タングステンは元素記号Wの金属で、融点が摂氏3,422度と全金属中もっとも高く、密度と硬度も大きい。この性質から、切削工具や耐摩耗部品に使う超硬合金(炭化タングステンをコバルトなどで焼き固めたもの)、装甲や徹甲弾、電極やフィラメント、半導体製造装置の部材などに使われる。米国では消費の約6割が超硬合金である。
需要の性格は建設、金属加工、鉱業、石油・ガス掘削といった重工業に結びついており、防衛用途も大きい。代替は容易ではない。米地質調査所は、モリブデン炭化物、ニオブ炭化物、チタン炭化物、セラミックス、工具鋼などが代替候補になるが、多くはタングステンの使用量を減らすだけで置き換えるものではなく、置き換えた場合は費用の増加か性能の低下を伴うと整理している。
この金属の供給は極端に偏っている。2025年の世界の鉱山生産は推計8万5,000トンで、うち中国が6万7,000トンとおよそ8割を占める。埋蔵量でも中国が250万トンと世界の半分以上にあたる。中国は生産だけでなく、精鉱の輸入と消費でも世界最大である。
2025年2月、中国はタングステン関連品目を輸出管理の対象に加えた。これを受けて価格は年間を通じて大きく上昇し、中国以外での供給源の確保が各国の課題になった。カザフスタンの二つの大型鉱床が注目されているのは、この文脈である。
| 性質 | 融点は摂氏3,422度で全金属中もっとも高い。密度と硬度も大きい |
|---|---|
| 主な用途 | 米国では消費の約60%が超硬合金(切削工具と耐摩耗部品)。建設、金属加工、鉱業、石油・ガス掘削で使われる。残りは合金鋼、電極・フィラメント・配線、化学品(米地質調査所、2026年2月) |
| 取引の単位 | 三酸化タングステン(WO3)のメートルトンユニット(mtu)。1mtuは10キログラムのWO3で、タングステンを7.93キログラム含む(同) |
| 価格(2025年の推移) | ロッテルダム倉庫渡しの65%精鉱は1mtuあたり266ドルから551ドルへ、パラタングステン酸アンモニウム(APT)は331ドルから675ドルへ上昇(同。価格の出所はアーガス・メディア) |
| 価格(年平均) | 精鉱は1mtuあたり2023年258ドル、2024年252ドル、2025年推計380ドル(同) |
| 世界の鉱山生産 | 2025年推計8万5,000トン(タングステン含有量)。2024年は8万2,000トン(同) |
| 国別の生産(2025年推計) | 中国6万7,000トン、ベトナム3,000トン、カザフスタン2,400トン、北朝鮮2,000トン、ロシア2,000トン、ボリビア1,700トン、ルワンダ1,300トン、オーストラリア1,000トン(同) |
| カザフスタンの生産開始 | 2024年はゼロ、2025年は推計2,400トン。米地質調査所は2025年の世界生産の増加要因としてボグティ鉱床の生産開始を挙げている |
| 世界の埋蔵量 | 470万トン超。中国250万トン、オーストラリア57万トン、ロシア40万トン、ベトナム17万トン、スペイン6万6,000トン、北朝鮮2万9,000トン(同。カザフスタンは非公表) |
| 米国の状況 | 2015年以降、商業的な採掘はない。純輸入依存度は見かけの消費の50%超。2021〜24年の輸入元は中国26%、ドイツ14%、ボリビア8%、ベトナム8%(同) |
| 中国の輸出管理 | 2025年2月4日、商務部と税関総署の公告2025年第10号により、タングステン、テルル、ビスマス、モリブデン、インジウムの関連品目を輸出管理の対象とした。同日から施行 |
| 管理対象のタングステン品目 | パラタングステン酸アンモニウム、酸化タングステン、炭化タングステン(一部を除く)、タングステン含有率97%以上の金属・合金、タングステン含有率80%以上のタングステン銅、およびこれらの製造技術(同公告) |
| 米国の関税 | 2024年末、通商法301条にもとづき中国産のいくつかのタングステン製品の関税を50%へ引き上げ(米地質調査所) |
| カザフスタンの主要鉱床 | 北カトパルと上部カイラクトゥイ(カラガンダ州シェト地区。州都カラガンダから約130キロメートル)。中国以外では最大級のタングステン鉱床とされる |
| 資源量と埋蔵量 | JORC基準の鉱物資源量は両鉱床の合計で三酸化タングステン約140万トン(2023年4月完了の可能性調査)。同基準の鉱石埋蔵量は41万トン(タウケン・サムルク) |
