メツァモール原子力発電所は、アルメニアで唯一の原子力発電所である。首都エレバンの西、アルマヴィル地方の平野に立地し、正式にはアルメニア原子力発電所(ANPP)という。ソ連期に2基のVVER-440が建設されたが、1988年のスピタク地震の後に両機とも止まり、独立後の電力危機を受けて1995年に2号機だけが運転を再開した。以来、この1基が国内の電力の相当部分を担い続けている。
比率の数字には幅がある。国際原子力機関(IAEA)の発電炉情報システム(PRIS)では、2025年の原子力の発電シェアは31%、発電量は2,701ギガワット時である。IAEAの国別原子力発電プロフィール(CNPP)は「国内電力のおよそ3分の1」と記し、アルメニア政府が原子力安全条約に基づいて2025年8月に提出した国別報告書は「国内で消費される電力の平均45%」とする。基準が発電量か消費量か、対象年がいつかで数字は動くが、天然ガスをロシアからの輸入に頼る内陸国にとって、単一の発電所としての比重が突出している点は変わらない。
| 所在 | アルメニア西部アルマヴィル地方。発電所から半径5キロの予防措置区域にメツァモール市とマイシャン、アクナリチ、アルシャルイス、フェリク、ノル・エデシアの各集落が入る |
|---|---|
| 正式名 | アルメニア原子力発電所(ANPP)。立地する町の名からメツァモール原発とも呼ばれる |
| 炉型 | VVER-440のV-270型(加圧水型)。第1世代のV-230を基礎に、敷地の地震特性を考慮した設計 |
| 号機 | 2基。1号機は恒久停止、2号機のみ運転中 |
| 出力(2号機) | 熱出力137万5,000キロワット。電気出力は総44万8,000キロワット、正味41万6,000キロワット(設計時の正味は37万5,000キロワット。IAEA PRIS、2026年8月時点) |
| 運転開始 | 1号機1976年12月、2号機1980年1月(アルメニア政府の原子力安全条約国別報告書)。IAEA PRISの営業運転開始は1号機1977年10月6日、2号機1980年5月3日 |
| 停止と再稼働 | 1988年12月7日のスピタク地震の後、1号機は1989年2月25日、2号機は同年3月18日に停止。2号機は1995年11月5日に運転を再開 |
| 発電に占める比率 | 2025年の国内発電量の31%、発電量2,701ギガワット時(IAEA PRIS) |
| 運転認可 | 2011年にアルメニア原子力安全規制委員会(ANRA)が付与し、2021年に更新 |
| 運転期間 | 2036年までの安全運転を裏づける「運転期間延長2(LTE-2)」を実施中。2023年3月23日の政府決定N393で開始 |
| 運営と所有 | 運転はアルメニア原子力発電所CJSC、所有者は領土行政・インフラ省(IAEA PRIS) |
立地と炉型
発電所はアルメニア西部のアルマヴィル地方にある。半径5キロの予防措置区域にはメツァモール市のほか、マイシャン、アクナリチ、アルシャルイス、フェリク、ノル・エデシアの各集落が入る。欧州委員会の事業で整備された早期警戒放射線監視システムは、半径15キロ以内に32のガンマ線量率観測点と2台の現地スペクトロメータを置いている。
炉はVVER-440のV-270型で、2基とも熱出力は137万5,000キロワットである。アルメニア政府の報告書は、この設計が第1世代のV-230を基礎にしつつ敷地の地震特性を考慮したものだと説明している。各号機の設備容量は当初40万7,500キロワットだったが、2号機は改造を経て45万1,000キロワットになった。IAEA PRISの登録値では、2号機の正味電気出力は41万6,000キロワットで、設計時の正味37万5,000キロワットを上回る。設計寿命は30年である。
使用済み燃料は敷地内の乾式貯蔵施設に置かれる。米国原子力規制委員会の規則(10CFR Part 72)に沿って認可されたNUHOMS型の水平貯蔵モジュールで、2000年に運用を始めた第1期の11基と2008年からの12基は満杯、2016年からの12基のうち11基が埋まっている。政府の報告書は、12基の新しいモジュールを2026年に完成させる計画を記している。
1988年の地震と1995年の再稼働
