GUIDE · 経済・金融2026年9月時点

中央アジア・コーカサスの小売と消費市場とは

域内の小売と消費について、統計が組織的小売と市場・バザールをどう分けているか、各国の小売取引高の規模と伸び、近代的な小売チェーンの浸透度、電子商取引と決済の広がり、消費者信用の残高と規制、そしてインフレが消費に効く経路を、各国統計機関と金融当局の公表資料にもとづいて整理する。

中央アジアとコーカサスの消費市場は、人口が増え、都市化が進み、所得が上がる局面にある。ウズベキスタンの小売取引高は2026年1〜7月に実質で20.2%増え、同じ期間の鉱工業生産の伸び7.9%を大きく上回った。一方でカザフスタンの小売は同じ期間に実質4.1%増にとどまり、伸びの差は各国のインフレと所得の動きを映している。

この市場を数字で追うとき、最初に押さえる必要があるのが統計の作り方である。域内の小売には、チェーン店やスーパーマーケットのような組織的小売と、バザールや市場、キオスクでの販売が併存する。各国の統計機関はこの二つを分けて集計しており、伸び率も構成比も区分ごとに違う。カザフスタンでは2026年1〜7月に商業企業の販売が1.4%増だったのに対し、市場で売る者を含む個人事業主の販売は10.7%増だった。同じ「小売」でも動きが逆を向くことがある。

近代的小売の浸透度も国によって大きく違う。ジョージアではブランドチェーンが日用消費財市場の4割を占め、上位5社で76%を握る。ウズベキスタンでは小売取引高の82.2%が小規模事業者によるもので、大企業は424社しかない。

電子商取引と決済の変化は、この構図を短期間で動かしている。カザフスタンのネット小売は2025年に小売全体の14.3%に達し、その86%はマーケットプレイス経由だった。ジョージアでは越境の電子商取引が国内のそれの2倍以上を占める。

カザフスタンの小売取引高2026年1〜7月で14兆1,632億テンゲ、実質で前年同期比4.1%増(国家統計局、2026年8月12日公表)
カザフスタンの内訳商業企業による販売は1.4%増、個人事業主(市場で売る者を含む)による販売は10.7%増。食品が33.1%で10%増、非食品が66.9%で1.4%増
カザフスタンの地域集中小売のうちアルマトイ市32%、アスタナ市14%、カラガンダ州6.9%、東カザフスタン州5.5%
カザフスタンの卸売2026年1〜7月で29兆1,473億テンゲ、実質6.7%増。商業全体では卸売が67%、小売が32.5%を占める
ウズベキスタンの小売取引高2026年1〜7月で310兆9,019億スム、実質20.2%増。大企業が55兆2,281億スム(17.8%)、小規模事業者が255兆6,738億スム(82.2%)(国家統計委員会、2026年8月29日公表)
ウズベキスタンの事業者数2026年8月1日時点で小売9万683(うち大企業424)、卸売5万7,163(同421)、飲食2万9,582(同147)
ウズベキスタンの飲食2026年1〜7月で170兆9,761億スム、実質16.7%増。小規模事業者が77.6%
アルメニアの国内商業2026年1〜6月で3兆1,559億ドラム、0.9%増。卸売63.8%、小売32.1%、自動車販売4.1%(統計委員会)
アルメニアの小売の内訳店舗83.5%、自動車・家庭用燃料などその他の販売施設10.5%、消費財市場3.8%、キオスク1.3%、農産物市場0.9%。エレバン1市が小売の70.3%
カザフスタンのネット小売(2025年)3兆7,688億テンゲ、小売販売額全体の14.3%。マーケットプレイス経由が86%、事業者の自社サイト経由が14%(国家統計局、2026年5月25日公表)
ジョージアの電子商取引2024年に35億ラリ(2018年比10倍)、2025年上半期は21億ラリで40.6%増。小売販売額に占める比率は8.0%(国内2.2%、越境5.8%)(ゴールト・アンド・タガート)
ジョージアの日用消費財2025年1〜9月で179億ラリ、10.0%増。ブランドチェーンが75億ラリで市場の41.8%。上位5社の合計シェアは76.0%(同)
カザフスタンのカード決済2026年1〜7月の非現金取引は108兆6,185億テンゲ・82億4,711万件。うちインターネットと携帯電話が85兆8,339億テンゲ、QRが11兆8,086億テンゲ、POS端末が10兆8,598億テンゲ(国立銀行)
カザフスタンの家計向け貸出2026年8月1日時点で26兆1,000億テンゲ、年初来5.5%増。うち消費者ローン17兆4,000億テンゲ(同4.6%増)、住宅ローン7兆6,000億テンゲ(同9.7%増)(金融市場規制・発展庁)
消費者ローンの金利と延滞2026年7月に新規貸出の加重平均金利は22.5%(前月比1.5ポイント上昇)。90日超延滞は家計向け全体で4.7%、1兆2,000億テンゲ(同)
統計の作り方ウズベキスタンの卸売・小売取引高は、非公式部門と影の経済の統計的推計を織り込んで算出される(国家統計委員会の方法論注記)