| 生産計画 | 北カトパルが年約5,000トン、上部カイラクトゥイが年約7,000トン、合計約1万2,000トンで現在の世界の鉱山生産の約15%に相当する見込み(タウケン・サムルク、2026年8月31日) |
| 出資と投資額 | コーブ・カズ・キャピタル・グループ70%、タウケン・サムルク30%。投資額は約11億ドル、雇用は約2,000人の見込み |
| 工程 | 2026年7月に現地の準備作業を開始。最終可能性調査(DFS)は2027年末までに完了予定。本体工事は2028年開始、試運転は2029年からの計画 |
単位と価格 — mtuという独特の単位
タングステンの価格は、他の金属のようにトンやポンドではなく「メートルトンユニット(mtu)」で示される。1mtuは三酸化タングステン(WO3)10キログラムを指し、そのなかにタングステンが7.93キログラム含まれる。したがって1mtuあたり500ドルという価格は、WO3 1トンあたり5万ドル、タングステン金属換算では1トンあたり約6万3,000ドルにあたる。
価格は複数の段階で示される。鉱山の製品である精鉱(通常WO3含有率65%)の価格と、化学処理を経た中間製品であるパラタングステン酸アンモニウム(APT)の価格が別に建つ。APTのほうが加工の分だけ高い。取引は相対が中心で、公開の取引所はない。米地質調査所が引用する系列はアーガス・メディアが集計したロッテルダム倉庫渡しの価格である。
2025年の値動きは急だった。65%精鉱は1mtuあたり266ドルから551ドルへ、APTは331ドルから675ドルへ上昇した。年平均で見ると精鉱は2024年の252ドルから2025年の推計380ドルへ、およそ1.5倍になっている。米地質調査所は、米国が2024年末に通商法301条にもとづき中国産のいくつかのタングステン製品の関税を50%へ引き上げたこと、中国が2025年2月に輸出管理を導入したことを、価格上昇の要因として挙げている。
世界の生産と埋蔵量
2025年の世界の鉱山生産は推計8万5,000トン(タングステン含有量)で、前年の8万2,000トンから増えた。国別では中国6万7,000トン、ベトナム3,000トン、カザフスタン2,400トン、北朝鮮2,000トン、ロシア2,000トン、ボリビア1,700トン、ルワンダ1,300トン、オーストラリア1,000トン、スペイン800トン、オーストリア840トン、ポルトガル700トンと続く。
カザフスタンの2,400トンは2025年に初めて計上された数字である。米地質調査所は、2025年に世界の生産が増えた要因としてカザフスタンのボグティ鉱床で生産が始まったことを挙げている。同国の数字は2024年まではゼロだった。
埋蔵量は世界で470万トン超と見積もられ、中国250万トン、オーストラリア57万トン、ロシア40万トン、ベトナム17万トン、スペイン6万6,000トン、北朝鮮2万9,000トンの順である。カザフスタンの埋蔵量は同資料では非公表とされている。資源そのものは地理的に広く分布しており、南極大陸を除くすべての大陸で確認されている。
米国は2015年以降、商業的な採掘を行っていない。純輸入依存度は見かけの消費の50%超で、2021年から2024年までの輸入元は中国26%、ドイツ14%、ボリビア8%、ベトナム8%だった。国内には精鉱やAPT、スクラップからタングステン金属粉・炭化タングステン粉・化学品を作れる企業が7社ある。
中国の輸出管理と各国の対応
2025年2月4日、中国の商務部と税関総署は公告2025年第10号を出し、タングステン、テルル、ビスマス、モリブデン、インジウムの関連品目に輸出管理を実施する決定を公表した。公告は同日から施行され、輸出者は輸出管理法と両用品目輸出管理条例にもとづいて商務主管部門に許可を申請することが求められる。
タングステンで対象となるのは、パラタングステン酸アンモニウム、酸化タングステン、一部を除く炭化タングステン、タングステン含有率97%以上の金属および合金、タングステン含有率80%以上のタングステン銅、銀を2%以上含みタングステン含有率80%以上のタングステン銀、密度17.5グラム毎立方センチメートル超などの条件を満たすタングステン・ニッケル・鉄合金とタングステン・ニッケル・銅合金、そしてこれらの製造技術と資料である。
