GUIDE · インフラ・地理2026年9月時点

中央アジアの水資源と灌漑とは

アムダリヤ・シルダリヤ両河川の水がどこで生まれ、どの制度で各国に配分されているのかを、1992年アルマトイ協定と国家間水利調整委員会(ICWC)の仕組みから整理する。上流の発電と下流の灌漑という季節のずれ、土水路と揚水に依存する灌漑の実態、点滴灌漑と計量への転換、アフガニスタンのコシュテパ運河が配分に与える影響、そして投資の観点を、協定の当事者と国際機関の公表資料にもとづいてまとめる。

中央アジアの水は、ほぼすべてが二本の川に集約される。南のアムダリヤと北のシルダリヤであり、両河川の流域はアラル海流域と呼ばれて中央アジアのほぼ全域と重なる。長期平均でアムダリヤが年79.28立方キロメートル、シルダリヤが年37.20立方キロメートル、合わせて116.48立方キロメートルの水が流れる。

この水がどこで生まれるかと、どこで使われるかは一致しない。流量の52.0%はタジキスタンの山岳で、25.1%はキルギスで形成される。一方、水を大量に使うのは下流の平野に灌漑農地を持つウズベキスタン、トルクメニスタン、カザフスタン南部である。上流の2か国は水を持つが耕地が乏しく、下流の3か国は耕地を持つが水を作れない。この非対称が、域内の水をめぐるあらゆる議論の出発点になっている。

ソ連時代には、この配分は一つの国の内部の事務だった。1991年に5つの独立国が生まれた瞬間、内部の水は越境水に変わった。各国の水管理当局の長は1991年10月12日にタシケントで共同声明を出し、4か月後の1992年2月18日にアルマトイで協定に署名して、国家間水利調整委員会(ICWC)を設けた。それ以来、取水の枠は毎年この委員会で決められている。

制度が残ったことと、水が足りていることは別である。灌漑網の老朽化、土のままの水路からの浸透、揚水に要する電力、塩害、そして氷河の縮小が同時に進んでいる。各国が水インフラと節水技術に投資を続けているのは、新しい水源を作れない以上、いま失っている水を取り戻すしか方法がないためである。

二大河川の年平均流量アムダリヤ79.28立方キロメートル、シルダリヤ37.20立方キロメートル、合計116.48立方キロメートル(ICWC科学情報センターの集計。長期平均値)
流量が生まれる国の比率タジキスタン52.0%、キルギス25.1%、アフガニスタンとイラン10.0%、ウズベキスタン9.6%、カザフスタン2.1%、トルクメニスタン1.2%(同)
配分の法的根拠1992年2月18日にアルマトイで署名された、国家間水源の水資源の共同管理・利用・保全に関する5か国協定
配分を決める機関国家間水利調整委員会(ICWC。省庁間水利調整委員会とも訳す)。各国の水管理当局の長で構成し、四半期ごとに開く
決めていること国ごとの年次取水枠と、貯水池群の運用体制。生育期(春夏)と非生育期(秋冬)に分けて承認し、実績の水量に応じて修正する
執行機関流域水利機構「アムダリヤ」と「シルダリヤ」、ICWC事務局、科学情報センター、調整計量センター
直近の会合第94回は2026年8月7日、カザフスタンのトルキスタン。2026年生育期の取水枠は第93回(2026年4月10日、ブハラ)で承認された
流域の貯水設備貯水池80か所超、総容量600億立方メートル超(うち稼働中440億立方メートル。アムダリヤ流域170億、シルダリヤ流域270億)
地下水流域全体の推定量31.17立方キロメートル、採取が認可された量13.11立方キロメートル、実際の採取約10.02立方キロメートル(ICWC科学情報センター)
回帰水年28.0〜33.5立方キロメートル。その約95%が灌漑の排水で、灌漑が実際に消費するのは取水の45〜50%にとどまる(同)
ウズベキスタンの灌漑面積430万ヘクタール。水利用の90〜91%が農業、4.5%が生活用、1.4%が工業(大統領令UP-6024号、2020年7月10日)
ウズベキスタンの取水枠と実績流域計画上の長期平均枠は年640億立方メートル。近年の実績は510億〜530億立方メートルで枠を20%下回る(同)
ウズベキスタンの取水の推移2017年の589億1,800万立方メートルから2024年の452億8,100万立方メートルへ減少(国連開発計画の主題別研究。ICWC会報第117号、2026年4月)
ウズベキスタンの1人あたり水利用可能量15年間で3,048立方メートルから1,589立方メートルへ低下(大統領令UP-6024号)
カザフスタンの河川流量長期平均106立方キロメートル。55.7%が国内で形成され、44.3%は中国・ウズベキスタン・ロシア・キルギスからの流入(水資源管理体制発展構想、政令第66号、2024年2月5日)
カザフスタンの灌漑効率圃場までの水利用係数は30年間で0.8から0.5〜0.55へ低下。取水全体の60%が農業向け(同)
カザフスタンの2030年目標灌漑面積を250万ヘクタールへ拡大。輸送路での損失を50%から25%へ削減し、節水技術で年21億9,200万立方メートルを節約(同)
コシュテパ運河アフガニスタン北部で建設中。本流285キロメートル、55万ヘクタールの灌漑を計画。完成予定は2028年(ICWC科学情報センター)
同運河が配分に与える影響アフガニスタンのアムダリヤ流域からの取水は現在の年30億〜50億立方メートルから、完成後は年90億〜110億立方メートルに増えうる(同。専門家の推計)
氷河の縮小中央アジアの氷河の表面積は過去60年で30%減少(世界銀行、2026年7月21日)
協調不足の費用国別の水管理が分断されていることによる域内の損失は年45億ドル超(同)

