解説 · 2026年9月時点
SOCAR(State Oil Company of the Azerbaijan Republic)は、アゼルバイジャンの国営石油ガス会社である。1992年9月13日の大統領令により、独立直後に作られたアゼリネフト国家コンツェルンとアゼルネフトキミヤ生産合同を統合して発足した。国内の油田・ガス田の操業、国際コンソーシアムへの参加、パイプラインとターミナル、製油と石油化学、そして原油と製品のトレーディングまでを一つのグループで抱える。
この会社を理解するうえで欠かせないのが、国家石油基金(SOFAZ)との役割の違いである。生産分与契約に基づく政府取り分の売却収入を積み立てて運用するのがSOFAZで、事業そのものを営むのがSOCARである。同じ油田の収入でも、財政に回る部分はSOFAZの決算に、事業として稼ぐ部分はSOCARの決算に現れる。統治の面では、国有企業を監督する公法人アゼルバイジャン投資持株会社(AIH)の管理下に置かれているが、AIHは株式を保有しない設計になっている。
近年の特徴は、国外への投資が事業の重心を動かしていることである。トルコのSTAR製油所と石油化学のペトキムはグループの精製・石油化学部門の中核を担い、スイスに置く販売会社は連結売上高の6割近くを計上する。2026年には米国のシェールガス権益の取得にも動いた。
| 正式名 | State Oil Company of the Azerbaijan Republic(SOCAR) |
|---|---|
| 設立 | 1992年9月13日の大統領令。アゼリネフト国家コンツェルン(1991年12月3日設立)とアゼルネフトキミヤ生産合同を統合して発足 |
| 本社 | アゼルバイジャン・バクー |
| 所有・統治 | 全額国有。アゼルバイジャン投資持株会社(AIH)の管理下に置かれるが、AIHは株式そのものは保有しない。監査役会議長はミカイル・ジャッバロフ経済相、総裁はロヴシャン・ナジャフ(2026年9月時点) |
| 事業 | 探鉱・生産、パイプラインとターミナル、製油・石油化学、原油と製品のトレーディング、天然ガスの供給、給油所網 |
| 報告セグメント | 開発・生産、統合ガス、精製・石油化学、販売・トレーディング、サービスの5区分 |
| 売上高 | 863億900万マナト(2025年通期) |
| 売上総利益 | 126億700万マナト(2025年通期) |
| 営業利益 | 52億3,400万マナト(2025年通期、前年比80%増) |
| 純利益 | 29億4,900万マナト(2025年通期)。うち親会社株主帰属分11億マナト、非支配持分18億4,900万マナト |
| EBITDA | 109億マナト(2025年通期、26%増。同社開示) |
| 総資産 | 968億5,200万マナト(2025年末) |
| 自己資本 | 499億2,700万マナト(2025年末)。うち非支配持分158億3,000万マナト |
| 監査人 | アーンスト・アンド・ヤング・ホールディングス(CIS)B.V.。2025年12月31日現在の連結財務諸表に無限定意見 |
| 従業員 | 4万8,069人(2024年、年次報告書) |
| 自社操業分の生産 | 原油748万5,600トン、天然ガス77億1,810万立方メートル(2024年) |
| 主な国内権益 | アゼリ・チラグ・グナシリ(ACG)35.3%(2026年8月にITOCHUの3.65%を取得し31.65%から引き上げ) |
| 主な国外資産 | トルコのSTAR製油所60%、石油化学のペトキム、イズミルのSOCARターミナル、ジョージアの給油所網とガス配給網、ジュネーブに本部を置くSOCARトレーディング |
| 販売網 | SOCARブランドの給油所をアゼルバイジャン、ジョージア、ルーマニア、ウクライナ、スイス、トルコで運営(オーストリアではA1ブランド)。ガス配給の需要家はアゼルバイジャンで約260万件、ジョージアで85万1,000件超、トルコのカイセリガスで約70万件、ブルサガスで120万件超 |
| 国内の製油所 | ヘイダル・アリエフ製油所(バクー)。設計能力は年700万トン、2024年の処理量は580万3,400トン |
| 格付 | ムーディーズBaa3(2025年に初の投資適格を取得、その後据え置き)、フィッチBBB-・見通し安定的、S&P BB・見通しポジティブ |
| 国庫への支払い | 38億マナト(2025年。配当、国庫繰入、税、社会的支出の合計)。2021〜2025年の累計は159億マナト |
成り立ちと国の資源事業における位置
独立回復後の1991年12月3日、大統領令によりアゼリネフト国家コンツェルンが設立された。翌1992年9月13日、これとアゼルネフトキミヤ生産合同を基礎に、大統領令でSOCARが設立された。バクー油田は19世紀から続く世界最古級の産油地であり、同社はその設備と人員をそのまま引き継いでいる。
