GUIDE · 制度・枠組み2026年9月時点

中央アジア・コーカサスにかかる制裁と輸出管理とは

EU・米国・英国の対ロシア制裁と輸出管理が、中央アジア・コーカサス8か国の貿易と決済をどう規律しているかを、規則の条文と当局の公表資料にもとづいて整理する。共通高優先度品目、再輸出を禁じる契約条項、二次制裁の仕組み、第三国の銀行への取引禁止、そして企業が実務で確認する点まで。

中央アジア・コーカサスの8か国は、いずれも欧米の対ロシア制裁に参加していない。それでも、この地域で事業を行う企業や銀行の実務は、EU・米国・英国の制裁と輸出管理によって強く規律されている。理由は単純で、制裁は「制裁を科した国の企業・銀行・技術に触れる取引」を対象にするからである。ロシアと国境や関税同盟を共有し、欧州や米国からも機械・電子部品を輸入する国では、この二つの流れが同じ会社の帳簿の上で交差する。

効き方は三つの層に分かれる。第一に、品目の層である。特定の物品はロシアへの輸出が禁じられ、第三国の相手に売る場合でも「ロシアへ再輸出しない」という条項を契約に入れることが売り手に義務づけられている。第二に、名指しの層である。個人・企業・船舶・銀行が資産凍結や取引禁止の対象として一覧に載る。第三に、金融機関の層である。米国は外国の金融機関がロシアの軍事産業基盤に関わる取引を扱った場合に、その金融機関自体を制裁しうる権限を持っている。

この三層のうち、域内の企業が日常的にぶつかるのは第一と第三である。第一の層は通関と契約書の文言に、第三の層は送金の可否と時間に表れる。名指しの層は、指定された相手と取引していなければ直接には当たらないが、取引先の株主構成をたどると当たっていた、という形で後から効くことがある。

以下では、規則の条文と当局の公表資料で確認できる範囲に絞って、何がいつ発効し、実務に何を要求しているかを整理する。制裁の是非や各国政府の姿勢の評価は扱わない。

EUの根拠法理事会規則(EU)833/2014と理事会決定2014/512/CFSP。2022年2月以降、繰り返し改正されている
最近のパッケージ第19次は2025年10月23日、第20次は2026年4月23日、第21次は2026年7月23日に加盟国が採択
共通高優先度品目(CHP)欧州委員会が米国・英国・日本の当局と協調して特定した50のHSコード。4つの階層に分かれる(2024年2月版)
CHPの内訳第1階層4(集積回路)、第2階層5(無線通信・受動部品)、第3階層A16・B9(個別半導体、接続部品、航法機器、軸受・光学部品)、第4階層A11・B5(電子部品の製造・検査装置、数値制御工作機械)
CHPの法的な位置EU規則833/2014の附属書XL。ロシアへの輸出禁止に加え、第三国からロシアへ再輸出しないことを契約で禁じる義務と、第12gb条の強化されたデューデリジェンス義務がかかる
パートナー国規則の附属書VIIIに掲げられた国。2022年7月21日時点で米国、日本、英国、韓国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、ノルウェー、スイス
迂回防止ツール第三国の輸出者による組織的な再輸出に対して品目の輸出を制限する仕組み。2026年4月23日の第20次パッケージで、工作機械と通信機器についてキルギスに対し初めて発動された
第三国の銀行への取引禁止第19次パッケージで中央アジアの5行、第20次でキルギス・ラオス・アゼルバイジャンの4行が対象に加わった
第21次パッケージの指定追加された51事業体のうち27が第三国。内訳は中国14(香港4を含む)、トルコ4、キルギス3、インド2、カザフスタン2、アラブ首長国連邦2
米国の二次制裁の根拠大統領令14114(2023年12月22日)。大統領令14024に第11節を加え、外国金融機関がロシアの軍事産業基盤に関わる重要な取引を行ったと判断された場合、米国内のコルレス口座の開設・維持の禁止、または資産の凍結を科しうるとした
米国による域内の指定の例キルギスのケレメト銀行(2025年1月15日)、暗号資産取引所ガランテックスの後継グリネックスとキルギスの関連企業(2025年8月14日)
米国の適用除外の例一般ライセンス124B(2025年11月14日発効)。カスピ海パイプライン・コンソーシアムテンギスシェブロイルカラチャガナクの各事業に関わる石油サービスと、ロスネフチ・ルクオイルが関与する取引を許可する。持分の売却・譲渡は許可しない
英国の注意喚起輸出者向けの迂回対策指針が、強化されたデューデリジェンスを推奨する13の法域を挙げる。域内からはアルメニア、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンが含まれる
域内の当局の対応の例ジョージア国立銀行は2026年8月9日、米財務省外国資産管理局(OFAC)が指定した事業体は同行に仮想資産サービス提供者として登録しておらず監督対象ではない、と表明した

