GUIDE · 経済・金融2026年9月時点

中央アジア・コーカサスのデジタル決済とは

カード決済、口座間の即時送金、QRコードによる受付という三つの層に分けて、域内のデジタル決済を整理する。カザフスタン国立銀行が公表する取引統計、2026年に始まった銀行間の統一QR、手数料と相互接続の規制、アゼルバイジャンの即時決済システム、ジョージアのEU法への接近を、中央銀行の公表資料にもとづいて示す。

デジタル決済とひとくちに言っても、中身は三つの層に分かれる。第一が決済カードのネットワークで、国際ブランドと国内システムが並び、店舗の端末や電子商取引の画面で使われる。第二が銀行の口座から口座へ資金を動かす仕組みで、大口を扱う即時グロス決済システムと、小口をまとめて相殺するクリアリングシステム、そして近年これに加わった24時間動く即時送金システムがある。第三が、その上に乗る受付の手段で、QRコード、電話番号、電子メールといった簡易な識別子がここに入る。制度の議論はたいてい第二と第三の層で起きる。

域内で統計が最も細かいのはカザフスタンである。国立銀行が月次で、流通するカードの枚数、取引の件数と金額、手段別の内訳、地域別の内訳までを公表している。2026年7月の1か月間にカザフスタンの発行体のカードで行われた取引は19兆9,000億テンゲ・13億件で、このうち非現金が17兆6,000億テンゲである。人口約2,000万人の国で、月に13億件の取引が起きている計算になる。

2020年代の域内に共通する動きは、中央銀行が自ら小口の決済インフラを持ち、そこへ銀行を接続させることである。アゼルバイジャン中央銀行は2018年からの国家プログラムのもとで即時決済システムを構築し、統一の国内QR規格をその上に乗せた。カザフスタン国立銀行は2026年7月に銀行間モバイル決済システムの統一QRを立ち上げ、どの銀行の端末でも他行のQR決済を受け付けられるようにした。共通の狙いは、銀行ごとに分断された受付の仕組みを一本化し、加盟店が端末を何台も置かなくて済むようにすることにある。

この分野は制度の変更が速い。以下では、インフラの層、公表されている取引の規模、相互接続と手数料の規制、そして数字を読むときの注意点を、中央銀行の公表資料で確認できる範囲に絞って整理する。

