アゼルバイジャン国営石油会社SOCARと、米国の天然ガス生産会社コムストック・リソーシズが9月1日、戦略的パートナーシップの設立に向けた意向書に署名したと、それぞれ発表した。対象はルイジアナ州北部と東テキサスに広がるヘインズビル・シェールの上流資産と、そこに付随する中流会社の権益である。取得対価はコムストックの発表によれば現金16億5,000万ドルで、通常の取得価格調整を経て確定するとされている。SOCARは取引の総額としか書いていない。
先に確認しておくべきなのは、これが確定した売買契約ではないことである。コムストックが米証券取引委員会に提出した8-Kは、意向書が両当事者を拘束するのは最終的な売買契約を誠実に交渉する義務までだと書いている。提出の区分も手がかりになる。この8-Kは第7.01項(レギュレーションFDに基づく開示)で出されており、重要な確定契約の締結を届け出る第1.01項ではない。任意の開示であって、契約成立の届出ではない。
SOCARが取得の対象とするのは3つである。コムストックがレガシー・ヘインズビル上流資産に持つ権益の20%、ウェスタン・ヘインズビル上流資産に持つ権益の15%、そしてピナクル・ガス・サービシズにコムストックが持つ73%の持分のうちの15%。ピナクルはウェスタン・ヘインズビルに中流サービスを提供する会社である。73%の15%は同社全体では10.95%にあたるが、この数字は両社の発表には無く、本サイトの算出である。ウェスタン・ヘインズビルの15%は、条件を満たした時点で7.5%へ下がる。
その条件をはじめとして、両社の説明は複数の点で食い違う。
| 論点 | SOCARの発表 | コムストックのSEC提出 |
|---|---|---|
| 15%が7.5%へ下がる条件 | 関連する条件に従って、当該資産への投資について15%の収益率が達成されたとき | 5年経過後、かつSOCARが当該資産への投資について15%の収益率を達成したとき |
| 取得する権益の性質 | 権益とのみ記載 | 非操業の作業権益と明記 |
| 期限の性質 | 10月31日までの最終契約の締結と12月31日までの完了を目標 | 同じ目標に、いずれも交渉の進捗次第と付す |
| 取得の主体 | SOCAR | SOCARまたはその完全子会社 |
| 取引の効力発生日 | 記載なし | 2026年7月1日 |
| 資金手当て | 英語版はすでに確保済み、アゼルバイジャン語版は計画されている | 記載なし |
逓減の条件は、SOCARが取り分を長く保てるかどうかを左右する。SOCARの発表は英語版でもアゼルバイジャン語版でも、7.5%への引き下げの条件を、関連する条件に従って当該資産への投資について15%の収益率が達成されたとき、としている。他に条件があることは含みに置くが、5年という時間の条件には触れていない。コムストックの8-Kと添付の報道発表は、同じ引き下げを、5年経過後かつSOCARが15%の収益率を達成したときとしている。5年という時間の条件が入るかどうかで、SOCARが15%を持ち続ける期間の下限が変わる。どちらの文言が最終契約に入るかは、公表された文書からは分からない。
資金手当ての説明は、SOCAR自身の言語版のあいだで割れている。英語版は、取得の資金に必要な手当てはSOCARによってすでに確保されていると書く。アゼルバイジャン語版の同じ位置には、取引の資金調達のための相応の措置はSOCARによって計画されているとある。確保済みと計画中では意味が違う。コムストック側の文書はSOCARの資金調達に触れていない。
コムストックが自社の投資家に向けて示した効果は具体的である。取引後の想定で、同社の純有利子負債は2026年6月30日時点の31億ドルから15億ドルへ減る。ウェスタン・ヘインズビルの54万5,000ネットエーカーの開発を、財務の余力を回復したうえで進められるという説明である。コムストックは上流資産すべての操業者にとどまり、ピナクル・ガス・サービシズの運営と統制も続ける。SOCARが取るのは非操業の側である。
SOCARの発表に無く、コムストックの発表にあるものがもう1つある。同じ9月1日、コムストックは過半数株主のジェリー・ジョーンズ氏とヘインズビル・シェールの掘削ジョイントベンチャーを組んだと発表した。9月1日から12か月のあいだにコムストックが掘削・仕上げするウェスタン・ヘインズビルの18坑の85%分と、レガシー・ヘインズビルの9坑の80%分について、ジョーンズ家が保有するパートナーシップが掘削・仕上げの費用を負担する。金額はおよそ4億5,000万ドルと見込まれている。15%の収益率が達成された後は、坑井の権益の50%がコムストックへ戻る。16億5,000万ドルの案件だけを取り出すと、9月1日の発表の全体像は見えない。
SOCARにとっての意味は、資金を置く場所が変わることにある。本拠のアゼルバイジャンでは、原油と天然ガスの生産額が2026年1〜7月に1.5%減る一方、石油ガス部門への投資は33.6%増えている。成熟した油田を維持するための支出が膨らむ国の企業が、米国の未開発のガス資源へ非操業の立場で資金を入れる形になる。コムストックの発表は、ウェスタン・ヘインズビルをメキシコ湾岸のLNG・発電・データセンターの需要に向けた米国最大級の未開発天然ガス資源の1つと位置づけ、SOCARについては大きな投資適格のバランスシートと世界規模のLNG販売事業を持ち込む相手だと書いている。両社が挙げた協業の中身にも、コムストックの天然ガスを国際市場へ出す道を広げるという項目が入っている。
助言役も公表されている。コムストック側はウェルズ・ファーゴが財務、オメルベニー・アンド・マイヤーズが法務にあたり、SOCAR側はJPモルガン・セキュリティーズが財務、ベイカー・ボッツが法務にあたる。
最終的な売買契約の締結は10月31日まで、取引の完了は12月31日までが目標とされている。ただしコムストックは、その目標がいずれも交渉の進捗次第だと書き添えたうえで、最終契約が締結されない可能性、必要な承認が得られないか遅れる可能性、記載された条件どおりに、あるいはまったく取引が完了しない可能性を、将来見通しに関する注記に並べている。