転機は1994年9月20日、7か国11社が参加してアゼリ・チラグ・グナシリ(ACG)の生産分与契約が署名されたことである。総額74億ドルのこの契約は「世紀の契約」と呼ばれ、同年12月12日に議会が批准した。以後、同社は自社操業の成熟油田を抱えつつ、外資が操業する大型事業に国を代表して参加するという二重の立場をとってきた。1999年12月29日には炭化水素収入を積み立てるSOFAZが設立され、財政と事業の役割分担が制度として固まった。
2020年に設立されたAIHの管理下企業7社のうち、規模で群を抜くのが同社である。AIHは株式を持たず経営の監督と統治改革だけを担うため、SOCARの株主は引き続き国家そのものである。
上流
上流は、自社で操業する陸上・海上の油ガス田と、国際コンソーシアムへの参加に分かれる。2024年に自社操業の油田(アズネフト生産合同と操業会社・合弁)が産出した原油は748万5,600トン、天然ガスは77億1,810万立方メートルだった。2025年1月1日時点の稼働井は7,610坑(うちガス井129坑)である。成熟油田が中心で、産出の52.4%はガスリフト、28.1%はポンプ、自噴は19.5%にとどまる。
一方、国際コンソーシアムが操業する大型鉱区の生産規模はこれを大きく上回る。2024年の産出は、ACGが原油1,682万400トンとガス134億910万立方メートル、シャフデニズが液分416万8,100トンとガス277億7,290万立方メートル、アブシェロンがコンデンセート57万2,200トンとガス15億2,790万立方メートルだった。これらは鉱区全体の数字であり、同社の取り分ではない。
ACGにおける同社の持分は上がり続けている。2026年8月、日本のITOCHUが保有していた3.65%を取得し、持分は31.65%から35.3%になった。ITOCHUは1996年にアゼルバイジャンへ投資した最初の日本企業で、同社は今回の売却が撤退ではないと説明している。ACGでは同年、随伴ガスではない非随伴ガスの生産が始まっており、油田としての性格が変わりつつある。
2025年には国外の上流にも手を伸ばした。国内ではバハルとグム・デニズ両鉱区の権益80%を取得し、国外ではイスラエル沖の地中海にあるタマル・ガス田の実質10%の権益を取得している。
中流・トレーディング・販売網
独立後に相次いで整備された輸送路の当事者でもある。原油ではバクー・ノヴォロシースク(1997年完成)、バクー・スプサ(西方輸出パイプライン、1998年完成)、そして世界市場へ直接出るバクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)がある。天然ガスでは南カフカス・パイプライン(SCP、2007年)、トルコ横断のTANAP、欧州へ渡るTAPが連なり、同社はこれらを合わせて全長3,500キロの南ガス回廊と呼んでいる。パイプラインそれ自体の構造と株主構成は別項に譲る。
ターミナルも自社で持つ。ジョージア黒海岸のクレビ・ターミナルは石油とガスおよびその製品の積み下ろし能力が年1,000万トン、バクー近郊のデュベンディ・ターミナルは面積106ヘクタールで年2,000万トンの受け入れ・搬出能力を持つ。トルコ・イズミルのアリアー地区にあるSOCARターミナルは、極東と北欧を結ぶ直接取引の拠点と位置づけられている。
BTCについては、同社が特別目的子会社AzBTCを通じてBTC Co.の32.97%を保有する最大株主であり、2026年7月1日からは完全子会社のSOCARミッドストリーム・オペレーションズが操業者を引き継いだ。それまでの操業者はBPの子会社だった。サンガチャル・ターミナルはこの移管の対象に含まれていない。
取引を担うのは2007年設立のSOCARトレーディングである。本部はスイスのジュネーブに置き、ドバイ、ヒューストン、ロンドン、シンガポールに駐在事務所を、イスタンブール、モナコ、モスクワに事務所を持つ。アゼルバイジャン産の輸出銘柄アゼリ・ライトの主たる供給者であると同時に、ナフサ、ガソリン、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、軽油、コンデンセート、超低硫黄軽油、そして第三者の原油も扱う。連結売上高の6割弱がスイスの販売主体に計上されるのはこの会社の取引によるものである。
小売と配給の網も広い。SOCARブランドの給油所はアゼルバイジャン、ジョージア、ルーマニア、ウクライナ、スイス、トルコで営業し、オーストリアではA1ブランドを使う。トルコではSOCARダウトゥムが航空燃料(SOCARアビエーション)と船舶燃料(SOCARマリン)を供給する。天然ガスの配給では、アゼルバイジャン国内のアゼリガス生産合同が約260万件、ジョージアのソカール・ジョージア・ガスが85万1,000件超、トルコのカイセリガスが約70万件、ブルサガスが120万件超の需要家を抱える。
精製と石油化学