許可制であって禁輸ではないが、供給の予見可能性が下がったことで買い手は調達先の分散を急いだ。米国では国防生産法第3編にもとづく助成がネバダ州、ニューブランズウィック州、ユーコン準州の案件に与えられている。中国以外での新規供給が世界の需給に効くのは、生産の8割が一国に集まっているためである。
カザフスタンの鉱床 — 北カトパルと上部カイラクトゥイ
カザフスタンのタングステン事業の中心は、カラガンダ州シェト地区にある北カトパルと上部カイラクトゥイの二つの鉱床である。州都カラガンダから約130キロメートルで、輸送と電力の基盤に近い。タウケン・サムルクはこの二つを中国以外では最大級のタングステン鉱床と説明している。
事業主体は合弁で、米国のコーブ・キャピタルのカザフスタン子会社コーブ・カズ・キャピタル・グループが70%、国営鉱業会社タウケン・サムルクが30%を保有する。提携の合意は2025年11月、カシムジョマルト・トカエフ大統領の米国訪問中に署名され、両国の重要鉱物に関する戦略的な合意の一部と位置づけられている。取引文書一式(株式譲渡契約と設立契約)は2026年2月13日にアスタナで署名された。
資源量については二つの数字が並ぶ。2023年4月に完了した可能性調査にもとづくJORC基準の鉱物資源量は、両鉱床の合計で三酸化タングステン約140万トンである。一方、タウケン・サムルクは「探査済みの埋蔵量41万トン」とも説明している。前者は資源量(鉱物資源)、後者は埋蔵量(鉱石埋蔵量)であり、採掘して経済的に回収できると確認された部分だけが後者に入る。事業側はこの区別を明示しており、進行中の最終可能性調査で地質・技術データを更新するとしている。
生産の見通しは、北カトパルが年約5,000トン、上部カイラクトゥイが年約7,000トン、合計で年約1万2,000トンである。これは現在の世界の鉱山生産の約15%に相当する。ただし最終的な生産能力と採算は最終可能性調査の結果しだいであり、確定していない。
工程は2026年7月に現地で始まった。測量、進入路と掘削用地の整備、現場事務所の設置といった準備作業が進み、8月31日には北カトパル鉱床で着工の式典が開かれた。最終可能性調査は2027年末までに完了する予定で、これが最終投資決定の根拠になる。その後、基本設計と詳細設計を経て本体工事は2028年に始まり、試運転は2029年からの計画である。
国内で加工するという条件
この事業の特徴は、鉱石を国内で最後まで加工することが契約上の条件として置かれている点にある。タウケン・サムルクは、原料と半製品の輸出を禁じる戦略的な条件が別途定められており、生産は深度加工にのみ向けられると説明している。カザフスタンにとって、資源を掘って売るだけの構造から抜けるという政策目標を、個別の契約に落とし込んだ例である。
想定される主要製品はパラタングステン酸アンモニウム(APT)である。APTは高純度の中間製品で、酸化タングステンやタングステン粉、炭化タングステン、超硬合金などの原料になる。精鉱のまま売るより単価が高く、供給網のなかでの位置も上がる。投資は選鉱工場2か所と冶金工場の建設に充てられ、事業期間全体での税収は約15億ドルと見込まれている。雇用は約2,000人である。
同じ「国内で加工する」という要求は、先行するボグティ鉱床にも当局から出されている。米地質調査所によれば、2025年のカザフスタンの生産2,400トンはこの鉱床の稼働によるものである。
実現には条件がある。冶金処理の技術、安定した電力、そして製品の引き取り先である。コーブ・キャピタル側は、資本と技術に加えて国際市場への販路を提供する役割を担うとしており、米国政府とのオフテイク契約の締結も検討されていると説明されている。
重要鉱物としての位置づけ
タングステンは、供給の集中と代替の難しさから多くの国で重要鉱物(クリティカル・ミネラル)に分類されている。防衛、航空宇宙、半導体製造、精密加工といった分野で使われ、代替材料は性能か費用のいずれかを犠牲にする。生産の8割が一国に集まっている点は、他の重要鉱物と比べても偏りが大きい。
カザフスタンはこの分野で複数の案件を並行して進めている。地質探査では、従来の20万分の1の広域調査から5万分の1の詳細地質図へ縮尺を切り替える方針が採られ、2026〜28年の地質調査と地震探査に407億テンゲが配分された。対象には金、銅、多金属、希土類元素、リチウム、タングステン、モリブデンが含まれる。コーブ・カズ・キャピタルはコスタナイ州でカズゲオロギヤと希土類の探査事業も進めている。
