GUIDE · インフラ・地理2026年8月時点

トクトグル水力発電所・貯水池とは

キルギス最大の発電所トクトグルについて、設備と貯水池の容量、冬の発電と下流の灌漑が競合する構造、近代化による出力増、2026年8月の4か国停電との関わりを整理する。

トクトグル水力発電所は、キルギス最大の発電所である。天山山脈に源を発するナルイン川に1962年から建設され、1975年に運転を始めた。設備出力は近代化を経て144万キロワットになり、同国の電力供給の中心にある。運営するのは国有の株式会社「電力ステーションズ」で、同社は水力7か所・合計315万5,600キロワットを保有するが、その4割強がこの1か所に集まっている。

ただし、この施設の重みは発電能力だけでは測れない。堤の上流に広がるトクトグル貯水池は総容量195億立方メートル、有効容量140億立方メートルを持ち、1年を超える期間にわたって水を貯めておける。夏に貯めた水を冬に落として発電するか、それとも夏のうちに放流して下流のウズベキスタンとカザフスタンの農地を潤すか。この二つは同じ水をめぐって競合する。中央アジアの水とエネルギーの配分をめぐる議論は、実務のうえではこの貯水池の運用をどう決めるかという問題に帰着する。

所在キルギス・ジャララバード州、ナルイン川。発電所はカラクル市にあり、貯水池はトクトグル郡に広がる
運営株式会社「電力ステーションズ」のトクトグル発電所群支店。同支店の従業員は1,166人
着工・運転開始1962年着工、1975年運転開始。1号機は1975年1月5日、2号機は1月6日、3号機は1977年2月、4号機は1977年3月に運転入り(エネルギー省)
設備出力近代化前120万キロワット、近代化後144万キロワット(エネルギー省、2025年11月)。運営会社の支店紹介は「総出力132万キロワット」と「設備出力144万キロワット」を併記している
平年の年間発電量55億〜60億キロワット時
累計発電量2,147億8,216万キロワット時(2024年9月30日時点)
堤高215メートル。耐震設計は9度、水車の設計落差は140メートル
貯水池の総容量195億立方メートル
有効容量140億立方メートル
系統接続50万ボルトの2回線

ナルイン川の階段の最上段

トクトグルは単独の発電所ではなく、ナルイン川下流の階段状に並ぶ発電所群の最上段である。すぐ下流にクルプサイ(80万キロワット、1981年運転開始、平年26億3,000万キロワット時)が続き、さらにタシュクムイル(45万キロワット)、シャマルディサイ(24万キロワット)、最下段のウチクルガン(18万キロワット)が並ぶ。

重要なのは、下流の発電所が自前の貯水能力をほとんど持たないことである。クルプサイの貯水池は総容量3億7,000万立方メートル、有効容量に至っては3,500万立方メートルしかない。トクトグルの195億立方メートルと比べると2桁以上小さい。つまり下流の4か所は、トクトグルが放流した水をそのまま通して発電しているにすぎない。トクトグルの放流量をいつ、どれだけにするかという判断が、そのまま発電所群全体の出力を決める。

発電所はカラクル市にあり、同支店は市の公共サービスの提供も担っている。従業員は1,166人である。運転開始からの累計発電量は2,147億8,216万キロワット時(2024年9月30日時点)に達している。

貯水池の数字をどう読むか

貯水量の数字を読むときは、二つの点に注意が要る。第一に、総容量195億立方メートルのうち発電に使えるのは有効容量140億立方メートルまでで、差し引き55億立方メートルは取水口より下にあって発電には回せない。「貯水量100億立方メートル」と報じられていても、そのうち使えるのはおよそ45億立方メートルである。冬の終わりに残量が60億立方メートル前後まで落ちるという話が出るのは、この55億立方メートルという底に近づくためである。

第二に、貯水量は季節で大きく動く。エネルギー省が公表した実績値を並べると振れ幅が分かる。2023年8月1日時点で109億6,000万立方メートル、2024年8月1日時点で118億9,100万立方メートル。2024年12月12日時点では122億3,400万立方メートルまで積み上がっていたが、同省は同じ発表で、冬の放流によって日々5,600万〜5,700万立方メートルずつ減っており、この調子で電力を使えば暖房期の終わりには60億立方メートル近くまで下がりうると述べていた。

2026年の状況についてはエネルギー相の発言がある。2026年7月8日に報じられたところでは、アルティンベク・ルィスベコフ・エネルギー相は貯水量を102億立方メートルとし、前年同期を7億〜7億5,000万立方メートル下回っていると述べたうえで、秋冬期に入る前に最低でも115億立方メートルを貯める必要があると説明した。氷河の融解が進んでいるため差は縮まりつつある、というのが当時の同相の見方である。

発表される数字がこれほど動く以上、時点を付さない貯水量の記述には意味がない。年をまたいで比べるときも、同じ日付どうしを突き合わせる必要がある。

冬の電力と下流の灌漑

キルギスの電源構成は水力に極端に偏っている。世界銀行の資料によれば、2021年時点で水力は設備容量の77%、発電量の85%を占め、国内生産に限ればおよそ88%が水力である。ところがナルイン川の流量は年間の7割超が夏の4〜5か月に集中し、逆に電力需要は冬が夏の2〜3倍になる。需要と供給の季節が正反対にずれている。