水はどこで生まれ、どこで使われるか

アラル海流域は、地形の上で三つの帯に分かれる。山岳部の流量形成帯、平野を横切る流下・散逸帯、そして河口のデルタ帯である。降水は東と南東の天山・パミールの山脈にほぼすべて捕まり、平野部の年降水量は80〜200ミリメートルにとどまる。キルギスとタジキスタンは国土の約90%が山地で、水を作る一方で耕せる土地が少ない。カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンは国土の半分以上が砂漠で、灌漑すれば広大な農地になるが水がない。

シルダリヤはナルイン川の源流から数えて全長3,019キロメートル、流域面積21万9,000平方キロメートルで、流量の75.2%がキルギスで生まれる。アムダリヤはピャンジ川の源流から2,540キロメートル、流域面積30万9,000平方キロメートルで、流量の約74%がタジキスタンで、13.9%がアフガニスタンとイランで生まれる。アムダリヤは中流のケルキから下流のヌクスまでの砂漠の区間で、蒸発と浸透と取水によって流量の大半を失う。

使える水は河川水だけではない。流域の地下水は推定31.17立方キロメートルあり、そのうち採取が認可されているのは13.11立方キロメートル、実際に採取されているのは約10.02立方キロメートルである。ただし地下水の約30%は越境性を持ち、汲み上げが河川流量に跳ね返るため、単純な増量分としては扱えない。

もうひとつの水源が回帰水である。灌漑の排水と工業・生活排水を合わせて年28.0〜33.5立方キロメートルが河川系に戻る。その約95%は農地からの排水で、塩分濃度が高い。この量の大きさは、灌漑が取水した水のうち実際に作物が消費しているのは45〜50%にすぎないことの裏返しでもある。

1992年アルマトイ協定とICWC — 枠を決める仕組み

ICWCは、中央アジアの国家元首が設置と権限を認めた唯一の機関で、国家間の水配分と水利用について拘束力のある決定を行う。中心的な任務は二つある。ひとつは地域の水政策の方向づけ、もうひとつは各国と地域全体の年次取水枠、および大型貯水池の運用体制を計画して承認することである。実績の水量や気象の見通しが変われば、枠は年度の途中でも修正される。

会合は四半期ごとに、加盟国のいずれかで開かれ、開催国が議長を務める。枠は年に二度、生育期(おおむね4月から9月)と非生育期(10月から翌年3月)に分けて承認される。第93回会合は2026年4月10日にウズベキスタンのブハラで開かれ、2025年から2026年にかけての非生育期の実績を確認したうえで、2026年生育期の各国取水枠と貯水池群の運用予測を承認した。第94回会合は2026年8月7日にカザフスタンのトルキスタンで開かれ、2026年生育期の実績と、シルダリヤ流域の水量自動計測システムの導入計画を議題にしている。

決定を現場で実行するのは、ICWCの執行機関である。流域水利機構「アムダリヤ」と「シルダリヤ」が、日々の水配分、合意された枠に沿った送水、そしてアラル海と旧湖岸地帯への環境放流を担う。このほかに事務局、科学情報センター、調整計量センターが置かれ、計量センターは水量計測の技術基準を揃える役目を負う。

法的な骨格は3つの文書で構成される。1992年2月18日のアルマトイ協定、1993年3月26日のクズロルダ協定、そして1999年4月9日にアシガバートで署名された、国際アラル海救済基金(IFAS)とその機関の地位に関する協定である。最後の協定によって、ICWCとその執行機関は国際機関としての地位を得た。ICWCの事務局規程は2026年2月20日のドゥシャンベ会合で改定されている。