統計はどう作られているか

カザフスタン国家統計局は小売取引高を、商業企業による販売と、個人事業主(市場で販売する者を含む)による販売に分けて公表している。2026年1〜7月の小売取引高14兆1,632億テンゲは実質で前年同期比4.1%増だったが、内訳を見ると商業企業が1.4%増、個人事業主が10.7%増である。近代的小売の伸びが鈍り、市場と個人商店の伸びが上回っている。

ウズベキスタン国家統計委員会は、大企業と小規模事業者・零細企業に分けている。2026年1〜7月の小売取引高310兆9,019億スムのうち、大企業が55兆2,281億スム、小規模事業者が255兆6,738億スムで、構成比は前年同期の16.8対83.2から17.8対82.2へ動いた。実質の伸びは大企業26.9%、小規模事業者18.9%である。事業者数では小売業を営む商業企業が9万683、うち大企業は424社にとどまる。

同委員会は方法論注記で、卸売・小売取引高の統計が非公式部門と影の経済の統計的推計を織り込んで算出されると明記している。域内の統計を読むときに重要な点で、税務や決済の記録に現れない取引が推計として数字に含まれている。

アルメニア統計委員会は、小売を販売の場所によってさらに細かく分ける。2026年1〜6月の小売1兆145億ドラムの内訳は、店舗83.5%、自動車・家庭用燃料などその他の販売施設10.5%、消費財市場3.8%、キオスク1.3%、農産物市場0.9%である。伸び率は消費財市場が14.0%増、農産物市場が11.8%増と、店舗の6.9%増を上回った。

国際比較をするときは、卸売と小売の合計を「商業」として示す国と、小売だけを示す国がある点に注意が要る。カザフスタンでは商業全体の67%が卸売、32.5%が小売であり、アルメニアでも国内商業の63.8%が卸売である。卸売は輸入と企業間の商流を映すので、消費の指標としては小売のほうを見る必要がある。

各国の規模と伸び

ウズベキスタンの伸びが域内で最も速い。2026年1〜7月の小売取引高は実質20.2%増で、地域別では最も高いホレズム州が25.9%増、最も低いカラカルパクスタン共和国が13.4%増と、どの地域も二桁の伸びを示した。飲食業の取引高も170兆9,761億スムで16.7%増えている。

カザフスタンは対照的に4.1%増にとどまる。食品が10%増、非食品が1.4%増と品目で差があり、耐久財の買い替えが鈍っていることを示す。地域集中は強く、アルマトイ市が32%、アスタナ市が14%を占める。