この差を埋める手段は、貯水池に夏の水を貯めておくことと、足りない分を輸入することの二つしかない。エネルギー省の集計では、2024年上半期の消費90億8,000万キロワット時のうち水力が62億キロワット時、熱電併給所が8億7,000万キロワット時、輸入が20億2,000万キロワット時だった。輸入の内訳はロシアとカザフスタンから9億980万キロワット時、トルクメニスタンから8億3,750万キロワット時、ウズベキスタンから2億7,530万キロワット時である。2023年には年間32億キロワット時の不足をカザフスタン、トルクメニスタン、ロシアからの輸入契約で埋める計画が立てられていた。

冬の需要は伸び続けている。2024年12月11〜12日には消費電力が361万2,000キロワット、1日あたり7,893万1,000キロワット時に達し、同国の記録を更新した。それまでの記録は2023年12月14日の340万1,000キロワット、7,337万キロワット時である。しかも2024年の記録は、気温が2023年のときより高い条件で出ている。

下流から見れば、この冬の放流は歓迎できない。冬に落とした水は灌漑期の前に流れ去ってしまうからである。ソ連期には、上流が夏に灌漑用の水を流し、その見返りに下流が冬に燃料と電力を送るという取り決めでこの矛盾を処理していた。独立後にその取り決めが崩れたことが、いまも続く水とエネルギーの交渉の出発点になっている。キルギスは2026年時点でもカザフスタン、ウズベキスタンと水利用の運用方式について調整を続けている。

120万キロワットから144万キロワットへ

2010年代後半から、この発電所では大がかりな改修が続いてきた。エネルギー省によれば、事業の目的は設備の寿命を延ばすこと、設備出力を120万キロワットから144万キロワットへ引き上げること、そして自動制御システムを導入することである。資金はアジア開発銀行(ADB)の1億1,000万ドルと、ユーラシア安定化開発基金(EFSD)の1億ドルで賄われている。

工事は段階に分かれている。第2段階の水門など水力機械設備の更新は中国のZMECと韓国のSMPの企業連合が、第3段階の水車発電機の全面取り替えはGEハイドロ・フランスとGEリニューアブルが、堤体の監視システムの設置はZPT・ZGC・SMPの企業連合が担当した。

水車発電機は4台とも1台あたり30万キロワットから36万キロワットへ増強され、合計で24万キロワットが上乗せされた。着手と完了の時期は号機ごとにずれており、4号機が2021年3月から2022年11月、2号機が2023年3月から同年11月、1号機が2024年3月から同年11月、3号機が2025年3月から同年11月である。最後の3号機は2025年11月18日に運転を再開し、これで4台すべての更新が終わった。

エネルギー省は2025年6月、この事業に続けてクルプサイ発電所(80万キロワット)の改修をADBに提案したと発表している。水車発電機4台を更新して出力を2割(16万キロワット)引き上げる構想である。

1か所の停止が4か国に及ぶ

2026年8月14日、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンの4か国に停電が広がった。カザフスタンの送電会社KEGOCは、トクトグルで合計60万キロワットの水車発電機2台が緊急停止したことで南北連系線に急激な電力変動が生じ、過負荷になった連系線が保護装置で遮断された、と説明した。キルギス側はこれを認めず、カザフスタン国内の南北を結ぶ高圧送電線で外部障害が起きたのが発端だと述べている。原因の帰属は決着していない。

説明が食い違ったまま残るのは、どちらの筋書きでも成立してしまうほど、この発電所が地域の系統のなかで大きいためである。エネルギー省の発表によれば、2024年12月の需要記録の日、トクトグルは最大126万キロワットで運転し、1日あたり2,752万8,000キロワット時を発電していた。このとき水車を通る流量は毎秒932立方メートルに達している。中央アジア統一電力系統(CAPS)につながる南部の系統にとって、この規模の電源が突然抜けることは無視できない事象になる。

水以外の選択肢を足す

冬の不足を貯水池だけで支える構造から抜け出すため、キルギスは水以外の電源を貯水池の周りに足そうとしている。2024年11月26日にはドイツで、内閣とSonnenergie、AB Progressio、LTI ReEnergy CleanTech Project Development、およびSES Toktogulの各社の間で、トクトグル貯水池の水面に浮体式太陽光発電所を建設・運営する投資協定が署名された。2段階で合計61万2,000キロワットを設置する計画で、工期は4年程度とされている。

貯水池の外でも同じ発想の事業が動いている。イシククル州で進むベトナム企業ROX Energy Globalの190万キロワット太陽光事業は、2026年6月15日に第1期(17万5,000キロワットピーク)が運転を始めた。エネルギー省は、この第1期の稼働だけでトクトグル貯水池の水が年間およそ3億6,200万立方メートル節約でき、事業が全体で完成すれば39億立方メートルに達すると説明している。太陽光で夏の需要をまかなえば、その分の水を冬まで残せるという理屈である。

もう一つの方向が、上流にもう一つ大きな貯水池を置くことである。ナルイン川上流で計画されているカンバラタ1水力発電所がそれにあたる。世界銀行の資料は、カンバラタ1の放流は下流のトクトグルで再調整されるため、トクトグルより下流の発電所や隣国への直接の影響は生じず、むしろトクトグルの運用に余裕を与えると説明している。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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