三つの法域が別々に動く

まず押さえるべきは、EU、米国、英国が別々の法令と別々のリストを持っていることである。三者は協調しているが、対象の範囲も、適用除外(ライセンス)の出し方も、施行の日付も一致しない。ある取引がEUでは許されて米国では許されない、という組み合わせは日常的に起きる。

EUの中心はロシアに関する理事会規則(EU)833/2014と、その基礎になる理事会決定2014/512/CFSPである。2022年2月以降、加盟国が採択する「パッケージ」のたびに改正されてきた。近いところでは第19次が2025年10月23日、第20次が2026年4月23日、第21次が2026年7月23日である。パッケージは輸出入の禁止、金融取引の禁止、船舶や個人・企業の指定、サービス提供の禁止などを一度に束ねて改正するため、番号だけでは中身が分からない。

米国は大統領令を束にして運用する。ロシア関連の中核は大統領令14024(2021年4月15日)で、これに14066、14068、14071が積み重なり、2023年12月22日の大統領令14114が外国金融機関に対する権限を加えた。実務は財務省外国資産管理局(OFAC)が指定と一般ライセンスの発行によって動かしている。

英国は制裁・反マネーロンダリング法2018にもとづくロシア関連の規則群と、外務・英連邦・開発省が出す業種別の指針で構成される。金融面は財務省の金融制裁実施部(OFSI)が担う。

品目の層 — 共通高優先度品目と再輸出禁止条項

輸出管理でもっとも実務に効くのが、共通高優先度品目(CHP: Common High Priority items)の一覧である。欧州委員会の各部局が米国・英国・日本の当局と協調して、ウクライナの戦場で回収されたロシア製兵器に使われていた部品や、その製造・試験に不可欠な装置を選び出したもので、2024年2月版は50のHSコードを4つの階層に整理している。第1階層は集積回路の4コード、第2階層は無線通信・衛星航法・受動部品の5コード、第3階層Aは個別半導体・コネクタ・航法機器・デジタルカメラの16コード、第3階層Bは軸受や光学部品など機械・非電子部品の9コード、第4階層Aは電子部品の製造・品質検査装置の11コード、第4階層Bは金属加工用の数値制御工作機械と関連部品の5コードである。

この一覧はEU規則833/2014の附属書XLとして法令に組み込まれている。CHP品目には三つの義務がかかる。ロシアへ直接・間接に売却・供給・移転・輸出しないこと。第三国の取引相手に売る場合、その相手がロシアへ再輸出することと、ロシアで使うために再輸出することを契約で禁じること。そして、CHP品目に関係する知的財産権や営業秘密を、ロシアへの輸出やロシアでの使用のために使わせないことを契約で禁じることである。

2024年に加わった第12gb条は、CHP品目や附属書XLVIIIの物品を扱う事業者に強化されたデューデリジェンスを求める。域内向けの取引と、附属書VIIIのパートナー国向けの取引は対象外である。パートナー国は2022年7月21日時点で米国、日本、英国、韓国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、ノルウェー、スイスであり、中央アジア・コーカサスの8か国はいずれも含まれない。したがってEUの事業者が域内の顧客にCHP品目を売るときは、この強化された確認手続きの対象になる。

欧州委員会が示す確認の観点は具体的である。取引相手に事業の実績があるか。相手の所有構造が制裁の導入後に変わっていないか。最終需要者を特定できるか。仕向地や通過国がロシア・ベラルーシと隣接していないか、あるいは再輸出で知られていないか。輸送経路が不自然に複雑になっていないか。制裁の導入後に取引条件や決済方法が変わっていないか。注文の内容が相手の事業内容と釣り合っているか——たとえば小さなパン屋が高性能の計算機を注文する、電子産業のない国に半導体製造装置を送る、といった不整合である。