国内の製油はバクーのヘイダル・アリエフ製油所(HAOR)が担う。前身は1953年7月29日にソ連石油工業省の命令で設立された新バクー製油所で、1976年に最初の常圧蒸留装置が動いた。設計能力は年700万トンで、2024年の処理量は580万3,400トンだった。連続触媒再生式改質装置(年100万トン)、ディレードコーカー(年130万トン)、流動接触分解装置(年200万トン)などを備え、近代化事業として2023年初に水素製造装置、同年5月に年300万トンの軽油水素化脱硫装置が稼働してユーロ5相当の軽油の生産が始まっている。石油化学ではアゼルキミヤ生産合同、SOCARポリマー(ポリプロピレンと高密度ポリエチレン)、カルバミド工場、メタノール工場が国内にある。
グループの精製・石油化学の規模を決めているのはトルコである。イズミル県アリアー地区のSTAR製油所は、2011年10月25日に起工し、2018年10月19日に両国大統領の出席で開所した。株主はSOCARが60%、アゼルバイジャン経済省が40%である。総事業費67億ドルのうち33億ドルは、2014年6月に商業銀行と輸出信用機関を含む23の金融機関と結んだ融資契約でまかなわれた。設計・調達・建設はテクニカス・レウニダス(スペイン)、サイペム(イタリア)、GSエンジニアリング(韓国)、ITOCHU(日本)が担った。
STAR製油所の処理能力について、同社の公式サイトは英語版で年1,100万トン、アゼルバイジャン語版で年1,300万トンと異なる数字を載せている(2026年9月時点)。どちらの版も、この製油所がトルコの石油製品需要の約20%を満たすとしている点は共通する。数字を引くときは、どの言語版のどの時点の記載かを添えておく必要がある。
ペトキムは1965年4月3日にトルコ石油公社(TPAO)の下で設立された石油化学大手で、1985年からイズミルのアリアーで操業している。2008年5月30日、SOCARとトルカス・エネルジがその51%を20億4,000万ドルで取得した。隣接するSTAR製油所からナフサの供給を受ける一体運営がとられており、ペトキムはトルコ国内の石油化学品需要の10%を満たすと同社は説明する。従業員は2,300人超、請負業者を含めると5,000人を超える。
売上の構造と数字の読み方
2025年の連結売上高863億900万マナトのうち、外部顧客向けの内訳は、販売・トレーディングが495億9,700万マナト、精製・石油化学が223億8,500万マナト、統合ガスが79億500万マナト、開発・生産が54億4,800万マナト、サービスが5億3,300万マナトである。つまり売上の6割弱は自ら掘った資源ではなく、取引によって生まれている。
地域別の売上は「販売主体の設立国」で分類される。2025年はスイスが505億8,200万マナト、トルコが165億1,000万マナト(前年の96億5,000万マナトから71.1%増)、アゼルバイジャンが136億8,200万マナト、ジョージアが16億6,400万マナト、アラブ首長国連邦が10億1,400万マナトだった。スイスの505億マナトはスイス市場での販売額ではなく、同国に置く販売会社が計上した取引額である。この点を取り違えると、同社の事業がスイスに集中しているように読めてしまう。
利益の帰属も注意が要る。2025年の純利益29億4,900万マナトのうち、親会社株主に帰属するのは11億マナトで、残る18億4,900万マナトは非支配持分に帰属する。2024年に共通支配下の企業を取得した際、非支配持分が129億9,500万マナト増えたためで、2025年末の自己資本499億2,700万マナトのうち158億3,000万マナトが非支配持分である。「SOCARの利益」として引用される数字が、グループ全体のものか親会社株主分かで、2倍以上の開きが生じる。
セグメント別の税引後損益も一様ではない。2025年は統合ガスが29億4,800万マナト、開発・生産が13億3,600万マナトの黒字だった一方、精製・石油化学は4億7,700万マナト、販売・トレーディングは1億3,900万マナトの赤字である。売上の大きい部門が利益の大きい部門とは限らない。
四半期の操業発表にも、会社の数字と国全体の数字が混在する。2026年第2四半期の発表では、自社が操業するか主要株主である鉱区の産出として原油170万トンとガス18億立方メートルを挙げる一方、同じ文中で国全体の原油生産660万トン超、ガス生産128億立方メートルを併記している。輸出の330万トン超には、同社が生産した分に加えて、国際コンソーシアムの産出のうち国家と同社に帰属する利益原油が含まれる。
財務と格付
2025年通期は、売上高863億900万マナト(前年は846億8,900万マナト)に対し、売上原価が737億200万マナトへ減ったため、売上総利益は126億700万マナトと前年の73億9,300万マナトから大きく改善した。営業利益は52億3,400万マナトで80%増、EBITDAは109億マナトで26%増である。営業活動によるキャッシュフローは136%増えた。純利益は29億4,900万マナトで前年並みだが、これは金融費用が26億8,200万マナトへ増えたことと、合弁・関連会社からの持分利益が前年の14億700万マナトから2億5,100万マナトへ縮んだことによる。