1988年12月7日、敷地の北80キロを震源とするスピタク地震がアルメニアを襲った。政府の報告書によれば、発電所自体に損傷はなく両号機は運転を続けたが、ソ連閣僚会議が停止を決定し、1号機は1989年2月25日、2号機は同年3月18日に止まった。両機は長期停止の状態に置かれ、廃止措置には入らなかった。
独立後のアルメニアは深刻な電力不足に陥り、1993年4月7日、政府は2号機の再稼働を決めた。1994年10月5日の政府決定第474号が再稼働の構想と安全性向上措置の一覧を承認し、この一覧は以後も運転経験や新しいIAEA安全基準、専門家調査団の指摘を踏まえて改訂され続けている。2号機が系統に戻ったのは1995年11月5日である。1号機は恒久停止のままで、IAEA PRISには正味37万6,000キロワットの停止炉として登録されている。
再稼働後も安全性向上の工事は続く。2021年の定期検査では圧力容器の溶接部の焼鈍が行われ、中性子照射で脆化した金属の性質を回復させた。政府の報告書は、この処置を織り込んだ計算で、圧力容器の脆性破壊に関する基準が51回目の燃料交換にあたる2039年まで満たされると述べている。
2036年までの延長 — LTE-2
運転認可は2011年にアルメニア原子力安全規制委員会(ANRA)が与え、2021年に更新された。IAEAの国別原子力発電プロフィールによれば、2023年3月23日の政府決定N393が「2号機の運転期間延長プロセスの開始(延長期間2)」を定め、2026年以降の安全な運転が各種の検討で裏づけられれば、少なくとも2036年まで運転を続けるとされた。必要な追加投資は1億5,000万ドルと見込まれている。
実務は「運転期間延長2(LTE-2)」計画として動いている。2023年9月14日の政府決定N1597-Aが計画と実施日程を承認し、残存寿命が尽きかけた安全上重要な機器の交換、格納設備の気密性の改善、最大加速度0.42gを想定した耐震評価、火災防護、計装制御系の更新などが並ぶ。作業はアルメニアとロシアの合同調整委員会が管理し、2025年8月1日にモスクワで開かれた第3回会合には、アルメニア側から領土行政・インフラ副大臣アルメン・シモニャン、ロシア側からロスアトム副総裁ニコライ・スパスキーが出席した。実施主体にはロスアトム・サービスが入っている。
ANRAは2026年2月に公表した2025年のまとめで、4回の立入検査を行って20件の指示を出し、安全系統の改造18件と手順変更30件を審査したと説明している。同年には欧州委員会の原子力安全規制者グループ(ENSREG)の専門家団を受け入れ、福島第一原発の事故後に作られたストレステスト国家行動計画の73項目のうち54項目が完了と評価された。
EUが求める閉鎖 — CEPA第42条
EUは長年この発電所の閉鎖を求めてきた。2017年11月に署名され2021年3月1日に発効したEU・アルメニア包括的・拡大パートナーシップ協定(CEPA)は、第42条2項(g)で民生用原子力分野の協力を定め、その(ii)に「メツァモール原子力発電所の閉鎖と安全な廃止措置、およびそのためのロードマップまたは行動計画の早期採択」を掲げている。ただし同じ条文には、アルメニアのエネルギー安全保障と持続可能な発展の条件を確保するために新しい設備で置き換える必要を考慮する、という留保が付いている。
アルメニア側はこの義務を否定していない。パシニャン首相は2026年8月24日の国民議会での演説で、原発の閉鎖は法律上の義務として革命前の2017年に前政権が引き受けたものだと述べた。そのうえで、技術の進展によっては2036年以降にもう一度運転期間を延長できる可能性があり、想定される相手と相当前から協議していると付け加えた。閉鎖の約束と運転の継続は、置き換えの設備を用意できるかという一点で結び付いている。
EUは規制の側からも関与している。ANRAは2年間にわたり、EUの原子力安全協力の枠組み(INSC)のもとでスペインのIDOMが率いるコンソーシアムと作業し、2026年7月にこの事業を終えた。飲料水(2013/51/Euratom)、基本安全基準(2013/59/Euratom)、放射性廃棄物と使用済み燃料の輸送(2006/117/Euratom)の各指令と、西欧原子力規制者協会(WENRA)の安全参照レベルに国内法を近づけることが主題で、40件を超える法令の改正が提案された。