アルメニアでは国内商業全体が0.9%増と伸びを失った。小売は7.1%増を保っている一方、63.8%を占める卸売が2.2%減ったためである。月次でみると国内商業の前年同月比は1月100.7、2月105.6のあと3月から5月にかけて100前後で推移し、6月には99.9と前年割れに転じた。小売はこの間106〜108を保っているので、鈍化の原因は卸売の側にある。

ジョージアについては、統計局が企業部門の売上高を四半期で公表している。2026年4〜6月の企業売上高は675億ラリで前年同期比11.9%増、被雇用者の平均月額報酬は2,471.5ラリだった。所得の伸びは消費の前提である。

近代的小売の浸透

域内で近代的小売の集中がいちばん進んでいるのはジョージアである。ゴールト・アンド・タガートの産業レポートによれば、2025年1〜9月の日用消費財市場は179億ラリで10.0%増、うちブランドチェーンが75億ラリで市場の41.8%を占めた。上位5社の合計シェアは2024年同期の74.6%から76.0%へ上がっている。首位はデイリー・グループで29.1%、以下オリ・ナビジ18.1%、ニコラ16.3%、カルフール、アグロハブと続く。

同レポートが指摘する構造の変化は、出店の地理的な移動である。ブランドチェーンの地方店舗数が2,137店となり、首都トビリシの2,055店を上回った。売上の伸びも地方が16.6%、トビリシが7.9%と差がついている。首都の出店余地が飽和に近づき、成長の場が地方へ移りつつある。

ウズベキスタンでは近代的小売がまだ小さい。小売取引高の82.2%を小規模事業者が担い、大企業は424社である。もっとも大企業の実質伸び率は26.9%と小規模事業者の18.9%を上回っており、構成比は年を追って動いている。家電・電子機器のテクノマート、食品流通のグリーン・ライン・トレーディングなど、欧州復興開発銀行が店舗網と物流の拡張に融資する事例も出ている。

カザフスタンでは、商業企業の伸びが個人事業主に劣後している。近代的小売の店舗数と売場面積は増えているが、価格に敏感な消費者が市場やマーケットプレイスへ流れているとみられる動きである。

電子商取引と決済

カザフスタン国家統計局が2026年5月25日に公表した資料によれば、2025年のネット小売は3兆7,688億テンゲで、小売販売額全体の14.3%を占めた。2023年の2兆4,398億テンゲから2年でおよそ1.5倍である。内訳はマーケットプレイス経由が3兆2,375億テンゲ(86%)、事業者の自社サイト経由が5,313億テンゲ(14%)だった。

売り手の裾野は広い一方、金額の集中は極端である。電子商取引を行う企業の83.1%がマーケットプレイスを使うが、マーケットプレイス経由の商品販売額の99.8%を大企業が占め、中堅0.2%、小規模0.1%にとどまる。平均単価はマーケットプレイス経由が商品1万1,123テンゲ、自社サイト経由が2万3,363テンゲと2倍前後の差がある。少額の商品を大手が数でさばく構図である。

ジョージアでは越境が主役である。ゴールト・アンド・タガートによれば、電子商取引市場は2018年から2024年にかけて10倍の35億ラリに拡大し、2025年上半期は21億ラリで40.6%増だった。小売販売額に占める比率は2021年の3.6%から2025年上半期の8.0%へ上がったが、内訳は国内2.2%、越境5.8%である。2025年上半期には中国系のTemuだけで取引件数の約5割、取引金額の約35%を占めた。地場の小売にとっては、実店舗との競争より越境プラットフォームとの競争のほうが厳しい。

決済の側も変わっている。カザフスタン国立銀行の集計では、2026年1〜7月の非現金カード取引は108兆6,185億テンゲ・82億4,711万件だった。取引環境の内訳はインターネットと携帯電話が85兆8,339億テンゲ、QR指示が11兆8,086億テンゲ、POS端末が10兆8,598億テンゲである。同じ期間の現金引き出しは14兆8,588億テンゲにとどまる。