カザフスタンの流通カード枚数(2026年8月1日時点)8,398万枚。発行は18行とカズポスト。デビット81.6%、クレジット15.5%、与信枠付きデビットとプリペイド2.8%
同・システム別の内訳(同時点)国内システム2,835万6,300枚、国際システム5,562万3,500枚。国際の内訳はVisa 4,068万500枚、Mastercard 1,405万4,100枚、UnionPay 74万8,100枚
同・実際に使われたカード(同時点)4,058万3,200枚。流通枚数のおよそ48%
カザフスタンのカード取引(2026年7月)19兆9,000億テンゲ・13億件。うち非現金は17兆6,000億テンゲ(前年同月比8.4%増)・13億件(同7.5%増)
同・現金の引き出し(2026年7月)1,890万件・2兆3,000億テンゲ。件数は前年同月比6.2%減、金額は6.3%減
同・非現金取引の手段別(2026年1〜7月、国内)合計82億4,711万件・108兆6,185億テンゲ。インターネットと携帯電話40億9,477万件・85兆8,339億テンゲ、QRコード23億4,215万件・11兆8,086億テンゲ、POS端末17億8,468万件・10兆8,598億テンゲ
同・現金の引き出し(2026年1〜7月)1億2,879万件・14兆8,588億テンゲ。うち現金自動預払機が件数の98.3%、金額の88.5%
カザフスタンの決済システム銀行間送金システム(2000年末に稼働した即時グロス決済システム)と銀行間クリアリングシステム(小口、1件あたり500万テンゲの上限、当日分の相殺は15時から16時)。運営は国立銀行の子会社である国家決済公社
銀行間モバイル決済システム国立銀行の決済システム。電話番号とQRコードという簡易な識別子で、銀行をまたぐ送金と決済を即時に行う。運営規則の案は2026年2月4日に公表された
統一QRの開始2026年7月19日。加盟店は手持ちの端末で他行のQR決済を受け付けられる。国立銀行によれば7月17日以降に約100万件を処理した(2026年7月23日時点)
統一QRの手数料買い手は無料。加盟店の手数料は、同じ取引をカードで受けた場合の手数料を超えてはならないと法令で定められている。銀行が異なる場合、1%が買い手側の銀行へ渡る
国家決済公社が銀行から取る料金電話番号による送金は0テンゲ、統一QRによる決済は0.05%
カードのインターチェンジ手数料(カザフスタン)国立銀行が国際ブランドおよび銀行と2年かけて半減させた。マス区分は1.8〜2.0%から1.0%、プレミアムは2.4%から1.2%、スーパープレミアムは2.45%から1.4%
アゼルバイジャンの即時決済システム中央銀行が、2018年9月26日の大統領令で承認された国家プログラム「2018〜2020年のデジタル決済の拡大」のもとで構築。24時間365日稼働し、支払人と受取人の双方への通知を含めて10秒で完了する
同・条件取引はマナト建て。1件あたり4万マナトの上限。決済は即時グロス決済システム上の当座勘定にあらかじめ設定した流動性枠の範囲で行われる
同・識別子と接続先携帯電話番号、電子メール、身分証明書のFINコード、納税者番号。利用は銀行の電子チャネルまたはAniPayアプリ。政府決済ポータルが接続され1,000を超える役務の支払いに使える。統一の国内QR規格AZQRが同システム上で動く
ジョージアの法制決済システムおよび決済サービス法。EUとの連合協定にもとづき、EUの決済サービス指令(PSD2)への動的な接近を約束している
ジョージアのオープンバンキング国立銀行総裁令第80/04号「オープンバンキングへの参加に関する規則の承認について」。必須のAPI役務は口座情報の共有と支払いの開始。枠組みの第1版は2020年9月に作られた
ジョージアの重要決済システム2023年11月3日の国立銀行総裁令第298/04号による指定。システム上重要なのは国立銀行が運営する即時グロス決済システム。著しく重要なのはジョージア・カード、ユナイテッド・ファイナンシャル・コーポレーション、TBC銀行とジョージア銀行の閉域決済システム、リバティ銀行のカード決済システム
アルメニアの電子マネー規制中銀理事会決定第177-N号(2026年6月30日)で、電子マネーの記帳口座の開設に銀行口座または決済カードの保有を求める要件を撤廃し、現金でのチャージと払戻しを認めた
ウズベキスタンの法制決済および決済システムに関する法律(2019年11月1日 第ZRU-578号)。銀行間決済システムは中央銀行の決済センターと情報化総センターが運営し、電子決済文書の受付は9時から17時。中央銀行は即時決済システムも運営する

三つの層 — カード、口座間の送金、受付の手段

決済の仕組みを読むときは、層を分けると混乱しない。

第一の層はカードのネットワークである。カードは発行体(買い手の銀行)と加盟店契約会社(店側の銀行)を、国際ブランドまたは国内のカードシステムがつなぐ。域内では国内システムの比重が大きい国が多く、カザフスタンでは2026年8月1日時点の流通枚数8,398万枚のうち2,835万6,300枚が国内システムのカードである。ウズベキスタンでは銀行カードにもとづく銀行間の小口決済システムが中央銀行の枠組みの一部として位置づけられている。

第二の層は銀行の口座から口座へ資金を動かす仕組みである。カザフスタンは2000年末から即時グロス決済システムを持ち、大口と優先度の高い支払いを1件ずつ処理する。小口はクリアリングシステムが受け持ち、1件あたり500万テンゲの上限を置いたうえで当日分を15時から16時に相殺し、最終的な資金の移動は即時グロス決済システムで行う。アゼルバイジャンも同じ二層の構造を持ち、そこに24時間動く即時決済システムが加わった。

第三の層は、支払いを受け付ける手段である。カードの物理的な提示、非接触、電子商取引の画面入力に加えて、QRコード、電話番号、電子メール、納税者番号といった簡易な識別子が使われる。この層は第二の層に乗るので、識別子を統一しても、その裏で資金を動かす仕組みが銀行ごとに分かれていれば相互接続にはならない。中央銀行が第二の層のインフラを自ら持つのは、この理由による。

カザフスタン — 数字で見る現状

カザフスタン国立銀行の月次統計は、この分野で域内最も細かい。2026年8月1日時点で、カードを発行しているのは18行とカズポストである。流通枚数は8,398万枚で、デビットが81.6%、クレジットが15.5%、与信枠付きデビットとプリペイドが2.8%を占める。ただし実際に使われたカードは4,058万3,200枚で、流通枚数のおよそ48%にとどまる。1人が複数のカードを持ち、その一部が休眠している状態を示す。