英国も同じ考え方の指針を出しており、輸出者に対して、CHP相当の物品を売るときに強化されたデューデリジェンスを行うべき法域として13を挙げている。域内からはアルメニア、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンが含まれる。指針は、この一覧が当該国の責任を意味するものではなく、貿易の流れとリスク要因から作られた注意喚起であると明記している。

迂回防止ツールと第三国の指定

EUは、第三国で組織的に再輸出が続く場合に、その国向けの輸出そのものを制限できる「迂回防止ツール」を規則に用意していた。2026年4月23日の第20次パッケージで、この道具が初めて発動された。対象はキルギスで、EUから輸入した特定の工作機械と特定の通信機器がロシアへ売却・供給・移転・輸出されるのを防げなかったことが理由とされている。欧州委員会の発表は、これらの品目がロシアでの無人機とミサイルの製造に使われていると述べている。

名指しの指定も回を追って増えている。第20次パッケージでは、中国、アラブ首長国連邦、ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシに拠点を置く供給者が、ロシアの軍事産業へ軍民両用品や兵器システムを供給したとして指定された。第21次パッケージでは、軍事産業の支援または制裁の迂回に関与したとして51の事業体が追加され、うち27が第三国に所在する。内訳は中国14(香港4を含む)、トルコ4、キルギス3、インド2、カザフスタン2、アラブ首長国連邦2である。

港湾や施設も対象になり始めた。第20次パッケージは、ロシアのムルマンスクとトゥアプセに加えて、第三国の港として初めてインドネシアのカリムン石油ターミナルを指定した。第21次パッケージでは、ロシアの港湾・空港に加え、ロシア産原油を処理する製油所へ禁止の範囲が広げられている。

金融の層 — 二次制裁とコルレス関係

2023年12月22日の大統領令14114は、大統領令14024に新しい第11節を加えた。財務長官は、外国金融機関がロシアの技術・防衛・建設・航空宇宙・製造の各部門で活動する指定対象のために重要な取引を行った場合、またはロシアの軍事産業基盤に関わる重要な取引やサービスを提供した場合に、その金融機関に対して、米国内のコルレス口座・決済口座の開設を禁じるか厳しい条件を課すか、あるいは米国内の資産を凍結することができる。取引の当事者が米国人でなくても、米ドル建てでなくても適用されうる点が、それまでの制裁との違いである。

この権限は域内で実際に使われている。米財務省は2025年1月15日、キルギスのケレメト銀行を指定した。発表によれば、同行の関係者が2024年夏以降、ロシアの当局者と、米国が指定済みのロシアの銀行との間で、越境送金を代わりに扱う枠組みを協議していた。2024年にキルギス財務省が同行の支配株式をロシアの実業家と強く結びついた企業へ売却したことにも言及している。指定の根拠は、大統領令14114で改正された大統領令14024である。

2025年8月14日には、暗号資産取引所ガランテックスの再指定に併せて、その後継とされるグリネックスと、ロシアおよびキルギスに所在する6社が指定された。EUも2025年10月23日の第19次パッケージで、ルーブル建てステーブルコインA7A5の開発者、そのキルギスの発行体、関連する取引所を指定し、この暗号資産の使用そのものを禁じている。同じパッケージで、ロシアの決済カードと即時決済の仕組みの利用が禁じられ、ロシアの金融メッセージ網に接続しているベラルーシとカザフスタンの4つの金融機関が名指しされた。

域内の銀行にとって、直接に指定されるかどうかより重い問題は、コルレス関係を維持できるかである。欧米の銀行はコルレス先の顧客審査を厳しくしており、決済が遅れる、送金が返される、口座の開設を断られる、といった形で現れる。制裁の一覧に載っていない銀行でも、取引の内容次第で同じ影響を受ける。