夏の灌漑と冬の発電 — 時間のずれ

水の量そのものより問題になりやすいのが、水を流す時期である。下流の灌漑が水を必要とするのは春から夏にかけてで、上流の水力発電が電力を必要とするのは冬である。上流国が冬に発電のために放流すれば、下流では冬に水が余って夏に足りず、しかも冬の増水が氷結期の氾濫を招く。逆に上流国が夏の灌漑に合わせて貯め置けば、自国の冬の電力が不足する。

ソ連時代には、この時間のずれは物々交換で埋められていた。上流の共和国が夏に放流するかわりに、下流の共和国が冬にガス・石炭・電力を送る仕組みである。独立後、この交換は価格と支払いの問題を伴う国家間の取引になり、安定しなくなった。上流国が水力発電所の増強を進め、下流国がそれを警戒する構図は、この時間のずれに根がある。

ソ連期に築かれた設備そのものは、いまも配分の前提である。流域には貯水池が80か所以上、総容量600億立方メートル超が建設され、そのうち440億立方メートルが稼働している。内訳はアムダリヤ流域170億立方メートル、シルダリヤ流域270億立方メートルである。このほか、全長1,400キロメートル・通水能力毎秒500立方メートルの自然流下式運河や、毎秒350立方メートルを180メートル揚げるカルシ揚水階段のような大型施設がある。

カザフスタンはこの構図をアラル海流域の外にも抱えている。同国の河川流量は長期平均で年106立方キロメートルだが、その44.3%は国外からの流入である。相手は中国、ウズベキスタン、ロシア、キルギスで、それぞれ別の二国間の枠組みが適用される。カザフスタン政府の構想文書は、中国との2001年9月12日の政府間協定について、宣言的な性格で、等分の配分や共同管理の義務を定めていないと明記している。

灌漑の実態 — 土水路、揚水、塩害

域内の灌漑網は、規模が大きい一方で技術の水準が低い。ウズベキスタンの場合、灌漑網の効率係数は平均0.63で、主要な水源から取った水の35〜40%が送水の途中で失われる。灌漑水路の66%は土のままの水路で、浸透による損失が大きい。水路の77%が補修を、20%が改築を要する状態にある。

同国では灌漑地の約60%が自然流下では水が届かず、1,687か所の揚水機場で汲み上げている。この揚水に要する電力は年80億キロワット時にのぼる。水を運ぶために電気を大量に使う構造であり、電力価格と水管理の費用が直結する。排水側も同様に大きく、集水・排水網は総延長14万2,900キロメートル(うち開渠10万6,200キロメートル)に達する。

排水が不十分だと塩が土に残る。ウズベキスタンでは灌漑面積の45.7%が何らかの程度で塩害を受けている。同国の水利部門構想は2030年までに塩害の面積を22万6,000ヘクタール減らし、給水が不十分な農地を56万ヘクタールから19万ヘクタールへ減らす目標を掲げている。

カザフスタンでも数字の方向は同じである。政府の構想文書は、圃場に水が届くまでの水利用係数がこの30年で0.8から0.5〜0.55に下がったと記している。2022年時点で灌漑農業における損失の割合は65%に達し、灌漑農業が集中する南部の州では節水技術の導入率が灌漑面積のわずか3%にとどまっていた。取水全体の60%は農業向けである。

節水への転換 — 点滴灌漑、計量、水の価格

対策の柱は三つある。水路の改修、節水灌漑の導入、そして水の計量である。ウズベキスタンは2020年7月10日の大統領令UP-6024号で、2030年までに節水技術で灌漑する面積を200万ヘクタールへ、うち点滴灌漑を60万ヘクタールへ引き上げる目標を置いた。同令の時点で点滴灌漑は7万7,470ヘクタール、散水灌漑は1,123ヘクタール、間断灌漑は2,000ヘクタールにとどまり、近代的な灌漑の比率は6%だった。

カザフスタンは2024年2月5日の政令第66号で承認した水資源管理体制発展構想(2024〜2030年)で、灌漑面積を250万ヘクタールへ拡大し、輸送路での損失を50%から25%へ半減させる目標を掲げた。節水技術の導入は当時の年3万ヘクタールに対し、必要な水準を年15万ヘクタールと見積もっている。目標を達成した場合の節水量は2030年に年21億9,200万立方メートル、経済各部門での水の再利用率は17%から28%へ引き上げる計画である。

計量は制度の前提である。カザフスタンの構想文書は、灌漑農業における水の計量が低い水準にあり、農家への配水地点に信頼できる計測手段が備わっておらず、旧式の方法で測られていて計器の校正も十分でないと率直に記している。ウズベキスタンは全灌漑施設に計測・制御機器を設置する方針を掲げ、大型施設100か所の水管理を自動化するとしている。