2026年7月の1か月間の取引は19兆9,000億テンゲ・13億件だった。このうち非現金が17兆6,000億テンゲ・13億件で、前年同月比では金額が8.4%、件数が7.5%増えている。現金の引き出しは1,890万件・2兆3,000億テンゲで、件数も金額も前年同月から6%あまり減った。件数の桁が非現金と現金で2桁違うことに注意したい。

手段別の内訳は2026年1〜7月の累計で公表されている。国内での非現金取引は合計82億4,711万件・108兆6,185億テンゲである。内訳はインターネットと携帯電話が40億9,477万件・85兆8,339億テンゲ、QRコードが23億4,215万件・11兆8,086億テンゲ、POS端末が17億8,468万件・10兆8,598億テンゲ、現金自動預払機が37万件・347億テンゲ、その他の機器が2,513万件・815億テンゲとなる。

この内訳から二つのことが読める。第一に、件数ではQRコードがPOS端末を上回っている(28.4%対21.6%)。実店舗の支払いは、端末にカードをかざす方式からアプリでQRを読む方式へ移りつつある。第二に、金額では両者がほぼ並び(10.9%対10.0%)、インターネットと携帯電話が79.0%を占める。QRとPOSは1件あたりの金額が小さく(QRは約5,000テンゲ、POSは約6,100テンゲ)、大きな金額は銀行アプリからの送金・振替が担っている。

地域別の統計も公表されており、2026年1〜7月の非現金取引82億2,404万件・108兆958億テンゲが州・市ごとに割り振られている。国全体の数字と手段別の数字は、集計の対象が国内取引に限られるか国外での利用を含むかで小さく食い違うので、比べるときは表の見出しを確かめる必要がある。

相互接続 — 統一QRと即時送金

QRコードによる支払いが増えると、次に相互接続の問題が現れる。銀行がそれぞれ自前のQRを持つと、加盟店は取引したい銀行の数だけ受付の仕組みを用意しなければならない。この問題を解いたのが、中央銀行が運営する共通の仕組みである。

アゼルバイジャンは先行した。中央銀行は2018年9月26日の大統領令で承認された国家プログラムのもとで即時決済システムを構築し、その上に統一の国内QR規格AZQRを乗せた。システムはマナト建てで24時間365日動き、支払人と受取人の双方への通知を含めて10秒で完了する。1件あたりの上限は4万マナトである。決済は即時グロス決済システム上の当座勘定にあらかじめ設定した流動性枠の範囲で行われ、枠の8割を超えると銀行の管理者へ通知が飛ぶ仕組みになっている。識別子は携帯電話番号、電子メール、身分証明書のFINコード、納税者番号で、政府決済ポータルが接続されているため1,000を超える公共の役務もこの経路で払える。

カザフスタンは2026年に追いついた。国立銀行の銀行間モバイル決済システムは、電話番号とQRコードという簡易な識別子で銀行をまたぐ送金と決済を即時に行う仕組みで、運営規則の案が2026年2月4日に公表された。統一QRによる決済は2026年7月19日に始まり、加盟店は手持ちの端末で他行のQR決済を受け付けられるようになった。国立銀行は2026年7月23日の説明で、7月17日以降に約100万件を処理したとしている。運営は国立銀行の子会社である国家決済公社が担う。

ジョージアは別の道を選んでいる。EUとの連合協定にもとづきEUの決済サービス指令への接近を約束しており、国立銀行はオープンバンキングの枠組みを整えた。総裁令第80/04号が参加の手続きを定め、必須のAPI役務として口座情報の共有と支払いの開始を置く。銀行以外の事業者が、利用者の同意のもとで銀行口座の情報を読み、支払いを起こせるようにする設計で、共通のQRを国が作るのではなく、接続の規格を公開して参入者に任せる方向である。

手数料はどう決まっているか

カード決済の費用は、加盟店が店側の銀行に払う手数料として現れる。その内訳の中心にあるのが、店側の銀行が買い手側の銀行へ払うインターチェンジ手数料である。買い手側の銀行はこの収入の一部を還元やポイントの原資に充てるため、インターチェンジの水準は消費者向けの特典の厚さと直結する。

カザフスタン国立銀行は、国際ブランド(Visa、Mastercard、UnionPay)および銀行と協議して、2年をかけてこの水準を段階的に半減させた。マス区分は1.8〜2.0%から1.0%へ、プレミアムは2.4%から1.2%へ、スーパープレミアムは2.45%から1.4%へ下がっている。

統一QRについては、法令上の上限が置かれた。銀行をまたぐ統一QRの決済で加盟店が払う手数料は、同じ取引をカードで受けた場合の手数料を超えてはならない。買い手にとっては無料である。他行間の取引では1%が買い手側の銀行へ渡り、残りが加盟店の取引銀行の収入になる。買い手と加盟店が同じ銀行に口座を持つ場合は、その銀行が自由に料率を決める。

