GUIDE · 制度・枠組み2026年9月時点

中央アジア統一電力系統(CAPS)とは

中央アジア4か国の送電網がなぜつながっているのか。ソ連期の設計、水と電力の交換という仕組み、1990年代からの分断と再統合、2026年8月の4か国停電、そして南アジアへ延びるCASA-1000までを整理する。

中央アジア統一電力系統(CAPS: Central Asian Power System)は、カザフスタン南部、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンの送電網を結ぶ国際連系である。ソ連期に、当時は国内線だった境界をまたいで各共和国の電力を一体運用するために設計された。

この系統は単なる送電網ではなく、水とエネルギーの交換の仕組みでもあった。上流のキルギスとタジキスタンが夏に水力発電のため放流すると、その水が下流のウズベキスタンとカザフスタンの灌漑を潤す。冬は下流が化石燃料の電力を上流へ送る。国境ができた後もこの相互依存は残った。

つながっていることの利点と危うさは表裏一体である。1か所の事故が国境を越えて波及する一方、需給の急変を隣国の系統が吸収してくれる。この地域の電力を読むときは、国別の発電能力だけでなく、この連系の状態を併せて見る必要がある。

構成カザフスタン南部、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンの送電網の国際連系
起源ソ連期の中央アジア統一エネルギーシステム。環状の基幹送電線で各共和国を結んだ
法的な土台1999年に中央アジア各国が結んだ並列運転の協定
トルクメニスタン2003年に離脱し、2026年9月時点で復帰していない
タジキスタン2009年12月に接続を切られ孤立。2024年6月に南西部の系統が再接続。北部の接続は2026年7月時点でなお整備中
直近の広域停電2026年8月14日。カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンの4か国へ波及し、アルマトイでは地下鉄が停止した
カザフスタンの発電設備248の発電所、設備容量2,680万7,000キロワット、利用可能容量2,284万4,200キロワット(2026年1月1日時点、系統運用会社KEGOCの公表)
交換の型夏は上流(キルギス・タジキスタン)の水力電力と灌漑用水が下流へ、冬は下流(カザフスタン・ウズベキスタン)の火力電力が上流へ
CASA-1000キルギス・タジキスタンの夏の余剰電力をアフガニスタン経由でパキスタンへ送る送電事業。送電容量130万キロワット、送電線の総延長1,387キロ、鉄塔4,264基(事業公式サイト、2026年9月時点)
関係する解説上流の調整能力はトクトグル水力発電所とカンバラタ1、タジキスタン側はログンダムの各解説で扱う

ソ連期の設計

この系統は、ソ連が中央アジア5共和国の発電所を一つの給電指令で回すために作った。水量の豊富な山岳部の水力と、平野部の火力・ガス火力を環状の基幹送電線で結び、季節ごとの需給の偏りを共和国間の融通で埋める設計である。共和国の境界は当時は国内の行政区分にすぎず、送電線は境界を意識せずに引かれた。1991年の独立で、この一体設計の系統がそのまま5つの国に分かれることになった。

分断と再統合

ソ連崩壊後、各国は1999年に並列運転の協定を結んで一体運用を続けようとしたが、系統は徐々にほどけていく。トルクメニスタンは2003年に離脱し、イランとの連系に軸足を移した。タジキスタンは2009年12月にウズベキスタンとの接続を切られて孤立し、以後15年にわたり冬の電力不足を単独でしのぐことになった。

転機は2018年の両国関係の改善である。電力取引の協定を経て、2024年6月にタジキスタン南西部の系統がCAPSへ再接続された。北部の接続は2026年7月時点でなお整備中である。再接続によって、タジキスタンは夏の水力の余剰を隣国へ売り、冬に買う本来の型へ戻りつつある。

2026年8月の4か国停電

2026年8月14日、停電がカザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンの4か国へ波及した。発端について、カザフスタン側はキルギスのトクトグル水力発電所の2基停止を、キルギス側はカザフスタン国内の送電線障害を挙げ、説明は食い違ったままである。アルマトイでは地下鉄が止まり、復旧は同日中に進んだ。

この停電は、連系の危うさと有用さを同時に示した。事故は国境を越えて広がったが、復旧もまた隣国からの受電で早められる。原因の調査と併せて、各国は周波数調整力の不足という共通の宿題を負っている。

需給の逼迫と増設

域内の電力需要は、人口増と経済成長、データセンターなどの新規需要で伸び続けている。カザフスタンは2026年1月1日時点で248の発電所・設備容量2,680万7,000キロワットを持つが、南部は慢性的な受電地域で、北から南への基幹送電と隣国からの融通に依存する。ウズベキスタンはガス火力の更新と再生可能エネルギーの導入を並行して進め、キルギスとタジキスタンは水力の増設で夏の輸出余力を積み増そうとしている。各国の増設計画は、この連系があることを前提に組まれている。

南への延伸: CASA-1000

CASA-1000は、キルギスとタジキスタンの夏の余剰水力をアフガニスタン経由でパキスタンへ送る送電事業である。事業の公式サイトによれば、送電容量は130万キロワット、4か国にまたがる送電線の総延長は1,387キロ、建設される鉄塔は4,264基にのぼる。中央アジアの夏の余剰と南アジアの夏の不足を直結させる構想で、実現すればCAPSは閉じた域内連系から、南アジアへの輸出回廊の起点へ性格を変える。

投資の観点

この系統の状態は立地判断に直結する。データセンターや工場を検討する側にとって、1つの発電所の事故が国境を越えて波及する系統は、自家発電や蓄電の追加費用を意味する。一方で、世界銀行やADBが送電網の近代化に資金を投じ続けているのは、この地域の電力融通が再生可能エネルギーの導入余地とセットで評価されているためである。売電の値段だけでなく、周波数と系統の安定という運用の質が、投資条件として読まれる段階に入っている。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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