KOREM)。卸電力の取引と再生可能エネルギーの入札を運営する |
|---|---|
| カザフスタンの系統運用 | KEGOC。統一電力系統の運用と基幹送電網の保有を担う |
| カザフスタンの発電設備 | 248の発電所、設備容量2,680万7,000キロワット、利用可能容量2,284万4,200キロワット(2026年1月1日時点) |
| 再生可能エネルギーの調達 | カザフスタンは入札で事業者を選ぶ方式。2026年下半期は太陽光(カラガンダ州50メガワット)や小水力の入札が公告された |
| ジョージアの市場運営者 | 電力市場運営者(ESCO)。均衡電力、保証容量、輸出入の運用情報を公表する |
| ジョージアの家庭用料金 | 2026年に27%上昇し、消費者物価を0.7ポイント押し上げた |
| ジョージアの電力輸出 | 2026年6月に前年同月比84%減。トルコの太陽光急増で輸出先を失った |
| ジョージアの需要見通し | 2035年に20テラワット時(民間調査会社の推計)。純輸出国になるには55億ドル規模の投資が要るとされる |
| キルギスの送電網投資 | EBRDが6,170万ユーロを供与し、500キロボルト送電線を新設する(2026年) |
| キルギスの電力改革 | 世界銀行が5,000万ドルを成果連動型で供与。炭素クレジット市場への参入も視野に入れる(2026年6月9日) |
| タジキスタンの規制改革 | 世界銀行が1億ドルの構造改革融資。通信・航空とあわせて電力の規制を見直す(2026年7月1日) |
| 料金改革の条件化 | キルギスやタジキスタンの融資では、電力料金の原価回収に向けた段階的な引き上げが改革項目に含まれる |
| 越境送電の新設 | アゼルバイジャンは欧州への送電を計画し、経路はジョージアとトルコに限られる。通過料の設計が焦点になる |
| 配電への民間投資 | ジョージアではエネルゴ・プロ・ジョージアが110キロボルト送電線に1,500万ラリ超を投じている |
誰が値段を決めるのか
域内の電力価格は、大きく分けて三つの決まり方をする。第一に、規制当局が原価を審査して認可する規制料金。家庭用と小規模需要家はほぼこれである。第二に、卸電力市場での取引価格。カザフスタンではKOREMが運営する取引で、大口需要家と発電事業者が売買する。第三に、長期の相対契約で、大規模な工場やデータセンターが発電事業者と直接結ぶものである。
同じ国の中でも、需要家の種類によって適用される仕組みが違う。したがって「その国の電気代」という一つの数字は存在しない。事業計画を読むときは、想定している需要家がどの区分に属するかを最初に確かめる必要がある。
卸電力市場と市場運営者
カザフスタンでは、カザフスタン電力・容量市場運営者(KOREM)が卸電力と容量の取引を組織する。同社は競争的で透明な電力市場の整備を掲げ、取引の運営に加えて再生可能エネルギーの入札手続きも担う。系統の運用と基幹送電網は別会社のKEGOCが持ち、市場の運営と系統の運用が分けられている。
ジョージアでは電力市場運営者(ESCO)が同じ役割を担い、均衡電力の価格、規制を外れた発電所の価格、保証容量の取引、輸出入の運用情報を公表している。市場の設計が公開されていることは、外部から事業性を評価するうえで大きい。
これに対し、市場を通さず国営の一社が買い上げる形が残る国もある。取引の場があるかどうかは、発電事業者が売り先を選べるかどうかに直結する。
再生可能エネルギーは入札で決まる
カザフスタンは、再生可能エネルギーの事業者を入札で選ぶ方式を採る。KOREMが案件ごとに区域と容量を示して登録を募り、価格の低い順に落札する。2026年下半期には北部地域(カラガンダ州)の太陽光50メガワットや、小水力の入札が公告された。太陽光では再入札が行われた案件もある。
この方式の利点は、補助の水準を行政が決めるのではなく競争で決められることにある。一方で、落札価格が低すぎると事業が成立せず着工に至らないという問題も各国で起きている。落札の事実だけでなく、その後に系統接続と資金調達が成立したかまで追う必要がある。
料金改革と原価回収
域内の多くの国で、電力料金は原価を下回る水準に抑えられてきた。差額は国の補助か、事業者の設備投資の先送りで埋められる。老朽化と停電はこの延長線上にある。