インフラの運営者が取る料金は別に定められている。国家決済公社が銀行から受け取るのは、電話番号による送金が0テンゲ、統一QRによる決済が0.05%である。送金を無料にしてQRに薄く課金する構造で、口座間の送金を広げつつ、加盟店決済の側でインフラの費用をまかなう設計といえる。

電子マネーと非銀行の担い手

決済の担い手は銀行に限らない。域内の各国は決済機関、電子マネー発行者、決済サービス事業者といった類型を法令に置き、中央銀行の登録または免許のもとで営業させている。ジョージア国立銀行の監督対象には決済サービス事業者が明示されており、登録と取消の手続き、利用者資金の分別、代理店との関係を定める規則が置かれている。

アルメニアは2026年に電子マネーの入口を広げた。中銀理事会の決定第177-N号(2026年6月30日付)は、電子マネーの記帳口座を開くのに銀行口座または決済カードを持っていることを求める要件を撤廃し、あわせて口座へのチャージと払戻しを非現金に限る方式を改めて、現金でも行えるようにした。中銀が挙げた狙いは、電子マネーの利用可能性の拡大、金融機関の間の対等な競争条件、革新的な決済手段の開発の促進である。銀行口座もカードも持たない層を取り込む設計だが、同じ決定で顧客デューデリジェンスの内部規程の整備を義務づけている。

ウズベキスタンは2019年11月1日の法律第ZRU-578号「決済および決済システムについて」で、決済機関と決済システム運営者を制度に組み込んだ。中央銀行は銀行間決済システムのほかに即時決済システムを運営し、決済センターが当座勘定を、情報化総センターが技術面を担う。銀行間の電子決済文書の受付は9時から17時で、金融政策上の必要があれば副総裁の指示で延長できる。

現金はどこまで減ったか

現金の比重を測る指標はいくつかあるが、カード関連の統計から取れる分かりやすい目安は、非現金取引の金額と現金引き出しの金額の比である。カザフスタンの2026年1〜7月は、非現金が108兆6,185億テンゲ、現金の引き出しが14兆8,588億テンゲだった。カードを通る資金のうち約88%が現金化されずに動いている計算になる。

ただしこの比は現金の使用そのものを測るものではない。現金の引き出しは1回あたりの金額が大きく、引き出された現金は複数回の支払いに使われる。給与が現金で支払われる部分や、口座を経由しない取引はそもそも統計に入らない。カードを通る資金の中での比率だと理解する必要がある。

それでも方向ははっきりしている。カザフスタンの現金引き出しは2026年7月に件数で6.2%、金額で6.3%減った一方、非現金は件数で7.5%、金額で8.4%増えた。現金自動預払機の役割も縮んでおり、引き出しの98.3%(件数)はいまも現金自動預払機を通るが、その総量が減っている。

数字の読み方

第一に、カードの枚数を利用者の数と読まない。カザフスタンの2026年8月1日時点の流通枚数8,398万枚に対し、実際に使われたカードは4,058万3,200枚である。普及率を語るときにどちらを使うかで、印象が2倍変わる。

第二に、件数と金額を分けて見る。カザフスタンの2026年1〜7月では、QRコードが非現金取引の件数の28.4%を占める一方、金額では10.9%にとどまる。件数の統計は日常の小口の支払い、金額の統計は送金と高額の決済を映す。

第三に、集計の範囲を確かめる。カザフスタン国立銀行の表は、国内での取引と、国内の発行体のカードを国外で使った取引を別の表に分けている。同じ「非現金取引」でも表が違えば範囲が違う。

第四に、手数料の水準は誰が誰に払うのかを確かめる。インターチェンジは加盟店が直接払うものではなく、店側の銀行が買い手側の銀行へ払うものである。加盟店が実際に負担する手数料はこれに店側の銀行の取り分が乗る。カザフスタンで統一QRについて置かれた上限は加盟店の手数料についての規制で、インターチェンジそのものの上限ではない。

第五に、即時決済システムの取引の上限を見落とさない。アゼルバイジャンの即時決済システムは1件あたり4万マナトの上限を持つ。上限のある仕組みの統計を、上限のない仕組みと合算して「決済総額」として扱うと、構成が読めなくなる。

第六に、国どうしの比較は通貨と人口で割ってから行う。カザフスタンの月13億件という取引件数は、人口約2,000万人に対する数字である。件数の絶対値だけを並べても意味は薄い。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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