水を有料にする方向も打ち出されている。ウズベキスタンの構想は、水利用者が送水費用の一部を段階的に負担する仕組みの導入を挙げる。優遇融資と補助金も併用され、国連開発計画の主題別研究は、政策手段の組み合わせによって同国の水ストレス指標が2018年の169%から2022年の122%へ下がり、総取水量が2017年の589億1,800万立方メートルから2024年の452億8,100万立方メートルへ減ったと整理している。

カザフスタンは2025年4月9日に新しい水法典(第178-VIII号)を採択した。60日後に施行され、一部の条文は2027年1月1日から適用される。この法典は「水の安全保障」を、国民と国民経済が水不足と水質汚染の脅威から守られている状態、および越境水における国益の保護と定義し、節水を法律の目的に明記した。流域の重要施設や流域間の導水施設は戦略的施設として国有に固定され、賃貸や信託管理、譲渡ができない。

アフガニスタンという枠外の当事者

アムダリヤの流量の13.9%はアフガニスタンとイランの領域で生まれる。しかしアフガニスタンは1992年のアルマトイ協定の当事国ではなく、ICWCの構成国でもない。配分の枠組みは、流量を生む国のひとつを外したまま組み立てられている。

この空白を具体的な問題に変えたのがコシュテパ運河である。ICWC科学情報センターの整理によれば、この運河はアフガニスタン北部でアムダリヤから取水するもので、本流の延長は285キロメートル、55万ヘクタールの砂漠を農地に変える計画である。バルフ州から始まり、ジョウズジャン州を通ってファリヤーブ州で終わる。取水口はバルフ州カルダール地区のアムダリヤ左岸に設けられ、堰を伴わない方式である。

同センターは、北部各州の農業生産の分析にもとづく専門家の推計として、アフガニスタンのアムダリヤ流域からの現在の取水量を年30億〜50億立方メートル、2028年に予定される運河の完成後には年90億〜110億立方メートルに増えうるとしている。アムダリヤの長期平均流量が79.28立方キロメートルであることを踏まえると、増分だけで流量の数パーセントから1割近くに相当する。

この数字には幅があり、推計の前提によって結果が変わる。運河の実際の通水能力、浸透損失、実際に灌漑される面積のいずれもまだ確定していない。確かなのは、配分を決める枠組みに参加していない当事者が下流の水量を左右しうる、という構造そのものである。

投資の観点と、数字の読み方

水の分野への投資は、発電と違って収入が直接には立ちにくい。このため国際金融機関の融資と無償資金が中心になる。世界銀行は2026年7月21日、中央アジア水効率協力事業(CAWEC)に2,000万ドルの無償資金を供与すると発表した。供与先はIFAS執行委員会で、対象はウズベキスタン、タジキスタン、カザフスタンである。最大6件の越境水インフラ事業の案件準備、水利用計量のデジタル化、両河川流域の情報システム近代化、地域機関の能力強化に充てられ、完了目標は2031年である。

同行はこの発表で、国別に分断された水管理による域内の損失を年45億ドル超と見積もり、中央アジアの氷河の表面積が過去60年で30%減少したことを挙げている。国別の事業も動いており、キルギスの国家灌漑投資プログラムには2026年6月に国際開発協会から9,575万ドル、タジキスタンの第2次水・灌漑管理強化事業には2026年7月に7,500万ドルの無償資金が承認された。前者は送水効率を35%から70%へ、後者は60%から80%へ引き上げることを目標に置く。

民間の投資対象になりうるのは、節水設備、計測機器、水路のライニング、そして水を多く使わない作物への転換である。カザフスタンは2026年の作付構成を、初めて実際の取水枠に合わせて承認した。水を多く使う稲の作付を2万200ヘクタール減らし、綿花では点滴灌漑の面積を2万9,800ヘクタール増やして従来方式を1万2,000ヘクタール減らしている。水の枠が作付を決めるという関係が、政策の文書に明示された例である。

数字を読むときは、単位と基準に注意が要る。立方キロメートルと立方メートルは10億倍の差があり、資料によって使い分けられる。流量の数値の多くは長期平均であって、渇水年と豊水年では大きく振れる。アムダリヤの年流量は確率5%の豊水年で109.9立方キロメートル、確率95%の渇水年で58.6立方キロメートルと、倍近い開きがある。シルダリヤも54.8立方キロメートルと26.5立方キロメートルの間で動く。

流域の土地と灌漑の面積についても、出所と時点を確かめる必要がある。ICWC科学情報センターが公開している流域の土地資源の数値は1990年代末に集計されたもので、その後の各国の統計とは前提が異なる。国別の灌漑面積は各国の一次資料で確認するほうが確実で、ウズベキスタンの430万ヘクタールは大統領令の本文に、カザフスタンの目標値は政令の本文に記されている。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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