国庫への支払いは2025年に38億マナト(配当、国庫繰入、税、社会的支出の合計)で、2021〜2025年の累計は159億マナトにのぼる。同じ期間に国が同社へ払い込んだ資本は16億マナトである。同社は国内最大の納税者であり最大の雇用主でもあると説明している。
格付は、ムーディーズが2025年に同社として初めて投資適格のBaa3を付与し、その後据え置いた。フィッチはBBB-・見通し安定的、S&PはBB・見通しポジティブである。3社の評価が1段階から2段階ずれているため、「投資適格かどうか」はどの機関の格付を見るかで答えが変わる。
米国ヘインズビルへの展開
2026年9月1日、同社と米国の天然ガス生産会社コムストック・リソーシズが、戦略的パートナーシップの設立に向けた意向書に署名したと双方が発表した。対象はルイジアナ州北部から東テキサスに広がるヘインズビル・シェールの上流資産と、それに付随する中流会社の権益である。取得するのは、コムストックがレガシー・ヘインズビル上流資産に持つ権益の20%、ウェスタン・ヘインズビル上流資産に持つ権益の15%、そして中流会社ピナクル・ガス・サービシズにコムストックが持つ73%の持分のうちの15%で、取引総額は16億5,000万ドルである。
ウェスタン・ヘインズビルの15%は、当該資産への投資について15%の収益率が達成された時点で7.5%へ下がる。この逓減条件について、コムストックが米証券取引委員会へ提出した資料は「5年経過後、かつ15%の収益率を達成したとき」としており、SOCARの発表には5年という時間の条件が書かれていない。両社は2026年10月31日までに最終的な売買契約を結び、12月31日までに完了させることを目標としているが、これは確定した売買契約ではなく意向書の段階である。
同じ2026年9月1日、同社は中国海洋石油(CNOOC)とも覚書を結んだ。アゼルバイジャン国内と第三国での共同の上流事業、技術サービス、機器・技術の供給、エンジニアリングなどが対象とされている。国外の上流と下流に資金を置く動きが、産油国の国営企業としての性格をどこまで変えるかが、当面の焦点になる。
参考資料
- SOCAR(公式サイト) ↗
- Consolidated financial statements prepared under IFRS, 31 December 2025 — SOCAR(PDF) ↗
- SOCAR's revenues amounted to AZN 86.3 billion in 2025 — SOCAR ↗
- SOCAR Reports Drilling, Production, Processing and Export Results for the Second Quarter of 2026 — SOCAR(2026年7月27日) ↗
- SOCAR acquires ITOCHU's participating interest in the Azeri-Chirag-Guneshli project — SOCAR ↗
- SOCAR and Comstock Resources sign Letter of Intent for Strategic Partnership — SOCAR(2026年9月1日) ↗
- Moody's reaffirms SOCAR's Baa3 investment grade credit rating — SOCAR ↗
- STAR Oil Refinery — SOCAR(公式。株主構成と沿革、英語版の処理能力) ↗
- STAR Neft Emalı Zavodu — SOCAR(公式・アゼルバイジャン語版。処理能力の記載が英語版と異なる) ↗
- Petkim — SOCAR(公式) ↗
- Heydar Aliyev Oil Refinery — SOCAR(公式。設計能力と装置構成) ↗
- Oil history of Azerbaijan — SOCAR(公式。1992年の設立と世紀の契約) ↗
- Midstream — SOCAR(公式。パイプラインとターミナルの能力) ↗
- Marketing and sales — SOCAR(公式。SOCARトレーディングの拠点、給油所とガス配給の需要家数) ↗
- SOCAR Annual Report 2024(PDF。生産実績、井戸数、従業員数) ↗
- SOCAR acquires ITOCHU's participating interest in the Azeri-Chirag-Guneshli project — APA(2026年8月3日。発表日) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。誤りに気づいた方はお問い合わせください。