消費者信用

カザフスタン金融市場規制・発展庁の集計では、2026年8月1日時点の家計向け貸出残高は26兆1,000億テンゲで、年初来5.5%増だった。うち消費者ローンが17兆4,000億テンゲ(同4.6%増)、住宅ローンが7兆6,000億テンゲ(同9.7%増)である。銀行の経済向け貸出42兆1,000億テンゲのうち、家計向けが6割を超える計算になる。

価格は上がっている。2026年7月に家計向けに実行された新規貸出の加重平均金利は20.3%で、前月の19.5%から上昇した。消費者ローンに限れば22.5%で、前月比1.5ポイント上がっている。同じ月の企業向けは21.5%だった。

延滞は今のところ抑えられている。90日超の延滞は家計向け貸出全体で4.7%、金額にして1兆2,000億テンゲである。銀行部門全体では4.1%(1兆9,000億テンゲ)で、不良債権への引当率は60.4%だった。

消費者信用は小売の需要を直接押し上げるが、金利水準と規制の変化に敏感でもある。政策金利が高止まりする局面では、耐久財の分割払いが細り、非食品の小売が先に鈍る。カザフスタンで食品10%増・非食品1.4%増という差が出ているのは、この経路が働いていることを示す。

インフレが消費に効く経路

域内の小売統計は名目額と実質指数の両方で公表される。金額はその期の価格で計った名目値であり、伸び率は物価の影響を除いた実質である。両者の差がそのままインフレの寄与になる。

消費者物価は国によって水準が違う。カザフスタンの2026年8月の消費者物価は前年同月比9.8%、ジョージアの同月は5.6%だった。キルギスの7月は11.5%で、インフレ目標7%を上回っている。同じ「小売が10%伸びた」でも、物価が10%上がっている国では実質ゼロである。

経路は三つある。第一に、可処分所得の実質的な目減りが数量を減らす。第二に、インフレ抑制のための高い政策金利が消費者信用を細らせる。第三に、公共料金の改定が家計の裁量的支出を圧迫する。ジョージアでは2026年4月に家庭用電力料金が平均27.2%上がり、物価全体を0.7ポイント押し上げた。

送金も消費に直結する。域内の複数の国では出稼ぎ送金が家計収入の大きな部分を占め、その増減が小売、住宅、輸入にすぐ表れる。小売の伸びを見るときは、賃金だけでなく送金の動きも合わせて確かめる必要がある。

数字の読み方

第一に、名目と実質を混同しない。ウズベキスタンの小売取引高310兆9,019億スムは名目値で、20.2%増は実質の伸びである。名目の伸びはこれより大きい。

第二に、カード決済額を小売販売額と比べない。カザフスタンの2026年1〜7月の非現金カード取引108兆6,185億テンゲは、同じ期間の小売取引高14兆1,632億テンゲの7.7倍にあたるが、これはカード取引に個人間送金や公共料金、企業間の支払いが含まれるためである。「インターネットと携帯電話」の85兆テンゲの大半は送金であり、ネット通販の額ではない。ネット小売の規模を知りたいなら、統計局の電子商取引調査(2025年で3兆7,688億テンゲ)を見る。

第三に、電子商取引の比率は集計範囲の変更で断絶する。カザフスタンのネット小売比率は、マーケットプレイスを算入するようになった2022年に12.5%となり、2025年に14.3%へ上がった。それ以前の2021年の3.6%とは範囲が違うので直接は比べられない。

第四に、市場シェアの数字は調査会社の推計であることが多い。ジョージアの日用消費財市場の上位5社76.0%という数字はゴールト・アンド・タガートの推計である。同社はバンク・オブ・ジョージア・グループの調査部門であり、読み手はこの点を念頭に置く必要がある。

第五に、統計に非公式部門の推計が含まれる国では、正規の小売企業の売上を足し上げても公式の小売取引高には届かない。ウズベキスタン国家統計委員会は方法論注記でこの点を明記している。

参考資料

この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。

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