次の炉 — 小型モジュール炉(SMR)の検討
2036年で運転が終わるなら、その先の設備が要る。アルメニア政府の報告書は、電力需要の分析の結果、従来型の大出力の案件はアルメニアの要件に合わず、小型モジュール炉(SMR)を用いる原子力発電所のほうが適していると判断したと記す。2021年1月14日の政府決定48-Lで採択された2040年までのエネルギー部門開発戦略も、2号機の運転延長と新規ユニットの建設の両方を政府の意図として掲げている。
2023年、政府は領土行政・インフラ省、ANRA、アルメニア原子力発電所からなる省庁横断の作業部会を設けた。予備的な分析で、対象を軽水炉に限り、かつ2036年までに建設して運転できる既存の設計に限ると決めている。報告書が名前を挙げているのはNuScale、ホルテックSMR-300、ウェスチングハウスAP-300、BWRX-300、RITM-200、韓国のi-SMRなどである。IAEAの手引きに沿って約300問の質問票を作り、各設計者の回答を比べて選ぶ段取りで、この作業は米国務省が支援するFIRSTプログラムの枠内でも進められた。
推進の器も用意された。2024年8月1日の政府決定1198-Nが、新規原子力ユニットの建設計画を管理する閉鎖型株式会社の設立を定めている。2025年8月時点では人員を集める段階にあると報告書は記す。どの設計をどの相手と選ぶかは決まっておらず、パシニャン首相は2026年8月24日、今後1年のうちに誰とどんな原子力発電所を建てるかを最終的に決めなければならないと述べた。
投資の観点から読むときの勘所
第一に、ガスとの関係である。アルメニアは天然ガスをロシアからの輸入に依存し、火力発電の比重が高い。原発が止まれば、その穴を埋めるのは主にガス火力になる。原子力の維持は電源構成の問題であると同時に、供給元との交渉力の問題でもある。
第二に、電力輸出である。パシニャン首相は2026年8月24日、TRIPPの枠内で最初に稼働するインフラは送電線になる可能性が高いと述べた。技術的に短期間で仕上げやすいことと、世界的な電力需要の増加で域内からの電力輸出への関心が高まっていることを理由に挙げている。同じ演説で首相は、太陽光の設備容量が2018年の1万6,000キロワットから121万3,000キロワットへ増えたこと、2031年までに少なくとも80万キロワットの蓄電設備を置く計画があることに触れ、その規模を現行の原子力発電所の設備容量のおよそ2倍と表現した。ベースロードとしての原発と、変動する再生可能エネルギーおよび蓄電の組み合わせが、輸出の可否を左右する。
第三に、調達の機会である。LTE-2に要する追加投資1億5,000万ドルは機器の交換と安全性向上に向かい、実施の中心にはロスアトム系の企業が入っている。一方、次の炉の選定では米国、韓国、フランス、中国の設計が同じ土俵に乗っている。ロシアの技術で動く既存炉と、西側を含む複数の候補から選ぶ次の炉とが並走している点が、この国の原子力を読むときの要点になる。
参考資料
- IAEA PRIS — Armenia(原子力の発電シェアと炉ごとの諸元) ↗
- IAEA Country Nuclear Power Profiles — Armenia(2025年版) ↗
- 原子力安全条約 第10回検討会合向けアルメニア国別報告書(アルメニア政府、2025年8月) ↗
- ՀՀ միջուկային անվտանգության կարգավորման կոմիտեի 2025թ. կատարողականի մասին մամուլի հաղորդագրություն(ANRA、2026年2月6日) ↗
- EU・アルメニア包括的・拡大パートナーシップ協定(CEPA)第42条 — EUR-Lex ↗
- ՀՀ վարչապետ Նիկոլ Փաշինյանի ելույթը ԱԺ-ում Կառավարության 2026-2031 թթ. ծրագրի քննարկմանը(アルメニア首相府、2026年8月24日) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年8月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。