ウズベキスタンも重要鉱物の分野で外国の関与を受け入れている。日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、タンタルなどのレアメタルを対象とする共同地質調査の協定を2024年6月27日付で同国の鉱山地質省および国営企業と結び、3年間で計300万ドルを拠出する。経済性のある鉱床が見つかった場合は、権益比率を日本側とウズベキスタン側で折半する合弁を組成できる取り決めである。
数字の読み方
数量の単位を確かめる必要がある。生産量と埋蔵量は「タングステン含有量」のトンで示されるのが普通だが、鉱床の規模は「三酸化タングステン(WO3)」のトンで語られることが多い。WO3のうちタングステンは79.3%なので、両者はおよそ1.26倍の差がある。北カトパルと上部カイラクトゥイの「140万トン」はWO3であり、タングステン金属に換算すればおよそ111万トンにあたる。
資源量と埋蔵量も別物である。JORC基準では、地質的な確からしさの順に推定・概測・測定の鉱物資源量があり、そのうち採掘計画と経済性の検討を経て回収できると確認された部分だけが鉱石埋蔵量になる。同じ鉱床について「140万トンの資源量」と「41万トンの埋蔵量」という二つの数字が並ぶのはこのためで、どちらかが誤りというわけではない。
価格を比べるときは、精鉱かAPTか、そして単位がmtuかどうかを確認する。精鉱の価格をAPTの価格と並べると、加工賃の分だけ差が出る。
生産の見通しは、可能性調査の段階では確定値ではない。年1万2,000トンという数字は既存の調査にもとづく潜在能力であって、最終可能性調査の結果と最終投資決定を経なければ確定しない。事業側自身がこの点を明示している。
参考資料
- Mineral Commodity Summaries 2026: Tungsten(米地質調査所、2026年2月。世界の生産と埋蔵量、価格、用途、代替材料、米国の輸入依存) ↗
- Implementation of the Northern Katpar Project Begins in the Karaganda Region(タウケン・サムルク、2026年8月31日。資源量140万トン、生産計画、工程、APT) ↗
- 「Национальная горнорудная компания «Тау-Кен Самрук» планирует реализовать в Карагандинской области 12 инвестиционных проектов」(タウケン・サムルク、2026年2月26日。埋蔵量41万トン、原料・半製品の輸出禁止、税収見込み) ↗
- 「Казахстан укрепляет позиции в глобальной индустрии критических минералов」(タウケン・サムルク、2026年2月13日。株式譲渡契約と設立契約の署名、投資額、雇用) ↗
- 「商务部 海关总署公告2025年第10号 公布对钨、碲、铋、钼、铟相关物项实施出口管制的决定」(中国商務部・税関総署、2025年2月4日。輸出管理の対象品目) ↗
- Two Giant Tungsten Deposits Could Test Kazakhstan’s Push Beyond Raw-Material Exports(アスタナ・タイムズ、2026年8月13日。資源量と埋蔵量の区別、立地、最終可能性調査の位置づけ) ↗
- Kazakhstan’s Exploration Drive Supports Shift Toward Higher-Value Mining(アスタナ・タイムズ、2026年8月17日。地質探査の予算配分と対象鉱種) ↗
- ウズベキスタンでレアメタルを対象とした共同地質調査協定書を締結(石油天然ガス・金属鉱物資源機構、2024年8月30日。タンタルを対象とする共同地質調査の拠出額と権益比率) ↗
- Mineral Commodity Summaries 2025: Tungsten(米地質調査所、2025年。2024年までの生産と価格の系列) ↗
この解説は編集部がまとめたもので、2026年9月時点の情報に基づく。記事とは異なり、新しい事実が 確認できしだい随時更新する。