2020年代に入り、国際金融機関の融資が料金改革を条件に付ける形が定着した。キルギスでは世界銀行が5,000万ドルを成果連動型で供与し、改革項目に電力料金の原価回収に向けた段階的な引き上げが入る。タジキスタンでも2026年7月、通信・航空とあわせて電力の規制を見直す1億ドルの構造改革融資が組まれた。
料金の引き上げは家計に直接効く。ジョージアでは2026年に家庭用料金が27%上がり、消費者物価を0.7ポイント押し上げた。同時に、電気代が上がれば自家発電や屋根置きの太陽光が採算に乗りやすくなる。料金改革は分散型電源の需要を生む側面も持つ。
送電網への投資
発電を増やしても、送電網が受けきれなければ電気は届かない。域内の送電網はソ連期に敷かれたものが多く、更新が追いついていない。2026年8月に4か国へ波及した停電は、この脆弱さを可視化した。
資金の出し手は国際金融機関が中心である。EBRDはキルギスの送電網の近代化に6,170万ユーロを供与し、500キロボルトの送電線を新設する。ジョージアでは配電会社エネルゴ・プロ・ジョージアが110キロボルト送電線に1,500万ラリ超を投じている。送電網の投資は収益が規制料金に組み込まれるため、料金改革と一体で進むことが多い。
再生可能エネルギーの導入は、この制約をさらにきつくする。太陽光と風力は出力が変動するので、系統側に調整力と蓄電が要る。域内の案件で蓄電池が併設される例が増えているのは、この事情による。
国境をまたぐ電力貿易
域内の電力は国境を越えて流れる。上流のキルギスとタジキスタンは夏に水力の余剰を出し、冬は不足する。下流のカザフスタンとウズベキスタンは逆の季節性を持つ。この交換が成り立つのは系統がつながっているからである。
域外との取引も動いている。ジョージアはトルコへの輸出国だったが、トルコの太陽光が急増した結果、2026年6月の電力輸出は前年同月比84%減となり、輸出先を失った。輸出を前提にした発電投資が、相手国の電源構成の変化で成り立たなくなる例である。
アゼルバイジャンは欧州への送電を計画しているが、経路はジョージアとトルコに限られる。通過料の設計が事業の成否を分ける論点になる。越境の電力事業を読むときは、発電の採算だけでなく、通過する国との取り決めがどこまで固まっているかを見る必要がある。
数字の読み方
設備容量と利用可能容量は違う。カザフスタンは2026年1月1日時点で設備容量2,680万7,000キロワットを持つが、実際に使える利用可能容量は2,284万4,200キロワットで、約15%が定期補修や故障で落ちている。発電能力を論じるときにどちらの数字を使っているかで、需給の逼迫度の見え方が変わる。
料金の比較にも注意が要る。家庭用と産業用、地域別、時間帯別で単価が分かれる国が多く、平均値は実際に誰かが払う値段ではない。国際比較をするときは、購買力の違いに加えて、補助が価格に含まれているか別に出ているかも揃える必要がある。
参考資料
- KOREM — Казахстанский оператор рынка электрической энергии и мощности(カザフスタンの電力市場運営者。取引と再生可能エネルギー入札) ↗
- Электроэнергетика Казахстана: ключевые факты(KEGOC。発電所数と設備容量、2026年1月1日時点) ↗
- Electricity Market Operator (ESCO)(ジョージアの電力市場運営者。均衡電力・保証容量・輸出入) ↗
- Министерство энергетики Республики Казахстан(カザフスタンエネルギー省) ↗
- Kyrgyz Republic secures 62 million euros from EBRD for power transmission(EBRD、2026年。500キロボルト送電線) ↗
- Kyrgyz Republic to Access Innovative Carbon Finance(世界銀行、2026年6月9日。成果連動型5,000万ドルと料金改革) ↗
- Tajikistan Accelerates Economic Reforms(世界銀行、2026年7月1日。通信・航空・電力の規制見直し1億ドル) ↗
- Azerenerji(アゼルバイジャン国営電力会社。送電線事業の発表) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。