域内で実際に起きたこと

キルギスは、制裁リスクが指摘された法人の整理に自ら動いている。2026年8月、当局は欧米の制裁リスクを国内の銀行と経済にもたらしうるとして、審査した約40の組織のうち19社の強制清算に着手し、銀行はこれらの口座を閉鎖した。同様の措置は同年5月にも50社に対して行われている。同国は欧米の対ロシア制裁に正式には参加していないが、どの相手と取引でき、どの銀行で送金できるかは、事実上その制裁が決めている。

ジョージアでは、規制当局が自らの監督範囲を明示する形で反応した。国立銀行は2026年8月9日、OFACが指定した事業体は仮想資産サービス提供者としての登録を同行に申請しておらず、監督対象ではないと表明した。同時に、当該企業の登記は事業登記簿の上でも抹消されていること、仮想資産サービス提供者に関する同国の規制枠組みが金融活動作業部会(FATF)の基準に沿っていることを説明している。同行は2026年8月13日には、取引記録の不備や本人確認の不履行を理由に両替業者5社へ合計209万6,000ラリの制裁金を科した。

カザフスタンでは、資源開発の側で適用除外が効いている。米財務省の一般ライセンス124Bは、2025年11月14日から、カスピ海パイプライン・コンソーシアム、テンギスシェブロイル、カラチャガナクの各事業の運営に関わる石油サービスと、ロスネフチ・ルクオイルおよびその50%以上の子会社が関与する取引を許可している。ただし、これらの事業の持分を売却・処分・移転する取引は許可されていない。カラチャガナクでは、ルクオイル系の参加者の財務諸表に、2025年10月に英米がルクオイル本体を指定し、11月14日に一般ライセンスが出された経緯が注記されている。

アルメニアでは、鉄道の運営が投資判断に影響している。同国の鉄道はアルメニアの所有でありながらロシアの鉄道の管理下にあり、対ロシア制裁を踏まえて投資家や輸送業者、荷主がリスクと見なして避ける要因になっていると、政府の計画文書が記している。

企業が実務で確認すること

第一に、扱う品目がCHPの50コードに当たるかどうかである。HSコードの6桁まで下ろして確認し、当たる場合は、契約に再輸出禁止条項が入っているか、最終需要者の証明が取れているかを点検する。EU側の売り手が条項の挿入を求めてきたときに拒めば取引自体が成立しない。

第二に、取引相手と最終需要者の実在と経歴である。設立が2022年以降か、資本関係が制裁の導入後に変わっていないか、事業内容と注文の中身が釣り合っているか。これらは欧州委員会と英国の指針が明示的に挙げている確認項目である。

第三に、決済経路である。取引先の銀行が第三国の取引禁止の対象になっていないか、コルレス銀行が交代していないか、決済通貨の変更を求められていないか。銀行が急に送金を止める場合、理由が説明されないことが多い。

第四に、原産地と経由地の書類である。原産地証明、輸送書類、インボイスの記載が互いに整合しているかは、迂回の兆候として最初に見られる箇所である。書類の不整合は、意図がなくても違反の疑いを招く。

第五に、適用除外の有効期限である。米国の一般ライセンスは番号に版が付き(124、124A、124B のように)、前の版を置き換えて更新される。期限や条件が変わることを前提に、契約の期間と照らして確認する必要がある。

数字と用語の読み方

「制裁対象」という言葉は一つの意味を持たない。資産凍結(EUの listing、米国のSDN指定)と、取引禁止(EUの transaction ban)と、輸出制限の対象品目は別の制度であり、効果も異なる。ある企業が「制裁対象になった」と報じられたときは、どの制度でどの法域が何を禁じたのかを分けて読む必要がある。

パッケージの番号と発効日も一致しない。EUのパッケージは採択日に発表されるが、個々の措置には猶予期間が付くことがあり、契約の巻き戻し期間が別に設けられることもある。「第21次パッケージで禁止された」という記述だけでは、いつから適用されるかは分からない。

国名が一覧に載ることと、その国が制裁の対象になることも別である。英国の指針が挙げる13の法域は、強化された確認を推奨する対象であって、その国への輸出が禁じられているわけではない。指針自身がその旨を明記している。

域内各国の当局が「制裁」という語を使うとき、行政上の過料を指していることがある。ジョージア国立銀行が両替業者に科した209万6,000ラリは、国際的な制裁ではなく国内法上の制裁金である。文脈で区別する必要がある。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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